キモ客
【闇堕ち少女、怨霊と化す——】
「いいねえ。この白い肌、たまんないねえ」
出勤二日目の最初の客は、初日の大人しい客とはまるで違った。見た目からして風俗でしか女を抱いたことのないような気持ちの悪い男だった。
自然と店長に対する怒りが込み上げてくる。
最初は、客を選んでくれるって言ってたのに——。
華菜子は一目見て顔が引きつってしまい、笑顔を浮かべることができなかった。
見るからに吐き気を催すような不潔っぽい中年男は、執拗に乳房を舐めまわしたあと、華菜子の股の間に顔を埋めてきた。男は恥部を音を立てて舐めまくってから、中に指を乱暴に入れて激しくかき回してきた。鋭い痛みが走るが、客の反応を恐れて拒絶できず、華菜子は歯を食いしばって耐えるしかなかった。
痛みと屈辱により心が締めつけられ、しだいに頭の中は本田奈央への憎悪であふれ返っていく。両手で顔を覆い、男に聞こえないよう小さくつぶやく。
「あの女、絶対に殺してやる……」
最初の粘着質な客から解放されたあとも地獄は続いた。次の二人の客も似たり寄ったりの風貌だった。とくに最後の客は、我慢できないほど乳首を強く吸ってきたため、華菜子が控え目に優しくしてほしいと懇願すると、「金払ってんだから少しくらい我慢しろ!」とキレられ、精神的にも大きなダメージを受けた。
「うん? どうしたの?」
帰り際、落ち込んだ姿を見て心配したのか、二十代半ばほどの同僚女性が声をかけてきた。
華菜子が事情を説明すると、相手は同情するような表情を浮かべて答えた。
「ああそれ、たまにあるよね、キモい客が連発するとき。そんなときって、呪われてるんじゃないかって心配になるよね。でも、そんな日ばかりじゃないからさ、元気出しな」
その言葉に、華菜子は少しだけ心が軽くなった。しかし、店を出て自転車で走り出してすぐに、鼻の奥に男たちの体臭がこびりついていることに気づき、発狂しそうになった。
「ああ! もう、いや!」
華菜子は自転車を止めると、握った拳で何度も自分の頭を殴った。そうでもしなければ、感情の爆発を抑え切れなかったからだ。ふと顔を上げると、通りすがりのサラリーマンと目が合った。今自分がとった行動は、明らかに気が狂った人間そのものだ。そんな風に見られたことに、激しい羞恥心が全身を襲う。
慌ててペダルに足をかけ、逃げるようにその場を離れた。ペダルを漕ぎながらも、自分が壊れていくのがわかり、絶望感が押し寄せてくる。
公園のトイレに立ち寄り、私服から制服に着替えた。仕事場に制服のまま出入りするわけにはいかないからだ。再び自転車に乗り自宅を目指すが、息を吸うたびに鼻腔に残る男たちの体臭や精液の匂いで気が狂いそうになった。
帰宅するなり、華菜子は浴室に駆け込み熱いシャワーを浴びた。前日と同じように、不浄なものを削ぎ落とすように肌を強くこすっていく。しだいに肌が赤く染まり、気づけば二の腕には血がにじんでいた。それでも手を止めることはできなかった。
「華菜子、いつまで入ってるの! いい加減になさい!」
母親の声に、華菜子はようやく我に返った。
夕食もほとんど口をつけず、すぐに二階の自室にこもった。机に向かい、いつものように日記帳を開く。
シャープペンを握る手につい力が入ってしまい、何度も芯を折ってしまう。文字をしっかり書くために相当の努力を要した。
気味の悪い中年男たちと密室で時間を共有したことは、店長の小島を相手にしたとき以上の精神的ダメージを残した。まるで、自分が世界で最も穢れた存在になってしまったかのように感じられた。このまま消え去りたいと心から願った。
日記は途中から、本田奈央への怨嗟の言葉で埋め尽くされていく。やがて、彼女への憎悪は本気の殺意へと変貌していく。とくに、今日のように不潔な男たちに身体を売るくらいなら、いっそのこと彼女を殺してしまいたいと本気で思った。だが、ただ殺すだけでは物足りない。どうせ殺すなら、自分が受けた以上の苦しみを彼女に与えてやりたかった。
「殺すにしても簡単には終わらせない。じわじわと、じわじわと、なぶり殺してやる……!」
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