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【短編】現代ドラマ短編シリーズ

友人Kの好きなタイプは

作者: 烏川 ハル

   

 私の友人Kは、いわゆるアニメオタクだ。

 そういう文化に疎い私は、初めて彼の部屋を訪れた時、たいそう驚いたものだった。

「なんだ、これは……」

 唖然とする私に対して、不思議そうな顔をする友人K。

「これって、どれのことだ? 咲子ちゃん? まいまい? みっちー? カオリン? それとも……」

 女性の人名らしき言葉が、友人Kの口から次々と出てきて、ますます私は困惑する。

 壁際の棚に、ところ狭しと並べられていたのは、たくさんのプラスチック人形だった。

「いい歳して、しかも男なのに、人形遊びとは……」

「『人形』じゃない、フィギュアだぞ」

 怒ったような口調で、ただし目には呆れの色を浮かべて、友人Kは訂正する。彼の部屋にあるのは全て、アニメの登場人物を模したものであり、こういうアニメキャラの『人形』のことを、フィギュアと呼ぶそうだ。

「男なら誰でも、推しキャラのフィギュアの一つくらい、持っているのが当然だろ?」

 自分の常識が全て、と言わんばかりの口調だが、私には全く理解できず、その気持ちを顔に表してしまう。

「アニメを見ないお前には、わからんかもしれんが……。でもお前だって、恋人の写真を懐に忍ばせる、みたいなことはするだろ? それと同じさ」

 いや友人Kの場合は、こうして堂々と部屋に飾っているのだから、『忍ばせる』とは違う。

 そもそも私には『恋人』なんて出来たことがないから、アニメの推しキャラを恋人に例えられても、全く共感できないのだった。


 アニメオタクだからといって、キモいと思われることもなかったらしい。彼は昔から女性にモテていたそうで、実際、私と知り合ってからも、それらしき噂がいくつもあった。

「それにしても……」

 ようやく落ち着いて座り込んだ私は、改めて友人Kの部屋を見回す。

「……こんなに同じ人形ばかり、よくもまあ、集めたものだな」

「フィギュアだって言ったろ」

 と、私の言い方を訂正してから、友人Kは私の認識間違いも指摘する。

「そもそも『同じ』じゃないぞ。お前、咲子ちゃんとまいまいとみっちーとカオリンの区別もつかないのか? お前の目はガラス玉か?」

 目玉がガラスの模造品なのは、それこそ人形の方ではないか。

 そう言い返そうと思ったが、よく見れば、彼のフィギュアたちの目はガラス製ですらなかった。肌色の素材の上に、何色ものカラフルで複雑な瞳が描かれている形だった。

「すまん、私には同じに見えてしまって……」

「おいおい、よく見ろよ。ほら、例えば咲子ちゃんは……」

 ボーイッシュな髪型がステキだとか、長髪が魅力的だとか。貧乳だからこそスレンダー美人で良いとか、ふくよかな巨乳キャラのムチムチ感が良いとか。

 友人Kは、それぞれの特徴を語っていく。なるほど、そうやって解説されれば、私にも『同じ』でないことが少しずつわかってくる。

 並べられたフィギュアを愛おしそうに眺めながら、熱っぽく語っていく友人K。そのうち彼は、うっとりとした表情になり、呟くのだった。

「尊い……」


 その時は「大袈裟な表現だな」と感じたが……。

 (のち)に知ったところによると、一般的な「尊い」とは、少しニュアンスが違っていたらしい。オタク用語では「素晴らしい」とか「完璧」とか「最高」とか、そんな気持ちを込めて「尊い」という言葉を使うそうだ。

 私は古臭い人間なので、「尊い」と言われたら、普通に「高貴」の方を思い浮かべてしまう。「神々しい」とか「身分が高い」とか、そんな場合に使う言葉だ。

 しかし……。

 ある意味では、友人Kの「尊い」も、昔ながらの用法に則していたのかもしれない。


 例えば冠位十二階もそうだが、古来より日本では、紫が高貴な色とされてきた。そして友人Kの部屋にあったフィギュアは、どれも髪が紫色で、衣装もそれ系統の色ばかりだった。

 つまり、友人Kの好きなタイプが紫キャラだということだ。

 ちなみに、最初に私が「どれも同じ」と思ってしまったのも、この「どれも紫だったから」という理由だった。




(「友人Kの好きなタイプは」完)

   

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