躊躇
【闇堕ち少女、怨霊おんりょうと化す——】
「奈央、だいじょうぶ!?」
真由美がこちらの顔を見るなり声を上げた。
よほどひどい顔をしていたのだろう。霊能者から最後に告げられた言葉が、だいぶこたえていたのだ。
「うん、だいじょうぶ……」
奈央は無理に笑みを浮かべて答えた。
「それより、待たせてごめんね」
「ううん。で、どうだった?」
「よくわかんないけど、タダにしてくれた」
「え、なんで!?」
奈央は霊能者とのやりとりを話して聞かせた。
「ふーん、そういうことかぁ。でもタダにしてくれるなんて、ずいぶんと良心的だね」
「確かに」
すると、真由美が怪訝な表情を浮かべた。
「でもさ、ファミレスで会った人と、言ってること違うよね」
「そうなんだよ。でも、今の人は、部屋に悪いものはないって断言してた」
「だけど、おかしなことは起こってるわけだよね?」
「うん。そう言ったら、霊能者の人も不思議がってたよ」
霊能者から最後に告げられた話は、真由美にはあえて伝えなかった。なるべく現実から目を背けていたかったからだ。また、帰り際のやりとりも口にしなかった。
玄関まで見送りに出てくれた霊能者の女は、奈央の背後を見て一瞬怯えた表情を浮かべた。その瞬間、奈央は思わず振り返ったが、薄暗い廊下には何もいなかった。直後にドアがバタンと勢いよく閉められ、廊下に一人取り残された奈央は言い知れぬ恐怖に襲われた。
真由美が困り果てた様子で口を開いた。
「……いったい、何なんだろうね」
「ほんと、何なんだろう……」
会話が途切れ、しばし沈黙が続いた。
やがて、奈央はため息交じりに口を開く。
「でもほんと、最近ついてないんだよね……」
「他にも何かあるの?」
「実はさ、彼氏とうまくいってなくて」
「そうなんだ?」
「忙しいって言われて、なかなか会ってくれないんだよね……」
「そっかぁ、それは辛いね……。彼って、確か地元の高校の同級生だったよね?」
「そう。わたしからアタックして、二度目の告白でやっとオーケーをもらったの」
「フラれた相手にもう一度告れるなんて、すごいよね」
「だって、それだけ好きだったんだもん」
「そっかぁ。あたしもそんな熱い恋、してみたいなぁ」
真由美は遠くを見るような目をして言った。
奈央が苦笑する中、真由美は続けた。
「でもさ、奈央は彼氏がいるだけまだマシだよ。あたしなんか、そんな悩みを抱える彼氏すらいないんだよ。奈央がほんとうらやましいよ。ああ、あたしもそんな贅沢な悩み、抱えてみたいわぁ」
奈央は友人の言葉にさらに苦笑した。
すると、真由美が急に明るい声を上げた。
「じゃあさ、この際一つだけでも問題を解決しちゃおうよ」
「一つって?」
「決まってるじゃん。心霊現象のことだよ。今から例のバーテンダーに、ダメ元で連絡してみない?」
「うーん……」
奈央は悩んでしまう。時計を見ると、もう五時を過ぎていた。ファミレスで声をかけてきた男は誠実そうに見えたが、完全には信用できなかった。それに、今日はもう疲れていた。
「ねえ、どうする?」
「うーん、やっぱ今日はやめとく。時間も遅いし、それに何だか疲れちゃって」
「ああ、そっか。今日はいろいろあったもんね」
「ごめんね、せっかく気にかけてくれてるのに」
「ううん、気にしないで。でも、もし会う気になったら、あたしもいっしょに行くから、そのときは遠慮なく言って」
「ありがとう。そのときはお願いね」
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