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カプ固定過激派の腐女子、悪役令嬢に転生する。  作者: りったん


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第六十一話 ヘルモルトの能力

  鍛錬場を破壊したブリュンヒルデに対し、町長のオットーは驚きはしたものの、怯えたりはしなかった。

「薔薇の乙女様の力は人智を超えたモノ。人間のわたくしどもが図れるようなものではありませんからな。……あ、申し訳ないですが費用はその……請求させていただきたく」

 申し訳なさそうに町長はブリュンヒルデに言った。あれだけの規模の修繕費用、年間費の三割くらいは持っていかれる。

「もちろんですわ。本当にごめんなさい……」

 修繕費用がいくらになるか見当もつかないが、ホルンベルガーの財力をブリュンヒルデは信じることにした。


 ブリュンヒルデが町長と契約書を交わしている間、ルドルフは候補地を選定していた。最終的に決定した場所はだだっぴろいバウツェン平野だった。元々、各種のスポーツ大会用の平地で、どんな種目にも対応できるよう、広さだけは十分にあったらしい。

 デンベラから一時間以内で行けるのも決め手の一つだった。ちなみにゲルトはもちろんデンベラの街に置いていった。駄々をこねたがクルツに羽交い絞めされ、物理的に行動不可能になっている。


「ここなら、大丈夫かと思います」

「ほほほほ。そ、そうですわね」

 ルドルフの言葉にブリュンヒルデは顔を引きつらせる。

 なにしろ、ブリュンヒルデの能力は【すべてを破滅させる能力】だ。解放の仕方によっては世界滅亡も可能だろう。鍛錬場だけの破壊で済んだのは、きっと頭の中で火の玉イメージをしたおかげだろう。能力を使うにあたってイメージはとても大事だ。氷系の能力なら、誰かを守りたいときは氷の壁を作ればいいし、攻撃したいときは鋭い氷の塊をぶつける、ないし氷の剣を使ってもいい。イメージ次第でどんな戦い方もできるのが薔薇の騎士なのだ。


(すべてを破滅させるってやめてくれよもう……火の玉サイズのイメージでアレじゃあ、怖くて使えないよ……。いや、落ち込んでる暇はないや。はやくヘルモルトの能力を見極めないと)

 陰鬱な気持ちを抱えながらもブリュンヒルデは頭を切り替えた。

 

 ヘルモルトに能力解放の呪文を伝え、念のため、マッチに火を灯すくらいのイメージで能力解放を頼んだ。ヘルモルトは緊張した面持ちで深く頷いた。

 先ほどの大惨事を見ていたからこそ、ブリュンヒルデの気持ちもわかるのだ。


 ルドルフは大柄な背にブリュンヒルデを匿った。

「ヘルモルト卿。やりたまえ」

「はい」

 主君の安全確保を確認した後、ヘルモルトはブリュンヒルデに倣って呪文を唱えた。皆が冷や汗を流し、緊張して衝撃に備える。しかし、何も起こらなかった。


「……し、失敗でしょうか」

「……わ、わからないわ。もう一度お願いするわ」

 ヘルモルトは頷いて再度挑戦した。


 結果は同じだった。

 

(呪文は間違ってないはずだし……一体どうしてかしら)

 理由が分からず、魔方陣に何かしらのヒントがないかとヘルモルトの手のひらを覗き込んだ。

 するとそこには『雷を操る能力、黄薔薇の騎士』と刻まれていた。


「……ヘルモルト。おめでとう。どうやら成功したようだわ。今度は……あそこの岩を砕くイメージでやってもらえる?」

 少し離れたところにサッカーボールサイズの岩を指して言うとヘルモルトはこくんと頷いた。

 指示されたとおりにヘルモルトが行うと、何もない空中から雷が現れ、雷光を発しながら岩を砕いた。


 まっとうな能力を改めて目の当たりにしてブリュンヒルデは歓喜した。これでようやく現実的な戦いができるというものだ。

「おめでとうヘルモルト!! あなたは黄色の薔薇の騎士、雷を操れるのよ!!」

「あ、ありがとうございます。ですが、お嬢様の攻撃力には程遠く……」

「あれは実用的じゃないから!! むしろあなたの能力が必要なのっ!!」

 ブリュンヒルデは慌てて訂正した。あれがスタンダードだと思われては困る。

 ルドルフは拍子抜けしたように口をポカンとしていたが、ブリュンヒルデが喜んでいるのを見て顔がほころんだ。恋い慕う人の笑顔は元気になれるのだ。

 自分が薔薇の騎士でないのはひどく残念で悔しくもあったが、ブリュンヒルデの力になれるのは彼しかいない。

「ヘルモルト卿。おめでとう。ホルンベルガー嬢を必ず守り通してくれ」

 ルドルフの言葉を受けてヘルモルトは頭を下げた。

「ありがとうございます。必ずやお守りいたします」

 二人の男が熱いまなざしを交わしあう。

 腐女子としては狂喜乱舞したいところだが、あいにくルドルフはエルンストのニコイチ、ヘルモルトは無自覚クララと両想い。萌え要素がカケラもない。


 そして何よりブリュンヒルデが突っ込みたいのは、ヘルモルト、お前が守るのはクララだよ……ということだ。


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