表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
[完結済]【呪い系ホラー】こはるちゃん、いっしょに。  作者: てっぺーさま
第三章 復讐の始まり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/65

口は災の元

【復讐は姉の怨念とともに——】

 視線の先には、川崎数馬(かずま)の背中があった。恭弥は五、六メートルほどの距離を置いてあとをつけていた。

 駅前の繁華街は人通りが多いため、尾行は容易だった。それに川崎数馬は金髪で目立っていたから、簡単に見失うこともない。しかし髪は自分で染めているのか、どこか小汚い印象だ。細身の身体に黒シャツとタイトなダメージジーンズを合わせているが、肩で風を切っていくその歩き方はまさに不良の典型といった感じで、()()()()()()だと自ら宣伝して歩いているようで滑稽に映った。

 川崎数馬は風俗店店長の小島と違い、生活に規則性がなかった。そのため、人気のない場所で一人になる機会を見つけしだい、恭弥は背後から襲うつもりでいた。雑なプランだと自覚していたが、他に妙案が思いつかなかったのだ。

 それでも、今回は前回の教訓をしっかり活かすつもりでいた。小島には反撃されそうになり危うい展開になりかけたから、今回はそうならないように最初から徹底的に攻める覚悟でいた。唯一気がかりなのは、川崎数馬が恭弥よりも頭一つ分ほど背が高いことだ。小島の場合は身長差がなかったからさほど脅威は感じなかったが今回の相手は違う。もし反撃されたら対抗できないかもしれない。そのため、絶好の機会が訪れるまでは迂闊(うかつ)に手を出すつもりはなかった。

 前を歩く川崎数馬の背中を見つめながら、恭弥は姉の日記に書かれていた言葉を思い起こす。


 <i>金髪の男とその仲間二人は、近くの商業高校の制服を着ていた。私は彼らに、私の初めてを奪われてしまった。私は完全に汚されてしまった。そんな体験をしたことで、今後は灰色の人生が待っているのではないかという恐怖が押し寄せてくる。いや、すでにそんな人生が始まってしまったのかもしれない。あんな頭の悪そうな連中に人生を無茶苦茶にされるなんて……。できるなら、彼らを呪い殺してやりたい。</i>


 恭弥は姉の日記を思い返し、胸が締めつけられるような苦しさに襲われた。さらに、川崎数馬たちに姉が凌辱される光景が脳裏をよぎり、怒りで全身が震えた。

 前を歩く姉の(かたき)を恭弥は鋭く睨みつけた。

「あんな素敵な姉ちゃんを、あいつらは……」

 当然ながら、恭弥の怒りは前を歩く男には届くはずもなく、川崎数馬は憎たらしいほど快活な様子で歩を進めていく。そんな姿に恭弥の怒りはますます膨れ上がっていった。

 やがて、川崎数馬が居酒屋に入っていった。恭弥は周囲を見渡すが、居酒屋を見張りながら滞在できそうな店は近くに見当たらない。三十分から一時間程度なら外でも待てるが、酒が入ればそれ以上滞在する可能性は高い。

 恭弥は少し迷った末に、自分も居酒屋に入ることにした。あの男は周囲に気を配るタイプではない。店内で様子をうかがっても問題はないだろう。そう結論づけて、恭弥は横開きのドアを開けて店内に入っていった。


 平日の夕方だからか、店内はさほど混雑していなかった。入口からさっと店内を見渡すと、川崎数馬が先に来ていたらしい友人たちと合流しているのが目に入った。三人の仲間たちと四人掛けのテーブル席に腰を下ろしている。

 恭弥は店員に促されるままにカウンター席に腰を下ろしたが、そこは背後がちょうど川崎数馬たちが座っている席だった。恭弥は彼らに背を向けて座る形となったが、通路を挟んで数メートルも離れていないため、彼らの会話がはっきりと聞こえてくる。どうやら、絶好のポジションを確保できたようだ。

 恭弥はマスクとパーカーのフードを外すと、ビールと軽いつまみを注文した。堂々とした態度で頼んだからか、未成年と疑われることなく注文を受けつけてくれた。

 苦いビールをちびちびと飲みながら、スマホをいじって時間を潰す。背後からは、川崎数馬たちの騒々しい会話が途切れることなく聞こえてくる。くだらない話題で盛り上がっては、頭の悪そうな甲高い笑い声を何度も上げている。耳に入ってくるのは、偏差値四十レベルの低俗な下ネタばかりだ。今は仲間の一人が、処女の女子高生にいきなりバイブを使ったという話を自慢げに語っている。

 恭弥は彼らの話を聞き流しながら、今夜の決行はむずかしいだろうと考えていた。この店を出たあと、川崎数馬が仲間と別れて一人になる可能性はきわめて低い。あの盛り上がりぶりでは、時間の許す限り騒ぎ続けるに違いない。早めに片をつけて次の標的に移りたかったが、今夜はあきらめるしかなさそうだ。

 そう思った矢先だった。「数馬、あの話聞かせろよ」と仲間の一人が声を潜めて発した言葉が耳に飛び込んできた。恭弥は思わず聞き耳を立てた。

「ああ、あの話な……」

 川崎数馬が急に声を落とした。その口ぶりから重要な話だろうと直感した恭弥は、反射的にスマホの録音を開始した。

「いいか、お前ら。絶対にこのことは誰にも言うんじゃねえぞ。言ったらマジで殺すからな」

「言わねえから、早く教えろって」

「まあ、焦るなって」

 無駄にもったいぶった態度が(しゃく)に障った。まるで、自分が大物にでもなったかのような振る舞いだ。恭弥は苛立ちを覚えながら、背後のやりとりに意識を集中させた。

「おれが羽振りがいいのは、危ない橋を渡ったからだ。リスクを冒さなきゃ、どでかいリターンは得られないんだよ」

 その言葉に、恭弥は苦笑する。きっと誰かの受け売りに違いない。知人か誰かの言葉をそのまま語っただけだろう。

 仲間の一人が先をうながす。

「早く教えろよ。どうやって大金を稼いだんだよ?」

「わかったよ」

 恭弥は目を閉じて会話に耳を澄ませた。そして話が核心に入ると、とっさに録音を開始した自分の機転に賛辞を送った。

 数日前、川崎数馬は高校の先輩たちとともに、暴力団の事務所に忍び込んで金庫を盗み出したというのだ。

「すっげえ重い金庫だったんだぜ。それを五人がかりで車に積み込んで先輩の知り合いのスクラップ工場に運んで、バーナーで金庫の扉を焼き切ったんだ」

 最初こそ声を潜めて話していた川崎数馬だったが、話しているうちに気分が乗ってきたのか、今では周囲を気にせず自慢げにまくし立てていた。

「で、いくら入ってたんだよ?」

「三千万」

「マジかよ!?」

 仲間たちが驚きの声を上げた。

「な、やべえだろ? そんでおれは、百万もらったってわけだ」

 川崎数馬が得意げに言うと、仲間の一人が口を挟んだ。

「たった百万? 五人だったら、ひとり六百万じゃねえの?」

「ばーか。おれは一番下っ端だから文句は言えねえんだよ。それに、スクラップ工場のやつにも分け前やってんだ」

「でも、それにしても少なくねえか……」

 口を挟んだ仲間はまだ納得いかないようだ。

「お前、よく考えてみろよ。たった一晩で百万稼げる仕事なんてあるか? 風俗嬢でも絶対に無理だぜ」

「なるほど……。そう考えると、やっぱすげえな」

「だろ?」

「でも、なんでそんな簡単に盗めたんだ? 防犯カメラとかなかったのかよ?」

 仲間の問いに、川崎数馬は得意げな口調で答えた。

「実はな、組の中に先輩の仲間がいてさ、その人が全部お膳立てしてくれたんだ」

「内通者ってやつか」

「そう、それ。内通者ってやつ。あと、ほらあれ。ドアのとこに付いてる電子ロックってやつ? あれの解除コードってのも教えてもらってたから、マジで楽勝だったぜ」

 恭弥は話を聞きながら呆れ返ってしまう。こういう口の軽い人間がいるから、犯罪はすぐに表沙汰になるのだろう。

 その後も、川崎数馬は犯罪の一部始終を仲間たちに自慢げに語り続けた。一区切りつくと、彼はひときわ高い声を上げた。

「今日はおれの奢りだ! じゃんじゃん飲もうぜ!」

 彼らは一時間ほど居酒屋で飲み食いしたあと、「キャバクラ行こうぜ!」となり、意気揚々と店を出ていった。あの調子では、手に入れた金もひと月ももたないのではないかと恭弥は思った。

 店を出ると、恭弥はマコに電話をかけた。

 電話はワンコールでつながった。どうやら連絡をずっと待っていたようだ。すぐに心配そうな声が受話口から聞こえてきた。

「もしもし? 恭弥君、だいじょうぶ?」

「うん。でも、今日は実行しなかった」

「え、そうなの!?」

 驚くマコに、恭弥は続けた。

「実はさ、別の方法を思いついたんだ」

「え、どんな?」

「それはね——」


    *  *  *


 川崎数馬たちが押し入った暴力団の事務所は、ネットで検索したらすぐに特定できた。犯行は四日前らしい。

「一週間も我慢できなかったのか……」

 恭弥は苦笑する。改めて、川崎数馬の口の軽さに呆れてしまう。おそらく、彼は仲間から堅く口止めされていたはずだが、一週間も経たずに口外したことになる。

 もっとも、犯行に加担した連中も似たようなものだろうから、仮に川崎数馬が黙っていたとしても、遅かれ早かれ他の誰かが漏らしていただろう。

 恭弥は自室でさっそく作業に取りかかった。直接手をくだせないのは少し不満に思ったが、リスクの少ない方法があるなら当然そちらを選ぶべきだ。

 まずは、居酒屋で仕入れた情報をパソコンのメモ帳に入力していった。川崎数馬の個人情報を加えたあと、全体を何度か推敲してからA4サイズのコピー用紙に印刷した。

 次に、川崎数馬の顔写真——居酒屋で隠し撮りした横顔と中学の卒業アルバムのもの——を写真用紙に印刷した。

 続いて、USBメモリーにスマホで録音した音声データをコピーし、念のためテキストデータと顔写真のデータも保存する。

 最後に、印刷したA4用紙を三つ折りにして、顔写真とUSBメモリーとともに封筒に入れて封をした。

「よし。これで準備完了だ」

※ポチッと評価、お願いします(^_^)v

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ