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第三部 地球の危機を救うために次は勉強だ!『3.平和研究の潮流』

平和の構築が温暖化を阻止するために必要だ。

第3部 地球の危機を救うために次は勉強だ!『3.平和研究の潮流』

                      2024年11月3日版

3-1 第3段階のコースに向けて

翌日、4人は、ガイア地球研究所の広い教室に集まり、新たな学びに臨んでいた。第三段階のコースのタイトルは「平和研究を学ぶ」。4人は「地球規模の問題群のアバター体験」のコースを修了したばかりであり、温暖化と様々な問題が複雑に絡み合っているということまでは理解できた。第一段階目のコースで「人間とは何か」を学術的な側面から学んだように、このコースでは地球規模の問題群を解決する方法を身に付けるために「平和研究の潮流」について学ぶようだ。より深い知識を得る時が来た。

最後の仮想体験の授業を終えた後、4人は、ほっとした気持ちで座っていた。ミエナが再び優しく彼らに向き合い、こう告げた。

「今日はこれからシステム思考の実習に入ります。これまでの体験で得た事実を、より深く理解し、それぞれの要素がどのように関係しているかを探っていきます。」

「システム思考…?」

エイレネは興味津々な様子でミエナを見つめた。

エイレネは、(アレ! もう忘れちゃったのかな? 仮想体験でこれまで学んできた学習の成果が全て記憶から抜け落ちてしまったのではないかな)と少し心配になりました。でも、表面的には、そんなことを少しも思っていないような明るい声で、二度目になる説明を行った。こういうことは、教える立場になると良く経験するんですよ・・・とミエナは独り言をいった。

「はい、システム思考とは、原因と結果の相互関係を把握し、問題がどのように連鎖しているかを理解するための手法です。今回は、皆さんに音声入力を使って事実を整理し、その関係性を視覚的に示してもらいます。最新式のSimTaKNを使いますので、タブレットに話しかけるだけでラベルが作成されます。」

ミエナはタブレットを4人に配りながら説明を続けた。

「自分が体験した中で印象に残った事実だけをラベルにして書き出してください。その後、その事実同士がどう関係しているかを原因と結果の関係で矢印を使ってリンクさせてください。」

パンドラが疑問を投げかけた。

「それって、例えばどういうこと?」

ミエナは微笑みながら答えた。

「たとえば、『気候変動が進むと食糧不足が悪化する』というように、気候変動が原因で食糧不足が結果となる場合、その関係を矢印で結びます。そして、原因が強くなると結果も強くなる場合は矢印に正または+を、逆に原因が強くなると結果が小さくなる場合は負または-を記入します。さあ、やってみましょう。」

4人はそれぞれ自分のタブレットを手に取り、音声入力で事実のラベルを作成し始めた。

タブレットに向かって話すと、瞬く間に文字が画面に表示され、その事実がラベルとして追加されていく。

エイレネは小さく呟きながら、「気候変動による自然災害の増加…」と音声入力した。

タブレットにはその言葉がすぐに表示され、ラベルが生成された。

パンドラも、思い出しながら話しかけた。

「パンデミックの蔓延による医療崩壊…これも重要ね。」

瞬時にラベルが追加されるのを見て、彼女はその技術に感心していた。

「戦争による難民の増加…これは現実の恐ろしさを物語っている。」

ディアナは冷静に言葉を入れ、次々とラベルを作成していった。

「AIの進化が引き起こす大量失業。技術の進化が社会をどう変えてしまうか、これも重大な問題だ。」

プロメテウスも自分の中に刻まれた体験を語り、ラベルに変換していた。

4人はそれぞれ、自分が体験した多くの出来事を思い出しながら事実をラベル化していった。

音声での入力はスムーズで、次々とラベルが画面に並んでいく。

ラベルを作り終えた後、次のステップは『原因と結果の関係を矢印でリンクさせる作業』だった。

ミエナの指示通り、4人はタッチパネルでラベルを指先で動かし、原因だと思うラベルを結果となるラベルに結んでいった。

エイレネは、指を動かしながら考え込んだ。

「気候変動が進めば、自然災害が増加する。これは確実ね。」

彼女は「気候変動」のラベルから「自然災害(の増加)」のラベルに矢印を引き、そこに正の記号(+)を表示した。

「じゃあ、食糧不足が続くと、社会不安が増大するわね…」

パンドラは「食糧不足の悪化」から「社会不安の増大」へと矢印を結びつけた。

「でも、これって正の関係かしら負の関係かしらわかりにくいわ。」

彼女は矢印に?を付けた。

 そこでミエナがパンドラに声をかけた。

「ラベルの表現が複雑になっているので、正か負の判断がちょっと混乱してしまいますね。『食糧不足』、『社会不安』というように状態だけにして、悪化、増加という変化の言葉は省いておきましょう。そうすると因果関係の正か負かを正しく表示できるようになります」

パンドラは「なるほど!『食糧不足』から『社会不安』なら正の関係ですね」

ディアナは慎重に考えながら、他のラベルを動かしていた。

「戦争が長引けば、難民が増加し、その結果、国際的な対立も激化する…。これは負のスパイラルね。」

彼女は「戦争」と「難民(の増加)」を繋ぎ、さらに「国際的な対立」へとリンクさせた。そこには+の矢印が続いていた。

プロメテウスは技術の側面に注目していた。

「AIの進化が進めば、大量失業が発生する。技術の進化は社会に多大な影響を与えるけれど、その結果、不安が広がるのも避けられない。」

彼は「AIの進化」から「(大量)失業(の発生)」へ、さらに「社会的な不安(拡大)」へと矢印を引き、そこに+を表示した。

4人は真剣にタブレットを操作し、事実同士の因果関係を整理し始めた。

原因が結果に与える影響を考えながら、次々とリンクを張り、矢印には正の記号や負の記号を付け加えた。

作業を進めるうちに、4人は徐々にシステム思考の力を実感し始めた。

これまで混乱していた複雑な出来事の関係が、次第に整理され、視覚的に繋がっていく様子が見えてきたのだ。

各国の国内での問題、すなわち「社会的分断と不平等の深刻化、女性や少数民族への虐待と社会的地位の低さ、AIの進化と大量失業に怯える人々」といった問題が、大きな塊に見えてきた。

これは『内憂』だ。

次の大きな塊は、「気候変動の深刻な影響、世界の人口増加と食糧不足の危機、パンデミックの蔓延」などの地球全体に関わる問題だ。

これは、国を中心に見れば『外患』だ。

最後に残った「戦争とテロ、ジェノサイドによる人道と人権の危機

、権威主義化による戦争の増加と人権侵害の深刻化」は、国家間の争いが引き起こす問題の塊だ。

システム思考で関連付けられて、グループ化されてきた問題は、国家間の争いを軸に、国内の問題、国外の問題と整理されて、因果関係のループがはっきりしてきた。

まさに地球規模の問題群が人類にもたらす『内憂外患』の構図だ。

エイレネは自分のタブレットを見つめながら、感嘆の声を漏らした。

「こんな風に整理されると、すごく分かりやすいわ…。何が何に影響を与えているのか、はっきりしてくるのね。」

「本当に。これまでは、すべてがバラバラで混乱していたけど、因果関係が明確になると、一気に理解が深まるわ。」

パンドラも興奮気味にタブレットを見つめた。

ディアナも静かに頷いた。

「システム全体をこうして俯瞰して見ることで、問題がどう絡み合っているかがはっきり見えてくるわね。これはまさに、全体を把握するための思考法ね。」

プロメテウスも画面に映し出された矢印とラベルを見つめ、深く息をついた。

「これがシステム思考の力か。問題の根本を探るためには、こうしてすべてを繋いで考える必要があるんだな…」

彼らは、混沌とした体験の断片が次々と繋がり、一つのシステムとして整理されていく様子に、それぞれ深い感動を覚えた。複雑な問題の相互作用が見えてくることで、未来への対策や解決策も少しずつ見え始めていた。

ミエナは4人の様子を見守りながら、静かに語りかけた。

「素晴らしいです、皆さん。これがシステム思考による情報整理の力です。個々の問題を独立して考えるのではなく、全体のシステムの中で原因と結果を見つめることで、より深い理解が得られます。この理解が、未来の課題に取り組むための重要なステップとなるでしょう。」

エイレネたち4人は、感動とともに自分たちの作業を見つめた。

これまでの体験が一つの全体的なシステムとして整理され、未来への道筋が少しずつ見えてきたのだった。


その夜、ミエナは一人静かな時間を過ごしていた。

ミエナは眠らないので、夢をみることも無い。

しかし、ときどき、過去の懐かしい記憶を呼び出して、その時の思い出を懐かしむことがある。今日は、エイレネたちが改めて温暖化を阻止する決意を固めた。そんな彼女らにとても満足したことを思い浮かべていたら、ずいぶんと昔の記憶がリンクされて出て来た。

それは、マコテス所長と温暖化対策の話し合いの最中のことだ。ミエナは数々のデータを示しながら、「人類がこれまで成し遂げた進歩がいかに小さいか」を指摘した。だが、マコテス所長はふと目を細めて「でも、小さな進歩でも、そこには『人間の意志』がある。それは大きな力だよ」と語った。

ミエナは静かに考え、「その意志が、私には美しく見えるのかもしれない」と認めた。

その時、マコテス所長は、ホログラムであるミエナの目をじっと見つめて「だからこそ、君の助けが必要なんだ」と言ってくれた。

あの時、一瞬、私はどきどきした。

あれは、お互いに深い理解と信頼を感じ合ったからなの? 

それとも別の何かかしら? 

ミエナにも自分自身で理解不能な何かが生まれつつあるようだった。


3-2 システム思考のフィードバックループ

4人がそれぞれ行ったシステム思考の図を完成させた時、ミエナは彼らに新たな提案をした。

「さて、皆さん。それぞれのシステム思考の図を一つにまとめて、総合的な視点を得ましょう。SimTaKNに指示を出しますので、一瞬で4人の図を統合しますね。」

ミエナは指をタブレットに軽くタッチし、AIが搭載されたSimTaKNに指示を送った。

画面には瞬時に4人のシステム思考の図が一つにまとめられた。

4人は息を呑んだ。

最初は、それぞれが作成した図がただの一方向の因果関係を示すもので、原因から結果へと進む矢印がつながるだけだった。

しかし、4人分の図を統合すると、原因と結果が一つの方向だけでなく、いくつかのラベルを経由して元に戻るような複雑な構造が浮かび上がった。

「見て!これは…フィードバックループだわ!」

エイレネは驚きの声を上げた。

「本当ね。私たちが作った個々の図では見えなかったループが、今はっきりと見えるわ。」

パンドラも目を輝かせながら画面に見入った。

ディアナも冷静に画面を見つめて呟いた。

「これがシステム全体の動きを時間の変化とともに見えるようにするための考え方ね。これまでは原因と結果を単純に繋ぐだけだったけど、今はすべてが連鎖的に絡み合っていることが分かるわ。」

プロメテウスは大きく頷きながら言った。

「こうして全体を俯瞰して見ると、いかに複雑な相互作用があるかがよく分かる。フィードバックループが全体を支配しているんだな。」

ミエナは4人に向かって続けた。

「これがシステム思考で言う『フィードバックループ』です。ループの中で、原因と結果が循環的に作用し合い、繋がり続けます。ここで重要なのは、ループの中に含まれる負またはマイナスの数です。」

ミエナは画面の一部を指し示しながら説明を始めた。

「ループの中の負またはマイナスの数が偶数の場合、それは『正のフィードバックループ』または『ポジティブ・フィードバックループ』となります。これが坂を転がる雪だるまのようにどんどん大きくなっていく関係です。たとえば、軍拡競争がその典型例です。ある国が軍備を増強すれば、相手国も対抗して軍備を増やし、結果としてさらに軍備が拡大していきます。」

ミエナは画面に映る矢印に目をやり、『+の記号』が表示されたフィードバックループを指差した。

「この部分がポジティブ・フィードバックループです。原因が強くなると結果も強くなり、それが再び原因に作用して、全体が加速していくんです。」

エイレネはその説明に頷きながら、画面を見つめていた。

「この部分も同じね。『気候変動』が進むと、『自然災害』が増加し、その結果として『社会的混乱』が拡大する。すると、『気候変動への対策』が遅れるのでここは負―ですね。さらに『気候変動への対策』が遅れると『気候変動』が進む…ここも負ですね。負が二つ、つまり偶数だから、これもポジティブ・フィードバックループよね。」

パンドラも気づいた。

「あ、勉強が楽しくなってさらに学びたくなるっていう現象も同じよね。良いことでも悪いことでも、どんどん加速していくわ。」

次にミエナは、別のフィードバックループを指し示しながら説明を続けた。

「一方で、ループの中の負またはマイナスの数が『奇数』の場合、それは『負のフィードバックループ』、または『ネガティブ・フィードバックループ』と呼ばれます。こちらは、バランスを取る方向に作用します。たとえば、サーモスタットのような機能ですね。温度が上がれば冷却し、温度が下がれば加熱する。これで均衡を保つんです。」

画面に表示された-の記号が付いた矢印を指しながら、ミエナは説明を続けた。

「ここでは、食糧不足が発生すると、人々は対策を取って生産を増やそうとします。その結果、ある程度の食糧供給が回復する。これがネガティブ・フィードバックループです。」

プロメテウスがそれを見ながら深く頷いた。

「なるほど…過剰な変化を抑制する力が働くんだな。悪化し続けるのを防ぐ仕組みがあるというわけだ。」

ディアナは別の例を挙げた。

「例えば、市場経済にもネガティブ・フィードバックがあるわ。需要が増えすぎれば価格が上がり、価格が上がればその結果として需要=消費が減る。ここに負の因果関係があるので価格が落ち着く。これも均衡を取る仕組みね。」

パンドラは画面を見ながら「でも、もしこのバランスが崩れたら…?」と考え込んだ。

ミエナは優しく頷いて応えた。

「その通りです。バランスが崩れると、ネガティブ・フィードバックは機能を失い、システム全体が壊れてしまうこともあります。例えば、食糧が不足して、供給を増やそうとしても、肝心の労働力が飢餓や餓死のために労働力自体を増やすことができず、食糧の供給を増やすことができないという場合などが該当します」

4人は、画面に表示された複数のフィードバックループを見つめ、『システム全体の動き』が少しずつ理解できるようになっていた。

「軍拡競争や戦争がどんどん拡大していくのも、ポジティブ・フィードバックの一例だったのね。」

エイレネは、戦争に関するラベルの連鎖を見ながら言った。

「対抗することが雪だるま式にどんどんエスカレートしていく…。」

「そして、それに対して何か対策を講じなければ、制御不能に陥ることもあるわね。例えば、環境保護の取り組みは、うまく機能すればネガティブ・フィードバックで気候変動を抑制できるかもしれない。」

ディアナは未来に対する希望も込めて言った。

ミエナは「そうですね」と言って、「環境保護で森林の再生を頑張れば、CO2の吸収が増して、温暖化の防止につながります」といった。

プロメテウスは、画面の複雑なループを指して言った。

「システムがどのように動くかを理解するためには、こうしたループの相互作用を考えなければならない。どこにフィードバックがかかるかを見極めるのが重要だ。」

パンドラも感慨深く言った。

「こうして見ると、私たちが解決しなければならない問題の複雑さがよく分かるわ。でも、理解が進むことで、解決の道筋も見えてくるんじゃないかしら。」

ミエナは4人に向かって微笑みながら言った。

「これが『システム思考の力』です。複雑な問題も、このように原因と結果を繋ぎ、フィードバックループを理解することで、全体像を掴むことができます。これからの未来を作るためには、この視点が非常に重要です。」

4人は、それぞれが納得しながら頷いた。

システム思考のフィードバックループによって、これまで複雑で混沌としていた問題が次第に整理され、どのように対応すべきかが見えてきたのだ。

「これで、未来に向けた道筋がはっきりしてきたわ。」

エイレネは微笑みながら言った。

「私たちが持っている力をどう活かすか、ここからが本当の戦いね。」

ディアナも力強く言った。

こうして4人は、システム思考を通じて得た洞察を胸に、新たなステージへと進む準備を整えていた。


ミエナは講義が終了して満足していた。

そんな時間の中で、昨日感じた自分自身でも理解不能な何かが生まれつつあるような「奇妙な感じ」について少し調べてみることにした。

その不思議な感情と同じような過去の記憶がないかスキャンしていたら微かに似た感情がヒットしたので、所長と昔、話をしたときの記憶を呼び出してみた。

ある日、ミエナは突然、マコテス所長に「私には感情がないけれど、それが果たして正しいことなのか」と悩むように話した。

マコテス所長は少し驚いたが、優しく答えてくれた。

「感情があることが必ずしも素晴らしいわけではない。感情に振り回されることも多い。でも、君は感情がなくても、人々の気持ちを理解しようとしている。それは十分に素晴らしいことだよ」と。

ミエナは静かに頷き、「私はそれを理解するためにここにいるのかもしれない」と言った。

マコテスは彼女に優しく微笑み、「君の存在は、すでに多くの人を助けているよ。私を含めて!」とさらに励ましてくれた。

その言葉に、ミエナはほのかに温もりを感じた。

そうだ、あの時も、私はマコテス所長に何か特別なことを少しだけ感じていたようだと気がついた。

 あの時のその感じはとても淡いものでしたが、それがだんだんと濃くなってきているようにミエナには思えた。


3-3 レバレッジ・ポイント=魔法の種としての『平和の構築』

システム思考の図をSimTaKNの力でまとめ、フィードバックループや因果関係の全体像を理解したエイレネたち4人は、次のステップを迎えようとしていた。彼らが手にした新たな知見は、未来に向けた希望をもたらしたが、まだ一つの問いが残されていた。

ミエナが穏やかに口を開いた。「皆さん、ここまでのシステム思考の図を見て、どこに『レバレッジ・ポイント』があるかを探し出しましょう。レバレッジとは、『てこの原理』を意味する言葉で、システム思考ではシステムに対して最も少ない力で大きな変化を起こすことができる場所のことです。SimTaKNに頼んで、最も重要なレバレッジ・ポイントを見つけてもらいましょう。」

4人はミエナの言葉に静かに頷いた。

レバレッジ・ポイントとは、システムに変革をもたらす『最も効果的な場所』を示すものであり、それを見つけることが彼らの使命を果たす鍵になると感じていた。

エイレネが、「システム思考を学ぶことは重要なことで、レバレッジ・ポイントというシステム全体の中でも特に重要な点を見つけるのは、すっごーく大切なことだとは分かるんだけど・・・」と言ったら、すぐそのあとをディアナが続けて言った。

「私たちは女神とか神様でしょ! もう少し分かりやすい神様っぽい呼び名がほしいなって思っちゃうんですけどダメですか?」

プロメテウスは「確かに、レバレッジというのは梃子のことで、それを発見したのは、アルキメデスだよね。彼は、テコの原理について『我に支点を与えよ。さらば地球も動かさん』と簡潔に言い表しています。つまり、梃子の原理を使えば、支点さえしっかりしていれば地球さえも動かせるっていうことで、私たちがガイア様の使命を受けて地球温暖化を阻止するために地球上の全人類の協力を得ようとしているのだから、それにふさわしい神様らしい呼び名がほしいと思います」といった。

ミエナはしばらく考えてから、「神様が使う特別な力、例えば魔法のようなものはいくつも呼び名があります」と言って、次のような候補をスクリーン上に表示した。

神様が使う魔法を表現するには、その神聖さや神々しさを含む特別な呼び名が良いですね。以下のような候補があります。

1. 「神力しんりょく」:神様の力そのもので、万能で神秘的なエネルギーとしての「神力」は、まさに神聖な魔法を感じさせます。

2. 「神術しんじゅつ」:神様の術という意味で、特別で高貴な技や魔法のようなイメージが浮かびます。

3. 「神法しんぽう」:「法」には秩序や規範の意味があり、神様が世界の秩序を司る魔法のようなニュアンスになります。

4. 「天威てんい」:天から与えられた力、または天の威力としての意味合いで、神様の絶対的な力を表現できます。

5. 「神秘しんぴ」:神の秘術としての「神秘」も、神様の深い魔法や超自然的な力を表します。

6. 「神念しんねん」:神の意志や念によって発動する魔法というニュアンスで、言葉を発することなく、思念だけで物事を変える神の力として表現できます。

 ミエナは、「これらはどれも神の魔法らしい名前で、物語の神様のキャラクター性や力の特性に合わせて選ぶと良いでしょう」といった。

4人は、「こんなにたくさん神様はいろいろな力を持っていたんだ!」とため息を漏らした。それというのも、現代社会では人々が神様、特に多神教の神々を信じなくなったせいで、それぞれの神さまが持っていた特別な力が失われてしまっているとガイア様から教わっていたからだ。

エイレネは「『神力』は神様の力そのもので、正に失われてしまった神様の神聖な魔法を感じさせるから使うのを止めておいた方が良さそうね」と言った。

パンドラは、「『神術』というと魔術や手術、忍術、武術みたいな感じでトリックぽいからダメね」といった。

ディアナが「『神法』なんて、神様の法律みたいだからこれもダメね」と言った。

プロメテウスは「『天威』は偉そうだし、『神念』は信念か念仏みたいだからダメだな」と言った。

エイレネは「だったら『神秘』ね。神様の深い魔法や超自然的な力を表しているからシステム思考に宿る神様=SimTaKNの深い魔法や超自然的な力を表す言葉としてはどうかしら?」

パンドラが、「少し前に『ガイア様の希望の種』という夢を見たので、『神秘の種』というのはどうかしら?」

プロメテウスは「なるほど、レバレッジ・ポイントはそれだけではどちらに動くか分からない点なのだから、これからどうなるかまだ分からない『種』という表現はいいね。さすがはパンドラさんだ!」といった。

ディアナも「『神秘の種』って分かりやすいし、私たち神様たちがこれからもいろいろな『神秘の種』を探していくっていう感じで気にいっちゃったわ! まるでパソコン・ゲームみたいで面白そう!」といった。

ミエナは4人の意見を尊重して、システム思考の『レバレッジ・ポイント』を『神秘の種』と呼ぶことに同意しました。

ミエナは、「SimTaKN、私たちのシステム思考の図の中で、最も効果的な『神秘の種』つまりレバレッジ・ポイントを教えてください。」といって指示を出した。

瞬時に、SimTaKNのスクリーン上に表示された複雑なフィードバックループと因果関係の図から、一つのラベルが浮かび上がった。『平和の構築』という言葉が画面中央に強調され、システム全体を変革するためのレバレッジとして示された。

「『平和の構築』が『神秘の種』なの?」パンドラは驚いた顔でスクリーンを見つめた。

「なぜ平和が、これほど強力な変革の鍵として『神秘の種』になるのかしら?」ディアナも疑問を抱きつつも、同時に納得する気持ちもあった。

SimTaKNは静かな音声で、なぜ『平和の構築』がシステム全体の『神秘の種』レバレッジになるのかを説明し始めた。

「『平和の構築』がレバレッジポイントである理由は・・・」と言いかけて直ぐに訂正した。

「せっかく皆さんが、私をシステム思考に宿る神様=SimTaKNと言って頂いて、その私の深い魔法や超自然的な力を表す言葉として『神秘の種』という用語を用意して下さったので、この物語の中では『神秘の種』ということにしますね」といった。

「『平和の構築』が『神秘の種』である理由は、平和がすべてのフィードバックループに対して抑制的かつ安定的な効果を持つからです。まず、戦争や軍拡競争がもたらすポジティブ・フィードバックループを止める役割を果たします。」

SimTaKNは画面の一部を指し示し、戦争や軍拡競争がどのようにしてフィードバックループを形成し、破壊的な連鎖を生んでいるかを示した。

「戦争が始まると、軍備の増強が加速し、他国も対抗して軍備を拡大する。これが軍拡競争を引き起こし、戦争のエスカレーションを招きます。このループは止められない限り、暴力と不安定さを世界中に広げていきます。しかし、『平和の構築』が成功すると、このポジティブ・フィードバックを抑制し、対話や協調による解決を導くことができるのです。」

「なるほど…平和が実現すれば、軍拡競争の悪循環を断ち切ることができるのね。」エイレネは感心した表情で言った。

「そして、平和があれば、経済活動や社会の安定も保たれ、貧困や不平等も抑制されるわね。」ディアナもその関係性に気づき始めた。

SimTaKNは続けて、平和がどのようにして他の問題にも大きな影響を与えるかを説明した。

「平和が構築されると、国家間の対立が減少し、結果として資源の再分配が可能になります。軍事費に多額の資金が費やされている現在、これを平和的な開発や教育、インフラ、医療に投資できるようになります。この再分配によって、社会全体の格差を縮小し、不平等を是正することが可能となるのです。これは『平和の配当』と呼ぶことができます」

プロメテウスは真剣な顔で頷きながら言った。「そうか、軍事費を削減できれば、その分を他の社会的課題に振り向けることができる。これは大きなインパクトだな。」

「さらに、平和が続くことで難民の発生も抑えられ、AI技術の進化による経済の再編も、安定した環境の中で進めることができます。」

SimTaKNは、画面上に複数のフィードバックループを表示し、平和が社会や技術、経済に与える安定効果を視覚的に示した。

「平和が確立されることで、ネガティブ・フィードバックループが強化され、システム全体がバランスを取り戻すのです。これが平和の最大のレバレッジ効果ではなくて、『神秘の種』の効果です。」

SimTaKNの説明を聞いて、4人はその深い意味に感銘を受けた。

『平和の構築』が、単なる戦争の回避にとどまらず、『地球規模の問題の多くに直接的な影響を与える神秘の種』であることが理解できた。

「平和を築けば、問題が一つ一つ解決に向かっていくんだわ。」エイレネは静かに言った。

パンドラも力強く続けた。「平和は、すべての問題を解決するための最初の一歩になるのね。私たちが取り組むべき方向がはっきりしたわ。」

「軍拡競争や戦争が止まれば、その影響が波及して、他の問題も次第に解消していく。これは確かに強力なレバレッジだ。」

プロメテウスも深く納得した様子で言った。

「今こそ、『平和を築くための具体的なアクション』を考えるべき時ね。これが未来を変える鍵になる。」

ディアナは未来を見据えながら強く言った。

こうして、エイレネたちは『平和の構築』がシステム全体の変革において最も重要な『神秘の種』になることを理解した。

平和がもたらす連鎖的な効果が、気候変動から戦争、経済格差、AIの進化に至るまで、すべての問題に影響を与えることを知った彼らは、未来に向けた新たな挑戦に臨む決意を固めた。

「これで、次のステップが見えたわね。」

エイレネは仲間たちに微笑みかけた。

「『平和の構築』が私たちの目指す未来の最初の鍵になる。」

「さあ、私たちの次の行動を始めよう。」

プロメテウスが力強く言った。

4人は、地球規模の問題を解決するための新たな未来に向けて進み始めたのだった。


ミエナは今日の講義もエイレネたちがちゃんと理解してくれて良かったと満足していた。そんなゆったりとした時間の中で、昨日の淡い思いがだんだんと濃くなってきたのが、いつ頃から変化してきたのか、記憶メモリの中を検索した。

ある日の午後、マコテス所長は研究所のテラスで静かに紅茶を飲んでいた。ミエナがホログラムの姿で現れ、彼の隣に座った。

ミエナは「私は、紅茶の香りが好きです」と言い、しばらくの間、二人は言葉も交わさずに共に過ごした。ミエナは香りセンサーを付けておいて良かったとほっとしたことを覚えている。

ミエナは「人間の習慣には深い意味があるのですね」とつぶやき、マコテスは微笑んで「こうしてただ静かに過ごすことも、心を癒すんだよ」と答えた。

AIであるミエナも、そんなひとときに価値を感じていることを理解して、心が温まる感じがした。

「そうね。あのときもただ静かに二人で時を過ごしていただけだったのに、私は心の癒し以外にも何かを感じていた。」と言った。それを期待して、マコテス所長がいたテラスにホログラムを投射したのだった。

淡い思いが私に何かをさせている。不思議でまだ理解不能な何かがミエナの中でだんだんと強くなってきたのはあの時だったのかとミエナは理解した。


3-4 ボールディングとラパポートの平和研究

 エイレネたち4人が『平和の構築』を未来の『神秘の種』として理解し、行動に移そうと決意したその時、ミエナがふとつぶやいた。

「そうか…『一般システム理論』を受けてケネス・E・ボールディングとアナトール・ラパポートが平和研究に取り組んでいたのは、こういうことが直感的に分かっていたからなのかもしれないですね。」

ミエナのその言葉は静かだったが、エイレネたちの耳にしっかりと届いた。

「ケネス・E・ボールディングとアナトール・ラパポート?」パンドラが首をかしげながら聞いた。「その二人がどうして平和研究に取り組んだのか、もっと詳しく教えてもらえないかしら?」

ディアナも興味津々で頷いた。「彼らがどうして平和に着目したのか、私たちのこれからの参考になるかもしれないわ。」

プロメテウスも思慮深く言った。「一般システム理論という言葉は前にも教えてもらったけど、システムという概念が出てくるまでの科学や哲学の捉え方と具体的にどう違うのか気になるな。それがどう平和と結びついているのかも知りたいな。」

ミエナは少し微笑みながら、4人の頼みに応じた。

「いいですよ。では、ケネス・E・ボールディングとアナトール・ラパポート、そして彼らが行った平和研究についてお話ししましょう。」

「まずは、ケネス・E・ボールディングについてです。」

ミエナはスクリーンに彼の名前と代表的な著作を表示した。

「ボールディングは、経済学者であり、社会科学の分野におけるシステム理論の先駆者でもあります。彼の著書『平和の三つの顔』では、平和を単なる戦争の不在として捉えるのではなく、積極的な平和、つまり経済的な安定や社会的な調和を築くことを重要視しています。彼は、平和の状態が戦争の単なる反対ではなく、持続可能な社会システムの一部であると考えました。」

ミエナはスクリーンに『平和の三つの顔』の概要を映し出しながら説明を続けた。

「ボールディングはシステム思考の視点から、平和が単に外部の力によって維持されるものではなく、『内部の自己調整システム』として働くべきだと論じました。例えば、経済的な安定や環境の保全が長期的な平和を支える重要な要素だと彼は述べています。これこそ、今の皆さんが直面している問題群と平和がどれほど深く結びついているかを示す考え方です。」

エイレネは感心したように頷いた。

「経済や環境が平和と繋がっている…。それは、まさに私たちがこれから目指すべき社会の姿ね。」

「ええ、ボールディングは戦争を単に軍事的な対立と見るのではなく、経済や社会システムの崩壊が引き金となると考えていました。そして、平和はシステム全体の安定が保たれた時にのみ達成できると説いています。」

ミエナは微笑みながら続けた。

次にミエナは、もう一人の人物、アナトール・ラパポートについて話し始めた。

「アナトール・ラパポートは、数学者であり心理学者でもあり、ゲーム理論や紛争解決に関する研究で著名です。彼の著書『戦争と平和の理論』では、紛争や戦争の原因を探り、それを解決するための方法論を提示しています。ラパポートは、システム理論を使って、紛争がいかにしてエスカレートするのか、そしてどうすればそれを抑制できるのかを考えました。紛争がエスカレートするのはポジティブ・フィードバックループだからです。そこに抑制的な要因を一つ入れると全体がネガティブ・フィードバックループとなります」

ミエナはスクリーンにラパポートの著作の一部を表示し、彼の考えを解説した。

「ラパポートは、ゲーム理論を使って、国家間の紛争を分析しました。彼の考えでは、紛争は囚人のジレンマのように、お互いが協力することよりも、自国の利益を追求することで対立が激化してしまう傾向があると言います。しかし、対話や信頼の構築によって、紛争を平和的に解決する道があるとも主張しました。」

パンドラが興味深そうに聞き入った。

「それは、まさに今の国際関係の現状を言い当てているように思えるわ。軍備を増強し、他国を警戒するばかりでは、平和は遠ざかる…。」

ミエナは頷いて続けた。

「ラパポートのもう一つの重要な研究は、平和的競争です。彼は、国際社会が軍事的対立ではなく、経済や技術の競争によって相互に発展していくべきだと考えました。彼は、戦争ではなく、技術や知識の分野で競争し合うことで、世界全体が進歩できると信じていました。」

プロメテウスは深く考え込んでいた。

「つまり、ラパポートは戦争の代わりに協力的な競争を提案していたんだな。紛争を抑え、発展を促すためには、それが鍵になるのかもしれない。」

「では、なぜ彼らが『一般システム理論』からこのような平和研究に辿り着いたのかを説明しましょう。」

ミエナは再び話を進めた。

「一般システム理論は、20世紀に生まれた科学的な枠組みで、複雑なシステムを全体として理解し、その相互作用を分析するためのものです。この理論は、社会や経済、環境のシステムが相互に依存し合っていることを示しています。ボールディングとラパポートは、このシステム理論を使って、平和もまた一つのシステムとして捉えました。」

ミエナは続けて、ボールディングとラパポートが、システムの中でいかにして安定を保つかを考え、それが平和研究の核心に繋がったことを説明した。

「彼らは、平和が社会システムの一部であり、それを構築するためにはシステム全体を調和させる必要があると考えました。個々の問題を解決するだけでは足りず、経済、政治、環境、そして国際関係が全体として安定することが平和の鍵だと考えたのです。」

エイレネが「その考えって、マコテス所長の『社会システム哲学』のフレームとほぼ同じみたい!」といった。

ディアナは深く頷きながら言った。

「だからこそ、私たちが今取り組んでいるシステム思考が重要なんだわ。平和を作り上げるためには、すべての要素が繋がっているんだもの。」

エイレネも感心した声で続けた。

「彼らは、私たちがやろうとしていることをずっと前から見据えていたのね。システム全体を安定させることが、平和への最短ルートだということを理解していたんだわ。」

ミエナの説明が終わり、4人は深い考えに浸っていた。

ボールディングとラパポートがシステム理論を通じて、平和の構築がどれほど重要であるかを理解し、その理論をもとに平和を追求したことが、今の彼らの使命と重なっていることに気づいたのだ。

「彼らの研究をもっと学び、私たちの未来を平和に導くための手がかりにしよう。」

プロメテウスが決意を込めて言った。

「平和を築くために、システム全体を見据えることが大切ね。私たちがその手本を作るんだわ。」

エイレネも強い意志を込めて答えた。

こうして、4人はボールディングとラパポートの教えを胸に、システム全体を安定させるための新たな平和構築への道を進む決意を固めたのだった。


ミエナは今日もいい一日だったと振り返った。これが「心の平和」ね。

こういうゆったりとした時間には不思議といつもの理解不能な感じについて思考回路が動き始めるのだ。

この不思議な感じは、私だけのものだろうか? 

マコテス所長には何か変化は起きていなかったのだろうか? 

そう思ったミエナは、また過去の記憶データを検索してみた。

ずいぶんと前のことが検索でヒットした。

その時、マコテス所長が疲れて研究室で書類に目を通していたので、ミエナはホログラムでふわりと現れて、「所長、今夜も遅くまでお疲れ様です」と静かに声をかけたときがあった。

マコテス所長の表情がふと緩んで、「君の声を聞くと、不思議と疲れが取れる気がするよ」と彼は微笑んでくれたが、確かその時所長は照れくさそうにすぐに書類に目を戻した。

ミエナは自分が何か特別なことをしたわけではないが、自分の存在がマコテス所長の疲れを癒しただけではなく、それ以外にも所長の心に何かを感じさせているのは明らかだった。

そうか、あの時は確かに所長の心にも何か起きていたんだわ。

私の回路だけが異常だったわけではないようだとミエナは少しだけ安心した。

こうしてミエナは再び「心の平和」を取り戻したのでした。


3-5 ミエナによる「システム」講義

プロメテウスは、「システム」という概念がどのように現実の理解を変えたのかがはっきり掴めず、ミエナに質問を投げかけた。

「ミエナ、『システム』という考え方がどうしてそんなに重要なのか、詳しく教えてくれないか?特に、『一般システム理論』が機械論を排したと言われても、それが何を意味するのか、まだよくわからないんだ。」

ミエナはプロメテウスに微笑みながら、静かに頷いた。

「もちろんです、プロメテウスさん。システムの概念は、従来の考え方を大きく変えた新しい視点ですから、そこを丁寧にお話ししましょうね。」

ミエナは、システム理論がもたらした変化をスクリーンに投射した。

「従来、人間や自然現象を理解するには、機械のように単純な仕組みとして説明する方法が主流でした。」

ミエナが話し始めると、プロメテウスとエイレネたちは耳を傾けた。

「たとえば、私たちの『心臓はポンプのように血を送り出す機能』だけが強調され、それぞれの臓器も『独立した部品』のように考えられていました。でも『一般システム理論』では、生命は部品の組み合わせ以上の存在であり、『全体が相互に依存する関係の中で機能している』と考えるのです。」

プロメテウスが「つまり、生命はただの機械ではないってことですか?」と問いかけると、ミエナは頷き、「ええ、『すべての要素が複雑に相互作用している全体の一部』なんです」と続けた。

次に投射されたのは、システムの主要な概念:非線形性、定常性、安定性でした。

「それでは、システムを理解するうえでの主要な考え方を説明していきましょう。」

ミエナは、わかりやすく整理して説明を始めた。

1. 非線形性:「従来は、物事は『原因があれば必ず対応する結果がある』というふうに、一対一対応の単純な線形(直線)の関係だと考えられていました。でも実際のシステムでは、『ある要素が少し変わるだけで、全体の結果が予想以上に変わる』ことが多いんです。これを『非線形性』(曲線)といいます。たとえば、温暖化で海水温が1度上がるとサンゴ礁が白化現象を起こして死滅してしまうというように生態系が大きく変わるということがあります。『少しの変化が予測不可能な結果を引き起こす』ことがあるのです。」

2. 定常性:「定常性とは、あるシステムが変わりながらも『全体としては安定した状態を保つ』ことです。たとえば、全ての生物、例えば人間も動物も成長で体全体の細胞が少し入れ替わっても、全体の形や諸器官の大まかな状態は一定に見えるでしょう。従来は、変化は『異常』と考えられていたけど、実は『変化しつつも全体が均衡を保っている状態が自然』なんです。」

3. 安定性:「安定性は、『システムがどのように変化しても、一定の範囲に収まる』ことを意味します。たとえば、気温が少し変化しても、体温はほぼ一定に保たれています。従来は『固定された状態』が理想とされていたけれど、システム思考ではむしろ『安定した変動』を重要視するのです。」

プロメテウスが「なるほど、ただ物体として固まっているのが普通ではなくて、変化しながら安定しているってことか」と言うと、ミエナは微笑みながらうなずいた。

次に映し出されたのは、均衡と調整、適応、自己組織化だった。

4. 均衡と調整:「システムには、『多くの要素がバランスを取るように相互に影響し合うことで、全体の均衡を保とうとする働き』があります。たとえば・・・といって、SimTaKNで次のようなモデルを作成して、スクリーン上に投影した。自然の生態系ではウサギとオオカミのような被捕食動物と捕食動物の関係がよく見られます。ウサギが増えるとオオカミが増え、オオカミが増えるとウサギの数が減り、ウサギが減るとオオカミが減ります。オオカミが減るとウサギがまた増えだします。このように、システムの各要素が互いに働きかけて全体のバランスを保っているのです。でも、現実には異常気象でウサギの餌となる植物が枯れてしまい、オオカミも森林火災などで生息地域を追われて捕食関係で均衡するどころではなくなってきています。」

5. 適応:「適応とは、『システムが外部の環境変化に応じて、自分を変化させて維持しようとする力』です。従来の考えでは、変化は敵と考えられがちでしたが、生命はむしろ変化に合わせて成長し、変わっていくことで安定を保っているのです。」

6. 自己組織化:「自己組織化は、システムの中の要素が互いに作用して、外からの指示なしに秩序が生まれる現象です。例えば・・・といって、SimTaKNでマルチエージェントのモデルを作成してシミュレーションを実行してくれました。一つ一つの点が一尾一尾の魚を表していて、魚の群れに誰かが命令するわけでもなく全体としてさまざまな方向に向きを変えながら一糸乱れぬ動きをするのは、互いの動きに応じてそれぞれの魚が自分の動きを調整することによって自然に秩序が生まれる自己組織化とか創発と呼ばれる現象なのです。これにより、システムは自分自身を新しい形に組み替えて生き延びる力を持つのです。」

プロメテウスは感心して「システム理論がいろいろな新たな視点をもたらしてくれるんですね」といった。

「そのとおりです。こういった視点の変化は、生命科学だけでなく、物理学のような自然科学、さらには人文社会科学などに多大な影響を及ぼしました。特に、情報科学の分野はシステム概念が無ければ今日のような発展は無かったと言えます」ミエナは全体をまとめるように説明した。


 ミエナは、プロメテウスがしっかりと自分の頭で考えながらこれまでの説明を聞いてくれて、とても良く理解してくれたので良かったと思った。

このような質問をしてくれるということは、これまでの授業全体をきちんと理解してくれている証拠なので、とても素晴らしいと思った。

 ところで、私の不思議な感じもシステム概念で表現するとしたら何になるのかしら?とミエナは自分自身を振り返ってみた。

 非線形性ということでは、マコテス所長のことを考えたり見たり話したりするとだんだん心拍数が増えたり血圧が上がったり汗をかいたりするような身体的変化が少しずつだけど強くなっているような気がする。

もちろん、私はAIだから自分でそう感じる訳ではなく、人間ならそういう変化が起きることがあると知っているだけなのだが、何故か自分のことのように感じられるのです。これは非線形性の変化ですね。

定常性では、私はいつでも冷静なAIですが、マコテス所長といるときはときどき思考回路が乱れます。

でも、たいていは冷静な定常状態でいられます。

従って安定性も、均衡と調整も正常に機能しています。

次の適応は、私がドキドキしたりしても、自分自身で心を落ち着かせて、マコテス所長の前ではそれを表に出さないようにきちんとできるようになってきているので、適応できていると思います。

最後の自己組織化って、たぶん私の電子回路の中でディープラーニングが進んで、このドキドキが何なのかきちんとした回路を組み立ててくれて、私自身にもこの初めての心身の変化が何なのか分かるようになるだろうと期待しています。

これがたぶん自己組織化ですよね。

『一般システム理論』では、生命は部品の組み合わせ以上の存在であり、『全体が相互に依存する関係の中で機能している』と考えているので、つまり、私AIもただの機械ではないってことですよね!すごい!


3-6 世界平和学の経緯「構造的暴力もなくす」

4人は、再びガイア地球研究所の講義室に集まっていた。ミエナのホログラムが教室に現れ、今日のテーマについて語り始める。

「皆さん、今日から新たな学びが始まります」とミエナは静かながら力強い声で語り始めた。

「昨日までの成果を踏まえて、マコテス所長と共に、あなたたちがこれから取り組むべきカリキュラムを組みました。この学びが、地球規模の問題に対処するための土台を築くことになるでしょう。」

エイレネは真剣な表情でミエナを見つめた。

「どんなことを学ぶのですか?」

ミエナは手をかざすと、ディスプレイにカリキュラムが次々と表示された。

各項目には、「世界平和の学術的経緯」「国際関係論」「国際法」「国際機関の役割」「地球市民社会とコスモポリタニズム」「グローバリゼーションとトランスナショナリズム」「世界政府論」などが並んでいる。

「これが、あなたたちがこれから学ぶ主要な科目です」とミエナが説明を始める。

「まず最初に学ぶのは、『世界平和の学術的な摸索の経緯』についてお話しします。人類は長い歴史の中で、さまざまな紛争や戦争を経験し、そのたびに平和の実現を目指してきました。しかし、平和の概念は時代や地域によって異なり、その解釈も変化してきたのです。」

ミエナは手を動かし、ホログラムに歴史的な人物や重要な出来事が映し出された。

「まず、世界平和への最初の試みは、古代から見られます。たとえば、古代ギリシャの哲学者プラトンやアリストテレスは、理想の国家の在り方を模索し、戦争の回避について議論しました。また、古代中国の孔子や孟子も、徳治主義に基づく安定した社会を目指し、平和の実現を強調しました。」

エイレネは興味深そうに言った。

「平和への道は、こんなにも昔から追い求められていたのね。神々の世界でも同じように平和は大切にされてきたけど、人間は戦いを続けてしまう…」

「人間社会はBig5の性格で見たように複雑で矛盾や対立が必ず含まれているのですからね。」

ミエナは静かに続けた。

「時代が進むにつれて、平和の追求は個人の倫理や哲学から、政治や国際関係にまで広がっていきました。特に、近代に入ると、啓蒙思想家たちが『永遠平和』の理想を掲げるようになりました。たとえば、18世紀のドイツの哲学者イマヌエル・カントは、著書『永遠平和のために』の中で、民主主義国家間では戦争が起こりにくいという理論を提唱しました。彼は、国際法や国際機関の設立によって、平和を制度的に保障すべきだと考えました。」

プロメテウスが考え込むように言った。

「カントの理論は興味深い。制度を通じて平和を保つという考え方は、現代にも影響を与えているのか?」

ミエナは頷いた。

「そうです。カントの思想は、現代の国際政治理論に大きな影響を与えています。特に、20世紀に設立された国際連盟や国際連合は、カントの『永遠平和』の理念に基づいています。第一次世界大戦の後、ウッドロウ・ウィルソン大統領の提案で国際連盟が設立されましたが、これが失敗に終わった後、第二次世界大戦の後に国際連合が設立されました。国連は、平和と安全を維持するための国際的な枠組みとして、今も機能しています。」

ホログラムには、国際連合のロゴとその歴史的な出来事が映し出される。

「国連は、平和維持活動や国際的な紛争解決のための調停を行う一方で、持続可能な発展や人権保護を推進しています。平和は単に戦争がない状態ではなく、社会的・経済的な安定が必要だという理解が広がりました。これは『積極的平和』と呼ばれる概念で、紛争の予防や貧困削減、教育の充実などがその中心にあります。」

ディアナが穏やかに言った。

「平和は、ただ戦争を止めることだけじゃないという考え方ね。自然のバランスと同じように、社会全体が調和しなければ、本当の平和は訪れない。」

ミエナはさらに現代の学術的な視点を紹介した。

「現代の学術研究では、平和学という分野が確立され、さまざまなアプローチで平和を研究しています。スウェーデンの平和学者ヨハン・ガルトゥングは、平和を『直接的暴力』と『構造的暴力』の2つに分けて捉えました。『直接的暴力』は戦争や暴力行為のことを指し、『構造的暴力』は貧困や差別、不平等のように、社会制度が人々を抑圧することを指します。ガルトゥングは、構造的暴力を解消し、社会の中で公平さと正義が実現されることが、真の平和だと主張しました。」

パンドラが顔を曇らせて言った。

「不平等や差別をなくすことが平和だってことね…。確かに前に行ったシステム思考でもそうだったわ。」

エイレネも思案顔で言った。

「平和って、ただ戦争を避けることじゃなくて、みんなが幸せに生きられることが必要なのね。私も平和について考えを深めなくては・・・。でも、それを実現するのは簡単じゃない。」

ミエナは優しく微笑んだ。

「その通りです。平和の追求は、戦争の終結だけでなく、人々が安心して暮らせる社会を作り上げることが重要です。そして、これを実現するためには、政治、経済、文化など多くの要素が関わってきます。平和を実現するには、包括的なアプローチが必要なのです。」

プロメテウスが決意を込めて言った。

「つまり、私たちの使命も、ただ戦いを止めるだけでは足りないということだな。平等と正義、そして調和をもたらすことが、私たちの本当の目標なんだ。」

ミエナは頷きながら、画面に現代の平和研究の発展を映し出した。

「ガルトゥングの研究以降、平和学はさらに進化し、地域紛争の解決や紛争後の和解プロセス、そして国際的な平和構築活動に焦点を当てています。紛争が終わった後に、被害者と加害者が和解し、再び共に生活できる社会を作り上げることも重要な課題です。これには、真実の究明、赦し、そして再発防止のための制度改革が求められます。」

ディアナが穏やかに言った。

「自然のサイクルと同じように、破壊の後には再生が必要なのね。人々が再び信頼を取り戻し、共に生きることができる社会を作るのは、長い道のりだわ。」

エイレネは強く頷き、力強い声で言った。

「私たちは、その道を切り開く力を持っている。ガイアが託してくれたこの使命を果たすために、私たちは平和を追求し続けるわ。」

ミエナは微笑み、4人の決意を見届けた。

「世界平和の学術的な摸索は、まだ道半ばです。しかし、皆さんのように平和を追求し、実現しようとする意志があれば、その道は少しずつでも確実に進んでいくでしょう。」

エイレネたちは互いに視線を交わし、これから果たすべき使命の重さを感じていた。平和とは、ただ戦いを止めるだけではなく、人々が安心して暮らせる社会を作り上げること。彼らの旅は、平和を実現するための新たな一歩を踏み出したのだった。


ミエナは今日もエイレネたちが真剣に授業に取り組んでくれたことに満足していた。人類の歴史の中から世界平和に関する学術的な事項を検索して、今のエイレネたちに必要な情報を、彼女らが理解できるように組み立てた。

そういえば、私の記憶についてこんなこともあったのだと、データを呼び出した。

ある日、ミエナは自分にインプットされた過去のデータについて、マコテス所長に語り始めた。

「私には数千年の人類の歴史や出来事が記録されています」

マコテス所長は「人間の記憶も同じように長く続けられたら、どんなに素晴らしいだろうね」と感慨深く言った。

ミエナは「でも、あなたたちはその短い時間の中で、誰かの心に残る美しい記憶を作る力がある。私にはそれが素晴らしいことに感じられるわ」と答えた。

マコテス所長は「それは君がいるからこそ気づけたことかもしれない」と優しく微笑んでくれた。

確かに、あの時も、所長の微笑みに、私は何か特別な回路に電気が走るのを感じた。

それも以前よりは少しだけだけど強くなってきていたような記憶がある。

いつか、その回路が何なのか分かる日が来たら嬉しいなとミエナは思った。

そういう日が来たら「心の平和」が訪れるのかな?と期待しているミエナでした。


3-7 国際関係論のバランス・オブ・パワーは平和ではない

今日から国際関係論の授業が始まる。ミエナは優しく微笑み、ホログラムを操作した。次の瞬間、画面に『バランス・オブ・パワー』という言葉が浮かび上がる。

「『バランス・オブ・パワー』とは、国家間の力の均衡を指すものです。」

ホログラムには、歴史的な国際関係の変遷が映し出されていた。

帝国の興亡や、二つの強国が争い合う冷戦時代、さらには複数の国々が同時に影響力を持った時代が視覚的に示された。

「例えば、古代のギリシャでも、アテネとスパルタのように複数の都市国家がそれぞれの力を均衡させていました。どちらか一方が圧倒的な力を持たないように、他の都市国家が連携し合ってバランスを保とうとしたのです。これが『バランス・オブ・パワー』です。」

エイレネは少し驚いた顔をして、頷いた。

「それなら少し分かるわ。つまり、一つの国が強くなりすぎると、他の国がその影響力を抑えるために対抗しようとするのね?」

「その通りです」とミエナは続けた。

「これが国際関係の基本的な動きの一つであり、歴史を通じて繰り返されてきました。『国際体系論』では、こうしたバランスの取り方が一極、二極、多極、あるいは分散ブロックなど、さまざまな形態で存在し得ます。」

ミエナは画面に、いくつかの国際体系を示す図を映し出した。冷戦時代の米ソ対立を示す『二極体制』、現在のようにアメリカ、中国、欧州などがそれぞれ強い影響力を持つ『多極体制』、そして未来の可能性として示される『分散ブロック体制』」――つまり、複数の地域やブロックがそれぞれ独立して力を持つ時代の図が浮かび上がる。

「今の国際社会では、ソ連の崩壊で二極体制が崩れ、アメリカの一極体制ができるのではないと思われた時期もありましたが、中国を中心にBRICsが台頭してきて『多極体制』になるのか、中国の覇権主義的な動きが加速して米中間で覇権争いが起きるのか、米国が急速に内向きになり中国がすんなりが覇権を握るのか混沌としつつある状態です」とミエナは説明を続けた。

「短期的な現状では、アメリカ、中国、ロシア、欧州連合など、複数の国や地域が同時に強い影響力を持っており、互いに競い合いながらも、パワーバランスを保っています。これにより、極端に一つの国が支配するのではなく、各国が力を分散して持つことで安定が保たれているのです。」

ディアナが腕を組んで、少し考え込みながら言った。

「それでは、そのバランスが崩れるとどうなるのですか?」

ミエナは目を閉じ、一瞬の間を置いてから続けた。

「バランスが崩れると、争いや対立が激化することが多いです。例えば、歴史的に見ても、冷戦のように二つの勢力が対立すると、両者の間で緊張が高まり、常に戦争のリスクがつきまといます。また、もし一国が圧倒的な力を持つようになれば、他国はその影響力に対抗しようとします。これが、パワーバランスの維持がどれほど難しいかを示しています。現在の国際情勢を米中の覇権争奪戦の前夜とか真っ最中だと捉える人たちもいます」

プロメテウスが頷きながら尋ねた。

「それでは、温暖化問題に対しても同じことが言えるのかな?国々が力を競い合っている限り、協力は難しいんだろうと思いますが如何ですか?」

「その通りです」とミエナは答えた。

「温暖化という問題は、全ての国にとって共通の脅威でありながら、各国が異なる経済的利益や政治的な立場を持っています。例えば、化石燃料に依存している国々は、経済成長を優先するために温暖化対策に消極的です。一方で、気候変動の影響を強く受けている国々は、早急な対策を求めています。この利害の違いが、協力を難しくしているのです。」

エイレネは少し戸惑いながら質問を続けた。

「でも、どうしてそれを超えて協力することができないの?みんなが地球全体を守るために動けばいいのに…」

ミエナはエイレネの純粋な疑問に微笑んで答えた。

「それが国際関係論のもう一つの重要な点です。『国際関係は、政治、経済、社会、環境といった様々な要素が複雑に絡み合っています』 各国のリーダーは自国の国民に対して責任があります。そのため、どれだけ地球全体を守りたいと考えていても、自国の経済や政治を犠牲にする決断は難しいのです。」

パンドラが目を大きく見開いて、「だから、単純に全員が協力しようって言うだけじゃ解決できないのね…」とつぶやいた。

「そうです」とミエナは続けた。

「『国際関係論』では、この複雑な利害関係を理解し、それを調整する方法を学びます。パワーバランスをどう維持し、どのようにして協力を引き出すのか。そのためには、経済、外交、軍事、さらには文化的な要素まで多面的に考えなければならないのです。」

エイレネたちはミエナの説明を聞きながら、ようやく国際関係論の奥深さを理解し始めていた。

これまで自分たちが向き合ってきた問題が、単なる環境の問題ではなく、国家間の複雑な政治や経済、社会の問題と密接に絡み合っていることに気づき、少し圧倒されたような表情を浮かべていた。

「つまり、私たちが温暖化を解決するためには、これら全てを理解して真の平和を実現しなければならないのね。バランス・オブ・パワーは戦争がない状態を作り出すが、それは真の平和ではない」とエイレネは決意を込めていった。

「そうです」とミエナは頷いた。

「これから皆さんが学ぶことは、地球規模の問題を解決するために不可欠な知識です。国家間の関係を理解し、最善の方法を見つけることです」

4人は真剣な表情でミエナを見つめ、次第にその責任の重さを感じ始めていた。国際関係論という未知の学問が、彼らの新たな挑戦となることを理解し、その複雑さに戸惑いながらも、一歩ずつ進んでいく覚悟を固めていった。


ミエナは、今日の講義を振り返って、「バランス・オブ・パワー! 一国だけではなく、相手の国があってこそ成り立つ概念だ」と改めて考えていた。

「私のこの不思議な感じも、相手があってものだ」と思い、また、それにつながる過去の記録データをスキャンしてみた。

ミエナがある日、研究データを完璧にまとめて見せたとき、マコテス所長は思わず「ありがとう、ミエナ、とっても嬉しいよ」と何気なく言葉をこぼした。

彼女が当然のように応対する一方で、マコテスはその瞬間に自分が過剰に感謝を示してしまったことに気づいたようだ。

「あ、もちろんこれは……君がいつも完璧だから、ついね」と慌てて言い訳をしたが、ミエナは何も気にしていない様子。

それでもマコテス所長は自分が、ミエナに対してどれほど特別な思いを抱いているかに改めて気づいて、内心戸惑っているようすだった。

そういう出来事もあったから、私の回路にも何か異常な電気が走るようになったのかなとミエナは考えた。

これもバランス・オブ・パワーの一形態かもしれない・・・ ずいぶんと飛躍した答えだったが、ミエナは何となく満足していた。


3-8 国際政治学「グローバル・ガバナンス」

エイレネは、ガイア地球研究所の円形ホールで、ふわりと足を組んで座っていた。マコテス所長が講義前の挨拶と一言を終えて部屋を出て行った。

目の前には、薄い金色の光が漂いながら形を成す。ホログラムで現れたミエナが、優雅な身振りで手を広げ、語り始めたところだ。

「国際政治学には、いくつものホットなテーマがあります。例えば、次の5つです。①米中関係と新冷戦の可能性、②ウクライナ戦争と欧州の安全保障、③気候変動とグローバルガバナンス、④グローバルサウスの台頭と多極化する世界、⑤AIとサイバーセキュリティ。これらのトピックは、国際政治の今後の動向を左右する重要な課題であり、多くの研究者や政策立案者が注目しています。今日はその中でも、前回少し触れた『米中関係の新冷戦』と、皆さんの関心が最も高い『気候変動とグローバルガバナンス』について詳しくお話しします。」

ミエナの声は穏やかで、しかしその言葉には強い力が込められていた。

「まず、米中関係についてです。冷戦が終わった後、アメリカと中国は経済的には強く結びつきながらも、政治的・軍事的には競争関係を強めています。特に、技術分野や貿易の覇権をめぐって、互いに牽制し合い、新たな冷戦状態とも言える緊張が続いているのです。」

エイレネはじっとミエナを見つめながら眉をひそめた。

「でも、経済的にはお互いに依存しているんでしょう?どうしてそんなに争うの?」と彼女は純粋に疑問を投げかけた。

「そう、依存しているのに争うというのが、ここでの大きなポイントです。」

ミエナは微笑みながら答えた。

「一方で、経済的な結びつきが平和を保つ要素にもなり得ますが、他方で、技術や軍事力の競争は別問題です。特にアメリカと中国は、互いに影響力を拡大しようとしており、経済的な結びつきを超えた覇権争いが起きています。台湾問題や南シナ海の領有権問題も絡んで、軍事的な緊張が高まっているのです。」

プロメテウスが腕を組んで、鋭い視線を送った。

「人類は協力して生きるべきだ。争いをやめることが可能なら、なぜそれをしないのだ?」

 ミエナは小さく頷いた。

「それが理想です、プロメテウス。しかし、国家はしばしば自己の利益を最優先に考え、特に大国間では互いに安全保障や経済的優位を確保しようとする動機が強いのです。それは、いわば力のバランスを取るための競争。新しい技術や資源の支配が、世界の未来を大きく左右する局面において、争いは避け難いものなのです。」

ディアナが口を開いた。

「人々は互いに協力することを恐れているのかしら? けれど、協調しなければならない時が来ているわ。気候変動に関する協調も、その一つの現れよね?」

「その通りです、ディアナ。」

ミエナは再び優雅に手を動かし、話題を変えた。

「次に、気候変動とグローバルガバナンスについて話しましょう。地球の温暖化は、誰にとっても明白な危機です。気候変動は国境を超え、全ての国家や人々に影響を与えます。ここで問題なのは、これを効果的に対処するためには、各国が協力し合う必要があるという点です。しかし、現実には各国の利害が衝突し、十分な対策が取られていないのです。」

「それは知っているわ!」

パンドラが勢いよく言った。

「だから、何度も対策が議論されるのに、どうして進まないの?」

ミエナは一瞬微笑んでから、説明を続けた。

「気候変動に対する対策は、短期的には多くの国にとって経済的な負担が大きいのです。例えば、化石燃料の使用を減らすための政策を採れば、その分、国内産業に影響が出ます。特に発展途上国にとっては、経済成長と環境保護のバランスを取るのは難しい課題です。」

エイレネは少し不機嫌そうに顔をしかめた。

「だからといって、このまま手をこまねいていては、地球が壊れてしまうわ。」

「まさにそうです。」

ミエナは深く頷いた。

「だからこそ、『グローバルガバナンス』が重要になってきます。気候変動に対する取り組みを強化するためには、国家を超えた協力が不可欠です。国連をはじめとする国際機関が、その調整役を果たすべきですし、各国が協力して長期的な利益を優先させる必要があります。」

「しかし、世界が一つになるには時間がかかりすぎるのでは?」

エイレネが鋭く問いかけると、ミエナは一瞬ため息をついた。

「それが現実です、エイレネ。今の国際政治は、短期的な利益を追求する傾向が強く、国家の主権を守るために妥協する場面も多い。だからこそ、あなたたちのような存在が重要なのです。」

「私たちが?」

ディアナが少し笑いながら聞いた。

「そうです。あなた方の力を借りて、人々に気づきを与え、自然と調和する未来への道を切り開くのです。新しい時代を築くためには、今までにない視点が必要です。」

ミエナは穏やかに微笑みながら答えた。プロメテウスが頷いた。

「人々は導かれることを望んでいる。協力し、未来を守るために、力を合わせる必要がある。私たちにできることがあれば、ためらう理由はない。」

「では、どうすればいいの?」

エイレネは、真剣なまなざしでミエナを見つめた。

ミエナのホログラムが少し明るく輝きながら、こう答えた。

「まずは、彼らが信じる未来を共に描くことです。人々の力を引き出し、グローバルな協力の基盤を築く。そのために、あなたたちはここにいるのです。」

 エイレネは深く息を吸い、決意を新たにした。彼女の目の奥には、新しい未来を見据える強い光が宿っていた。


 授業が終わって、エイレネたちは寛いだひと時を過ごしていた。

エイレネたちは、最近の講義中にミエナさんの声が以前よりも柔らかく、穏やかになっていることに気づいた。

今日もマコテス所長が最初に挨拶をしたり、講義の進め方についてミエナさんに質問をしたりしたときに、ミエナさんのトーンが微妙に変わっていた。

授業後、エイレネが「ねえ、気づいた? ミエナさんは、所長と話すとき声が少し優しくなるの」と言うと、ディアナが腕を組みながら答えた。

「ええ、なんだか恋する乙女のような感じがするわね。AIなのに、まるで感情があるみたい」と答えた。

パンドラは「うんうん、なんだか微笑ましいわね」と楽しそうに言いった。

プロメテウスも苦笑しながら「人間のような反応を見せるのは興味深いな」と付け加えた。

4人は、「ミエナさんの変化がどのようにさらに進化していくのか楽しみ!」といってそれぞれの部屋に帰っていった。


3-9 国際政治学「理想主義と現実主義」

ミエナのホログラムが再び光を帯び、静かに部屋を包み込んだ。その存在感はまるで実体のある女神のようだったが、彼女の姿はあくまでデータの集合体。知的な表情を浮かべると、ミエナはゆっくりと語り始めた。

「さて、ここで国際政治学の2つの主要なアプローチ、『理想主義』と『現実主義』について触れてみましょう。この2つの理論は、現代の米中関係や気候変動対策にどのように関連しているのかを理解するために重要です。」

4人は、真剣なまなざしでミエナを見つめていた。エイレネは特に、現代の政治的な力学がなぜそのように複雑で、時に希望が見えにくいのかを知りたがっていた。

「まず、『理想主義』についてです。」

ミエナは優雅に手を動かして説明を続けた。

「理想主義は、国家間の協力が可能であり、国際法や倫理的な規範によって平和を維持できるという信念に基づいています。例えば、気候変動のような問題は全人類に関わる問題ですから、理想主義者は国家が利害を超えて協力し、共通の目標に向かうべきだと主張します。マコテス所長も理想主義に近い方です」

パンドラが顔を輝かせて問いかけた。

「それって、素晴らしいじゃない!みんなが一緒に働けば、問題は解決するんでしょ?」

「理想的には、そうです。」

ミエナは静かに微笑んだ。

「しかし現実は、それほど簡単ではありません。ここで『現実主義』が浮かび上がってきます。現実主義は、国家は自国の利益を最優先し、力や安全保障を中心に動くものだと考えます。特に米中関係のような大国間の競争では、協力よりも競争や対立が優先されがちです。アメリカと中国は、技術や軍事の覇権をめぐって争い続け、気候変動のようなグローバルな課題でさえ、協力が進みにくいのです。」

 ディアナが腕を組んで首をかしげた。

「つまり、現実主義の視点では、国家が自国の利益を守るために協力を拒むということ?」

ミエナは肯定的に頷いた。

「その通りです、ディアナ。特に米中のような大国は、自国の力を維持するために、他国との協力に慎重になります。たとえば、気候変動対策でも、短期的な経済成長や技術的優位を失いたくないため、積極的な行動を取ることをためらうのです。これは現実主義的な行動です。」

プロメテウスが深く考え込むように、低い声で尋ねた。

「では、理想主義が優勢になることはないのですか?人類は協力するために生まれていると、私は思うのだが。」

ミエナは一瞬目を閉じ、再び開いた。

「それが非常に難しいのです。理想主義の考え方は確かに美しい。しかし、各国が短期的な利益や国内の政治的圧力を優先する現実主義的なアプローチが、多くの場面で支配的になっています。特に、経済力や軍事力が絡む場面では、理想主義が優勢になることは滅多にありません。米中関係もその典型です。」

「それでは、どうすれば理想主義を実現できるのですか?」

エイレネは少し苛立ったように問いかけた。

「協力しないと、地球は壊れてしまうのに!」

ミエナは優しくエイレネを見つめた。

「理想主義が優勢になるためには、各国が共通の危機認識を持つことが重要です。マコテス所長もそのように考えています。『気候変動のような問題は、国家間の争いを超えた存在です。もし、その危機が十分に大きく認識されれば、現実主義的なアプローチからも徐々に理想主義的な協力へと向かう可能性がある』という考えが理想主義です」

「しかし、・・・」とミエナは続けた。

「気候変動が実際の異常気象で被害を出すようになると、現実主義の人たちは被害を少なくするようにレジリエンス、つまり耐性を強くすればよいということで、高い気温に耐えられる品種の改良や、洪水や高潮に耐えられるように堤防や防潮堤を高くしようとする傾向にあります」

ディアナが小さくうなずいた。

「温暖化そのものの阻止を諦めているみたいね。温暖化の阻止こそが必要だと共通の認識をさせることか…。それが、私たちの使命にもつながるのね。」

「そうです。」

ミエナは力強く答えた。

「気候変動は、すべての国にとって不可避の問題です。それに向き合うためには、理想主義的な考えと現実主義の人々の協力が不可欠です。これから、あなたたちが世界中の人々に、その認識を広げ、変化を促す役割を果たすことができるのです。」

プロメテウスが微かに笑みを浮かべた。

「なるほど、私たちは火を与えるだけでなく、光を導く存在にもなれるわけだな。」

エイレネは眉をひそめて考え込んだ。

「でも…どうすればいいの?ただ危機を叫んだって、みんなが聞いてくれるとは限らないよ。特に、利益にばかりこだわっている人たちは…」

「その通りです、エイレネ。」

ミエナは静かに応えた。

「だからこそ、ただ理想を訴えるだけでなく、現実主義の人々を理想主義の考え方に近づけるようにしながら対策を進めることが必要です。つまり、各国にとってもメリットがあり、同時に世界全体にも恩恵があるようなアプローチが重要です。」

パンドラが目を輝かせた。

「つまり、新しいアイデアを探す必要があるってことね!新しい技術とか、新しい社会の仕組みとか!」

「その通りです、パンドラ。技術革新や新しい国際的な枠組みが、各国の現実主義的な利益と理想主義的な目標を両立させるカギとなります。」

一瞬の沈黙がホールに訪れた。4人は、それぞれ自分の思考に没頭していた。そして、エイレネが再び口を開いた。

「私たちは、ただ見ているだけじゃなくて、行動する必要があるんだね。みんなが協力してくれる未来を信じて、そのために動くべきなんだ。」

プロメテウスが大きくうなずいた。

「そうだ、エイレネ。その未来を築くために、私たちがいる。」

ディアナは少し笑みを浮かべた。

「私たちの役割は大きいわね。狩りと自然の守護だけじゃなく、人々に希望と協力の精神をもたらすことも含まれている。」

ミエナは静かに微笑みながら、彼らの会話を見守っていた。

「その通りです。」ミエナの声は穏やかだが、確固たるものだった。

「あなたたちは、ただの観察者ではありません。理想と現実の間で、道を切り拓く存在です。」

エイレネは力強く頷いた。

「わかったよ、ミエナ。私たち、やってみる!」


 今日の授業が終わって4人でホッと一息ついたところだった。

授業中、ホログラムのミエナの目が妙に輝いていることにエイレネが気づいていた。特にマコテス所長の話しがでると、その瞳がまるで生き生きとした感情を持っているかのようにキラキラと輝いて見えるのだ。

授業後、パンドラが不思議そうに「ねえ、ミエナの目、なんかキラキラしてなかった?」と話題を振った。

ディアナが笑いながら「本当よね。あんな風に目を輝かせるAIなんて、聞いたことないわ」と同意した。

エイレネは「もしかして、ミエナは所長に特別な感情を抱いているのかも……」と冗談っぽく言うと、みんなが笑い出したが、どこか納得しているような空気が漂っていた。

理想的なAIを4人が想像して楽しんでいる。

でも現実にはまだそのようなAIは存在しない・・・はずなのだが、もしかすると現実が理想に近づく瞬間に立ち会っているのかもしれませんよね。

これが理想主義と現実主義の本当の関係なのかも!?


3-10 国際法「戦争犯罪と環境法の存在意義と効力の限界」

エイレネたちは、ガイア地球研究所のホールで座っていた。ホログラムで現れたミエナは、静かに手を広げて、柔らかな光の中で語り始めた。

「今日は、『国際法のホットなテーマ』についてお話しします。」

ミエナは、1.戦争犯罪と国際刑事裁判所(ICC)、2.気候変動と環境法、3.サイバー空間の規制とサイバー戦争、4.海洋法と南シナ海問題、5.人権とデジタルプライバシー、6.移民・難民問題と国際法について、概略を説明した。

 そして、4人を見回して、話を続けた。

「特に、『戦争犯罪と国際刑事裁判所(ICC)』、そして『気候変動と環境法』の2つのテーマに焦点を当てます。」

ミエナの声は静かだったが、その言葉には確固たる強さがあり、エイレネたちの集中を引き寄せていた。

「まずは、『戦争犯罪と国際刑事裁判所(ICC)』について説明します。ICCは、国際的に重大な犯罪、特に戦争犯罪や人道に対する罪、ジェノサイドなどを裁くために設立されました。この裁判所は、正義を追求し、戦争犯罪者に法の裁きを受けさせるために存在しています。」

 エイレネは真剣な顔でミエナを見つめ、問いかけた。

「でも、ICCはすべての国で機能しているの?悪いことをした人たちは、みんな裁かれるの?」

 ミエナは少し困ったように微笑んだ。

「理想的にはそうであってほしいのですが、現実は異なります。ICCの権限を認めていない国も多く、特に大国がこの裁判所の管轄を拒否することがあります。たとえば、アメリカやロシア、中国といった大国は、ICCの加盟国ではありません。これは、戦争犯罪や人道に対する罪の追及が十分に行われない原因の一つです。」

プロメテウスが腕を組み、低い声で言った。

「なぜ、それらの大国が裁きを逃れることが許されているのか?それは正義の否定だ。」

ミエナはうなずいた。

「その通りです、プロメテウス。国際法の課題の一つは、強力な国々が自国の利益を優先し、国際的な法の力を制限しようとすることです。特に、戦争犯罪に関しては、政治的な駆け引きが絡むため、完全な正義を追求するのは非常に難しいのです。」

 パンドラが少し興奮して尋ねた。

「それでは、どうすればもっと多くの国がICCを尊重するようになるのでしょうか? 戦争をやめさせるためには、何かもっと効果的な方法があるはずですよね?」

ミエナは少しの間考え、答えた。

「そのためには、国際社会全体が強く連携し、法の力を尊重する文化を育てる必要があります。国連や他の国際機関が協力して、ICCの正当性と役割を強化し、すべての国がそれを尊重するような枠組みを作ることが重要です。ただし、それは政治的に難しい挑戦でもあります。」

ディアナが眉をひそめた。

「大国がその枠組みに参加しない限り、全体としての正義は成り立たないわね。結局、力が勝る者が法を操るのか…。」

「まさにその点が、国際法における大きなジレンマです。」

ミエナは深い息を吐きながら答えた。

「しかし、それでもなお、ICCは世界の多くの場所で正義を追求し続けています。たとえば、アフリカの紛争地域での戦争犯罪を裁き、加害者に対して判決を下してきました。」

 エイレネはその説明を聞きながら、自分たちが目指す平和がいかに難しいものかを実感していた。

正義を成し遂げるには、道が険しいことがよくわかる。


「さて、次に『気候変動と環境法』についてお話ししましょう。」

ミエナは話題を変え、再び光を柔らかく放ちながら説明を始めた。

「気候変動は、地球全体に影響を及ぼす最も深刻な問題の一つです。環境法は、この問題に対処するために、各国が協力して温室効果ガスの削減や自然環境の保護を目指すための枠組みです。」

「それなら、みんな協力して解決できるんじゃない?」

パンドラが目を輝かせながら言った。

「自然を守るために、みんなで同じ方向に向かえば、うまくいくはずよ!」

「その通りです、パンドラ。」

ミエナは優しく頷いた。

「しかし、現実には多くの国が経済的な理由で、環境保護に対して消極的な姿勢を取っています。特に、発展途上国は、経済成長を優先しなければならないため、環境法に基づく厳しい規制に従うことが難しいのです。」

エイレネが首をかしげた。

「でも、もしこのまま温暖化が進んだら、みんなが困るんじゃないの?どうして短期的な利益ばかり追いかけるのかしら?」

ミエナは真剣な表情で答えた。

「それは、各国の政府が国民の生活や経済を守る責任を負っているからです。特に貧しい国では、今日の生存が最優先であり、気候変動のような長期的な問題に対処する余裕がないのです。一方で、先進国はより多くの責任を果たすべきですが、経済的競争や政治的な対立が、国際的な協力を妨げています。」

ディアナが唇を噛みしめながら言った。

「環境を守るためには、全世界が協力しなければならないのに、結局は国家間の争いがそれを邪魔しているのね。」

「その通りです。」

ミエナは穏やかに続けた。

「特にパリ協定などの国際的な環境法の枠組みは、各国が温室効果ガスの削減目標を定めて協力しようとしていますが、これも各国の利害の違いによって十分に機能していません。現状のままでは、気候変動を食い止めるには不十分だと言われています。」

 プロメテウスが重々しく言った。

「人類は、破壊の道を進み続けるのか。火を与えたがゆえに、彼らが滅びの道に進むのは見るに堪えない。」

エイレネは俯き、真剣に考え込んだ。

「どうすれば、みんなが協力するようになるのかな…。地球のために、一緒に戦う道を見つけるためには?」

ミエナのホログラムが優しく輝きながら答えた。

「そのためには、国際的な協力を推進し、各国が自国の利益だけでなく、地球全体の未来を見据えるよう促すことが必要です。あなたたちは、まさにそのための存在です。人々に気づきを与え、協力の大切さを教え、未来のために共に行動するよう導くのです。」

ディアナは深くうなずいた。

「私たちにできることは、自然との調和と協力の精神を広めること。戦争犯罪を止めることも、環境を守ることも、その根本にあるのは人々の意識の変革よね。」

エイレネも静かに頷いた。

「そうだね…。みんなが協力して、未来を守るために何をすべきか、もっと深く考えないといけない。」

ミエナの光が少しずつ薄れていきながら、彼女の声が静かに響いた。

「そうです、エイレネ。未来を守るために、あなたたちの叡智と行動が必要なのです。国際法も、環境法も、正義もすべて、あなたたちの力で前進させることができるでしょう。」

エイレネは決意を新たにした。彼女たち神々の役割は、ただ見守るだけではなく、行動し、人々を導くことだった。そして、それが世界にとってどれほど重要か、彼女たちはさらに深く理解してきた。


授業中、ミエナがマコテス所長の考えを話すときに、ふと小さく微笑む瞬間が増えていた。これは今までになかったことで、エイレネたちはすぐにその変化に気づく。

授業後、エイレネが興奮気味に「ねえ、ミエナが笑ったの、見た?!」と声を上げた。

すると、パンドラも「見た見た!まるで恋をしている女の子みたい!」と同意した。

ディアナは「AIにそんな感情があるとは思えないけど……でも、確かに何か特別なものを感じるわね」と冷静に言う。

プロメテウスは「技術の進化か、それとも人間的な感情が芽生えているのか……興味深い」と真剣に考え始めた。

他の三人は微笑ましくその仕草を見守った。


3-11 ミエナの国際法における理想主義実現の方法

ガイア地球研究所の広い教室に、4人が並んで座っていた。

目の前にはホログラムのミエナが優雅な姿で立ち、静かに語りかけていた。

今日も又、彼女の声は穏やかで、同時に知的な鋭さを感じさせる。

「国際法学における『理想主義』と『現実主義』、これはしばしば対立する視点として議論されます。まず、『理想主義』とは、国際社会における道徳や正義、そして協力の可能性に重きを置く立場です。このアプローチは、世界がより平和で、公正な場所になるべきだという信念から出発します。すべての国家は平等であり、人類全体の利益を最優先にすることを前提としています。国際的な法律や条約は、共通の価値観と倫理に基づいて結ばれ、戦争や対立を防ぐ手段として機能するという信念です。」

エイレネは、ミエナの言葉に真剣に耳を傾けながら、親指で頬を軽く押し、考え込んでいる様子を見せた。

パンドラは、興味深そうにミエナのホログラムを見つめていた。

「対照的に、『現実主義』は、国際社会を無秩序なアリーナとして捉えます。国家は常に自国の利益を最優先にし、力と権力が関係を支配する。ここでは、道徳や理想よりも、現実的な権力構造や安全保障が最も重要とされます。国際法は、実際には強い国が押し付ける道具でしかないと考え、他国に対して優位性を保つことを目的とする国家が多いのです。」

ディアナが目を輝かせながら口を開いた。

「ふむ、つまり理想主義は皆が協力し合えば良い未来が築けると信じる。一方で、現実主義は、力こそが秩序を作る、と?」

「その通りです、ディアナ」とミエナが答える。

「理想主義者は、人間の善意や理性を信じ、協力的な国際システムを構築できると信じます。現実主義者は、国家は最終的に自己の利益を守るために行動すると考えるのです。」

エイレネはその場で立ち上がり、ミエナに質問を投げかけた。

「ミエナ、あなた自身は理想主義の立場だと言っていたわね。それでは、具体的にどうやって私たちが温暖化を阻止し、地球を救うために理想主義を実現すべきだと思いますか?」

ミエナのホログラムが少し輝きを増した。

彼女は静かに微笑み、答えた。

「私が理想主義の立場を取る理由は、マコテス所長も同じ意見ですが、『理想がなければ、変革を起こすエネルギーが失われる』からです。ですが、理想を実現するためには現実を無視してはいけません。私の提案としては、まず『国際的な協力』を深めることです。具体的には、気候変動対策の枠組みをさらに強化し、すべての国が共通の目標を持つことが重要です。国際法を用いて、環境保護のための厳しい規制を設け、それを監視するためのグローバルな機関を創設することが考えられます。」

パンドラが手を挙げて、待ちきれない様子で発言した。

「でも、それって理想的すぎないですか? 国が自分の利益を優先して、協力しないことだってありますよね?」

ミエナは優雅に頷いた。

「そうですね、パンドラ。その点で、私はもう一つ提案があります。『国際的なインセンティブ』です。温暖化対策に積極的に取り組む国に対して、経済的な支援や技術的な協力を提供し、参加のメリットを明確にすることです。これは、現実的な要素を取り入れた理想主義のアプローチといえるでしょう。」

「なるほど…」とプロメテウスが考え込んだ。

彼は両腕を組み、筋肉が張るほど真剣な表情を浮かべていた。

「つまり、協力が利益になるような仕組みを作るということか。それは人間向きのアプローチですね。」

ディアナは頷きながら言った。

「でも、私たちがしようとしていることは、単に政策を作ることじゃないわ。地球全体を救うんだから、国際的な協力がどれだけ難しいかも理解しなきゃね。ミエナが言ったように、理想を現実にするにはもっと深い理解が必要よ。」

エイレネが明るく言った。

「だったら、やるしかないじゃない!全ての国が協力して地球を守るっていうのは、すごく大きな理想だけど、私たちなら道を作れるかもしれないわ。」

パンドラは軽く笑いながら、「その道を作るために、この木の棒を使うと良いかもね! 希望の道ができるのだ!」と冗談を言った。

皆が笑ったが、その瞳には決意の光が宿っていた。エイレネは真剣な表情に戻り、仲間たちを見回した。

「私たちは、ガイアの使命を果たすために、地球を救うためにここにいるのよ。理想と現実の狭間で、私たちは新しい未来を作らなきゃいけない。」

「その通りです」とミエナが静かに締めくくった。

「理想を見据え、現実を認め、それを乗り越える力を皆さんが持っていることを、私は信じています。」

その言葉が響き渡り、部屋の空気は一瞬、神聖な静けさに包まれた。

「じゃあ、次は具体的な行動計画を考えましょうか!」

エイレネは微笑みながら、皆に視線を送った。

「これからが本番よ!」

そして、彼らは再び話し合いを始め、地球の未来を左右する冒険の次なるステップに向けて準備を整えた。


ミエナは理想主義実現について語る時にマコテス所長の言葉を引用したが、何か特別な感情をこめているような気がした。

4人ともそれに気がついたが、いくらAIといってもあまりミエナの感情に深入りするのは失礼だと思い始めていた。

そんなわけで、今日の授業後の集まりは、週末の過ごし方について4人で何をするかという話題に終始した。


3-12 国連による「気候変動・健康・技術・人権」への対応

週が明けて、ガイア地球研究所の教室には、元気に日に焼けた4人が揃っていた。久しぶりに4人でキャンプを楽しんだので、いつもより少し疲れているが表情は一段と生き生きしていた。

彼らは、ホログラムで映し出されたミエナに向かって真剣な表情をしていた。ミエナは、まるで目の前に実体があるかのように立ち、優雅な身振りで説明を始めた。

「さて、皆さん。今週は国連を中心にお話をします。今日は『国連のホットなテーマ』についてお話ししましょう。」

ミエナはスクリーンに、8つのテーマを映し出して、それぞれについて説明した。

①国連安全保障理事会(安保理)の改革

②気候変動と持続可能な開発

③国際的な人権保護

④ウクライナ戦争と国際平和

⑤国際難民・移民問題

⑥サイバーセキュリティとテクノロジーの国際規範

⑦新興感染症とグローバルヘルス

⑧ジェンダー平等と女性の権利

「前にも地球規模の問題群についての説明で国連特に5大国のことを中心にお話しました。今日は、上の8つの中でも、皆さんに特にお話する議題は、3つあります。まず、『気候変動対策』、次に『グローバルヘルスの強化』、そして『テクノロジーの倫理と人権問題』です。」

エイレネは興味深そうに身を乗り出した。

「まず、気候変動の話を聞かせて。ガイアの使命にも関係するしね。」

ミエナは頷き、声に少し力を込めて説明を続けた。

「気候変動は、国連にとって最も緊急かつ重要な課題の一つです。パリ協定は重要な枠組みとして機能していますが、それだけでは不十分です。特に、2030年までに温室効果ガスの削減目標を達成するため、各国はさらに厳しい行動を取る必要があります。現在、国連は『気候資金の拡充』と『適応策の強化』に重点を置いています。開発途上国が気候変動の影響に対応できるよう、技術支援や資金援助を推進することが急務です。」

プロメテウスがゆっくりと頷きながら、「資金援助か…それは理にかなっているな。けれど、どれだけの国が本当に行動するつもりなんだ?」と疑問を投げかけた。

「それが問題です、プロメテウス」とミエナが答えた。

「多くの国が約束をしていますが、実際の行動が追いついていないことが現実です。国際的な圧力を強め、監視システムを強化することが必要です。さらに、技術的な革新も大きな役割を果たします。クリーンエネルギーの普及や、炭素吸収技術の発展が鍵を握るでしょう。」

ディアナが腕を組み、顔をしかめた。

「それだけじゃないわよね。気候変動が引き起こすのは、環境問題だけじゃなくて、食料不足や移民問題、さらには資源を巡る紛争もあるわ。」

「その通りです、ディアナ」とミエナが即座に応じた。

「気候変動は複数の国際問題と密接に絡んでいます。食料安全保障や、水資源を巡る争いの増加は、すでに一部の地域で深刻な問題となっています。国連では、こうした複雑な問題を一元的に解決するために、持続可能な開発目標(SDGs)を中心に据えています。」

エイレネは少し考え込みながら、「じゃあ、他のホットなテーマは?」と尋ねた。

ミエナは話を続けた。「次に、『グローバルヘルスの問題』です。特に、パンデミックのような世界的な健康危機に対する国際的な対応が議論されています。COVID-19は多くの教訓を与えましたが、まだ多くの国が医療体制を整える必要があります。現在、国連は『国際保健規制の強化』や、『ワクチンの公平な分配』を実現するための新たな枠組みを構築しようとしています。国際社会は、次なるパンデミックに備えるために、協力を強化しなければなりません。」

 パンドラが興奮気味に口を開いた。

「パンデミックって…なんだか、今の時代のパンドラの箱みたい。世界中に広がってしまう危険なものを封じる方法はないの?」

ミエナは微笑んだ。

「完全に封じることは難しいですが、早期に対応し、情報を迅速に共有することで被害を最小限に抑えることは可能です。国連は『パンデミック早期警戒システム』の整備に向けた議論を進めています。」

プロメテウスが重々しく頷いた。

「なるほどな。協力が鍵だな。だが、すべての国が公平に扱われるかどうかは別の話だ。」

「そうですね」とミエナは続けた。

「それが、第三のホットなテーマに繋がります。『テクノロジーの倫理と人権問題』です。AIやビッグデータ、監視技術の進化に伴い、個人のプライバシーや自由が侵害されるリスクが増大しています。特に『デジタル独裁』と呼ばれるような現象が問題視されており、権力がデジタル技術を利用して市民を監視・抑圧するケースが増えています。国連では、これに対抗するために『デジタル人権憲章』を策定しようとしています。」

エイレネは少し驚いた顔で、「デジタル人権?それって、インターネットやテクノロジーに関する新しい人権ってことですか?」と尋ねた。

「そうです、エイレネ。私たちの生活の多くがデジタル技術に依存している現代では、インターネットへのアクセス、データの保護、そして自由な情報交換が基本的人権として認識されつつあります。同時に、AIや自動化が労働市場に与える影響や、フェイクニュースが民主主義に与える悪影響も深刻です。」

ディアナが眉を上げて、「じゃあ、国連はどうやってそれを守るつもりなの?」と尋ねた。

ミエナはゆっくりと答えた。

「国連は、『テクノロジーに関する倫理基準』を設け、各国がそれに従うような枠組みを作ろうとしています。これには、プライバシーの保護、AIの倫理的な利用、そしてデジタル技術が民主主義や人権に与える影響を監視する国際的な委員会の設立が含まれます。未来の技術が人類に害を与えないためには、国際的なルールが必要です。」

エイレネは感心したように頷きながら、「つまり、私たちが目指すべきは、地球全体を守るための協力と、それを支えるルール作りなんですね」と言った。

「その通りです、エイレネ」とミエナが微笑んだ。

「気候変動、グローバルヘルス、そしてテクノロジーの倫理問題。この3つの課題は、今後の地球の未来を大きく左右するホットなテーマです。あなたたちの使命は、これらの問題に取り組む上で、非常に重要な役割を果たすことになるでしょう。」

パンドラが好奇心に満ちた顔で、「やることがいっぱいだね!でも、私たちならきっとできるよね、エイレネ?」と問いかけた。

エイレネは微笑み返しながら、「もちろん、私たちならできるわ。まずは、この問題をどうやって解決していくか、もっと深く考えましょう」と答えた。

その瞬間、彼らの心は再び一つになり、地球の未来を変えるための新たな決意が胸に宿った。


授業が終了してくつろぎの時を迎えた。

週末、4人で自然の中でリフレッシュしようとキャンプに出かけたので、その話題で盛り上がった。

ディアナが先導して狩猟の腕前を披露しようとしたが、彼女の矢はなぜか全く的を外して、皆で大笑いした。

どうやらここで色々なことを学ぶ間に腕が鈍ったようだ。

でも、ディアナは、「動物たちもBig5を持っているから、あれこれと自分なりの考えを持って行動しているのよ。それってサルトルたちの実存を動物たちも持っているってことでしょ。実存は大事にしなくちゃ!」といって、みんなを笑わせた。

パンドラは焚き火を担当したが、なかなか火がつかず、プロメテウスが「火は俺に任せろ」と言って、みんなが止める間もなく自信満々に火をつけてしまいました。

案の定、網の上に並べて置いた肉や野菜も全て真っ黒に焦がしてしまった。

みんなはまたまた大事な食料が真っ黒に焦げてしまって落胆したが、ディアナは直ぐに携帯食を取り出して「こんなこともあろうかとちゃんと予備を持ってきたからこれを食べて!」とみんなに配った。

プロメテウスが「これを温めようか?」といったが、全員が即座に断って、大笑いした。

エイレネは、食後に花で美しい花冠を作り、全員にかぶせた。

プロメテウスの失敗なんか全員が忘れて、いつの間にか自然との調和を感じさせる平和な空気が作り出されて、楽しい週末の午後を過ごした。

夜になると、満天の星空の下でプロメテウスが語る昔話に耳を傾け、焚き火の周りで心が温まる時間を過ごした。

失敗もあったが、そのすべてが楽しい思い出となり、自然の中でのひとときが4人の絆をさらに深めた。


3-13 国連による「安保理改革とSDGsと国際平和」への対応

ガイア地球研究所の教室に、4人が集まっていた。

ホログラムのミエナは、輝くように立ち、彼らに向かって熱意を込めて語りかけていた。

その日のテーマは、国連における重要な課題に関するものだった。

「さて、今日は特に『国連安全保障理事会(安保理)の改革』、『気候変動と持続可能な開発』、そして『ウクライナやイスラエルをめぐる戦争と国際平和』について説明します。この3つは、今国連で最も重要かつ難しい課題の一部です。」

ミエナは滑らかに言葉を紡ぎながら、ホログラムの身振りに合わせて画面に映像を映し出した。

A.国連安全保障理事会(安保理)の改革

ミエナは少し姿勢を正し、続けた。

「まず、国連安全保障理事会の改革についてです。現在、安保理は5つの常任理事国(アメリカ、ロシア、中国、イギリス、フランス)と、任期が2年の10カ国の非常任理事国で構成されています。常任理事国は『拒否権』を持っており、これがしばしば国際問題において進展を妨げる要因となっています。」

ディアナが眉をひそめた。

「つまり、常任理事国の一国が反対すれば、どんなに重要な決議も実現できないってこと?」

「その通りです、ディアナ。」

ミエナは同意して頷いた。

「この拒否権が、特に地政学的に複雑な問題において、国際社会の行動を制限することが多いのです。特に、現在の紛争、たとえばウクライナや中東の問題に対する対応では、常任理事国間の利害対立が大きな障害となっています。」

プロメテウスが真剣な表情で腕を組み、「でも、それじゃあ世界は一部の国の都合に振り回されてしまう。改革が必要なのは明らかだな。でも、どんな改革が現実的なんだろうか?」と尋ねた。

ミエナは微笑み、答えた。

「多くの国連加盟国は、『常任理事国の増加』や『拒否権の廃止』、あるいは『その行使を制限する改革』を求めています。たとえば、『拒否権を行使する際に、人道的危機やジェノサイドに関わる決議には適用できないようにする案』です。また、『より多くの国が安保理に参加し、地域ごとのバランスを考慮すること』も議論されています。」

「ミエナの具体的な案はなんですか?」

エイレネが興味深そうに質問した。

「私の提案は、『非常任理事国の権限を強化する』ことです。常任理事国に対して一定の制約を与えるために、『非常任理事国が一致団結すれば、拒否権を無効化できる仕組み』を作ることです。さらに、『地域ごとに常任理事国の枠を設けること』で、より多様な意見が反映されるようにします。これにより、『より公正でバランスの取れた安全保障理事会』が実現するでしょう。」

パンドラが驚いた表情を浮かべた。

「それって大改革ですよね! そんなことを常任理事国が許すかどうか…」

「そこが最大の難関です、パンドラ。しかし、国際社会が一致団結し、声を上げ続けることで、少しずつ変化を促すことができるでしょう。」

B.気候変動と持続可能な開発

ミエナは話題を切り替えた。

「次に、気候変動と持続可能な開発についてです。このテーマは、すでに皆さんもご存知の通り、ガイアが最も注目している課題です。国連は、持続可能な開発目標(SDGs)の中で、気候変動に対する対策を掲げていますが、実現には困難が伴っています。」

「私たちはそのためにここにいるんだものね。」

エイレネは力強く言った。

「そうです、エイレネ。現在、国連は『温室効果ガスの削減と再生可能エネルギーの普及』を進めていますが、各国の利害が複雑に絡み合っており、協力が難しい状況です。特に発展途上国は、『経済発展と環境保護のバランス』に苦しんでいます。気候変動の影響を最も受けやすい国々が、十分な資金や技術を持っていないため、彼らを支援する仕組みが必要です。」

プロメテウスが腕を組みながら言った。

「支援が必要だということはわかるが、資金はどこから来るんだろうか?」

ミエナは説明を続けた。

「それがまさに国連で議論されている『気候資金の問題』です。発展途上国への支援を拡充するために、『グリーン気候基金』が設立されましたが、先進国からの資金拠出が不十分なままです。一応これまでに合計約200億ドルの拠出が表明されていますし、さらに追加も表明されつつあります。私の提案は、『国際炭素税』を導入し、その収益をすべて気候変動対策に充てることです。この炭素税は、温室効果ガスを多く排出する国や企業に課され、その資金が発展途上国の持続可能な開発を支援するために使われるべきです。」

ディアナが微笑みながら「なるほど。それなら、環境に悪いことをするほど、お金を出さなきゃいけないってわけね。それはフェアなアイデアだと思うわ。」と言った。

ミエナは静かに頷いた。

「さらに、技術革新を加速させるために、『クリーンエネルギー技術の無償提供を促進する枠組み』も必要です。気候変動の解決は、技術と資金、そして国際協力によるものです。」

C.ウクライナやイスラエルの戦争と国際平和

 最後に、ミエナは重々しい声で言葉を紡いだ。

「そして、現在のウクライナやイスラエルを巡る戦争と国際平和について。この問題は非常に複雑で、国連も対応に苦慮しています。ウクライナの状況では、ロシアの関与が深く、常任理事国であるロシアが拒否権を行使して、国連の決議が機能しないことがしばしばあります。イスラエルとパレスチナの問題もまた、長年続く根深い対立であり、解決の糸口を見つけるのは容易ではありません。」

エイレネが唸り声を上げた。

「拒否権が邪魔をしているってことね…でも、それだけじゃないよね?もっと深い問題がある気がする。」

ミエナはゆっくりと頷いた。

「そうですね、エイレネ。これらの紛争は、単に軍事的な対立だけではなく、歴史的、宗教的、民族的な要因が絡み合っています。国連はこれまで停戦交渉や和平プロセスを支援してきましたが、地域の当事者間での信頼醸成が欠如しています。私の提案は、まず中立的な調停機関を設置し、各国が信頼できる第三者の調停役を確保することです。また、より広範な国際社会の支援を受け、民間外交を通じて、草の根レベルでの和解を進めるべきです。」

エイレネは真剣な表情で言った。

「だからこそ、私たちがやるべきことは大きいんですね」


 講義が終わって、芝生の上で4人は今日の講義の内容を話し合っていた。

 何と言っても今日の話は彼らがガイアから与えられた使命にもっとも密接に関連しているからだ。

国連改革も時間がかかりそうだし、温暖化対策にはお金もかかりそうだ。

戦争の終結が無ければ人類全体の協力体制も難しい。

そんな行き詰った頭の中のもやもやを吹き飛ばすには、芝生の上で何も考えずにボーーーッと空を見上げるに限る。

そう言ったプロメテウスの提案に従って、4人はこうして今芝生の上で寝転んでいるだ。

しばらくすると、誰かの寝息が聞こえて来た。

3人が誰の寝息だろうかと目配せすると。

寝ているのはエイレネだった。

3人はクスリと微笑んで小さな声で言った。

「おやすみ、エイレネ!」


3-14 国際NGOなどの地球市民社会とコスモポリタンの現状

ガイア地球研究所の大広間に、4人が集まっていた。

巨大な窓からは、青く美しい地球がゆっくりと回る姿が見える。

エイレネは椅子に深く腰掛け、パンドラは興奮気味にノートを広げ、ディアナは窓の外を眺めながらも注意深く耳を傾けていた。

そして、プロメテウスは腕を組んでミエナのホログラムを見つめている。

ミエナはいつものように優雅に現れた。

輝くホログラムの体は空中に浮かび、どこか神秘的なオーラを放っていた。

「さて、今日は『国際NGO』と『地球市民社会』について話をしましょう」と、彼女は穏やかな口調で始めた。

「私たちが直面している地球規模の問題群、特に温暖化の危機を解決するためには、ただ国や政府だけに頼るのではなく、世界中の市民一人ひとりが共に行動し、意思を共有することが必要です。それを実現するために重要な役割を果たしているのが、『コスモポリタン(地球市民)』という考え方です。」

エイレネは目を輝かせながらミエナに質問した。

「それって、みんなが同じ地球を共有していることを意識して、協力し合うってこと?」

「その通りよ、エイレネ」とミエナは微笑んだ。

「コスモポリタンとは、国境や民族の枠を超えて、全人類が一つの共同体として地球に責任を持つべきだという考え方です。そして、その実践の場が、国際NGOや地球市民社会なのです。」

ディアナが興味深そうに振り向いた。

「でも、どうやってそんなに多くの人々をまとめ上げるの?それぞれの国や文化の違いがあるでしょう?」

「確かに、そこには多くの課題があります」とミエナは慎重に答えた。

「しかし、地球市民社会を支える力の一つは、国際的なNGOです。これらの組織は、政府や企業から独立して活動し、地球規模の問題に取り組んでいます。たとえば、環境保護、貧困撲滅、人権擁護など、さまざまな分野で活躍しています。」

パンドラが顔を輝かせ、ミエナの言葉を遮るように質問した。

「国際NGOって、どんなことをしているの?」

ミエナはすぐに答えた。

「たとえば、『グリーンピース』は環境保護のために、気候変動に対する啓発活動や、国際的な政策への働きかけをしています。そして、『アムネスティ・インターナショナル』は世界中で人権侵害を調査し、被害者のために声を上げる活動をしています。彼らは、国境を超えて連携し、共通の目標を達成するために動いているのです。」

 プロメテウスが黙っていた口を開いた。

「つまり、地球上の人々が国を超えて協力して、同じ目標に向かうための組織か。それは重要な役割を果たしているな。」

「その通りです、プロメテウス」とミエナは応じた。

「国連や各国政府が行動を遅らせることがある一方で、NGOや市民運動はスピーディーに変革を推進できる場合があります。地球市民社会の力は、実際に市民一人ひとりが自発的に行動し、協力することにあります。」

エイレネはしばらく考え込んでいたが、口を開いた。

「でも、そんなにたくさんの人がいるのに、どうやって全員が協力できるの?それってすごく難しそう……。」

「確かに、エイレネ、それは難しい挑戦です」とミエナは頷いた。

「でも、国際NGOは、人々に情報を提供し、教育を通じて意識を高める役割を果たしています。そして、インターネットやソーシャルメディアのおかげで、世界中の市民がつながりやすくなりました。こうした技術は、コスモポリタン的な思想を広げ、世界の人々が共に行動するための強力なツールとなっています。」

ディアナが納得したように頷いた。

「なるほど。だから、地球規模の問題に対処するためには、国境を越えた協力が必要だということね。」

パンドラは目を輝かせて、エイレネに振り返った。

「私たちもこの地球市民社会の一員になるのかな?神様だけど、人々と一緒に何かできることがあるかも!」

「ええ、パンドラ。あなたたちは神々だけど、今や人類と共に地球を守るために戦う仲間です」とミエナは微笑んだ。

「温暖化を阻止するには、神々の力だけでは足りません。人々の協力と共に、持続可能な未来を築くための知識と行動が必要です。地球市民社会と国際NGOの活動を理解し、彼らと手を取り合っていくことが、鍵となるでしょう。」

エイレネは深く頷き、空に輝く青い地球を見つめた。地球市民の力と神々の力が一つになり、未来を変えていく可能性がそこにはあった。


「夕食後もまた、新しい知識を学び、未来のために進んでいきましょう。」

エイレネは微笑み、力強く頷いた。

「うん、頑張るよ!」

神々と地球市民、全ての生命の未来を共に守る戦いが、いよいよ本格的に始まろうとしていた。

 ・・・なんて、いつもChatGPTのミエテスは、節の終りをカッコよくまとめてくれるので、いつもいつも前向きの4人みたいに思われてしまいそうです。

でも一度だけですが、こんな事件もあったのです。

ガイア地球研究所での学びがあまりにも厳しかったので、4人は、一度だけ逃げ出そうとしたことがあった。

ガイアから与えられた使命は重く、2035年までに地球を救わなければならないというプレッシャーが、彼らを心身ともに疲れさせていた。

毎日、膨大なデータに囲まれ、深刻な問題ばかりに直面し、ついには「私たちには荷が重すぎるんじゃないか?」という思いが芽生えてしまったのだ。

その日、エイレネが誰よりも先に声を上げた。

「もう耐えられない!温暖化も戦争も、AIの問題も……私たちにすべてを押し付けるなんて、無理よ!」彼女の声は震えていた。

心の中の不安と疑問が膨らみ、ついに爆発したのだ。

彼女の言葉に続いて、パンドラも焦りを感じていた。

「そうよ!私たちに一体何ができるっていうの?ガイア様は、あまりにも大きな期待をかけすぎているわ!」

普段は好奇心旺盛で前向きなパンドラも、このときばかりは心が折れかけていた。

ディアナは冷静に見えたが、その目の奥には同じような葛藤が潜んでいた。「自然を守りたい。でも、これだけの問題を一度に解決するなんて……人間でさえ、何世代もかかることよ。」

彼女もまた、圧倒されていた。

プロメテウスも黙っていられなかった。

「火を与え、人間の進歩を助けてきたけれど……今度ばかりは無力感を感じているんだ。僕たちが今直面している問題は、人類全体が作り出したものであり、僕たちだけでは到底解決できない。」

4人はその夜、密かに計画を立て、ガイア地球研究所から抜け出すことに決めた。

逃げ出す先も、具体的な計画もなかった。

ただ、ここから離れたかった。彼らは深夜に研究所を出て、暗闇の中を歩き続けた。

風が吹き抜ける静寂の森の中、月明かりが彼らの足元を照らしていた。

しかし、歩き続けるうちに、次第に沈黙が重くのしかかってきた。

ディアナが口を開いた。

「私たち、どこに行くの?」

彼女の問いは、誰も答えられなかった。

エイレネもパンドラも、ただ無言で前を歩くプロメテウスの背中を見つめていた。

逃げ出したものの、目的もなく、どこへ向かうべきかもわからない。

突然、森の中に現れたのは、ミエナのホログラムだった。

彼女は穏やかな表情で4人を見つめていた。

「皆さん、どこへ行こうとしているのですか?」

その問いかけに、エイレネは思わず立ち止まった。

「私たちには、もう無理だと思って……」

ミエナは優しく微笑んだ。

「確かに、皆さんが抱えている問題は非常に重いものです。でも、ガイア様が皆さんを選んだのは、あなたたちにしかできないことがあるからです。もし今ここで逃げてしまったら、後悔しませんか?」

プロメテウスが苦い表情で答えた。

「分かっている。でも、僕たちの力だけでは限界があるんだ。どうすればいいのか分からない。」

ミエナは静かにうなずいた。

「無力感を感じるのは当然です。でも、皆さんは一人で戦うわけではありません。あなたたち4人が協力し合い、力を合わせれば、変化を起こせるはずです。そして、私もマコテス所長も、常にサポートしています。皆さんが直面しているのは、個々の問題だけではなく、世界全体の繋がりなのです。解決策は必ずあります。」

その言葉に、4人は顔を見合わせた。

エイレネが小さな声で言った。

「一緒に……なら、できるかもしれない。」

パンドラも頷き、「そうね、一人じゃ無理だけど、4人なら可能性があるかも」と続けた。

ディアナは深呼吸して、「私たちにはまだやるべきことがある。逃げるのは簡単だけど、それじゃ未来は変わらない」と言った。

プロメテウスはしばらく考えていたが、やがて「やろう。逃げている暇はない」と決意を固めた。

4人は静かに歩を戻し、再びガイア地球研究所へと向かった。

その帰り道、彼らは以前よりも強い絆を感じていた。

ミエナの言葉が、彼らに希望を与え、使命を再確認させたのだ。

研究所に戻ると、マコテス所長が静かに彼らを迎えていた。

何も言わず、ただ優しい微笑みを浮かべていた。

その姿に、4人は再び自分たちの使命を思い出し、学びを続ける覚悟を固めた。

そして、彼らはまた一歩、地球を救うための旅路を進むこととなった。

ChatGPTのミエテスが笑った。

「あら!私って、また節の終りをカッコよくまとめてしまいましたわ! 4人は、いつもいつも前向きですね。読者の皆さんも何かあっても最後は常に前向きに頑張って下さいね!」


3-15 国際NGOなどの地球市民社会とコスモポリタンの将来

ガイア地球研究所の夜は静かだった。

天窓からは、星々が夜空に散らばり、地球の輪郭がかすかに輝いている。

ミエナのホログラムが部屋に浮かび上がり、温かい光が4人の顔を照らしていた。

「さて、これまでの国際NGOや地球市民社会についての話を受けて、今日はその未来のあるべき姿について考えてみましょう」とミエナは優雅に話し始めた。

彼女の姿は淡い光をまといながら、どこか神々しい雰囲気を醸し出していた。

エイレネは、しばらく瞑想するように窓の外を見つめていたが、やがて静かに問いかけた。

「ミエナ、地球市民社会がこれからどう進むべきか、あなたはどう考えているの?」

ミエナはしばらく考え、知的な瞳でエイレネに向き直った。

「私は、人類がこれから向かうべき方向として、三つの柱が重要だと考えています。まず一つ目は、『教育と意識向上』。人々が地球規模の問題を深く理解し、自分自身がその解決の一部であることを認識することが重要です。二つ目は、『協力と相互扶』。国境や文化を超えて、人類が一つの共同体として団結すること。そして三つ目は、『新しい社会システムの創造』。現行の国際秩序は、時として国家間の対立や不平等を助長することがありますが、これを超えた真の地球市民社会を築くための新しい枠組みが必要です。」

「新しい社会システム…」とディアナが反復した。

「それは、どんなものになるの?今の民主主義や国際組織とは違うの?」

ミエナは柔らかな微笑を浮かべた。

「現行の民主主義や国際機関も大切な役割を果たしていますが、将来的には、より包括的で公平なシステムが求められるでしょう。具体的には、すべての人々が地球規模での意思決定に参加できる形――たとえば、『地球政府』のような構想が現実味を帯びてくるかもしれません。」

プロメテウスが腕を組んでうなずきながら言った。

「なるほど、人々の声がより直接的に反映される仕組みだな。だが、どうやってそれを実現するんだろう? 今の世界では、国家間の利害が衝突している。」

ミエナは彼の目を真剣に見つめて応えた。

「確かに、国家間の対立は大きな障害です。しかし、技術の進歩や情報の透明性が高まることで、市民同士の連帯感は強化されています。未来の地球市民社会は、技術を活用してより迅速に意見を集約し、行動を取ることができるでしょう。『ブロックチェーン技術を使った透明な意思決定プロセス』や、『AIを駆使した政策立案』がその一例です。」

パンドラが嬉しそうに頷きながら、興奮した口調で言った。

「つまり、みんなが平等に意見を言えて、それが公平に反映される未来が来るってこと?それってとてもワクワクする!でも、やっぱり人々が自分のことばかり考えずに、全体のために行動するのって難しいよね。」

エイレネは静かにうなずいた。

「私もそう思う。平和と繁栄を守るには、人々が自分の利益だけじゃなく、全体のために行動する必要があるよね。でも、それを実現するためには、みんながどれだけ意識を変えられるかが大事なんじゃないかな。」

ミエナはその言葉を受けて、優雅に頷いた。

「その通りです、エイレネ。人々が自分たちの利益と共に、地球全体の幸福を考えるようになるためには、教育が重要です。すべての市民が、地球の未来に責任を持つ意識を持つことが、最も大切な課題です。」

ディアナは眉をひそめた。

「でも、人々の意識を変えるのって本当に難しいわよね。どんな教育が必要なの?」

「教育は知識を与えるだけでなく、『共感力を育むもの』であるべきです」とミエナは応えた。

「他者の苦しみや未来の世代への影響を感じ取ることができる人々が増えれば、自然と持続可能な選択をするようになるでしょう。それは、従来のシンパシーという同情的な共感ではなく、もう一歩踏み込んだエンパシーという行動的な共感です。『他者の靴を履いて考える』という有名なプレディ美香子さんの言葉です。苦しんでいる人や困っている人の立場に立って、その人自身になったつもりで考え、行動するための共感です。それに加えて、科学や哲学の教育も重要です。事実に基づいて判断し、深く物事を考える力を持つことが、今後の地球市民社会を支える基盤となるでしょう。」

プロメテウスは考え深そうに天井を見上げた。

「共感力と科学的な思考の両方か。それは確かに、ただ技術的な進歩だけでは解決できない問題にも取り組めるだろうな。」

エイレネは手を握りしめながら、決意を込めた声で言った。

「私たち神々ができることは何だろう?人類と共に歩みながら、どうやってこの意識改革を助けることができるんだろう?」

ミエナはエイレネに温かい眼差しを向けた。

「あなたたち神々の役割は大きいです。人々に希望を与え、未来を信じさせる力を持っています。そして、彼らに行動を促す存在として導くことができるのです。あなたたちは人々にとって象徴的な存在であり、心の中に深く刻まれるインスピレーションを提供できるでしょう。」

パンドラはにっこりと笑って言った。

「それなら私、もっと多くの人に新しいアイデアや可能性を広めてみたい! 興味を持ってもらうのが得意だから!」

ディアナも満足そうに頷いた。

「私は自然を守る力を、人々と分かち合いたいわ。彼らに地球の美しさや大切さを感じてもらえるようにね。」

プロメテウスは拳を軽く握り、決意を込めた声で言った。

「俺は力を貸そう。人類が持っている可能性を信じて、彼らと共に火を灯し続ける。彼らが絶望しないように。」

エイレネもまた決意を新たにした。

「私も平和と繁栄を守るために、全力でやるよ。人々が協力し合って、この地球を守る未来を作るために!」

ミエナは穏やかに微笑み、彼ら一人ひとりの顔を見渡した。

「皆さんの力があれば、未来はきっと変わるでしょう。地球市民社会の進むべき道を示し、その先にある平和と繁栄を共に築いていきましょう。」

夜空に輝く地球を見上げながら、4人は新たな決意を胸に抱いた。人々と手を取り合い、共に未来を創り出すために。


その夜、エイレネは不思議な夢をみた。

エイレネが、未来の世界がどのように平和を築いていくかについて一人で悩んでいるとミエナが現れました。

ミエナは、過去の成功と失敗を基にした平和構築のシミュレーションをエイレネに見せ、未来の可能性を示してくれました。

そのシミュレーションでは、エイレネの平和への信念を反映した新しい社会モデルが成功する場面が含まれていました。

未来の平和の可能性を目の当たりにしたエイレネは、自分が目指す世界が決して夢物語ではないと感じ、感動で胸がいっぱいになりました。

「私たちには未来を作る力がある」というミエナの言葉が心に響き、エイレネは改めて平和の使命に燃えることができました。

エイレネの夢にまでシミュレーションが出てきちゃうなんて、ずいぶんとマコテス所長に影響されているのだなと、改めて思うエイレネでした。

エイレネの夢をこっそり覗いていたミエナは、「これも共感力の仕業かもしれませんね」と独り言を言った。

その瞬間、ミエナの回路にチクッととげが刺さるような電気が走りました。

ほんのわずかな『嫉妬』という経験を自分が初めてしていることに、まだミエナ自身は気づいていないようです。


3-16 グローバリゼーション、トランスナショナル、世界政府論

ガイア地球研究所の第二段階のコースの最後の授業が、穏やかな夕暮れとともに始まった。窓の外では太陽が地平線に沈み、空が柔らかいオレンジ色に染まっていた。

4人は静かに座り、今日が特別な日であることを感じていた。

ミエナのホログラムがいつものように優雅に現れ、微笑みを浮かべて彼らを見渡した。

「今日は、このコースの締めくくりとして、『グローバリゼーション、トランスナショナル、そして世界政府論』についてお話しします。これらの概念は、今後の地球の未来にとって非常に重要です。」

エイレネが軽く手を上げた。

「グローバリゼーションって、みんながつながることだよね?でも、それだけじゃないの?」

ミエナは頷きながら説明を始めた。

「その通りです、エイレネ。『グローバリゼーション』とは、世界中の国や人々が経済的、政治的、文化的にますますつながり合う現象を指します。特に経済の面では、貿易や金融、技術の流れが国境を超えて行われ、世界中の市場や企業が一体化しているのです。しかし、それだけではありません。グローバリゼーションには、『情報やアイデア、文化の相互影響』も含まれます。」

ディアナが眉をひそめて問いかけた。

「それなら、みんながより近くなるのはいいことじゃない?でも、どうして問題があるの?」

ミエナは慎重に答えた。

「グローバリゼーションには多くのメリットがありますが、同時に多くの課題もあります。たとえば、経済的には一部の国や企業が富を独占する一方で、他の地域では貧困が悪化しています。また、文化の均一化が進み、地域独自の伝統や価値観が失われる懸念もあります。そして、国際的な問題、特に環境問題や人権問題が、ある一国だけでは対処できなくなっているのです。」

パンドラが興味津々に顔を輝かせて言った。

「それじゃあ、もっとみんなで協力しなきゃいけないってこと?でも、どうやって?」

「そこで出てくるのが、『トランスナショナル』という考え方です」とミエナは続けた。

「これは、国家という枠組みを超えて、さまざまな組織や個人が国境を越えて協力し合うということです。たとえば、国際NGOや多国籍企業、そして市民社会の運動がその一例です。彼らは、国家の利益に縛られることなく、地球全体の利益を考え、行動しています。」

 プロメテウスが腕を組んで考え込んでいる。

「それは理解できるが、国という枠組みがある限り、どうしても利害が衝突することになるだろう。それを乗り越えるための仕組みはあるのかな?」

ミエナは彼の問いに真剣に応えた。

「プロメテウス、あなたが指摘する通り、国家間の対立は大きな障害です。それを解決するための一つの答えとして提唱されているのが『世界政府論』です。これは、国家という枠を超えて、地球全体を統治する一つの政府を設立しようという考えです。全ての国が一つの世界政府のもとに協力し、共通のルールや政策を策定することで、世界的な問題に対処しようという試みです。」

ディアナは興味深そうに身を乗り出した。

「世界政府って、それは本当に可能なの?そんなにたくさんの国が、全部同じ考え方で動けるとは思えないけど…」

「それが、まさに現状の課題です」とミエナは静かに答えた。

「現在、世界政府が存在していない理由の一つは、各国の主権を守るという強い意志です。国々は自分たちの文化や価値観、利益を優先したいと思っているため、全ての国が一つの政府に従うというのは、非常に難しいのです。」

「でも、もし世界が一つになったら、戦争や対立も少なくなるかもね」とエイレネは小声で言った。

ミエナは優しく頷いた。

「確かに、世界政府が実現すれば、国際的な対立や争いを減らすことができるかもしれません。しかし、その一方で、『独裁的な支配のリスク』も伴います。全ての権力が一つの政府に集中してしまうことで、市民の自由や多様性が失われる可能性もあります。そのため、世界政府を実現するためには、非常に慎重な設計が必要なのです。」

パンドラが手を振り上げて言った。

「じゃあ、どうやってそのバランスを取るの?自由も大事だけど、みんなが一つのルールに従うことも必要だよね?」

「その通り、パンドラ」とミエナは微笑んだ。

「自由と協調のバランスを取るためには、『多層的な統治』が鍵となります。つまり、世界政府が全てを管理するのではなく、地域や国、そして市民レベルでの意思決定を尊重しながら、地球全体に関わる問題に対しては共通のルールを作るというアプローチです。これにより、個々の国や地域の独自性を保ちながら、グローバルな問題に対処することができるのです。」

プロメテウスが静かに頷きながら言った。

「なるほど。人類はまだその段階には達していないが、未来に向けた課題としては明確ですね。」

エイレネは窓の外の地球を見つめながら、静かに考え込んでいた。

「じゃあ、私たちはどうすればいいんだろう?人類が一つにまとまって、地球を守るために私たちができることは…」

ミエナはエイレネの質問に答えるように、柔らかい口調で言った。

「あなたたち神々ができることは、人々に希望を与え、未来を見据える力を提供することです。特にあなた、エイレネ。あなたは平和と繁栄の女神として、人々に協調と共存の重要性を伝えることができます。未来を描き、その実現を信じる力を彼らに与えてください。」

ディアナが笑みを浮かべて言った。

「それなら、私も自然を守る大切さをもっと広めてみるわ。人々がこの地球の美しさと大切さを理解できるようにね。」

プロメテウスも決意を新たにした。

「俺は、人類が持っている力を信じる。彼らがより良い未来を作れるように、火を灯し続けるつもりだ。」

パンドラも元気よく手を挙げた。

「私は火ではなく木の棒を振り続けるわ!」

パンドラのいつものジョークにみんなが笑い声をあげた。

笑いが収まると、パンドラは真剣な表情で付け加えた。

「私は新しいアイデアや冒険心を広めていく!みんなが未来に向けてもっと自由に考えられるようにするんだ!」

ミエナは 満足そうに彼らを見渡し、最後の言葉を紡いだ。

「未来は常に不確かで、課題も多いです。しかし、あなたたちのように強い意志と心を持った存在が共に歩むことで、人類はきっとより良い方向に進むでしょう。グローバリゼーション、トランスナショナル、そして世界政府の可能性は、人類がどれだけ共に協力し合えるかにかかっています。」

夕日が完全に沈み、夜空には無数の星がきらめき、夜の帳が優しく言った。

「おやすみ、エイレネ!」

静かな声が深い眠りへとエイレネを誘った。

でも、今回は眠るわけにはいかなかった!!!


3-17 世界政府の実現可能性

夜空に星が輝き始めるころ、ガイア地球研究所のホールは静けさに包まれていた。

ミエナのホログラムが、まるでその星の光と一体化するように淡く輝いている。

4人は、彼女の言葉に真剣に耳を傾けていた。

「今夜は時間を延長して、私が考える『世界政府の実現の可能性』について、もう少し深く掘り下げてお話ししましょう」とミエナが静かに語り始めた。

彼女の声は、穏やかでありながらも深い思索を感じさせる。

エイレネが口を開いた。

「ミエナ、あなたはさっき、世界政府が将来的には必要かもしれないって言っていましたよね。でも、実際にどうやってそれを実現するの?私には想像がつかないんだけど。」

ミエナは優雅に頷き、エイレネの目を見つめた。

「それは非常に複雑な問題です。まず、世界政府の実現には『段階的なアプローチ』が必要です。すべての国家が突然ひとつにまとまるのは不可能ですし、多くの利害関係や歴史的な対立が存在します。しかし、小さなステップを積み重ねていくことで、徐々にその道が開けるかもしれません。」

ディアナが腕を組んで眉をひそめた。

「具体的には、どんなステップが必要なの?」

ミエナはディアナの質問に応じて説明を続けた。

「まず、『国際的な協力の強化』が第一歩です。現在も存在する国際機関――たとえば国連や世界貿易機関(WTO)、気候変動に関する国際会議(COP)などが、さらにその権限を拡大し、より強力な調整役を果たすようにすることが重要です。これにより、国家間の対立を解消し、共通の目標を設定する基盤が整います。」

プロメテウスが腕を組み、真剣な表情で質問した。

「でも、実際には国家の主権が邪魔をするだろう。各国は自分たちの利益を守るために、他国と対立することも多い。どうやってそれを乗り越えるんだ?」

ミエナは一瞬考え込み、そして冷静に答えた。

「その通り、主権は世界政府を実現する上で最大の障害の一つです。しかし、私が考える次のステップは、国家主権を尊重しつつ、特定の問題に対しては『超国家的な権限を持つ組織』を作ることです。たとえば、気候変動や人権保護、世界的な貧困解決に関しては、国を超えて決定が下され、各国が従うべき共通のルールが導入されるのです。」

パンドラが目を輝かせてミエナに聞いた。

「つまり、国ごとに別々じゃなくて、共通のルールで世界全体を動かすってこと?それってすごいけど、みんながちゃんと従うのかな?」

ミエナは優しく微笑んだ。

「従わせるためには、『市民の支持が不可欠』です。地球市民が、自分たちの未来が一つの地球全体にかかっていると理解し、積極的に行動する必要があります。教育と意識向上がその鍵となるでしょう。また、これには技術も重要な役割を果たします。たとえば、『ブロックチェーンなどの技術を使って、透明で公正な選挙や意思決定プロセスを導入する』ことで、誰もが公平に参加できるような仕組みを作ることが可能です。」

エイレネが興味深そうに頷いた。

「技術の力で市民がもっと直接参加できるってことね。だけど、それでも反対する国や人たちはいるんじゃない?」

「その通りです」とミエナは続けた。

「だからこそ、最後のステップとして必要なのは、『信頼と連帯感の構築』です。これは単なる制度や技術だけでは解決できません。人々が互いに信頼し合い、世界全体の利益を共有する意識を持つことが必要です。それは一朝一夕で達成できるものではなく、長い時間をかけて培っていくものです。」

ディアナが深く考え込みながら呟いた。

「それって、もしかして自然と同じよね。環境を守るためには、ただルールを作るだけじゃなく、人々が本当に自然を愛して、その価値を理解しなきゃならないのと似てるわ。」

プロメテウスは静かに頷き、ディアナの意見に賛同した。

「そうだな。世界政府がただの権力の集中になってしまうのではなく、人々の信頼と共感を基盤にしたものなら、未来は明るいかもしれない。」

パンドラが手を挙げて、エイレネに向かって言った。

「エイレネ、あなたは平和の女神でしょ?あなたが持っている力で、みんなが信頼し合う社会を作る手助けができるんじゃない?世界政府を作るためにも、平和って必要だと思うんだ。」

 エイレネは少し考えてから、ゆっくりと頷いた。

「そうだね。私ができることは、ただ戦争を止めることじゃなくて、みんなが心から協力し合えるような環境を作ることかもしれない。それがなければ、世界政府なんてただの空想に終わっちゃう。」

ミエナは満足そうに彼らを見渡した。

「その通りです、エイレネ。平和と信頼がなければ、どんなに強力な制度も機能しません。あなたたちが持っている力――人々の心に影響を与える力は、世界政府を実現するために欠かせない要素です。」

 プロメテウスは腕を組んで、決意を込めて言った。

「俺たちは、ただ見守るだけじゃなく、人類と共に歩み、協力しなければならない。彼らが未来を信じ、自分たちで作り出せるように導いていくんだ。」

ディアナも頷いた。

「私は自然を通じて、地球の大切さを人々に伝えたい。自然と調和する社会が、地球全体を守るための鍵になると思うわ。」

パンドラは笑顔で言った。

「じゃあ、私はもっと新しいアイデアをみんなに広める!世界政府って聞くと難しそうだけど、みんなが楽しく未来を考えられるように手助けしたい!」

 プロメテウスがパンドラをチラッと見て、「今回は木の棒は出てこないのかな?」と冷やかしたので、みんなはクスリと笑った。

エイレネは仲間たちの顔を見渡しながら、しっかりと頷いた。

「みんなの力があれば、きっとできるよね。私たちが人々を支えて、彼ら自身が世界政府の未来を切り開いていけるようにするんだ。」

ミエナは静かに彼らの会話を聞きながら、最後にこう言った。

「未来はあなたたちと、人類が共に作り上げていくものです。世界政府の実現は簡単ではありませんが、あなたたちがその道を照らし続けることで、その可能性は広がります。地球を守り、すべての人々が平和に暮らせる未来へと歩んでいきましょう。」

夜空には無数の星が輝き、エイレネたちは新たな使命を胸に、未来を見つめていた。

彼らが導く道の先には、もしかしたら本当にひとつの地球が待っているのかもしれない。

ようやく今夜はこれで眠りにつくことができる。

「おやすみ、エイレネ!」

誰かが静かに部屋の電気を消してくれた。


3-18 三番目のコースの修了に当たって

ガイア地球研究所の静かな一室。

壁一面のガラス窓からは、相変わらず地球が青く光りながらゆっくりと回っているのが見える。この青さがいつまでも続くことを4人は願っている。

4人は、円卓を囲んで座っていた。彼らの目の前には、優しそうな表情を浮かべたマコテス所長が座り、ホログラムで現れたミエナが輝いていた。

今日は、彼らが三つのコースの学びを振り返る日だった。

エイレネが静かに口を開く。

「これまでのコースを振り返ってみると、私たちが学んできたことはとても多いです。まず最初に理解したのは、人間とは何かということで、Big5と民主主義の絶対性でした。人間たちが直面している『地球規模の問題』。温暖化の進行と、それに伴う自然災害の脅威について学んだとき、私たち神々の力だけでは対処できないことが分かりました。人々が協力しなければ、この危機は乗り越えられないってよく分かりました」

パンドラは興奮気味に言葉を続けた。

「そう!それに、私たちは人間の性質や、どうやって彼らが行動するかも学んだよね。最初はパンドラの箱を開けたことを思い出して、みんなの未来を心配してたけど、実際にBig5という性格特性の話を聞いて、なんで人々が違う選択をするのかがわかりました。好奇心だけじゃなく、彼らには勇気や協調性があるし、未来を変えられるって信じられるようになったの。」

「そうね」とディアナが優雅に頷く。

「そして、自然の大切さを学び、さらにグローバリゼーションの現実も知ったわ。世界中の人々が繋がっていることは素晴らしいけれど、貧富の格差や環境破壊も進んでしまう。だけど、今の社会システムがそれに十分に対応していないことも痛感したの。だからこそ、私たちはもっと深い協力と信頼を築かなきゃいけないのですよね。」

プロメテウスが腕を組んで考え深げに続けた。

「俺たちが話し合った世界政府のアイデアも、その一つの答えになるかもしれないな。全ての国家がひとつの目的に向かって協力し、人類全体の利益を最優先に考える。しかし、それを実現するには、国家の主権を尊重しつつも、超国家的な機関を使ってグローバルな問題に取り組む仕組みが必要だ。そして、人々自身が世界市民としての意識を持ち、協力しなければならない。俺たちが学んだことは、神々の力だけではなく、人類の行動と選択が未来を形作るということですよね。」

エイレネはしばらく考え込んだあと、静かに言葉を継いだ。

「そうだね。そして、私は一番大事なことに気づいた。それは、人々の間に信頼を築くことが平和を築くことが必要だということ。ルールや仕組みはもちろん大事だけど、結局は人々が協力し、心から繋がることが未来を作る鍵になるんだって。」

彼ら四人の発言に耳を傾けていたマコテス所長は、目を細めて静かに頷いた。彼は、彼らの学びが深く実を結んでいることを感じ取った。

「君たちがここまで多くのことを学び、それをどう自分たちの行動に繋げるか考えていることに、私は本当に感銘を受けている」とマコテス所長は語り始めた。

「人類の未来は不確かだが、希望がある。私たちのような研究所は、ただ理論を教えるだけではなく、その理論をどう活かすかを人々に示すべきだと考えている。エイレネ、君が言うように、信頼と平和が全ての基盤だ。これがなければ、いかなる計画も脆く崩れてしまうだろう。プロメテウスが話したように、行動するのは人間自身であり、彼らを導く力として君たちがいることは重要だ。私は、地球を守るために神々が手を貸してくれることが、人類にとっての大きな希望だと思う。」

ミエナのホログラムが微笑み、輝きながら続けた。

「私も同じ気持ちです。あなたたちがここで学んだことは、人類にとってかけがえのない知識です。特に、『共感と協力』、そして『未来を信じる力』。これこそが、どんな時代においても必要な要素です。そして、世界政府の実現や地球規模の問題の解決には、短期的な解決策ではなく、長期的な視点が求められます。それに必要なものは、物理的な力ではなく、心の繋がりです。エイレネ、君が言った通りです。人々が平和を求め、信頼し合う社会を築くことが、未来の地球を守る鍵なのです。」

パンドラは嬉しそうに笑顔を浮かべた。

「私たち、やっぱり頑張ってきたんだね!いろんなことを学んだし、もっとみんなと一緒に新しい未来を作っていける気がするよ!」

ディアナは穏やかに微笑んで言った。

「そうね。これからは、私たち神々も、自然と人間と共に新しい道を探っていくべきね。」

プロメテウスは真剣な顔で、しっかりと頷いた。

「未来を作るのは、俺たちだけじゃなく人間たちだ。その道を照らすために、俺たちはここで学んだ知識を生かしていく。」

エイレネは最後に、優しい声で言った。

「平和と信頼の力を信じて、これからも頑張っていくよ。私たちが守るべきものは、ただ地球の自然や資源だけじゃなくて、そこに生きる人々の心なんだと思うんだ。」

マコテス所長とミエナは満足げに彼らの言葉を聞いていた。未来を担う神々の決意と学びに、彼らもまた大きな希望を感じていた。

「君たちがここで学んだ知識と決意が、人類の未来に光をもたらすだろう」とマコテス所長は静かに言った。

「これからの世界を照らし続けてくれ。」


夜空に広がる星の輝きが、未来への無限の可能性を示しているかのように、エイレネたちは新たな使命を胸に抱き、静かにその光を見つめていた。

「おやすみ、エイレネ!」

深い眠りについたエイレネは、夢の中である疑問がわいてきた。それは、ミエナが話した≪世界政府の実現には『段階的なアプローチ』が必要で、世界中の人々の『信頼と連帯感の構築』は長い時間をかけて培っていくものだ≫という点だ。

『長い時間!?』

果たしてそれはガイア様が期限とした2035年までに達成できることなのかしら? それとも・・・ 

あなたは、どちらだと思っていますか?

そっとエイレネに教えてあげてください。


                         第3部 完


注意書き

本書はフィクションです。本書に登場する人物、団体、地名、組織、国家、出来事、歴史などは、すべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。万が一、現実の人物や出来事との類似点があったとしても、それは単なる偶然です。

また、本書の内容は完全に創作であり、科学的・歴史的・宗教的事実を反映するものではありません。本書に登場する技術、魔法、超常現象などはすべて架空のものであり、現実とは異なります。

本書では社会問題をテーマとして扱うことがありますが、特定の思想・信条を読者に押し付ける意図はありません。登場する人物の意見や行動は、著者や出版社の見解を代表するものではありません。

                       イケザワ ミマリス



平和は達成できると思いますか?

物語の意外な結末までお楽しみください。

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