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【完結】竜と魔導書  作者: わーむうっど
第三部 竜と帝国
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謎解き

 問われたドワーフは謎かけの文言を指さし、続いてハンドルを示した。


「謎かけに出てくる色は、きんだけじゃな。そうすると、対応するのはこの黄色いハンドルじゃないかのう?」

「金が黄色? じゃあ、太陽は赤か?」

「太陽については、赤く描く民族もいるし、黄に描く民族もいるし、白に描く民族もいるんだよ、シャイードくん」

「ん? そうしたら黒以外はみんな太陽なのか? いや、黒だって蝕の時の太陽ってことも……」

「金が英雄の証というのはどういう意味だろうね。光り輝く? 金を持ち帰る?」

「おお!! 金は英雄じゃ、確かに!!」


 突然、グリフが大声を出した。

 シャイードとセティアスは驚き、彼に視線が集中する。


「何の話だ?」

「いんや。わしらドワーフは、金属を記号やら数字やらで表すことがあるんじゃがな? 金の記号は、ドワーフ語の英雄と同じ響きの読みなんじゃ」

「例えば共通語だとしたら、金はエーユー、みたいなことかい?」


 セティアスの確認に、グリフは頷く。

 三人は揃ってハンドルを見つめた。


「黄は、金……。黄金……そうか!」


 シャイードは指を鳴らした。


「この四色、実は全部が”金”――つまり、金属を表しているんじゃねーか? いいか?」


 と、彼は黄色のハンドルを示した。さらに言葉と共に次々にハンドルを示していく。


「まず、きんのことを黄金こがねっていうだろ。それで銀は白金しろがねともいう。赤金あかがねといえば銅。そして黒金くろがねは……鉄だ!!」

「なるほどのう……!!」「なるほどね!」


 グリフとセティアスが同時に唸った。


「うむ、非常に納得できるわい。ドワーフは金属に、とても親しみがあるからのう。わしが気づいてしかるべきじゃった。恐れ入ったわい」


 グリフの手放しの賞賛に、シャイードは得意げな顔になった。


「それだと、この並びにも意味があったりするのかな? 黒、つまり鉄が一番上なのは、何でだろうね?」

「それは……」

「それはそうじゃろう」


 言葉に詰まるシャイードと裏腹に、グリフは当然というように頷く。


「鉄は一番良いものじゃ。わしらは鉄が好きじゃよ」


 言うなりグリフは歌い始めた。


黄金こがねは富貴

 銀は魔法

 赤金あかがね鳴らして神祀れ

 だけど俺たちゃ、鉄を打つ

 焼いて叩いて伸ばして冷えて

 鍛えしからだは、全てに勝る』


 深みのあるバリトンは、歌になるとなかなかの美声だった。石壁の空間に、場違いに陽気に反響する。


「ドワーフたちが鍛冶場で歌う、労働歌だね。打てば打つほど強くなる鉄と、自らの肉体をたゆまず鍛えようとするドワーフたちの、質実剛健な気質を重ね合わせている」


 シャイードは、グリフのリピートを聞きながら指を折る。


「全部入っているな、ハンドルの金属が」


 その表情が突然、晴れやかになった。金瞳に理解の光が灯る。

 彼はもう一度、頭の中で謎かけの文を反芻し、ハンドルを確認して頷いた。


「よし、分かった! 解けたぞ!!」


 歌い終えたグリフに上機嫌に拍手をした。セティアスが驚いて目を丸くする。


「ま、待つんだ、シャイードくん。まだ解釈できてない文章が幾つかあるようだけれど? 間違って回すと何かが起きてしまうのだろう?」

「……ん。いける、と思う。おい、グリフ」

「なんじゃ、小僧」


 シャイードは黄色いハンドルの持ち手を握り、瞳だけをグリフに動かした。


「アンタさっき、金属を数字でも表すと言っていたな? 金の数字は幾つだ?」

「金か。金は79じゃな」


 シャイードはハンドルを、反時計回りに二回転させた。

 セティアスは咄嗟に頭をかばう。

 ……特に何も起こらない。壁の中で絡繰りが動いた音もしなければ、トラップが発動した気配もない。


「な……、何も起きないけれど……。失敗かい?」

「いや、次だ。銀は幾つだ、グリフ」

「銀は47」


 シャイードは白いハンドルを、反時計回りに三回転させた。そこでセティアスが突然、シャイードの視界に割り込む。


「ちょ、ちょ、ちょ! ちょっと待ってくれ。どういうことか説明してくれないかい? ハンドルを回される度に、気が気じゃないよ」

「ああ、そうか。つまりだな」


 シャイードは謎かけの文言を一つ一つ示す。


「このドワーフ製の謎かけは、ドワーフなら知っている記号が鍵になっていたんだ。しかし鍵以外の部分についちゃ、誰にでも解ける謎かけだ。いいか? まず、一行目の”正午に太陽を拝し”。これは時間を表しているのではなく、方角を表している。正午の太陽はどこにある?」

「南だね」


 セティアスは即答し、シャイードは頷いた。


「そうだ。でも、実際に南を向けって意味じゃない。”南を向いていると想定しろ”っていう意味なんだ」

「……?」

「今はそう思っておけ。で、次に”きんは英雄の証”ってところだが、ここで、『1,謎かけに金属が関係していること』と、『2,謎を解くにはドワーフの記号が必要』だと教えている」

きんの記号は、ドワーフ語の”英雄”と同じ音だからの」


 グリフの補足に、シャイードが頷く。


「続く”左より右を減ぜよ”。ここで俺は混乱した。減ずるって事は、数が関係していそうだ。しかし、数字なんてどこにも出てきていない。どこにも書かれていない。でもグリフがヒントをくれた。ドワーフたちは”金属を記号やら数字・・やらで表すことがある”って。数字! それだ、と思った」


 シャイードは肩をすくめる。


「ここまで来ればもう、謎はほぼ解けたも同然だ。それぞれのハンドルの色に呼応した金属の数字の、左側の数字から右側の数字を減ずる、つまり、引けばいい。そしてその結果が四行目、”無の地平を超えねば”、つまり0よりも小さければ?」

「”陽は東へと沈む” ……、そうか!」


 セティアスが理解したことを見て取り、シャイードは口端を持ち上げた。


「その通り。南を向いている人物から見て、東は左手側だ。ハンドルを、太陽が東へと沈む方向に、マイナスになった回数だけ回せって事だ!」


 グリフに確認しつつ、シャイードは赤いハンドルを七回転、黒いハンドルを四回転、どちらも反時計回りに回した。

 全てを回転させ終えた直後。

 扉の方からガチャン、と音がした。


(ロックが外れた)


 早速そちらへ向かおうとしたシャイードは、天井から別の音を聞いて動きを止める。耳を澄ませた。


(……これは……、水音?)


 するとその視界の中心で、半球状の物体が微妙に動く。シャイードはいつでも動けるように身構えた。

 水音が静かになると、半球はガラガラと音をさせながら徐々に下がってきた。半球が振動で揺れると、縁から僅かに水が垂れる。

 半球の縁には鎖が何本か接続され、それが半球の直上で大きな丸い鉄輪に接続し、そこから一本の太い鎖となって天井裏に消えている。下まで移動して覗いてみると、奥に滑車が見えた。


「シャイードくん!!」


 セティアスの言葉に振り返ると、シャッター扉が真ん中まで持ち上がっていた。


「そうか!」


 シャイードはシャッターの上から天井をたどって半球へと視線を走らせた。絡繰りそのものは見えないが、この半球とシャッターは天井裏で連動している。


 ハンドルを正しく回すことで、まずシャッターをロックしていた支えが外れる。

 同時に天井裏を勢いよく水が流れて半球に注がれる。

 そして内部に水が溜まり切ると、半球はその重さで下がり、シャッターが開くのだ。


(まてよ……)


 シャイードの思考に、何かが引っかかった。


(扉にロックを掛けているのだから、本来水を流す必要なんてない。最初から重り――この場合は半球――の方を重くしておけば、ロックを解除するだけで自動で開く仕組みは作れる。そうしなかったのはつまり……)


 シャイードは半球の真下にある皿の意味を理解した。


「マズイ! お前ら、急いで扉を潜れ! 余り長くは開いてないはずだ!」


 入口で様子を伺っていたスティグマータに向け、大声で命ずる。片手を彼らから扉に向かって水平に薙いだ。

 スティグマータたちはその言葉に、弾かれたように移動を開始する。

 セティアスとグリフは、既にシャッターの前に移動していた。扉の向こうは直線の通路だ。


「早く!」


 セティアスが腕を回している。グリフは一足先に扉を潜り、その奥を光で確かめた。


「急げ、急げ!」


 シャイードは半球の絡繰りの傍で、スティグマータたちを急かす。ちらちらと半球の高さを確認した。


(まだ大丈夫。間に合うか……!?)


 見ている間にも、半球はどんどん下がっていく。


 この絡繰りに水を介入させた理由。

 それは、シャッターを自動で開かせるだけでなく、自動で閉じさせる(・・・・・)ためだ。

 仮に半球の重さがシャッターよりも重く作られていた場合、ロックを解除した時点でシャッターが開き、その後、誰かがシャッターを下ろす何らかの操作をするまで、扉は開きっぱなしになってしまう。

 だがこの絡繰りは、そこに水を介在させた。


(あの半球は、扉よりも軽く作られているはずだ。そうすると、ロックが外れただけでは、シャッターは上がらない。そこで、半球の中に水を入れる。あの半球の大きさだと、縁まで水を入れれば……、そうだな、ざっと130kg以上は重くなるはずだ)


 シャイードは半球の大体の大きさから、水の体積を暗算した。

 そこで重さの逆転が生じ、半球が下がり、シャッターは開く。

 ところがその次は、半球本体がくぼみに接する前に、半球の先端から飛び出した小球が、床の上の円柱に触れるだろう。


 あの小球は、半球の底に開いた丸穴を塞ぐ”栓”なのだ。栓が円柱に押し上げられると、穴と円柱の間の隙間から水が零れだし、くぼみに開いたスリットから床下に流れ落ちる。

 やがて、再び半球とシャッターの重さが逆転すれば……。


(シャッターは自動で閉まる、って寸法か。なるほど。水は雨水を取り入れるようにしておけば、この装置は半永久的に機能する。頻繁に開ける必要がなく、開けっ放しにしておきたくない扉にはもってこいだな)


 初めて見る絡繰りに感心しつつ、シャイードはスティグマータを誘導した。まだ二十人ほどが抜けただけだが、既に半球は円柱に接しようとしている。


(間に合うか……!?)


 シャイードは丁度目の前を通過しようとしたスティグマータの手から、火かき棒を掠め取った。

 スティグマータは瞬時に手の中から火かき棒が消えて、驚いて歩を止める。


「止まらずに行け!」


 シャイードに鋭く命じられると、はじかれたようにシャッター扉へ向かった。

 ついに栓が円柱に接した。上からガチリという音がして、滑車が左右からロックされる。おそらく、水が抜けきるまでの一時的なロックだ。ザーッという音と共に、半球内の水が抜けていく。


(25……、26、27……)


 まだスティグマータは半分もくぐり抜けてない。怪我人の担架が運ばれてくる。その脇を、子どもたちがすり抜けて扉へと向かった。


(間に合うか……!?)

ということで、「元素周期表」を鍵として用いたリドルでした。

謎解き、楽しんでいただけましたでしょうか。

解けた方には、「引き上げ屋」の素質があります!

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