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【完結】竜と魔導書  作者: わーむうっど
第五部 竜たちの碧空
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見覚え

 入口から見えた明かりは、テーブル状の大岩の端に載っているランタンの炎だった。

 光は細められており、ごく狭い範囲しか照らしていない。

 大岩は、真上から見たとして長径が二メートルほどの楕円形。高さはシャイードの肩くらいだ。

 角頭はその向こう側でじっとしており、頭の上半分が見えていた。


(魔物が巣くったのか? しかし、ランタンはニンゲンの?)


 シャイードは敵に気づかれぬように円筒形の大岩に移動した。

 岩肌に背をつけて唾を飲みこむ。心の中でタイミングを数え、早足で岩を回り込むと同時に小剣を角頭に向けて突き出した。


「動くな!! ……!?」


 直後、失敗に気づく。

 角の生えた頭と見えたものは、ただの角付き兜だ。それが、砂地から生えた尖った岩にかぶせられていていた。

 直後に、右後方から殺気。

 反射的に振り返るも、防御は間に合わない。右腕に衝撃を受けた。続いて鋭い痛みを覚える。


(引っかかれた!?)


 服の袖が大きく切り裂かれ、鮮血が飛び散った。受けた傷を確認する隙もなく、連撃が襲い来る。速い。明かりに浮かび上がる相手は、大柄な人型だ。


(いや、長剣か?)


 光を反射して振り下ろされる剣を、シャイードは小剣で受けた。


(重いっ!)


 小剣が押し返されてくる。敵の方が力が強い。右腕が痺れるように痛んだ。先ほどの傷はかなり深い。

 シャイードは至近距離からクロスボウを撃った。鎧を貫通し、敵の右腹に刺さる。

 人影は予想外の衝撃によろめいて、二歩ほど下がった。

 だがすぐに体勢を立て直し、鋭い突きを放ってくる。

 シャイードは相手の顔に向けてクロスボウを投げつけながら、背後に大きく跳んだ。大岩と尖り岩の間を抜けて身を屈める。

 敵は左手でクロスボウを打ち払うも、その一瞬で目標を見失った。顔を左右に動かしつつ、長剣を構えて岩の間を抜けてくる。

 大岩の背後に潜んだシャイードは、敵と反対方向に岩を回り込んだ。左手一本で身体を持ち上げ、一回転して岩の上に立つ。


(砂!?)


 大岩の中央はくぼんでおり、そこにも砂が詰まっていた。テーブルだと思い込んでいたシャイードは、一瞬足を取られる。

 相手が気づいた。

 長剣が足を薙いでくる。

 それを両足ジャンプで飛び越え、身体を一回転させて砂地に着地すると、同時に相手の首筋にひたりと小剣を宛がった。


(取った!)

「剣を捨てろ!」


 だが相手は構わずに、払った長剣を返してシャイードのふくらはぎを薙いだ。


「!?」


 予想外の攻撃に続いた、燃えるような鋭い痛み。シャイードは直前に、反射的に尻餅をつくことで、威力を軽減していた。それでもブーツごとざっくりやられている。小剣の切っ先はその衝撃で、相手の首を掻いた。

 ――そのはずだった。

 しかし、兜を外している相手の首に、なぜか刃は通らなかった。

 倒れ込んだシャイードの胸を、敵の左手が押さえ込む。長剣が微かな炎に煌めいた。


(まずい!!)


 もはや正体がどうのと言っていられない。

 シャイードは瞬時に、竜の力を解放した。こうなってはもう、相手を殺すしかないが、そうしなければ殺される。

 ターバンを押し上げて角が生え、身体を鱗がおおった。

 竜の怪力で相手の左手を撥ね除け、背中の翼で飛び上がる。

 敵は息を飲んだ。

 シャイードも、金の瞳を見開く。敵の頭に、角が生えていたのだ。


(いつの間に兜を被ったんだ……?)


 シャイードが不思議に思いつつ、空中で小剣を構え直したとき。

 バリッという大きな音と共に、洞窟内が急にまばゆく輝いた。帯状の電撃が敵を打ちすえる。


 シャイードは振り返った。

 アルマだ。

 いつの間に洞窟内に入ってきていた。

 突き出したその両掌からは、まばゆい光が空気を引き裂いて敵に殺到している。

 シャイードは網膜を焼かれ、左腕で目を庇った。翼で空をうち、彼の隣へと下がる。

 砂地に着地すると、ふくらはぎを激痛が襲った。だが、耐えられぬほどではない。


「……ふ、……ぐぉぉ……っ!」


 敵は棒立ちになり、ビクビクと震えた。電気が鎧を撃つバチバチという音に、くぐもった苦鳴が混じった。

 アルマの髪も静電気で浮かび上がり、周囲にはオゾン臭が立ちこめた。魔導書のすんとした無表情が、下からちらつく光に照らされ、ちょっとばかり怖い。

 シャイードはまぶしさに顔をしかめつつ、敵とアルマの間で視線を往復させた。アルマに左手を突き出す。


「アルマ、一旦やめ! つか、援護が遅え!!」


 アルマは腕を引き、両掌を離して上向けた。それぞれ電撃の玉が浮いている。象牙色の髪もまだ、帯電してパリパリしている。敵は大岩の傍でくずおれ、がっくりと膝をついた。


「我はそう思わぬ。これより早ければ、汝を巻き込むおそれもあった」

「ふん。だがお前の魔法が効果を発揮したって事は」

「むろん、ヒトではない。……ドラゴンだ」


 アルマは最後の単語を小声で言った。

 予想していたことではあったが、シャイードは驚き、改めて敵を見据えた。


 フォスが入り、洞窟内はぐんと明るくなる。漸く相手の全容が明らかになった。

 二本の黒い角は、癖の強い赤い長髪から直に生えていた。黒い全身鎧を身に纏っている。右手の長剣を砂地に立てて、片膝をついた姿勢で動かない。


 シャイードはアルマと顔を見合わせたあと、小剣を構え、警戒しつつ敵に近づいた。

 相手の間合いのすぐ外で止まる。相変わらず敵は動かない。

 その表情は、長い髪に隠されて全くうかがえなかった。

 だがシャイードはそこで、鎧に見覚えがあることに気づく。尖った岩の兜を見て、さらに確信を深めた。

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