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[完結済]【呪い系ホラー】こはるちゃん、いっしょに。  作者: てっぺーさま
第三章 復讐の始まり

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隣人になる

【復讐は姉の怨念とともに——】

「いい部屋だね〜」

 何も置かれていない室内を見渡しながら、マコが楽しそうに声を上げる。

 恭弥は内見の付き添いということでいっしょに来ていた。四階建てマンションの最上階で、単身者向けのワンルームだ。築浅の物件のため、室内は新築のように綺麗だった。

 二人で室内を見て回る間、不動産屋の営業マンは部屋の隅で作り笑いを浮かべていた。ヒゲ剃りの跡が目立つ三十代後半ほどの男だ。

 窓から外の景色を眺めてから、恭弥はマコに声をかけた。

「マコ、ここに決めたら?」

「うん、そうだね」

 マコは営業マンに視線を向けた。

「ここに決めます」

「かしこまりました。では、店舗に戻って契約の手続きを」


 営業マンが運転する車で不動産屋に戻る。地域密着型という感じの、こじんまりとした店舗だ。

 恭弥がマコと並んでカウンター席に腰を下ろすと、事務員らしき中年女性が湯気の立つお茶を二人の前に置いた。

 お茶をすすりながら二人で待っていると、営業マンが書類を手に現れた。

 二人の前に座った営業マンの表情が、ふいに硬くなった。

「……契約の前に、一つお伝えしておくべきことがありまして」

「え、なんですか?」

 マコが少し身を乗り出してたずねた。

 営業マンは少しためらいがちに口を開いた。

「実は、以前あの部屋に住んでいた方のもとに、こんなものが……」

 そう言うと、営業マンは一枚の紙をカウンターの上に置いた。

 それは新聞の切り抜きで作られた手紙で、恭弥には見慣れたものだった。


「そ」「の」「部」「屋」「は」「呪」「わ」「れ」「て」「い」「る」「。」「後」「悔」「し」「た」「く」「な」「け」「れ」「ば」「今」「す」「ぐ」「出」「て」「い」「け」「。」「こ」「の」「警」「告」「を」「無」「視」「す」「れ」「ば」「、」「お」「前」「だ」「け」「で」「な」「く」「身」「近」「な」「人」「間」「に」「も」「不」「幸」「が」「訪」「れ」「る」「だ」「ろ」「う」「。」


「きゃっ! やだ、怖い!」

 マコが大げさに驚くふりをして見せる。

 その迫真の演技に感心しながら、恭弥は営業マンに聞く。

「あの部屋で、何かあったんですか?」

 営業マンは慌てて首を横に振った。

「いえいえ、そんなことはありません。まだ築浅ですし、あの部屋に限らず、他のどの部屋でも何も起こってませんよ」

「じゃあ、何でこんなものが?」

「おそらく、単なるいたずらじゃないかと……」

 マコが不安げな様子を装って口を開く。

「恭弥君、やめたほうがいいかな?」

「うーん、いい部屋だったからなぁ……」

 恭弥は悩むふりをしてから、営業マンに念を押すように聞いた。

「本当に、何もないんですよね?」

「ええ、それは断言できます」

 営業マンは自信たっぷりに答えた。

「なら、だいじょうぶじゃね?」

「そうかなぁ……」

 マコは不安げな演技を続ける。

 恭弥は営業マンに顔を向けた。

「ちなみに、手紙のこともあるんで、家賃とか、もう少し安くなったりしません?」

 営業マンは困った顔をして頭をかいた。

「これでも、かなり下げてるんですよね……。あの、少々お待ちいただけますか? 今からオーナーに確認してみますんで」

 営業マンは軽く頭を下げると、オーナーと連絡を取るためにカウンターの奥へ消えた。

 恭弥はマコとともに、お茶をすすりながら静かに待った。

 五分ほどして営業マンが戻ってきた。

「お待たせしました。オーナーと話したところ、一万円ほどならお値引きできるとのことです。いかがですか?」

 恭弥は、なおも不安げなふりをしているマコに言った。

「だいぶ格安だよ。あそこに決めちゃえば?」

「そうだね。恭弥君がそう言うなら、あそこにする」

 マコの言葉に、営業マンは満足げな笑みを浮かべた。


 不動産屋を出るなり、恭弥はマコに言った。

「まさか、一万円も安くなるなんてね!」

「だね。長く住まないにしろ、安いに越したことはないもんな」

 もともと安かった家賃がさらに値下がり、恭弥はかなり気分がよかった。

 マコ名義で借りた部屋は単身者向けのため、ルームシェアは原則禁じられていた。だが、そこは静かに生活すれば問題はないだろうと踏んでいた。とりあえず、〝ターゲット〟の隣に部屋を確保できたことで、計画は大きく前進した。

「マコ、これからもよろしくね」

「うん! こちらこそよろしく!」


       *  *  *


 一週間後、恭弥はマコとともに同じ部屋で暮らし始めた。

 部屋には布団が二組と、シンプルな円卓、そしてミニ冷蔵庫があるだけでかなり殺風景だ。ワンルームのため二人で暮らすにはやや手狭だったが、それほど気にはならなかった。

 白い壁には、実家から持ち込んだコルクボードが掛けてあった。名前が書かれたポストイットのほとんどに「×」がついている。

「×」がまだついていないポストイットの一つが、「吉野リサ」だった。本田奈央に唆されたのか、姉に暴力を振るった女だ。

 本来であれば、恭弥は上京前に本田奈央以外の者たちへの復讐を終えるつもりでいた。しかし、吉野リサは高校卒業と同時に上京しており、機会を得られなかったのだ。

 吉野リサ——姉の不幸はこの女から始まった。本田奈央ほど罪深くはないが、姉の日記には吉野リサへの激しい憎悪もつづられている。不確かな情報で姉に暴行を加えた罪は決して軽くはない。

 調べによると、吉野リサは美容系の専門学校に通っているという。まずは、本田奈央というメインディッシュの前に、この単細胞の女を片付ける必要があった。

 恭弥は、「吉野リサ」のポストイットを指で弾く。

「お前みたいな単細胞は、この世にいらない」

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