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[完結済]【呪い系ホラー】こはるちゃん、いっしょに。  作者: てっぺーさま
第三章 復讐の始まり

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新たな協力者

【復讐は姉の怨念とともに——】

「かしこまりました。ただ今お調べいたしますので、少々お待ちください」

 恭弥は顧客との通話を保留にすると、ヘッドセットを外して椅子の背もたれに身を預けた。

 広々としたフロア内をぼんやりと見渡す。ヘッドセットをつけた私服のオペレーターたちがひしめき合っている。二十代から三十代が中心だが、四十代から五十代の男女も少なくない。

 応答した客の質問は、実のところ、調べるまでもない簡単なものだった。それでもあえて保留にしたのは、一息つくための口実だった。

 常に「顧客ファースト」ではなく「自分ファースト」。保留が長いと管理者の目に留まるため、保留時間は三分までと決めていた。疲れた脳を休めるための貴重な小休憩だ。一日に八時間もひっきりなしに電話を受ける仕事では、こんな工夫がなければ身がもたない。それに、人より多く電話を取ったところで時給が変わるわけでもない。無理にがんばる必要はどこにもないのだ。

 恭弥が大きなあくびをすると、斜め向かいに座る佐藤慎介と目が合った。彼が客と話しながら笑顔で目配せしてくる。恭弥も微笑みながら小さくうなずき返した。

 佐藤は恭弥よりも十歳ほど年上で、後輩の面倒見がよいことで知られていた。恭弥も入社当初から何かと助けてもらっていた。細身で黒い服を好む姿はバンドマンに見えなくもなかったが、当の本人は音楽活動とは無縁だった。

 ふと気づけば、保留時間が三分になろうとしていた。

「休憩終わりっと」

 恭弥はヘッドセットを付け直すと、マウスを動かして保留ボタンを解除した。


    *  *  *


「佐藤さん、今から軽く飲み行きませんか?」

 仕事終わりの更衣室で、恭弥は声をかけた。

 佐藤は一瞬驚いた表情を見せたあと、すぐに満面の笑みを浮かべた。

「へえ、珍しいな。お前から誘ってくるなんて」

「実は、ちょっと相談したいことがあって……。今日はぼくが奢りますよ」

「マジか? じゃあ、遠慮なく甘えさせてもらうわ」


 二人して職場近くの居酒屋に足を向けた。平日とあって店内の客はまばらだった。

 ビールで乾杯してから、軽く雑談を交わす。歳は離れていたが、佐藤とは気兼ねなく語り合える。

「で、相談ってなんだ?」

 佐藤がビールジョッキを持ちながら言う。

「実は見てもらいたいものがあって」

 恭弥は姉の日記を佐藤に渡す。

「何だよ、これ?」

「ある人の日記です」

「日記?」

 佐藤が怪訝そうに眉をひそめ、手にした日記をゆっくりとめくる。

「え!?」

 とたんに彼の表情が一変した。すぐに普通の日記ではないことに気づいたようだ。

 佐藤がとまどい気味に声を上げる。

「これ、何なんだよ?」

「とりあえず、付箋のあるページの、マーカーが引いてあるとこだけでも読んでもらえませんか」

 佐藤は何か言いたげな顔をしたが、やがて小さくうなずいた。

「わかった。読むよ」

 佐藤は付箋のあるページを開くと、静かに読み始めた。

 すぐに彼の表情がみるみる険しくなっていく。「こりゃひでえな……」とか、「マジかよ……」といったつぶやきが漏れる。

 やがて、佐藤は静かに日記を閉じた。

「これ、誰の日記なんだ?」

「ぼくの、姉ちゃんのです」

「マジか……」

 佐藤は強い衝撃を受けたように言葉を失っている。

 恭弥はビールを一口飲み、重い口調で続けた。

「日記には書かれてないですけど、姉ちゃん、風俗で働いてたことが学校にばれて、それで……」

「それで?」

「学校の屋上から……」

「マジかよ……」

 佐藤の顔が目に見えて青ざめた。恭弥も胸が苦しくなり、それ以上言葉を続けられなくなってしまう。

 しばらく重苦しい沈黙が流れた。

 再び佐藤が日記を手に取ると、静かにページをめくり始めた。目には強い怒りが宿っている。

 やがて気持ちが落ち着いてくると、恭弥は静かに佐藤に語りかけた。

「その日記は、姉ちゃんが死んでから一年後に見つけたんです。風俗のことは知ってたんですけど、理由がそんなだったとは思ってもなくて……」

「だよな。普通、若くして風俗で働くっていったら、ブランド品欲しさとかホストにはまったとか、そんな理由だろうし」

「ええ……」

 佐藤がビールをぐいっと飲み干した。

「で、なんで、おれにこれを見せたんだ?」

 恭弥は相手の目をしっかりと見据えて答えた。

「実は、佐藤さんに頼みたいことがあって」

「頼み?」

「ええ。姉ちゃんの復讐に、手を貸してほしいんです」

「復讐!? はあ? お前それ本気か?」

「はい、本気です」

 佐藤はしばらく無言のまま恭弥を見つめてから、空のジョッキを見て店員におかわりを注文した。飲まずにはいられない心境なのかもしれない。新しいビールが届くと、彼は一気に半分ほど飲み干した。

 恭弥は口を閉ざしたまま相手の反応を辛抱強く待った。雅とは違い、佐藤に無理強いはできない。彼はまったくの部外者で、協力する義理はないからだ。

 しばらくして、佐藤が真剣な眼差しを向けてきた。その瞬間、恭弥は協力を得られたと確信した。

 佐藤が日記に手を置きながら口を開いた。

「わかった、協力する。こんなの見せられたら断れねえもんな」

「ありがとうございます」

 恭弥の声は震えた。正義感の強い佐藤なら応じてくれると信じていたが、改めて自分が非常識な頼みをしていることに胸が痛む。雅が計画に協力するのは姉への義理があるからだが、佐藤のそれは純然たる善意からだ。その思いに、恭弥の胸は熱くなった。

「で、おれは何をすればいい?」

 佐藤の言葉を合図に、恭弥は計画の全貌を語り始めた。

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