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第六十三話 条件

 ブリュンヒルデの薔薇の乙女疑惑は一応決着がついた。

 ひとまず、ホっとするブリュンヒルデだが、一番の難問、クララの回復がまだ解決できていない。

 クララの覚醒のきっかけとなった薔薇の在処、そこが今の問題点だった。

「薔薇の花を持っているものはそう多くありません。そしてその日、薔薇をもって出歩いた人間は一人だけ、グリアセルの卵をもっていたヨアヒム一家だけでした」

「……考えれば、魔獣も薔薇の香気で目覚めるものね。うかつだったわ」

 まだグリアセルが覚醒していないときに薔薇を回収していればと悔やまれて仕方がない。

「悩んでも仕方ありませんわ。さっそく、ヘルモルトとわたくしとでゲンドルの街へ赴きます」

 ブリュンヒルデは腹をくくって宣言した。このままクララが衰弱していくのを見て居られない。

 しかし、ヴォルフラム達は反対した。

「いくら君が薔薇の騎士とは言え危険だ! 水を得た奴の力はまるで災厄が降り立ったようだった。俺は命からがら逃げることはできたが、その過程で部下の何名もが重傷を負った。そんな危険な場所に君を行かせるわけにはいかない!!」

 今も治療を受けさせているが、騎士生命を絶たれたものもいる。

「ホルンベルガー嬢、私も同じ思いです。どうかあなたは街でお待ちください。ヘルモルト卿の護衛に私の部隊が付き添います」

 エミリオが言った。いつも柔らかい顔に険しい皺を寄せて。

「お嬢様。私も同感です。どうかお嬢様は安全な所でお待ち下さい」

 ヘルモルトが険しい顔でブリュンヒルデを見つめる。

「ホルンベルガー嬢、あなたの力をこの目で見ましたが、あの力は今回の作戦に向きません。目的は薔薇の奪還、殲滅は二の次です。私にあなたを守り切れる力があればお連れしますが……恥ずかしながら、私は無力です」

 ルドルフが辛そうに顔をくしゃりと顰める。


 全員から詰め寄られてブリュンヒルデは悩んだ。

(正論過ぎて反論できんっ!!私にヘルモルト卿みたいな汎用性はないし、破壊するだけしかできないから、薔薇もろともゲンドルの街を破壊しかねないんだよな……。かといってヘルモルトだけに行かせるのも心配だし……)

 雷と水中系魔獣の相性はどうなんだろうか。

 超純水は雷を通さないのだ。


「……皆様のお言葉ももっともだと思います。ですが、ヘルモルト卿の力がグリアセルに通用するかと言うと疑問が残ります。ヘルモルト卿に援護してもらいながら私が遠方からグリアセルのみを破壊、その後薔薇を探すのが妥当かと」

 ブリュンヒルデの言葉にエルンストがすかさず反論する。彼はどうしてもブリュンヒルデを前線に行かせたくなかった。

「失礼ながら、ホルンベルガー嬢の力はデンベラの鍛錬場を全壊するほどと聞いております。グリアセルのみを破壊できるとは思えません」

「……バウツェン平野で何度か試し打ちをしてコントロールするようにしますわ。そうすれば、安全な場所からグリアセルを撃ち抜くことが可能です」

 火の玉サイズであれだったから、マッチの火サイズならグリアセルを倒せるのではないか、ブリュンヒルデはそう思った。

 エルンストたちは難しい顔をしつつも反論しなかった。

 ブリュンヒルデを行かせたくはない、かといってブリュンヒルデの言葉を完全に退けるのも忍びない。さんざん彼女の訴えを無視していた罪悪感から、即座に跳ねのけるのが忍ばれたのだ。

 最初に口を開いたのはヴォルフラムだった。

「ブリュンヒルデ、お前の言い分は分かった。たしかにお前の力をコントロールできるのなら、それが最良の方法だろう。だが、危険な場所にお前を連れて行きたくないんだ。……だから一つ条件を出したい」

「条件ですか」

 ブリュンヒルデは身構えた。

「そうだ。俺たちはヘルモルト卿と先にゲンドルの街に行っている。お前はコントロールできるようになってから、ルドルフと共に来てくれ。それが条件だ」

「ヘルモルト卿の力が通用すればわたくしが行く必要もなくなるということですね」

「そうだ」

 ヴォルフラムがきっぱりと答えた。

 この辺りが落としどころだった。


 ブリュンヒルデもこれ以上の譲歩を彼らから引き出すのは無理だと思い、それで合意した。


  さっそく、ヘルモルトとヴォルフラム、エミリオが隊を率いてゲンドルの街へと向かった。エルンストはデンベラに残ってこまごまとした雑務に当たった。なにしろ、避難民からの要請など、ひっきりなしにオットーから上がってきている。さらに、駐屯している軍隊の補給、調達した薔薇の処理、そして通常業務も入ってくる。

 

「ルドルフ。ホルンベルガー嬢のことを頼んだよ。俺はここから離れられないからな」

 エルンストは信頼する幼馴染の胸に拳をコツンと当てて言った。身長差があるためエルンストがルドルフを見上げる格好になる。


(あっちのクラスタが大歓喜するシーンかぁ。せめてヴォルフラムとエミリオもこれくらいやってくんないかなぁ)

 ブリュンヒルデは親友同士の語らいをいつものフィルターを通して見たが、推しカプではない場合、萌えタービンが回らないのだ。

 潤いがないまま、ブリュンヒルデは彼らを見送ってルドルフと共にバウツェン平野へと向かった。


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