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【完結】竜と魔導書  作者: わーむうっど
第四部 死の軍勢
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死闘 1

 骨傀儡ボーンゴーレムは床についていた手を持ち上げ、後ろ足で立ち上がる。そして一行のいる回廊を、二本の右腕で殴りつけた。

 前衛のシャイード=アルマとイールグンドは、その直前に欄干から下へと飛び降りている。遅れて、黒い三角帽子がゆらゆらと落下した。

 後衛にいたディアヌはラザロを庇い、開け放たれたままだった背後の扉から、外へと転がり出た。身体を密着させて一回転した後、ディアヌはすぐに立ち上がる。ラザロは不服そうに何かをぶちぶちと呟き、魔杖を支えに立ち上がった。礼のようだった気もするが、ディアヌには聞こえない。

 今の一撃で、回廊の床は砕け散って落下してしまった。


「分断されたな」


 ラザロが呟き、魔杖を構え直した。詠唱を始める。

 ディアヌもヨルに短い祈りを捧げ、片手を前に突き出した。気弾は骨傀儡の顔に当たったが、敵は気にも掛けない。

 骨傀儡は扉に両手を掛け、入口を押し広げようとしている。ディアヌは無防備なラザロを庇う姿勢で待ち構えた。


 一方、床に下りたシャイード=アルマとイールグンドは、すぐさま左右に分かれた。

 右に走ったイールグンドはそのまま骨傀儡の左足を回り込み、肩の上のキールスを矢で狙う。

 一瞬の迷いが生じたが、「せいっ!」という気合いと共に、弦をはじいた。

 矢はキールスに向けて真っ直ぐに飛んだが、射線に入り込んだシャンデリアに弾かれてしまう。しかしイールグンドはそれを予測して、二の矢を放っていた。

 上に向かって放たれた矢は、鋭い放物線を描き、キールスの死角――頭の上から襲いかかる。

 そのむき出しの右肩に命中した。


「やった……、えっ」


 刺さった矢は、イールグンドの見ている間に、キールスの身体の中にずぶずぶと沈んでいく。そして、イールグンドに返ってきた。


「くっ!」


 予測不能の攻撃に、イールグンドの右肩に矢が刺さる。その直前に聖盾が輝き、ダメージを軽減していた。矢は肩の表面を、ほんの少し傷つけただけで済んだ。その傷口も、再生の効果ですぐに塞がっていく。

 彼はほっとし、効果の薄い弓から片手剣に持ち替えた。


 反対側に回り込んだシャイード=アルマは、骨傀儡の右大腿骨に飛び乗っていた。そして背骨、肋骨へと次々飛び移っていたが。


(身体が……重いっ)


 少しは慣れたものの、アルマの身体は重心が高く、バランスを取るのも難しい。賦活の魔法のお陰か、息が上がっていないのが幸いだ。

 扉を広げていた骨傀儡が気づき、鬱陶しそうに左手で払おうとする。シャイードは手が届かないであろう胸椎へと走るが、今度は四本の腕が次々に迫った。


(思ったより長い……!)


 そうなのだ。骨傀儡の腕は、人間の腕より長く、彼のいる場所も安全ではなかった。しかもそのタイミングで骨傀儡が背を逸らした。


「!!」


 シャイードはバランスを崩し、背から足が浮く。

 骨傀儡の右の第二手に囚われてしまった。


「は、はな……せっ!!」


 骨傀儡はシャイード=アルマを手の中に捕らえたまま、身体の前に持ってきた。三つの黒い眼窩が見下ろす。それにキールスの青く輝く瞳が。

 彼を捕らえる指の力が、強まった。


「ぐっ……」


 身体を守る聖盾が輝いて、閉じようとする指に拮抗する。だが、ぴしぴしと音がして、輝く盾にヒビが入り始めた。


『何をやっておる。早く逃げ出さねば、まずいぞ』

(わかってる……っ!)


 シャイードは渾身の力で、両腕を開こうと試みる。

 しかし、骨傀儡は怪力だ。アルマの筋力では、対抗すべくもない。


(駄目か……っ!?)


 いつものシャイードならば、力を解放するという最終手段もあった。今はそれも出来ない。


『シャイード、我から離れろ!』


 心の中でアルマが、珍しく焦ったような声を出す。


切離パージ


 凛としたラザロの声が響いた。突然、シャイードは落下する。

 床に落ちて、骨の中でしこたま身体を打つが、聖盾がある程度のダメージを防いでくれた。それを最後に、光る盾は砕かれ、加護が失われる。

 シャイードはごそごそと身体を動かし、指の間から這い出した。長い髪をまとめていたリボンが引っかかり、三つ編みは解けてしまった。


「いてて……。一体、何が……」

『ラザロの魔法だ。骨傀儡の腕をもいだ』


 骨傀儡は腕がいきなり失われたことを、最初は理解できない様子だった。だが、握りつぶそうと力を入れても、落ちた腕は何も出来ない。魔法的な繋がりが断たれているのだ。

 キールスが何かを口にする。

 骨傀儡は顔を上げた。ラザロは既に次の呪文に取りかかって無防備だ。

 そこに腕が伸びる。


「ラザロ!! 危ない!」


 シャイードは立ち上がりながら、警告を発する。

 だがラザロは深い集中のなかにいた。


「やあっ!!」


 気合いの声と共に、ラザロへと伸びた腕を戦棍が打ち砕く。鈴音が追いかけた。ディアヌだ。

 彼女はラザロと骨傀儡の間に立ちはだかった。


「ラザロさんには、この私が指一本触れさせません!」


 いらだたしげに向けられる骨の腕を、彼女は次から次に戦棍で叩いた。

 骨の身体に対し、彼女の戦棍は効果抜群だ。


「切離」


 ラザロの呪文が再び完成する。骨傀儡の右大腿骨が骨盤から切り離され、巨人の骨はバランスを崩して横様に倒れた。

 ディアヌがそれを追って、骨の上に飛び降りる。キールスは死出虫に支えられ、空に浮いた。


「こっちは私たちに任せて、アルマさんたちはキールスさんを!!」

「お、おう!」


 言うなりディアヌは、足元の骨を手当たり次第に叩き始める。倒れた骨傀儡は、三本の腕を使って起き上がろうとするが、その度に関節をたたき壊され、或いはラザロに切離されて次第に無力化した。

 キールスはラザロに向けて、死出虫の群れを放つ。彼を取り巻き、窒息させるつもりだ。


「させん!」


 イールグンドが喚び出したばかりの火精霊から、炎の旋風が巻き起こる。

 死出虫は燃え落ち、ラザロに近づくことも出来ない。


「今だ」


 シャイード=アルマは、死出虫を放ったことで高度が落ちたキールスに向けて、床を蹴った。

 狙いは右手――死王の指輪。

 シャイードは素早く剣を振り下ろすが、避けられてしまう。


「くそっ! 微妙に間合いが遠い!」


 床に下りたシャイードは、すぐに体勢を立て直してキールスを追う。

 背後に滑るように移動しながら、キールスは死出虫をけしかけてきた。シャイードは虫の群れを躱し、切り裂き、キールスを追うが、相手の方が素早い。

 次第に息が切れてきた。

 賦活の魔法が、効果を失ったのかも知れない。


「はあっ、はあっ!!」


 それでも果敢に、キールスへと打ちかかる。


「シャイード、援護する」


 イールグンドも駆けつけ、二人でキールスに斬りかかったが、キールスはイールグンドの剣では致命傷にならぬことを知っているようで、彼の剣は無理に躱さず、シャイードの剣から指を守ることに専念した。

 そして二人は、気づかぬうちに背後から近づいたシャンデリアの枠にはじき飛ばされた。


「うおっ!?」

「ぐあっ!!」


 それぞれ、別方向に飛ばされ、壁や瓦礫に背中を打ち付けた。


「くっそ……」


 キールスは散っていた死出虫を身体に集め、浮き上がった。彼は再び、指揮をするように両腕を持ち上げる。


「えっ!?」


 足元の骨が動き、ディアヌがバランスを崩して尻餅をついた。

 砕かれた骨と骨が、再びくっつき合って、巨人に戻ろうとしている。


(まずい! また最初からになる!!)


 シャイードは焦った。

 最初に掛けてもらった補助魔法は、すでに切れたか切れかかっている。同じ戦いになったなら、先ほどよりももっと不利だ。

 シャイードはキールスを見上げた。高い。アルマのジャンプ力では届かない。


(どうする。どうすればいい? 何か方法は……何か方法があるはずだ)


 シャイードは必死で瞳を動かし、頭を回転させた。

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