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[完結済]【呪い系ホラー】こはるちゃん、いっしょに。  作者: てっぺーさま
第三章 復讐の始まり

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海の底へ

【復讐は姉の怨念とともに——】

「あぁん? なんだてめえら!」

 夜道で突然現れた連中に、数馬(かずま)は声を荒げた。

 相手は五、六人ほど。見た目からしてガラが悪い。その中の一人が、写真らしきものを持って数馬の顔と見比べている。男は黒の革ジャンをはおり、リーダー格らしい雰囲気を醸し出している。

「こいつだろ?」

「ああ、たぶんこいつだ」

 うなずき合う男たちを見て、数馬は内心の震えを押し隠しながら虚勢を張った。

「だから、なんだってんだよ!」

 リーダー格の革ジャンの男が不敵に笑う。

「お前、ヤクザの金をパクったらしいな」

「な、なんでそれを!?」

 数馬はたじろぎ、全身から血の気が引いていくのを感じた。男たちに囲まれて逃げ場はない。すでに生きた心地がしなくなっていた。

 革ジャンの男が呆れた顔をして続けた。

「居酒屋で武勇伝をベラベラ喋ってたんだってな。お前、バカなのか?」

「ちっ……」

 数馬は悔しげに舌打ちをする。誰にも言うなと念押ししたのに、誰かが漏らしたのだ。自分の軽率さを今さらながら悔やんだ。

 革ジャンの男が顔を近づけてきた。

「今から知ってること、全部話してもらうぜ。仲間の名前から何もかもな」

「くっ……」

「だがその前に、まずは金だ。まさか、全部使い切ったなんて言わねえよな?」

「ああ、くそ……!」

 数馬は絶望の波に飲まれ、膝から力なく崩れ落ちた。


    *  *  *


「もう……勘弁してください……」

 数馬は膝をつきながら男たちの顔を見上げ、か細い声を漏らした。

 海に囲まれたコンクリートの桟橋に人影はなく、助けは期待できそうもなかった。しかも、執拗に殴られたせいで両目のまぶたがふさがり、今では取り囲む男たちの顔もぼんやりとしか見えない。

「お前、意外とタフだな」

 革ジャンの男がスマホを構えながら口を開く。撮影した動画は、あとで依頼主に渡すらしい。

 別の男が革ジャンの男に声をかける。

「もう、海に放り込んじまおうぜ」

 すると、別の男が割って入る。

「いや、ちゃんと殺してから沈めようぜ」

「重りつけて沈めるんだ。死んでなくても問題ねえだろ?」

 彼らの口論を聞き、本気で自分を殺すつもりだと確信し、数馬は恐怖で震えが止まらなくなった。

 すでに共謀した先輩たちの名前を含め、知っていることは洗いざらい話してしまっていた。さらに、手に入れた金をキャバクラで使い果たしたことも白状している。自分がもう用済みであるのは明らかだ。

 男たちは数馬を殺してから沈めるかどうかで軽く言い争っていたが、革ジャンの男が有無を言わせぬ口調で終止符を打った。

「殺してから沈める。それで決まりだ」

 その言葉を聞いた瞬間、数馬は反射的にアスファルトを強く蹴って、まっ黒な海の中へと飛び込んだ。

「おい、マジかよ!?」

 水飛沫の音と男たちの驚く声が重なった。桟橋の上から飛び交う男たちの罵声を背に、数馬は死に物狂いで泳ぎ続けた。身体が悲鳴を上げ始めたところで動きを止め、おそるおそる背後を振り返る。すでに桟橋から三十メートルほど離れていた。男たちは桟橋から叫んでいるだけで、海に飛び込んでくる気配はない。ひとまず安堵し、数馬は再び泳ぎ始めた。

 充分な距離を稼いだところで動きを止めて周囲を見回す。ぼやけた視界の先に街の明かりが点々と見えた。あの明かりの方向を目指せば、陸にたどり着けるだろう。だが、すでに体力は限界に達していた。

「や……やべえ……」

 意識が遠のいていき、その拍子に海中に沈み込む。

「げぼっ!」

 喉に流れ込んできた海水に激しくむせ返る。意識は戻ったものの、海水が肺に入って胸が焼けるような痛みに襲われた。まるで地獄の苦しみだ。半グレ連中に殴り殺されていたほうがマシだったと思えるほどだ。

 再び意識が薄れ、海中に沈み込む。また海水をたらふく飲み込んで、もがくように水面に上がる。そんな地獄の苦しみが何度も繰り返されたことで、生きる希望も失いつつあった。

 すると、気づけば岸がすぐそこに迫っていた。どうやら、知らず知らずに波に流されてきたようだ。

「や、やっだ……。だ、だずがる……」

 希望を胸に岸を目指そうとしたその瞬間、右足首に異変を感じた。まるで、氷のように冷たい手につかまれたかのようだ。

「え!?」

 恐怖で心臓が大きく跳ね上がる。次の瞬間、数馬は強い力で暗い海の底へと引きずり込まれていった。


    *  *  *


 そのニュースが恭弥の耳に入ったのは、暴力団の事務所に封筒を届けてから十日後のことだった。川崎数馬の遺体は海岸沿いで発見されたそうだ。どうやら、報復は迅速に実行されたらしい。

 恭弥がその事実をマコに伝えると、電話越しにも彼女の動揺が伝わってきた。

「……やっぱり、ヤクザって怖いんだね」

 マコの言う通りだった。結果は予想していたとはいえ、改めてその冷酷さを実感した。

「ああ、できれば関わりたくない連中だね」

「でも、恭弥君が手を汚さずに済んでよかったね」

「今は運が味方してるのかもしんない」

「だね」

「次もこの調子でいけるといいな」

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