表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

61/68

61 王の目的 ②



 北国フルカへと続く小国を、アレストリアに譲渡する。


 バルトハイルのその言葉に、ルディオはピクリと眉を動かした。


「あそこは北の大陸との交通の要だ。うちはいま戦争復興で手一杯だが、そちらなら街道の整備をする余裕があるだろう」


 フルカへ続く街道は、戦時中は閉鎖されていたと聞く。

 現在は開通はしているものの、戦争の爪痕が激しく交通の便はあまりよくないらしい。戦勝国のヴェータ自身も余裕がなく、持て余しているのだろう。


「なるほどねぇ。整備のための費用はかかるけれど、あそこを使えるようにすれば、将来的な利益はかなり大きくなりそうだ」


 今まで黙って話を聞いていたハランシュカが口を挟む。

 確かに交通の要所を押さえてしまえば、交通料の徴収などで将来的には黒字になるだろう。


「僕は悪くない話だと思うけど、これは君たちの問題だからねえ。最終的な判断は任せるよ」


 そう言ってハランシュカは肩を竦めてみせた。

 ルディオは少し考えるようなそぶりを見せたあと、シェラへと視線を向ける。


「君はどう思う?」


 緑の瞳がじっとシェラを見つめてくる。

 ここは嘘をついても仕方がないので、正直に答えることにした。


「わたし、は……正直に言えば、あなたの魔力を他人に渡したくはないです。でも……」


 一度俯くように、目の前の机へと視線を落とす。

 シェラが続きを話すのを、彼は急かすこともなく待ってくれた。


「もし、このまま見過ごしたら……きっと後悔すると思います。なので、ルディオ様が問題ないのであれば、わたしは構いません」


 どちらを選んでも後悔するなら、人を助ける道を選びたい。アレストリアにとっても好条件であるし、ここは大人になるべきだ。


 素直な言葉を口にすると、ルディオは何を思ったのかシェラの頭をポンポンと叩いた。それから今度は髪を梳くように撫でられる。


 急にどうしたのかと顔を見上げると、彼は少しだけ困ったような表情で笑っていた。


「君は本当に、自分を犠牲にすることを厭わないな。もう少し、我がままになってくれてもいいんだが……」


 そうは言われても、レニエッタを放っておけないのも本心である。

 どう返したらよいか分からず、ぎこちなく視線を逸らすと、彼は小さく息を吐いて正面に座る人物に向き直った。


「バルトハイル王、こちらとしては提示された内容に問題はない。だが、賠償を受け入れるにあたって条件がある」


 今度はバルトハイルが片眉を吊り上げた。


「魔力の譲渡は、一回きりだ。それがのめないのなら、賠償についてはこちらから別の条件を提示させていただく」


 魔力の譲渡は一回のみ。

 レニエッタの体力がどれほど残っているのか分からないが、それでは多少寿命を延ばす程度にしかならないだろう。

 だが、彼が譲れるのはそこまで。少しだけほっとしている自分が、なんだか怖かった。


「ちなみにだけど」


 重苦しくなった空気を裂くように、再びハランシュカ割り込む。


「シェラ殿下を狙った二回目の襲撃について、聴取が終わったから話をさせてもらおうかな」


 この場にいるのがシェラ達だけではなかったとしたら、誰もが『なぜこのタイミングで?』と思ったことだろう。

 誰の返事も待たず、ハランシュカは続きを話し始める。


「犯人は三名。いずれもヴェータと戦争をした、敗戦国出身の者だった。彼らの言い分によると、もともとは式典に参加予定だった、ヴェータの王様を狙う予定だったらしい」


 はっと顔を上げる。

 レニエッタも二度目の襲撃については、心当たりがないと言っていた。恐らく戦争で敗れ他国に逃げのびた者が、その恨みから暗殺を企てたのだろう。


「だけれどシェラ殿下の未来予知で、来賓客は外の席には出ないことになった。そこで、唯一壇上に上がったヴェータの王女様を狙ったみたいだねぇ」


 この話については、シェラも初めて聞いた。

 夢の中では、操られた騎士の矢によってシェラは死亡していたため、そのあとに何が起きるかなど知る由もなかった。だが、自分が狙われた理由としては納得できる。


 黙って話を聞いていたバルトハイルが、大きな溜め息を吐き出してから口を開いた。


「……なるほど。二度目の襲撃は、こちらにも責任があるということか」


 あとから聞いた話だが、式典を再開する際シェラの視た情報から、警備は広場の後方に固めていたらしい。そのため、警備の手薄な前方付近からの襲撃に対しては、初動が遅れたのだ。


「ルディオ王太子、その条件で受け入れよう」


 仕方なくといった様子で、バルトハイルは了承の意を示した。

 これ以上話を続けたら、今度はヴェータにとって損害の大きい条件を出されかねない。そう判断したのだろう。


 無理やり自分を納得させているバルトハイルに対して、シェラは言葉を投げかける。


「一回の魔力の譲渡では、その場しのぎにすぎません。レニエッタはこの先どうするのです?」


 その問いかけに、バルトハイルは考え込むようなしぐさをしてから、シェラに視線を向けた。


「そうだな……救えるかは分からんが、一応手は考えてある。聖女の力で消費されているものが魔力であるなら、魔力の補充という観点から調べてみれば、何か方法が見つかるかもしれない。幸いヴェータには、魔法に関しての文献が多数残っているからな」


 今まで消費されているものが生命力だと思っていたからこそ、手の打ちようがないと考えられていた。だが魔力だったと分かったいま、もしかしたら補う方法があるのかもしれない。

 バルトハイルはそれを探すのだろう。


「できれば魔法研究に関しては、アレストリアにも協力を願いたいんだが?」


 今度はルディオに視線を向けて、問いかける。


「そちらに関しては問題ない。専門のチームを作らせよう」

「それは心強いな」


 どうやらアレストリアとヴェータで協力して、魔法の研究を始めることになりそうだ。

 もし魔力を補充する方法が見つかれば、シェラはルディオがいなくても生きていける。

 だけどそれはちょっと……寂しいかもしれないと、思ってしまった。


 複雑な表情をしているシェラに気付いたのか、ルディオが苦笑をもらす。


「なんだ、嬉しくないのか?」

「そういうわけでは……」

「君が私なしで生きて行けるようになったら、寂しいと思ってしまう私は……酷い男なんだろうな」

「そんなことはありません!」


 むしろ同じ気持ちであったことに嬉しさを感じる。

 わずかに頬を染めたシェラを見て、バルトハイルが不機嫌さを顔に出して言った。


「……じゃれ合うならよそでやってくれ」

「おや、バルトハイル陛下。新婚夫婦の前でその言葉は野暮ってもんですよ」

「おまえこそ面白がるのはやめろ」


 おどけた口調で言ったハランシュカを、ルディオが窘める。

 そのあといくつかの決め事をして、話は切り上げられた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ