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カプ固定過激派の腐女子、悪役令嬢に転生する。  作者: りったん


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第十四話 攻略キャラの来訪



 天才エルンストはハニーブロンドの髪とシトリンの目を持つ、中性的な少年だった。しゃべり方は朗らかで性格はちゃらんぽらん。しかしどこか人を惹きつけてやまない魅力があった。

「ルドルフ、君と二人で出かけるなんていつぶりだろうなあ。最近はちっとも俺の相手をしてくれないから寂しくってしょうがないぜ」

 けらけらと笑いながら、エルンストは向かい合わせに座る仏頂面の少年を見る。

「エルンスト。俺はお前のことは凄いと思う。国一番の頭脳を持ち、その知恵でたくさんの人を助けてきた。しかし、俺が君を讃えるのは、その脳であってお前の雲よりも軽い性格ではない」

 きっぱりとはねつけるようにルドルフは言う。

 硬派なルドルフと軟派なエルンストは性格も生き方も真逆で、趣味も考え方もちぐはぐだった。家が隣同士でかつ幼年学校で同期生、さらに皇太子殿下の側近……幼いときにできた縁は太く絡み合った枝のように今も続いている。

「つれないなあルドルフ。昔のお前はあんなに素直だったのに、なんでこんな木石のような人間になっちゃったのかなあ」

 エルンストはルドルフのそっけない態度をさらに面白がる。ルドルフはぎろっとエルンストを睨みつけ、硬く腕を組んで目を閉じた。鋼のような体から迸る、話しかけるなと言う圧力をエルンストはさらにちょっかいをかけるという迷惑な手段で、意趣返しをした。


 ホルンベルガー公爵邸にようやくついたころには、ルドルフの精魂は尽き果てていた。ぐったりするルドルフと対照的にエルンストはらんらんと輝いていた。

(噂の悪女と直接話をするのは初めてだが、さあ、どうやって懐柔しようか)

 皇太子の婚約者であり、傲慢で悪辣な悪女ブリュンヒルデ・ホルンベルガーの噂はエルンストの耳に届いていた。気さくな彼はいろんな場所で気軽に話せる知人を作った。北宮殿の女官、下女、侍従、騎士、出入り商人……すべて彼の耳であり、目であった。

 それらの情報を合わせると、ブリュンヒルデは傲慢の塊でしかなかった。エルンストが唯一嫌いなタイプだ。

 舌戦用に、理論武装を頭の中で固めながらルドルフは案内役の執事の後ろを歩いた。


 大きな窓を持つ客間に通され、美味しい茶を侍女からもてなされて二人はブリュンヒルデを待った。急な来訪だから、待たされることは織り込み済みだった。むしろ、門前払いを食らうかと考えていただけに拍子抜けする。

 ルドルフは相も変わらず腕を組み、目をつぶっている。精悍な顔つきと騎士らしい見事な体躯、そして武骨ながらも質実剛健な性格の彼にひそかに思いを寄せる女性はごまんといるのだが、あいにく、朴念仁の彼は気付くことなく、むしろ女性を苦手としていた。

(緊張しているなあ。もっとほぐしてやった方が良かったかな)

 エルンストは友人の顔が固いことを心配した。馬車の中のちょっかいも、ルドルフの緊張をほぐすための心遣いだった。もちろん、彼の趣味も入っているが、エルンストは自分でも意外にこの木石のような男を気に入っていた。

「お嬢様がいらっしゃいます」

 執事の声がして扉が開く。

 衣擦れの音と共に、声を失うほど美しい少女が入って来た。太陽のかけらのように輝く金髪、春の森のような緑の目、白磁の白い肌に淡い花柄のドレスはさながら妖精のようだった。


「ベネシュ卿、ビアステッド卿、ようこそいらっしゃいました。お会いできてうれしいですわ」

 高すぎず、低すぎず、優雅なオペラを聞いているような声音だった。エルンストは聞きほれ、そして見ほれていたために石像のように固まってしまった。ルドルフは言わずもがなで、二人して女神を見た子供のように、あんぐりと口を開けてブリュンヒルデを見た。

 二人の様子にブリュンヒルデは目を瞬かせたが、気分を害すことなくにこりと微笑んで言葉を続けた。

「今日はどういったご用件でしょう。わたくしでお役に立つことがあればよいのですが」

 エルンストがようやく我に返り、胸に手をあてて礼をし、白く美しい手を取った。貴族令息としての義務だったが、エルンストは思わず『栄誉』だと考えてしまった。自分が、この美しい人の手に触れられるのだと、気分が高揚した。

「エルンストとお呼びください。令嬢のあまりの美しさに我を失っておりました」

 心からの言葉をエルンストはブリュンヒルデに送った。このとき、ブリュンヒルデの悪評も、立場もブリュンヒルデの魅力の前で霞んでしまっていた。


「まあ、お上手ですわね。でも嬉しいわ」

 ブリュンヒルデはにこりと笑い、次にルドルフに微笑みかけた。礼儀として彼も同じように挨拶をしなければならないのだが、ルドルフは完全に固まっていた。エルンストは助け船を出した。

「友人の無礼をお許しください。彼は美しい女性を見ると石像のようになってしまうのです。私が彼の口となって令嬢とお話ししたいのですが、よろしいでしょうか」

 ブリュンヒルデは微笑んだ。

「もちろんですわ。なんなりとどうぞ」

 固まったままのルドルフを置き去りに、エルンストは春の妖精のように美しいブリュンヒルデと会話を楽しんだ。



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