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つまらない人生は、生きている意味がない。


「……あー、もう」


 ドアの前で鍵が取り出せず、イライラした。鞄の底にあった鍵を取り出して、ガチャリと回し、家に戻る。

 注文しておいたグッズと、胡散臭いチラシがポストに入っていた。チラシ要りませんとシールを貼っているのだが、某テレビ局の集金者と同じく目が無いようだ。


 時刻は、19時。いつもよりは早い。


「とりあえず、新作アニメか」


 今日は、チェーン店で夕飯を食べて、そのまま帰宅した。


 注文したのは、チャーシュー麺に卵だった。替え玉も追加した。腹一杯になるまで食べた。


 皿いっぱいの豚骨スープに細麺、海苔と青ネギがトッピングされているオーソドックスなもの。その上に、これでもかと盛られた、とろとろのチャーシューが食欲をそそるのだ。

 卵は半熟一択。味変したいときに、中央から割り箸で割ると、黄身がいい具合に溶けてより濃厚になる。


 1人無心で、ズゾゾと啜るラーメンは、美味い。イヤホンで雑音を消して、ひたすらすすった。

 ぶりんぶりんのチャーシューは舌に乗せただけで、幸福感が溢れる。ゆっくり前歯で噛み、その柔らかさを味わいながら、醤油のコクとマッチした調味料のバランスを感じた。

 語彙力が無くなるくらいが、食の到達点だ。


 水を飲んで、「はあー」と息を吐く時が一番幸せだった。チェーン店だろうが、有名店だろうが、美味ければなんでもいい。安くて腹一杯美味いものが食えれば、それに越したことはないのだ。


 そんなことを思い返しながら、サブスク登録している動画サイトの画面をテレビに映し出す。

 部屋を暗くして、大画面で見る。


 腹は満ちているので、ポテトチップスも開けずコーラも出さない。代わりに、ダンベルを持った。何も考えずに鑑賞しながら、振り続ける。左、右と交互に20回ずつ。


「……画質は良いが、いまいちこの作品の良さを出しきれてないな」


 一話で切るか、数話見続けるか。


 批評は、聞かせる相手もいないのに、口に出る。


 笑う主人公が、ヒロインと痴話喧嘩している。美少女と戯れられるのは、主人公の特権だ。


「『つまらない人生は生きている意味がないなんて、そんなことありえない』か」


 この主人公が原作で、病みヒロインに告げた言葉。

 ありとあらゆることで優遇されている主人公には全く共感しないが、ヒロインたちの境遇には心に来るものがあった。彼女たちは、俺なんかよりもずっと辛い目にあって、生きることに絶望していた。


 ーー人生に「つまらない」なんてことはない。


 本当に、そうだろうか?


「……」


 そのヒロインと主人公の間に、挟まる第三者である少女が、なんとなく隣の能天気な女に似ている。これは原作とは絵が違う。


 とりあえず、続きも見ることに決めた。お気に入りに登録する。


「次回に期待」


 そうして、画面を消す。

 ピロリン。スマホの通知が鳴ったと思ったら、友人から連絡があった。


「……げ」


 結婚式の招待状を送るから、ぜひ参加して欲しいとのことだ。面倒くさい雰囲気を感じ取り、返信する気をなくして見なかったことにした。


「21時から配信があるな。それまで、回すか」


 それから、いつも通りゲームをした。アニメもいいがストーリーも楽しめて、声優の声も聞けるゲームがやはり一番だ。


 ゲーム用のPadは自動周回の末に、結構な量の収集を終えていた。ノルマ分はあったので、別ゲーをすることにした。


 ゲーム機を取り出して、途中まで進めていたRPGを進めつつ、ごろんとマットレスに寝転がり、時間は過ぎた。


「配信、遅刻かー?」


 ローディングボタンを繰り返し押しても、配信が始まらないので、気が狂いそうになった。楽しみにしていたのにという思いと、早く始めろよという気持ちが心を不快にさせる。


 15分も待って、配信が始まった。報告くらいしろよ、心配させんなよ。

 そう思いながら、配信を観た。ただ見続けた。


「……あ?」


 いつのまにか眠っていたようだ。終了した配信の暗い画面に、ローディングを示す円がぐるぐると回っている。

 最後の展開を見逃した、最悪だ。


「……風呂は、明日の朝でいいか」


 髪だけベタベタするので、洗面台で豪快に流して洗った。顔面も一緒に洗う。

 そのままドライヤーをかけ、服を着替えた。


「あーあ」


 夜食用のツマミを開ける。

 アーモンド、柿ピーとチーズ、そしてビール。


 口の中に放り込み、じゃくじゃくとした食感。塩のしょっぱさをまろやかにするように、チーズも食べた。

 そして、ビールのふたをあけ、飲む。


 途中までで、寝落ちしてしまっていた配信を見返すのだ。


「夜はこれからだ」


 配信を見ながら、酒を飲んで、明日の憂鬱をごまかす。脳に酒が回って、身体があつくなる。


 また、マットレスに転がった。電気はつけっぱなしだ。消す元気もない。


 天井を眺めて思う。


 ーーつまらない人生なんてないなら、俺はどうなる? つまらない人生をおくってる。こんな人生意味がないと心の底では思っているのに、否定する要素もない。

 ゲームをして、配信を見て、仕事に行き、帰ってくる。時々飲みに出て、外食。そんな日々しかないと分かってるだろ。


 意味がないものなんて、ないんじゃない。意味を考える必要がないだけだ。


 快楽を愛して、何が悪い。欲望に身を委ねるのが自然だ。辛いことから目を背けても、別に生きていける。


 明日の当たり前を恐れるのが普通だ。


 不健康になろうが、不幸せになろうが、そんなものを考える必要もない。ただ生きたいように生きている。


 そして、今日も俺は自堕落に寝落ちした。


 

 

 

 



 

次の話は、3話の隣人のお話になります。


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