39 お友達
「さすがにあそこに乗り込むのは失礼よ、セレナ」
「でもスーリア、こんな機会はめったにないじゃない?」
「そうだけど……ってちょっとっ!」
声のした方を見ると、シェラたちのいるガゼボへと歩いてくる、二人の女性の姿が見えた。
それは、見覚えのある――
「王太子殿下、妃殿下、ごきげんよう。お二人でお楽しみのところ申し訳ありませんが、少しお時間をいただけませんか?」
そう言って、淡い色の長い金髪の女性が、きれいなカーテシーをした。
彼女は第三王子の妃である、セレナ。
そしてその隣に並んだのは、第二王子の妃であるスーリアだ。タークブラウンの髪をさらりと揺らしながら、こちらもきれいな挨拶をする。
二人ともほとんど話したことはなかったが、何度か顔を合わせたことはある。
そんな王子妃たちが突然話しかけてくるなど、いったいどんな用があるというのか。もしかしたら王太子であるルディオに、何か言いたいことがあるのかもしれない。
疑問符を浮かべていると、一歩前へ出たセレナが、シェラを見て言った。
「シェラ様、どうか私と……お友達になってください!」
「…………は、い?」
思わず疑問形で答える。
状況がのみ込めていないシェラの心情を表すように、その場が静まり返った。
「――ちょっとセレナ!? さすがにそれは直球すぎるわよ!」
「だって、あなたが回りくどい言い方はやめてって言ったんじゃいない、スーリア」
「それは、私のときはやたらと前振りが長かったからよ! 極端すぎるわ」
なにやら言い合いを始めた二人を茫然と見守る。
仲がいいのか悪いのか、いやこれは間違いなく仲が良いのだろう。気兼ねなく言い合える間柄というものが、少し羨ましく感じた。
隣で状況を見守っていたルディオが、くすくすと笑いながら二人に声をかける。
「二人とも、シェラが困っているから喧嘩はその辺にしてもらえないか?」
「すっすみません!」
「謝る必要はない。言いたいことは分かったから、あとはシェラとゆっくり話してくれ」
そういって、ルディオは立ち上がる。
「私は先に戻るから、あとは……がんばれ」
「え……」
彼は苦笑しながらシェラの肩をぽんっと叩いて、ガゼボの外へと歩いて行った。
何をどう頑張るというのか。
言われた内容は理解できるが、なぜそういう話になったのかが全くわからない。
一人残されたシェラのもとに二人はやってきて、近くの椅子に腰を下ろした。
「あの、どういうことでしょうか……?」
素直に疑問を投げかけると、金髪の女性が口を開く。
「突然すみませんでした。私がハスール国から嫁いできたのは、シェラ様もご存じかと思います。他国から身一つで来たゆえ、お友達と呼べる方が少なくて……」
「それで、私にも突然声をかけてきたのよね。あの時は驚いたわ……今じゃいい思い出だけど」
苦笑しながらスーリアが言った。
「声をかけたのは突然だけど、私はずっとあなたを気にしていたのよ、スーリア。よく庭園で見かけていたから」
「そうだったの?……って今は私たちのことはいいのよ、セレナ」
「そうだったわ……それで、私はもっとお友達がほしくて。せっかく同じ王城で生活しているのだし、シェラ様ともお友達になりたいと思いまして、声をお掛けいたしました」
状況は理解できた。
シェラもセレナとは似たような状況であるし、二人が友達になってくれるのであれば、それは願ってもないことだ。
「わたくしも友達と呼べる方がおりませんので、お二人の申し出はとてもありがたいです。こちらこそ、よろしくお願い致します」
小さくお辞儀をしながら言うと、セレナはとても嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「よかったわ! それじゃあ、今度三人でお茶会をしましょう! もちろん、王妃様たちには内緒で」
「そうね、王妃様お二人がいると、ゆっくり話せないもの」
現在の第一王妃と第二王妃はとても仲が良く、二人が主催するお茶会を頻繁に開催しているらしい。シェラはまだ参加したことはないが、きっとこの二人は何度もお呼ばれしているのだろう。
「わかりました、楽しみにしています」
笑顔で返すと、スーリアがパンッと手を叩いて言う。
「もうお友達になったのだから、敬語はなしね。名前も呼び捨てで」
「そうね。よろしく、シェラ」
スーリアの言葉に続くように、セレナが笑いかけた。
同年代の女性の――というより、友達という存在自体がほぼ初めてできたシェラは、少し戸惑いを感じた。
しかし、せっかくの機会だ。
思いきって、ぎこちなく返事をする。
「よろしく。セレナ、スーリア」
シェラの言葉に、二人は笑顔で返してくれた。
それから昼食の時間まで他愛ない話をした。
こんな幸せな時間が、いつまでも続けばいいと思った。




