休日はどう過ごす?
まぶしい。
カーテンから、漏れる光に私は朝が来たことを知る。もごもごと寝返りをうち、覚醒しかけた頭が反射的に起き上がろうとする。うあああぁぁぁ。
今何時? ……6時。
時計の時間を見て、私はふとんのなかにもぐり直した。
――私は惰眠を貪ります。
だって今日は休日だもの。遅くまで寝ていても何も言われない。目覚まし時計はセットしてないし、起きたくなったら起きるのだ。まだまだ眠いもの。
休日に仕事の連絡をしてくるやつはブロックしてやる。
「ふわあぁぁぁ……」
二度寝したものの、少ししたらまた目が覚めてしまったため、仕方なく起き上がる。
朝の7時。普段こんな時間に目を覚ましたら遅刻寸前で大慌てだけど、まあそれも今は関係ない。
テーブルの上に置いてあるスマホを充電器から抜く。
スマホは寝室には置かない主義だ。スマホが近くにあるだけで、睡眠が浅くなるという話を聞いたからだ。ブルーライトや電磁波は睡眠自体に影響があるし、その他の情報を気にして、睡眠が浅くなるとかなんとか。
集中して勉強に取り組みたいときも、身近にスマホを置いていると集中力が格段に落ちてしまうんだって……。
だから私はなるべく使う時間帯や場所は決めてある。誘惑に勝てない自信がある。
それに、スマホを見なくなったおかげで、出費がかなり抑えられた。ネットショッピングは自分でお金を使っているという実感が湧かないからか、自分が思うよりもたくさんのお金を使っているらしい。隙間時間にAMAZONやら楽天市場とか、ZOZOとか覗いてたら誘惑に負けるのも仕方なかった。
「音楽でもかけるかなぁ」
今日はのんびりすごそう。ゆっくりするのも大事だ。
歯を軽く磨いてから、コーヒーを沸かして、ボーッと外を眺める。育てている野菜やハーブが、日の光に照らされて生き生きとしているのを見ると、心が落ち着く。
いつもは時短のためにパンを食べているけど、今日は和食を食べたくなった。
納豆にネギ、生卵を割り入れる。昨日作った豆腐の味噌汁を温めて、ご飯を盛る。めざしを焼いて、大根をのせた。ちなみに味噌は赤味噌派だ。具材は少なめで、出汁は昆布から取る。
お茶を湯飲みに注いで、朝食は完成した。一汁三菜にはなにか足りない気もするけど、まあいいや。
ご飯を左手前に、味噌汁を右手前に。主菜を中央。副菜をその横に配置する。箸は先端を左側、持ち手を右側に。自然と身についている習性みたいなもの。なんで、ご飯が左なのかは知らない。たぶん、ご飯の方が持つ回数が多いからだと思うけど。
余談だけど、私は和食は和食、洋食は洋食で、形から入りたいタイプなので、皿からコップから洋食と違うものを使っている。
洋食は真っ白なお皿が多め。和食は和柄が多め。桜や紅葉の紋様が入ったものをよく選んでる。かわいいからね。
「いただきます」
もぐもぐとよく噛む。
納豆はよくかき混ぜ、そのまま半分ほど食べた。味噌汁とめざしも、順に三角食べしていく。そして、半分ほどになったご飯に、残りの納豆をかけて、納豆卵かけご飯を作る。
これをかきこんで食べるのが好きなのだ。行儀が悪いと言われようとも、私はこの食べ方を愛している。
「ふう……」
皿を水に浸けて、一息つく。
何して過ごそうかな。友達に連絡して、外にでも出ようかなぁ。SNSでいいカフェ見つけたんだよね。あと本屋さんにも行きたい。
それとも、サブスクの映画でも見ようかな。新作の映画が更新されてたはずだけど。アニメとかも面白そうなのが追加されてたなぁ。原作が面白かったから、改悪されてないことを祈る。
そういえば、パンも仕込みたいと思ってたんだった。ロールパン、メロンパン、惣菜パン。生地だけでも作っておきたい。二次発酵させると時間がかかるんだ。
本棚掃除もしたいし、野菜の間引きもしなきゃだし。買い出しもある……。銀行にも行きたい。コンビニで支払いもしなきゃだった!
あれ、もしかしてやることいっぱい?
ゆっくりしてる時間ない? いやいや、そんなはずない。今日は休みだもん。
「買い物にはそんなに時間かからないはず。洗剤と、牛乳と、お肉と野菜……あとはテキトーに食料。パンの仕込みをしてから行けば、発酵時間でなんとかできるはず……。そう、そのはず」
仕事してると、どうしても買い物をする余裕が無いときがある。繁忙期とかね。時間が取れなくて、支払いだったり、銀行なんかにも寄れないほど忙しかったり……。そうなると、掃除も怠けちゃったりして。食事と睡眠で精一杯。
そのしわ寄せは全部、休日に来る。家の用事を終わらせて一日が終わったりとか。
「現代人忙しすぎだよねぇ……。お金に余裕があればハウスキーパーさんとか雇えるんだけどさ」
家事せずに、仕事だけなら楽なのに〜。
いや仕事がなければ一番楽なんだけどね。
「世の中、お金が必要だからね。そのうち、息をするのにもお金が必要になったりして? 少しの余裕、少しの息抜き、少しの娯楽。それを楽しむ時間がほしい~。うええええ」
口から奇声が漏れる。
美味しいご飯を食べて、趣味を楽しんで、友達と遊びに行ったり、会話をしたり。ほんのちょっとの息抜きがあるだけで、生活を楽しめる。なるべく、そうできるように私は努力してる。
忙しさの中にも余裕を持って、どんな理不尽なことがあっても、次の日には笑えるように日々のご褒美を作る。心の中にあるごちゃごちゃした感情や、嫌な人や嫌なことに対する不満にも向き合えるように。
「…………」
無理だけはしないでと言われた。あなたは優しすぎるから、背負わなくても良いものを背負い込んでしまうって。
頑張りすぎないでと言われた。張り詰めすぎていて、今にも壊れてしまいそうだって。
ぱたりとソファに転がる。
「……うん。じゃあ、今日はあそんじゃおうかな」
こんなこと考える時点で、ちょっとおかしくなっちゃってる。
身体をぐいーっと伸ばして、左右にストレッチする。そのままベランダに出て、野菜に水をやった。
外の音を聞く。
「うん、何も変わってないよ」
♢
「んじゃ、またねー」
友達と別れて、家に帰る。映画館に行って、待ち時間に本屋に立ち寄り、気になっていた映画を見て、カフェに寄ってロコモコを食べた。大量のパンを買い込んだので、朝食用に棚に置く。
大きなフランスパンを持って、街を歩くのが憧れだったのは何の影響だったんだろう。チョコパンやクルミパン、クロワッサン、塩パン、めずらしいプリンパンなるものも買った。しばらくはパン生活である。
「コンビニには明日寄ってー、しばらくは冷凍食品でも良いかなぁ。一個ずつこなしてこ」
友達には顔色が悪いと心配されてしまったが、私は時々こうなるのだ。キャパがちっちゃいのか、日常の中でパンクしそうになることが。
そんなときは、やらなきゃいけないことをほぼ削ぐ。シンプルにシンプルに考えて、絶対にしなきゃ行けないことだけを熟すようにする。
期限のあるものだけは余裕を持てるように終わらせておいて、その他の日常柄必要なことは極力減らす。自炊はやめて、外食か冷凍物。洗濯もなるべくまとめてして、無理そうならコインランドリーで乾燥機に回す。常に音を絶やさないようにして、テレビや音楽を流したり、友人と電話したりする。
お風呂もシャワーだけで軽く済ます。疲れたらすぐ休むように、目を瞑る。
知らない人と関わる機会をなくし、気心がしれたひとたちだけと会話をして、常と変わらない生活リズムを心がけるのだ。一人で考えるだけの時間は極力減らすようにする。
そうすれば、いつのまにか私は元通りになっている。
テレビを見ていて、コメンテーターがこんなことを言っていた。
『ゴールデンウィークとかあるでしょ、長期の休み。そこで身体を休めてるつもりでも、どうしてか、身体を壊しちゃうひといるんだよね。五月病って言うのかな、仕事してた方がマシって人もいる。休日が終わったときのこと考えて病んじゃうの。時間があるからなのか、余計なこと考えたりね。今は休みなんだから、仕事のことなんて考えなくても良いのにね。責任感が強いって言うのか、真面目すぎるって言うのか。
休んで良いんだよ、休日なんだから。リラックスリラックス』
――日々は続くんだから、身体を休めて下さいね。
その通りだと思う。