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66 王太子殿下は長生きしたい ①(エピローグのその後)

本編で回収しきれなかった話題を回収していきます。

一瞬BL的表現が通り過ぎますので、苦手な方はご注意下さい。



 とある昼下がり、シェラは王城の入口から庭園へと続く道を歩いていた。


 フルカからアレストリアへと帰国して、約一ヶ月。

 しばらく降り続いていた雨が止み、久しぶりに庭園で気分転換をしようと、侍女を連れてやってきたのだ。ルーゼは非番のため今はいない。


 庭園の入口に差しかかった辺りで、珍しい人物に出くわした。


「ハランさん?」

「おや妃殿下、ごきげんよう」


 小さくお辞儀をして挨拶をする。

 ハランシュカが庭園にいるのは、かなり珍しい光景だ。ルディオも言っていたが、彼が執務棟から出てくることはほとんどないらしい。


「ちょうどよかった。今から面白いものを見に行くのだけど、一緒にどうだい?」


 何やら含みを持たせた言い方に首を傾げる。


「面白いものですか? 時間は空いていますが……」

「なら決まりだね。ご主人様を少々お借りするよ」


 そう言って強引に侍女を下がらせ、シェラを連れて歩き出した。

 庭園内に用事があった訳ではないようで、入口をそのまま通り過ぎ、騎士団の訓練所がある方へと進んで行く。ちなみにこの道をずっと奥まで進むと、あの小さな白い建物がある。


 いったいどこへ連れて行かれるのだろう。

 ぼんやりと考えながら歩いていると、ハランシュカにずっと聞きたかったことを思い出す。


 ルディオからは、これはハランの沽券にかかわるから本人に聞いてくれ、と言われてしまったのだ。

 なかなか二人になる機会がなく、ずっと疑問を胸にしまっていたのだが、今がチャンスではないだろうか。


 忘れないうちにと、シェラは後ろから尋ねる。


「ハランさん、ひとつお聞きしたいことがあるのですが」

「なんだい?」

「以前ルディオ様の意中の相手が、次期宰相候補であるという噂が流れていたと思いますが――」

「あー……その話ね」


 途中まで言ったところで、シェラが聞きたいことが分かったらしい。

 ハランシュカは首だけで振り返り、苦笑を浮かべた。


「いやぁ、あれは冬の寒い日だったんだけどね」


 そう切り出すと、昔を懐かしむように話し始めた。




『ハラン、さすがに飲み過ぎだぞ』


 いくつかの空の酒瓶が転がる室内で、グラスに注がれた液体を一気に飲み干したハランシュカを、ルディオが窘める。


『いいじゃないか、今日くらい。君ももっと飲んだら?』

『もう十分だ……付き合ってやってるだけ感謝してくれ』

『はいはい、それはどうもありがとうございます』


 呂律の回らない舌で礼を言いながら、ハランシュカは新しいボトルを掴む。

 そのままふたを開けようと力を込めたところで、横から伸びてきた手にボトルを奪われた。


『いくらめでたいからと言っても、もうやめておけ。これ以上飲むならルーゼに言うぞ』

『それはやめて……』


 妻の名前を出すと急に大人しくなり、ソファの背もたれに沈み込む。

 だいぶ酔いが回っているのか、眠気を感じたらしくそのまま目を閉じた。


『おい、寝るのか? ……まったく』


 飲み直す気にもなれなかったルディオは、水をもらおうとベルを鳴らす。すぐに扉をノックする音が聞こえ、入室を促すとメイドが姿を見せた。


『お呼びでしょうか?』


 ついでに床に転がるボトルを片付けてもらおうと立ち上がった瞬間、後ろから急に腕を引かれ、隣に座っていた男の上に尻から着地した。


 何が起きたのか理解が追いつかず、瞬きを繰り返したルディオの首に、男性の腕が絡みつく。


『ん〜〜、愛しているよ。ルー……』

『は!? 待て、おまえ誰と勘違いして……! ちょっ……おい、変なとこさわ――』


 ハランシュカに抱きつかれた状態のまま、ルディオはぴたりと動きを止めた。

 嫌な予感に、おそるおそる扉のある方へと首を向ける。


 視線の先には、大きく口を開けたまま、茫然と二人を凝視しているメイドがいた。


 室内が沈黙に包まれ、なんとも言えない空気が漂う。

 ルディオと目が合ってしまったメイドは、我に返ったように大きな声をあげた。


『しっ……失礼いたしました!!!』


 そのまま一目散に部屋の外へと逃げていく。


『待て! っ……おいハラン、いい加減に離せ! 私はルーゼじゃない!』

『ん〜?』

『おまえのせいで完全に誤解されただろ!』


 寝ぼけた顔で膝の上にいるルディオを見上げ、ハランシュカは眉間に深いしわを刻んだ。


『あー……もしかして、やらかした?』

『盛大にな』


 気色悪いと蹴り飛ばされ、ハランシュカは再びソファに沈む。

 そのあとは延々とルディオに詰られ続け、気づいたら朝になっていた。




「……と、言うことがあってね」


 他人事のように話し終え、ハランシュカはくつくつと笑いだした。


「いやぁ、あの後うっかり口止めするのを忘れていてねぇ。気づいたら噂の通りさ。ルーゼにも怒られたし散々だったよ」


 まるで反省の見えない言い方だ。

 思わず笑顔が引き攣ってしまう。


「そのような状態になるまで飲んでいて、よく記憶が残っていましたね」

「どんだけ酔っても覚えてはいるんだよねぇ。余計にたちが悪いでしょう?」


 遠慮なく頷く。

 今の話からして、ハランシュカは酔うと何をしでかすか分からないタイプのようだ。

 むしろその状況で、よくルディオは呪いが発動しなかったなと感心してしまう。


「でもさ、ルディも悪いと思わない? あのふたり、髪を下ろすと後ろ姿がそっくりなんだよ」


 その問いかけは全力で否定した。

 確かにルディオもルーゼも、まっすぐに長く伸びた金髪だ。だが身長や体格は全く似ていない。そもそも性別が違うのだから、素面であれば間違えることはまずないのである。


「ルディオ様は、責められるようなところはないと思いますが……」


 首を横に振ったシェラを見て、それもそうかと苦笑をもらした。



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