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【完結】竜と魔導書  作者: わーむうっど
第五部 竜たちの碧空
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終章 竜と魔導書

 緊張を破ったのは、人間の方だ。

 フォレウスは両手で降参ポーズをする。


「……止めておこう。言っただろ、礼を言いに来たんだって」


 癖のある笑みを浮かべたあと、魔銃使いは急に真面目な表情になった。


「ありがとう、シャイード。この世界を救ってくれて。お前さんのことを知らない、誰が世界を救ってくれたのか知らない多くの人間に代わって、俺が言っておくよ。……ありがとう」

「……おう」


 照れくさそうに視線を逸らしたシャイードの胸に、フォレウスは握り拳を軽く当てる。


「どうかお前さんは、そのままでいてくれ。人の心がわかるドラゴンのままで」

「……」

「じゃないとおじさんが、やっつけに行っちゃうぞ!」


 てへ、と舌を出してウィンクし、フォレウスは両手で銃の形を作って腕を交差するおどけたポーズを取った。

 シャイードは鼻で笑う。


「アンタの冗談は、マジでつまらん」

「えーーーーっ!? 今、笑ったじゃーん?」


 シャイードはその苦情を聞いて、今度は声を出して笑った。笑いが収まると、顎を持ち上げた尊大な表情で相手を見遣る。


「俺を敵だと思ったときは、いつでも来いよ。相手になってやる。身の程知らずのニンゲンめが」


 言って踵を返した。片手を持ち上げて歩み去る。そしてもう二度と、振り返らなかった。


 大小二つの背中を見送ったのち、フォレウスはガシガシと髪を掻く。


「ほんっと、最後までかわいくねえガキだ」


 言葉とは裏腹にその表情は、微笑ましいものを見守るそれだった。


 ◇


 東を見つめる魔導書につきあって、シャイードも無言で地平線を見つめていた。

 いつの間にか、忙しかったここ数日の白昼夢に入り込んでいたが、肩を揺らされて意識を戻した。


「シャイード。見るのだ、我の思った通りだ」


 アルマは前方を指差している。

 そこには雲と草原とコントラストがあるだけで、特別変わったものは……

 いや、あった。

 空にうっすらと虹が架かっている。


「うっす! 遠っ! あんなの良く見つけたな」


 雲と重なっていて、言われなければ気がつかない。「うむ」と魔導書は前を見つめたまま答えた。


「あると信じて適切な場所を探せば、見つかる。得てしてそういうものだ」

「虹がか?」

「ドラゴンも」


 アルマの答えに、シャイードは息を飲む。

 隣の顔を見上げたが、アルマは前を見つめたままだ。


「汝は虹に希望を見るというが、そういうことだろうか?」

「お前はどう思うんだ?」

「……」


 アルマは口元に指を添え、黙り込んだ。長い、長い時間が流れた。

 虹はさらに薄くなり、消えてしまった。儚いものだ。夢や希望のように。


「わからない」


 アルマはようやく答えた。


「我にはまだ、分かたれた光にしか見えない」


 シャイードは鼻を鳴らした。


「じゃあ、それでいいんじゃね?」


 アルマの肩に手を添える。魔導書は漸く彼を見た。


「俺とお前が、同じものを同じように見ていたら、見つかるものも見つからなくなる。だからお前は、俺とは全然別の見方をした方が良い。違うか?」

「……ふむ。汝にしては、なかなかに真理を突いておる」

「俺にしてはって部分に若干ひっかかりを感じるが……。ま、俺は脱皮も済ませた賢い大人のドラゴンだからなー!」


 シャイードは胸を張り、自身を指し示した。


「それを決めるのは、汝ではない。シャイードよ」


 アルマはさらりとやり返して、街道の先へと足を向ける。

 あっけにとられたシャイードを残し、すたすたと歩き始めた。


「え? あっ、お前、まだ俺のことガキだと思ってるのか、まさか! おい、アルマ!」


 シャイードは足早にあとを追う。


 隣に並んでみあげた相棒は、確かに笑っていた。


 ◇


 ――いまここに、長く帝国にて語り継がれることとなる一つの物語が終わる。

 彼らの行方を、もはや伝承は語らない。


 しかし、ひとたび場所を変えれば。

 時代を変えれば。


 人並み外れた美貌を持つ長身の魔術師と、

 小柄だが敏捷で賢明な竜の化身の旅路は、


 歴史の中に、地図の中に、小さな爪痕を幾つも残しているだろう。


 いつかまた、いつかどこかで、

 新たな吟遊詩人の手によってそれらの語られる日が、

 来るやも知れず、来ぬやも知れず――



 ――『竜と魔導書』 完――

こちらにて『竜と魔導書』本編は完結となります。

最後までご愛読いただきまして、ありがとうございました!


反響をいただけるようでしたら、外伝にも挑戦してみたいな~と考えております。

突発的に読み切り短編や、本編で描ききれなかったエピソードなどをアップするかもしれません(いまのところ、まったくの未定ですが)。


たくさんのいいねをありがとうございます! 感想や評価も、首を長くしてお待ちしております~!(ものすごく、執筆の力になります!)


6/17追記:全く新しいお話(男子冒険者シリーズ)も連載開始しました。

こちらもどうぞよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 完結おめでとうございます!各章での毎日の更新が楽しみでした。 [一言] ユーザーページを閲覧できないようになっているようですが、これでは活動報告も確認できません
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