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TURN11 バーサーク・ロロとオーダー・ラピス

 アンジェリカを守り隊(仮)に一縷の希望が差してきたのと同時期のこと。

 ヴィランランク9位、識別名ライカ・フワこと幽世歩きに拉致され、ヴィラン支援機構ブラックマインドが設立した再教育センターに叩きこまれたロロとラピスが再教育センターから出所していた。

 再教育センターは何連続も任務に失敗した者や離反を起こした者を収容し、教育という名の洗脳を施す施設である。ラピスはこの再教育センターでの教育を自身の異能である『秩序の魔眼』でなかったことにできたが、問題はロロの方だった。

 ロロが再教育センター送りにされるのはこれで三度目であり、離反を起こしヒーローとしてブラックマインドに多大なる被害をもたらしたとしてレベルの高い教育を施されたのだ。それこそ、『秩序の魔眼』でもどうすることもできないレベルでの洗脳を。

 ロロは元々自身がいかにかわいいかを主張し、そしてそれを最大化する手段を追い求めるきらいがある。そこへ巧みな話術で幽世歩きが付け入り、ブラックマインド傘下のヴィランとして活動することになったのだが、いかに甘い言葉でも無理のある言葉を完全に鵜吞みにするほどロロは愚かではなく、任務遂行に支障が出たため一度再教育センターに送られた。そこでロロは『大斧でヒーローを殺したり物を壊したりする時が一番かわいい』と刷りこまれてしまった。この刷りこみはラピスの説得と『秩序の魔眼』でどうにかなったのだが、追加で二回も再教育センターでの教育を受けたロロをラピスはどうすることもできなかった。

 アンジェリカを守り隊(仮)とライカ・フワを騙った幽世歩きの初戦で幽世歩きの甘言であっさりと寝返ったのは二度目の再教育センターでの教育を受けたせいでもあり、三度目ともなればそれはもはや洗脳すら生ぬるい。当事者にとっての『常識』と言ってさしつかえないレベルになってしまう。こうなってしまえばいかに『秩序の魔眼』と言えど手の施しようがない。

 そんなロロに早速ブラックマインドから依頼が入った。内容は、秩父山中で戦闘訓練中のヒーロー候補生たちの殲滅。ロロはこれを快諾し、ラピスに言った。

「ねえ、ラピス。今回もナイスなオペレートお願いできる?」

 洗脳を超えて常識を改竄されたと言っても過言ではないロロだが、そこ以外の部分は普段の彼女と変わりなく、信頼と親愛をこめた要請をされて断る選択肢などラピスにはなかった。それが戦闘ではなく一方的な虐殺の補助だとしても。




 ここまでラピスがロロに肩入れするのには理由がある。

 そもそもラピスがヒーローになったのは、故郷であるエイルル帝国の施策で非人間種のヒーローを増やそうとする試みがあり、警吏として治安維持に従事していた獣人のラピスに白羽の矢が立ったから。更にさかのぼってラピスが警吏になったのは、四歳年上の姉貴分であるロロからの影響が強かったためである。

 ロロは幽世歩きに甘言を吹き込まれるより以前は『お助け屋』という何でも屋を営み、依頼主の困りごとの解決を生業にしていた。依頼遂行率はそこまで高くなかったが、ロロの人となりに惚れこんでリピーターとなる者はそれなりに多かった。

 かく言うラピスもその一人で、ロロのそんな背中を見て人々の役に立つ仕事に従事したいと考え警吏を志し、ヒーローにまでなった。ロロとの個人的な交流からロロの仕事風景に至るまでの全てが、ラピスの人生に影響を与えていた。

 だからこそ、悪質な客の起こしたトラブルのせいでヴィランになってしまったロロをわざわざ説得してヒーローに鞍替えさせたり、フワ・インダストリーズ製第10世代魔法少女ユニットを買い与えたり、ヒーローでありながら自身はオペレーターに徹したりした。

 ラピスにとって、ロロが一番かわいいのは人助けをして褒められているときの表情だ。今のロロは真逆のことをしているが、いつの日にかまたヒーローに戻ってかつてのかわいさを存分に堪能できると信じて、ラピスは冷徹にオペレートする。

 何故か?

 ラピスは、ロロのことが大好きだからだ。

「ロロさん、音速飛行で接近して初手で秩父山を吹き飛ばしたからといって全滅したとは限りません。やるなら徹底的に、討ち漏らしがないようにしましょう。ロロさんの目指す『かわいさ』はそこまでやって次の段階へと行けるはずです」

 ラピスはロロに助けられてきた。癒されてきた。目指すべき目標となってくれた。

 だからラピスは今のロロがしたいことを全力でサポートする。本意ではないとはいえ今の自分がヴィランだからではなく、ただただ大好きなロロのために。

 ただそれでも、洗脳を自力で解除してヒーローとしてのメンタリティでヴィランとしての任務や依頼を遂行するのは、精神的な負担が大きい。下手をすれば正気を削りかねない所業だった。困っている人を助けて礼を言われてはにかむロロの姿が一番かわいいと信じてやまないのに、肝心の今のロロはそう考えておらず、悪逆非道と破壊の限りを尽くして暴れ回って壊して殺す自分の姿が一番かわいいと思いこんでいる。この矛盾に、心が砕けそうになる。

 ラピスはそれを、自身に『秩序の魔眼』の効果を適応することで無理矢理帳尻合わせしていた。思考の矛盾や心の中の痛みも『秩序ではない』と扱われるらしく、一時的にではあるが秩序的な状態……つまりは平常に戻れるのだ。

「3時の方向に敵影を確認しました。銃か何かは不明ですが飛び道具を持っているようなので警戒しながら攻撃を加えてください」

 荒っぽいやり方だが、魔眼系統の異能ならではの使い方と言える。何より、魔眼は使いこむことで成長していくものもあるという。

「6時の方向、距離500! ヒーローランカーと思わしき魔法少女が三名来ます! 迎撃を!」

 ラピスは秩序の魔眼が成長し、いつの日かロロの改竄された常識を秩序にする力を得る時が来ることを願い、今日も己を秩序にしていく。

「魔法少女三名の撃破、ならびにヒーロー候補生群の殲滅を確認しました。ロロさん、安全運転で帰還してください」

 ラピスの永い戦いが始まった。




 ラピスがそう意気込んでから数日経ったある日のこと。

「デートですって!?」

「あー、うん。ラピスがそう思うならそういうことでいいよ。ほら、オペレーター持ちのヴィランやっているでしょ私。オペレーターであるラピスに結構負担かけちゃっているみたいだから、息抜きとかしてあげたいなーって」

 ロロが息抜きとしておでかけを提案してきた。ラピスは即座にその提案をデートと解釈したが、秩序の魔眼で精神に干渉する日々を送っているラピスがとうとう錯乱したわけではない。ラピスは単純にロロとの触れ合いを欲していたからだ。

 ロロの提案は、オペレーターへの福利厚生の面で見れば正しい。現実問題、ラピスは理想と現実の乖離に対して魔眼の常用という形で無理矢理精神を安定させてきた。つまり、ロロのせいでかなりの負担を強いられている。それに対してロロが慰安を提案するのは至極真っ当なのだ。ラピスの反応と実情がロロの予想とは異なっただけで。

 ロロさんとデート! とクリスマスの朝起きたら枕元に欲しかったものがプレゼントとして置かれていた童のように喜ぶラピスに、ロロは思わずはにかんだ。それから思い出したかのようにおめかししに行かなきゃとダッシュでいずこへと走り去った自身のオペレーターを見て、自分の身の振り方について反省の念が湧いてくるロロであった。

 が、そうは取次が搬入しない。ロロとラピスが行った先ではたまたま別の任務中のヴィランがヒーローと市街地戦を繰り広げていた。ヒーロー支援機構ホワイトマインドとヴィラン支援機構ブラックマインドが設立されてからの日本では最早日常風景と化している、いわゆる『いつもの』である。

 ロロはヴィラン側につくかそのまま立ち去るか数瞬ほど逡巡した。しかしその瞬きの間に、ラピスがロングスカートをひるがえして戦闘に乱入した。

 手始めにヒーローを非殺傷性と高威力を兼ね備えた暴徒鎮圧用の銃弾で銃撃しダウンさせ、動揺するヴィランにはいつの間にか装備したメリケンサックで殴りかかるラピスの姿は、普段のおしとやかさからは想像もつかない、例えるなら猛犬のそれだった。

「空気の読めないヴィラン! わたくしたちを助けようともしないヒーロー! ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな!」

 ラピスの一撃をもらい怯んだヴィランは、そのまま怒りに任せたラピスの拳のラッシュを叩きこまれ、シメの強烈な一撃を食らってきりもみ回転しながら吹き飛ばされた。

 地面に倒れ伏したヴィランに、ラピスはマウントポジションをとって顔面を殴打し始める。

「毎日毎日毎日毎日魔眼で精神を秩序にしてようやく保てているのに! ロロさんとのデートでそのツケを精算できるはずだったのに! 余計なことばかりして! わたくしの拳で直接秩序にしてやります! ドラララララーッ!」

 往復するようなラピスの殴打はラッシュへと変わり、ヴィランの顔面はみるみるうちに変形していく。

 オペレーターの人の変わったような暴走と、それのとばっちりを受ける同僚を見て、ロロはラピスをヴィランから引き剥がした。

「離してくださいロロさん! わたくしの気が済むまでやらせてください!」

「ラピスっ!」

「っ!?」

「……今からおうちデートしよ?」

「おおおおうちデート!? はいっ、喜んでっ!」

 憑き物が落ちたかのように普段通りの様子に戻ったラピスに、ロロは内心困惑を感じるものの、これは普段自分がラピスに負担をかけ続けた結果なのだと考えれば落ち度はロロにあるわけで。

 であれば、自分の口からラピスの望みそうなことを提案するより他ないだろう。

 バーサーカーの身でどこまで配慮できるか不安ながら今後の身の振り方を考えつつ、気分が高揚しているラピスを連れて帰路につくのだった。

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