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[完結済]【呪い系ホラー】こはるちゃん、いっしょに。  作者: てっぺーさま
第三章 復讐の始まり

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協力者

【復讐は姉の怨念とともに——】

(みやび)先輩」

 恭弥は、大学の校門から出てきた雅達也に声をかけた。

 雅は一瞬怪訝な表情を浮かべたが、すぐに恭弥のことを思い出したようだ。

「君は、確か……」

「お久しぶりです、先輩。恭弥です。原口華菜子の弟の」

「そうだ、恭弥君だ。久しぶりだね……。上京してたんだ」

 雅は無理に笑みを浮かべて見せるが、動揺を隠しきれない様子だ。

 恭弥は相手の心情を察して苦笑する。

「ぼくの顔なんて、見たくなかったですよね?」

「そ、そんなことは……」

「いえ、当然です。姉にあんなことがあったんですから」

 雅の顔が苦痛に歪む。いまだ癒えぬ心の傷を抉られたかのように見えた。

 ややあって、雅が少し警戒するように口を開いた。

「……ぼくに用が?」

「ええ、雅先輩に見てもらいたいものがあって」

「見てもらいたいもの?」

「はい。あの、場所を移してもいいですか?」


       *  *  *


 二人して近くの喫茶店に入った。

 雅は落ち着かない様子で居心地が悪そうにしている。それも無理はない。目の前に座っているのは、自殺した元恋人の弟なのだから。

 恭弥はコーヒーを一口飲んでから静かに切り出した。

「雅先輩、本田奈央と付き合ってますよね?」

 唐突な質問に、雅が目を見開く。

「……そ、そうだけど、それが何か?」

 恭弥は無言のまま、バッグから赤い表紙の日記帳を取り出した。

「これ、見てもらえますか?」

 雅は訝しげにノートを受け取った。

「これは?」

「姉ちゃんの日記です」

「え!?」

 雅の顔色がさっと変わり、手にした日記帳を手放した。

「……なんで、これを?」

 雅の声は困惑したように震えていた。

「読めばわかります」

 恭弥は語気を強めて言った。

「いや、でも……」

 読まずに済ませたいと願っているのが痛いほど伝わってきたが、それでも恭弥は一歩も引くつもりはなかった。

「全部読む必要はありません。付箋を貼ったページのマーカーが引いてるとこだけでいいんで」

 雅は困惑した様子でしばらく黙り込んでいたが、やがて観念したかのようにノートを手に取るとページをめくり始めた。


 やがて、指示した箇所をすべて読み終えたらしく、雅が静かに日記を閉じた。

「全部、彼女の仕業だったのか……」

 本田奈央にだまされていたことを知り、雅は相当のショックを受けたようだ。顔は血の気を失い、心ここにあらずといった様子で、目の前に座る恭弥の存在を忘れたかのように放心している。

 すると突然、雅は唇を震わせながら泣き崩れた。

「本当にごめん……。ぼくのせいで……、ぼくのせいで……」

 テーブルに額をつけるようにして、雅は泣きながら謝罪の言葉を繰り返す。

「雅先輩、顔を上げてください」

 恭弥は静かに声をかけるが、雅は嗚咽を漏らしたまま顔を上げようとしない。

 それも当然だったろう。彼の行為が引き金となり、姉は闇堕ちしたのだから——。

 雅に対して怒りの感情がないといえば嘘になる。だが、彼もまた被害者なのだ。姉の日記にも、彼を過度に責め立てる記述はほとんど見られなかった。全裸にされ、複数の人間から暴行を受けたのだ。そのときの彼が弱気になるのも無理はない。それに今の彼には同情の余地もある。その暴行を裏で操っていたのが、現在の恋人である本田奈央だったわけなのだから。受けたショックは計り知れない。

「雅先輩、ぼくはあなたを責める気はありません」

 その言葉に反応して、雅がわずかに顔を上げる。

「それは姉ちゃんも同じだと思います」

 罪悪感に満ちた顔が、ほんの少しだけ安らぐ。

「でも、もし姉ちゃんに対して少しでも罪悪感があるなら、ぼくに力を貸してくれませんか」

「力を……貸す?」

 雅が困惑した表情で聞き返してくる。

「ええ、どうしても雅先輩の力が必要なんです」

「ぼくに何をしろと?」

「もう少しだけ、本田奈央と関係を続けてください」

 雅が目を剥いて絶句する。

「いや、それだけは……」

「お願いします」

 雅が大きく首を横に振った。

「無理だ! そんなの絶対に無理だよ! もう彼女とは、一分一秒でもいっしょにいたくない!」

「それでも、お願いします!」

 恭弥は有無を言わせぬ態度で声を上げた。

 雅が目に見えてたじろぐ。恭弥は周囲の視線を感じたが構わず続けた。

「ぼくは姉ちゃんの、復讐をしたいんです!」

「復讐!?」

 雅が驚いて目を剥いた。

「き、君は……、お姉さんの復讐をするつもりなのか!?」

「そうです」

 雅の顔に狼狽の色が浮かんだ。その実に頼りない姿に、恭弥は急に怒りが込み上げてきた。姉はこんな情けない男と付き合ったために不幸な目に遭った。もし、この男に少しでも男らしいところがあったなら、助けを呼んで被害は最小限で済んでいたはずだ。そう思うと、怨みの言葉でも投げつけたい衝動に駆られた。だが、彼の協力がなければ計画は成り立たない。

 恭弥は冷めたコーヒーを口に運ぶ。苦味が口の中に広がるのを感じながら相手の出方を待った。

 雅がおそるおそるといった様子で口を開いた。

「……ところで、日記の件、ご両親は?」

「両親は知りません。まあ話したところで、きっと世間体を気にして、なかったことにするんじゃないですかね」

「なるほど……。確かに、田舎の人はそういう気質があるよな……」

「ええ」

「それなら、警察に届けたらどうかな?」

 あくまでも逃げ腰な態度に、恭弥は冷ややかに答えた。

「どうでしょうね。警察がどこまで本気で動いてくれるのか疑問ですけど」

「確かに……」

 雅はむずかしい顔をして、なおも別の提案を模索している様子だ。よほど協力したくないのだろう。それでも恭弥は、彼の罪悪感につけ込んででも必ず協力させるつもりだった。

「雅先輩、協力するかどうかは別として聞いてください。ぼくが考えてる復讐ってのは、姉ちゃんをよみがえらせることなんです」

「よみがえらせる!?」

「ええ。よみがえった姉ちゃんが、あの女を恐怖のどん底に突き落とすんです」

 雅が息を呑む。彼の動揺を無視して、恭弥は計画の全貌を淡々と語り始めた。


       *  *  *


 説明を終えると、恭弥は相手の反応を待った。雅は考え込むように黙り込んでいた。

 その沈黙を破るように、恭弥は静かに口を開いた。

「……あの女を、徹底的に怖がらせてやりたいんです。姉ちゃんにしたことを心の底から後悔させるために。そのためには、普通のやり方じゃダメなんです」

 もし、雅の協力を得られなければ、姉の霊を使った計画は頓挫する。だが、本田奈央を充分に怯えさせることができるプランなだけに、恭弥は何としても実行したかった。

 雅の沈黙は長く続いた。しかし、彼が協力を拒むとは思えなかった。少しでも正義感があれば、姉の日記を読んで首を縦に振らないはずがない。

 やがて、雅が覚悟を決めたように顔を上げた。

「わかった、協力させてもらうよ。こんなことは、許されるべきじゃない」

「ありがとうございます」

 恭弥は内心ほっとした。計画はまた一歩、実現に近づいた。

 雅がコーヒーカップを手に取り、とっくに冷めきっているはずのコーヒーを一気に飲み干した。

「それで、ぼくは何をすればいいんだ?」

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