15
ふわふわとした頭で見慣れた廊下を進む。いくつもの扉の前を通り過ぎて、目的地なんてないまま歩き続ける。灰色の床は冷たくて、足を進めるたびにぺたりぺたりと音が鳴った。
ころん、と。目の前に飴玉が落ちた。ああ、善いお菓子。そっとしゃがみ込んで、飴玉を拾い上げる。天井の明かりに照らされて、ピンク色をした飴玉はキラキラと光っている。あ、と口を開けて放り込む。舌の上で転がせば、べっとりとした甘い味が口の中に張り付いた。
もっとたくさん喰べたいな。だってこんなに美味しいんだもの。お腹は少しだけ空いている。空腹を埋めたくて、ううん、ただ善いものが喰べたいから、私はそれを探してまた歩き始めた。
しばらく歩いていると、今度はどこからどう見ても悪いお菓子が落ちていた。スポンジが緑色に変色したケーキ。まるでコケみたい。上に乗った苺は腐って溶けかけている。こんなもの、とてもじゃないけど喰べられない。
でも、せっかくのお菓子なのにこのまま見捨てるのも可哀想。何かしてあげなきゃ。何をしたらいいだろうか。
うんうんと唸って、思いついた。そうだ。少し良いものをプレゼントしてあげよう。
気がつけば、私の手には花冠。白いお花の、いい香りの花冠。可哀想なケーキの上に、綺麗なお花の冠を載せてあげた。これは慈悲。これは祝福。可哀想なあなたへのささやかなプレゼント。ケーキも嬉しいのか、少しだけ輝いて見える。
うん。これならいいだろう。
満足して、私はまた歩き始める。
目の前には飴玉。ケーキ。クッキー。たくさんのお菓子が落ちている。それらを拾い上げて、もぐもぐと喰べていく。綺麗に喰べることができなくて、手はクリームでベタベタ。ほら、白いクリームが手に。
「?」
紅いクリームが、手に。
「あ、れ」
手についたクリームを舐めとる。甘くてとろけるような味。うん、間違いなくこれはケーキのクリーム。だから一瞬見えたあの色は何かの間違いで。
ああ、けど、なにかおかしいような、やけに感覚がはっきりしすぎているような——ねえ、これは本当に、夢?




