#フォロワーさんから私にオススメの要素を貰ってえっちな聖女をつくる
Twitterで遊んだ「#フォロワーさんから私にオススメの要素を貰ってえっちな聖女をつくる」の結果。
・黒舌
・本当は人間を捕食する生物が擬態している
・すぐお腹が減ってビビるほど大食い
・人見知りの恥ずかしがり屋さん
・人間さんのことが大好きだけど食欲を我慢できない時がある
私がイェルドマの神殿を訪れたのは昼前のことだった。
話に聞いていた聖女に会うためである。
聖女と言っても、おとぎ話にあるような偉大なる功績をたたえられた称号ではない。
多くの聖女は神託を賜ったことも、奇跡を起こすこともない。
ただ、神への祈りをほんの少しばかり認められ、いくらかの法術を用いることができる程度だ。そして、それで十分だった。
いまの世の聖女というものは、「それで十分なほどに平和である」ことの証明がその存在意義なのだった。
つまるところ聖女というのは、ある種のアイドルなのだった。
……などという言葉から始めると、どうにも私がアイドルの追っかけみたいで、誤解を招くかもしれない。
私は近々このちかくに引っ越してくる予定があるもので、神殿に詣でるついでに聖女の姿も拝んでおこうという、まあ言ってみればそれだけの話なのだ。それはそれでミーハーというか、軽薄な気もするが。
神殿は古いつくりだったが、よく手入れされていた。飾り気のない無骨なつくりは、石造りの骨太な頑丈さを思わせた。地震や嵐があっても、この屋根はきっとこゆるぎもしないに違いない。
一方で、分厚く密な木材でできた正面扉は大きく開かれており、万人が気軽に立ち入ることができるようになっていた。そしてまた、夜間にはぴったりと閉じられ、重たげな閂が不埒者を通さぬという安心感がある。
礼拝堂に顔を出してみると、村の大人たちはほとんど姿が見えない代わりに、子供たちが長椅子に思い思いに座っていた。あるいは寝そべり、あるいは背もたれにしりをおいて体重を預けていた。
そして講壇に立って、子供たちに何やらありがたい説教を垂れようとしてるのがイェルドマの聖女であるらしかった。
聖女は清貧を重んじる教義においては、いささか肉置きのよすぎる娘だった。生来の愛嬌と、なんとも警戒心をそぐ素朴な顔立ちが、その豊かな肢体をだらしなさより愛らしさとして見せているようだった。
はっきり言えばむっちりしていた。ぽっちゃりどころではない。顎と首の境目はあやしく、頬をはまるまるとしてつやつやで、その寝てるのか起きているのか判然としない糸目も肉のせいではないかと疑われた。
胸も豊かは豊かであったが、それ以上に尻と腿がクッションと見分けのつかぬほどに太く、またそのうえに乗っかっている腹はまさしく「乗っかっている」としか表現できない柔肉である。
そしてそのうえでなお愛らしさがある。不健康な肥満体というよりも、健康な丸みの範囲にぎりぎり収まるのではないかと思われた。レーダーチャートがほぼ埋まる感じのギリギリ具合だ。一部はややアウトかもしれない。
そのもちもちとした肉置きが、端的にデブとのそしりを受けないのは、身長もまた豊かであるからかもしれなかった。
講壇にちょこんとおかれた手はクリームパンのようで愛らしいが、仮にそれをパン屋の棚だとしたら、そのパン屋は一週間分まとめて焼いたとしか思えなかった。手も大きい。足も大きい。そして全体的にもやはり大きい。もしも屈まずに戸をくぐろうとしたら間違いなく上枠に頭突きすることになるだろう。仲間内では長身で通っている私でさえ、見上げずに会話するのは難しい。
「デッ………」
ぶしつけ過ぎる一言を飲み込むのにどれほどの苦労があったかはいちいち語りはしないが、これに幼小から慣れている村の子供たちの将来は間違いなく危ぶまれた。壊れるだろ、こんなん。
思わずドアの陰に隠れて見守ってしまったが、イェルドマの聖女は甘く柔らかい、言い換えればいささか頼りない声でありがたい教えをつっかえつっかえ子供たちに語り聞かせていたが、正直なところ子供たちはあまり関心を示していないようだった。なにしろあまりにも語りが拙く、頭に入ってこない。
それどころか時々、なんだっけなどと呟きながら手元の経典を何度も繰り直したり、あまつさえ最前列の被り付きで熱心に聞いている数人の少年少女から、「それはこうだよ」「これこれこういう話で」などと逆に教わっている。しかもそれで「そうなんだあ、ありがとうねえ」などと返しているのだから全くありがたみがない説法である。
いろんな意味で見どころがあり過ぎる少年少女も、ぽやぽやした聖女も、よく見たら壁に背を預けて後方訳知り顔で腕組みしながら頷いてる神官も、いろいろ終わってる。
ついに子供たちが退屈のあまり脱走し始め、説法会は崩壊した。
駆け抜けていく子供たちを慌てて避けた私は、次の瞬間には今までの人生で感じたことのない柔らかくあたたかい圧力に半身を包まれ、そして弾き飛ばされた。
「あっ!」
「よそもんが轢かれた!」
「しんだ」
「しんでない!」
「しんでない?」
「やっべー……これわしの監督不行き届きになるんじゃろか」
「あわわわわ……しゅ、主よお許しを……!」
子どもたちを追って走り出したらしい聖女の体当たりは、肉体労働で鍛えられたはずの私の体を呆気なく吹き飛ばし、人体からそんな音が出るとは知らなかったなあと思わず感心してしまう衝突音とともに私の意識さえも落としてしまった。
聖女はいいにおいがした。
「本当にすみませんでした……」
「いえいえ、いいんですよ」
気が付いた私は老神官と聖女に平謝りされたが、身体に不調も感じないし、当たり所が良かったのだろう。私はのぞき見を詫びて、自分の身の上をざっくりと語った。今度、この近くに引っ越してくるので、下見もかねて神殿に詣でに来たのだと。また聖女がいると聞き、ぜひ拝んでいこうと思ったのだと。
「い、いやあ、照れますねえ」
イェルドマの聖女はカラリエンテと名乗った。
後方腕組み神官ことマンダール老神官は、子どもたちの昼食を作らねばならないと述べ、彼女に客人──つまり私の相手を任せた。
カラリエンテはその大きな体に似合わず、ひどく内気で、人見知りするたちのようで、時々不安になる軋みを漏らす椅子にたっぷりとした尻を預け、それは無理があるだろと言いたくなるくらい縮こまっていた。縮こまってもなお私より空間占有率が高い。もう彼女しか見えない。物理的に。
話すことにも困るといった様子に、私から話題を提供していくことにした。
「元気な子供たちですね」
「あっ、えっ、はい、そうですね! みんな元気で……」
「あの子たちは村の子供ですか?」
「ええ、いえ、みなしごたちで、みんなうちのかわいい子でして……」
わたわた、と音がしそうなほどに、カラリエンテはいかにも必死に私の相手をしてくれた。しかし子供のことを尋ねると、その雰囲気は驚くほどやさしく、丸いものになった。
子どもたちは以前は近くの村に住んでいたのだが、野盗たちに手ひどく襲われ、ほうぼうの体でこの村まで逃げてきたのだという。
いくらかの大人も生き残ったが、この村で生きて言うために精々働かなくてはならず、そうした家の子供も、みなしごと一緒にこの神殿で預かっているのだという。
「ご立派なことです。聖女と呼ばれるのももっともだ」
「い、いえいえぇ、ぜんぶ、神官様が……」
老神官マンダールは義の人であるという。いい加減そうに見えるし、しばしば酒もたしなむが、誰よりも祈り、苦しむ人に寄り添い、悪しきを憎み世の悲しみを嘆く人なのだという。
子どもたちはみな、厳しくも優しい老神官に育てられ、健やかに生きているのだと。
かくいうカラリエンテもマンダール師に拾われ、今日まで育ってきたのだという。
それは、まあ、たいへん健やかに育ちましたねというのはセクハラに当たるのだろうか、デブハラに当たるのだろうか、私は判断に困った。しかし大変結構にお育ちになったのは間違いないので、マンダール師は偉大である。
カラリエンテもはじめのうちは子どもたちとどう付き合っていけばよいか大いに悩んだそうだが、いまでは誰よりも子供たちを愛し、かわいがっているのだという。少し話すだけで何人もの名前があがり、なにを確認するでもなく少年少女の好みや特徴、日々のささやかなエピソードをそらんじてみせた。
それは神の教えをたどたどしく語り聞かせていた姿よりも、よほど聖女と呼ぶにふさわしいものだった。
「こんな私にもなついてくれて、本当に、食べちゃいたいくらいかわいくて……」
そうして話しているうちに何やら良いにおいがしてきて、地鳴りの如きおそろしい音が響いた。
私の驚きひるむ視線に耐えかねて、カラリエンテは腹を抑えた。
「お、お昼……召し上がっていかれますか?」
私は胸がいっぱいだったが、ご相伴にあずかった。
マンダール師もまたそのつもりであったらしく、パンとスープの簡素であるが心づくしのもてなしをありがたく頂いた。
育ち盛りの子供たちにも嬉しい具だくさんのもので、神殿の中庭には畑もあれば、家畜も世話しているという。子供たちも自分で世話したものが形となって食卓に上がることで、自然と自尊心や労働の価値というものを覚えていくのだという。
「味気ない食事で申し訳ないのう」
「いえ、いえ、とてもおいしい。ありがとうございます」
まあ、正直なところ、味はあまり覚えていない。
聖女カラリエンテが食パン一斤と鍋いっぱいのスープをお玉でぺろりと平らげる光景にさすがにビビったからである。しかもいかにも満足していない様子で「まんぷくだァ……」と己に言い聞かせているのまで聞いてしまったのである。
カラリエンテのむっちりとした恵体は決して全然悪いものではないしむしろ好ましいが、しかしそれはそれとして健康を考えるといかがなものだろうかと老神官に水を向けてみれば、マンダール師は男臭く笑って見せた。
「かわいいうちの子の質量が増えるのは良いことじゃからのう」
「質量て」
パンパンになった神官服がいまにも破れそうで、私はおののいた。
その夜のことである。
とっぷりと日は暮れ、町の灯もあらかた消えた。
見張り櫓にはまだランプの灯が見えたが、いまごろ見張りは差し入れの酒で眠りこけていることだろう。
私は手勢を引き連れて音もなく神殿に向かう。
この村にある建物で、襲撃に耐えうるようなものはあそこだけである。逆に言えばあそこさえおさえてしまえば村には他に防御施設などなく、しかしこちらには村で一等頑丈な要塞で構えることができるというわけだ。
おまけに中庭には食糧の自給が叶うだけの畑も家畜もある。まあ、一通り平らげたら次の村に行くのだが。
「へっへっ、親分は相変わらず慎重でヤンス。こんなちっぽけな村、あっしらにゃ赤子の手をひねる様なもんでさあ」
「ケヒャーッ! まったくでゲスよ! 獅子は兎を狩るのにも全力を尽くすと言うゲスけどねええ!」
「ゆ、油断大敵だど……この世は鶏の尻ともいうど、卵か糞か、オデたちには見通せないど」
「俺はその口調でことわざとか使うお前らが不思議でならねえよ」
手勢は四十人。多くはないが、少なくもない。身軽に動くには、このくらいが限度だ。
事前に丁寧に下調べし、一晩の間に徹底的に略奪、そして朝になるころには速やかに姿をくらませる。そうしてやってきたからこそ、私たち夜蝗団はいままでやってこれたのだ。
この神殿の弱点も知れている。
正門は分厚く、閂も太いが、勝手口の扉は老朽化して、隙間から簡単に閂を外せてしまえる。昼間のうちに子供の相手をするふりでチェック済みだ。
連中が眠りこけている間に侵入し、老神官を拘束してしまえば、あとは女子供だけ。子供たちの中には、育ってきたものもいる、手下どもに褒美としてやるにもいいだろう。しかし、聖女カラリエンテは別だ。ああいうむっちりした女が私は好みなのだ。そのうえ、聖女を抱くのは初めてとなれば、気も逸る。
私は勝手口の閂を外して忍び込み、そしてランプの灯に照らされたどっしりとした巨大な影を見た。
「デッ………」
誰が漏らした声かは、判然としなかった。手下の誰かかもしれないし、ほかならぬ私だったかもしれない。
その肉置きの良い影は、聖女カラリエンテのそれだった。
彼女は食糧庫から失敬したハムの塊と大根を両手に持って、ハムスターのごとく頬を膨らませて夜食にいそしんでいるところだった。愛らしい挙動と裏腹に、食欲がやんちゃすぎる。
「むっ、むごごっ、むぐっ、もごご!」
「なに言ってるかはわからんが、静かにしな」
「ち、違うんです、これはおなか減って我慢できなくなっちゃっただけで……!」
「なにも違わないしそういう場合でもねえんだよなあ」
あえて荒っぽい口調ですごんで見せたが、どうにもこのとっぽい聖女は状況がわかっていないようだった。
私は手勢を引き入れ、カラリエンテを囲んだ。手に手に短剣を構えた男たちに囲まれて、もちぼちゃ聖女もさすがにひるんだようだった。ごくり、と重たげに息をのみ、しゃくりと大根をかじる。ごくり。
「違う違う違う。まずは置け。ハムと大根を置け」
「ち、違うんです、ハムの塩気と大根の辛みと水気がマッチしてですね……!」
「食べ合わせを責めてるんでもねえんだよなあ!」
どうにも調子が狂うが、騒がれるよりもいいか。
私は手勢に、彼女を拘束するように言った。
「あとでお楽しみなんだ、傷つけるなよ」
「趣味は人それぞれでゲスけど、親分は尖り過ぎだと思うでゲス」
「過去になにかしら問題があったのかと思っちまうでヤンス」
「せ、性癖は心を映す鏡だど……!」
「やめろやめろ!」
手下どもは三人がかりで聖女カラリエンテを椅子に縛り付けようと試みたが、難航した。彼女は暴れるでもなく、困惑した様子でおどおどするばかりだったが、なにしろでかいのである。どこに縄をかけたものか、熟練の盗賊たる手下どもが職人の目を迷わせている。
「どうにも柔らけえ。骨がねえんじゃねえかってくらい沈み込むでヤンス」
「ええい、腕が回らんでゲスな。ロープの長さも足りねえでゲス」
「お、オデよりでかい女ははじめてだど……大樹の如き安定感だど……!」
「そいつをつなぎとめとくのは無理じゃろうなあ」
手下どもがみっともなく右往左往する中に、不意にしわがれた声が混じった。
咄嗟に振り向いて短剣を向けた先には、夜更けだというのにかっちりと神官服を着込んだ老神官マンダールの姿があった。
「抜け目のない爺だ……いつから怪しんでた?」
「最初からさ。わしは悪党どものにおいがわかるのさ……」
「……さては同類か」
「足は洗ったさ」
ごつ、ごつ、と床に打ち付ける不自然な足音。義足か。ケガで引退した盗賊崩れと言ったところだろう。本物の神官を殺して入れ替わったか、それともコネか金で立場を買ったか。
どちらにしろ、現役の私たちからすれば面倒ではあるが、面倒なだけのロートルだ。
「同業のよしみだ。おとなしくしてりゃ命は取らねえ」
「おうおう、格好いいねえ、小僧。いままでにもおんなじこと言ってきたんだろ。大人しくしなけりゃどうだってんだ」
「わかるだろ? 爺は金にもならねえ、楽しめもしねえんだ。精々畑の肥料にでもなってもらうぜ。いままでのやつらとおんなじにな!」
マンダールは呵々として笑った。肝が据わってやがる。だが聖女を人質にすれば。
しかし、それにしても、手下どもはいつまで遊んでいるのか。ちらと視線をやって、私は困惑した。そこにはおろおろとした顔で、手下どもをクソデカクリームパンみたいな手で平然と押さえ込んでいる姿があった。
「な、なにっ!?」
「おい、カラリエンテ。そいつら悪党みたいだぞ。罪の告白もして、まあ、現行犯でもある。たぶんガキどもも売っ払うか……いや、荷物になるからのう、殺して畑にでも撒くじゃろうよ。その前に遊ぶかもしれんな」
「えっ、えっ、えっ、つ、つまり……」
俺は不思議なものを見た。
つまり、そいつは、聖女カラリエンテは、ぱあっと笑ったのだった。
寝てんだか起きてんだかわかんねえ糸目はいまやぱっちりと開かれ、三つの瞳がそれぞれの眼窩から俺を見つめた。飯食うときでさえおしとやかに隠してた口は笑顔にほころんで、真っ黒な口腔からてろてろと黒い舌をでろんと垂らしていた。
「ああ、いいぞ」
「いただきます」
それは驚くほど魅力的な笑顔だった。
それが俺が最期に見たものだった。
イェルドマの神殿には中庭があって、その中庭にのほとんどは畑として耕され、どの季節にもなにかしらの作物を実らせていた。
畑仕事は、神殿で面倒を見ている孤児たちが精力的に行っており、彼ら彼女らはその仕事が自分たちの糧につながっていることを直接的に体感し、理解してた。自分が何かの役に立てているという事実は、すべてを失った彼ら彼女らにとってかけがいのないよすがであった。
その日も子供たちは、老神官マンダールの指示のもと、鉢の中に転がされた小石のようなものを、変わりばんこに棒でついて崩して、その崩したものをすり鉢でさらに砕いて、粉のようにしていった。乾いたそれはもろく、子供たちでもがんばれば砕くことができた。
「これなに?」
「なーにー?」
「ああ、肥料じゃよ。畑にまいてやるとな、野菜がよく育つんじゃよ」
聖女カラリエンテは大きなじょうろで畑に水をやりながら、子供たちが楽しげに仕事に臨む姿を眺めて微笑んだ。本当に、食べちゃいたいくらいかわいい子供たちだ。しかしもちろん、本当に食べてしまうわけにはいかない。よい子を食べてはいけないからだ。それは神様に怒られてしまうことだから。
カラリエンテを拾い育ててくれたマンダールが、自分の足を食わせながら懇々と教え諭してくれたことだった。まだ小さかったカラリエンテは、足にむしゃぶりつく自分に金砕棒とともに叩き込まれた教えを、いまもしっかり覚えているのだ。師の、養父の、身を削った尊い教えだ。
やわやわとした腹を撫でながら、イェルドマの聖女カラリエンテは、黒々とした舌でてろりと唇を舐めた。
昨晩は久しぶりにたくさん食べたから、しばらくは野菜のスープでも事足りるだろう。
でもまたすぐお腹は空くから、次が待ち遠しい。
「わるいひと、また来ないかなあ……」
イェルドマの村は今日も平和であった。