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【完結】竜と魔導書  作者: わーむうっど
第三部 竜と帝国
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謎かけ

 休憩を終え、体力を回復させた後に一行は、再び地下通路を南へと向かった。そして地図に×印をつけた問題の地点へとたどり着く。

 通路のくぼみの奥が隠し扉になっていた。回転する石壁を抜けた先は縦長の部屋だ。ランタンの光に、対面の壁にある鉄扉が浮かび上がった。その途中、天井の中央には、半球状の突起物がある。


「俺が様子を見てくる。ここで少し待ってろ」


 シャイードはセティアスからランタンを借り受けると、足元を確認しながら慎重に部屋に踏み込んだ。


 部屋の中央付近まで進んだところで、床に皿状の浅いくぼみがあることに気づく。丁度、天井の突起の真下に当たる部分だ。シャイードは上にも警戒しつつ、その場にゆっくりと膝をついてしゃがみ、ランタンをくぼみの縁に置いた。


 くぼみの中心には、円柱形の突起がある。

 円柱の直径は、貨幣と同じ程度だ。高さは掌の長さほど。

 そして円柱を囲むように、六つの細長い穴(スリット)が開いていた。


(なんだ? トラップか?)


 シャイードは顔を近づけて、掌で仰いで匂いを嗅ぐ。

 ガスが噴き出していたり、くぼみに溜まっていたりはしない。

 中央の円柱を踏むと、スリットから刃物が飛び出す仕組みかと警戒し、円柱をまず調べた。

 だが円柱は、床にしっかりと固定されていて、押してへこむような設計ではない。


 次にはスリットを調べてみる。

 鏡を取り出し、ランタンの光を反射させて奥を覗き込んでみた。

 見える範囲に、武器の煌めきや絡繰りらしきものはない。ただの穴のようだが、光の届く範囲では底が見えなかった。

 とすれば、警戒するべきは落とし穴だが、周囲の石床をつぶさに観察しても、切り込みや継ぎ目などは見られない。


(うむ……?)


 余り見ないパターンだ。

 その場で顔を上げ、天井の半球を下から観察する。半球の直径は、シャイードの胸の中心から片手の指先までと同程度に見えた。半球の最下部には、さらにリンゴ大の半球が付属している。


(乳房みてえだな)


 天井の半球の丸みと、床のくぼみの丸みは角度が全く違う。くぼみは半球というより深皿の形状だ。ぴったりと填まってどうにかなる仕掛けではなさそうに思えた。


(どう繋がってくる……? それとも、上と下はまるで別の仕掛けか?)


 とりあえず、謎の仕掛けの解明は後回しにして、鉄扉へと向かった。

 鉄扉には鍵穴どころか、取っ手もなにもない。だが逆に、蝶番すらないことがヒントになった。

 シャイードはランタンを掲げて上を見る。思った通り、上部の石壁に僅かな隙間が空いている。


(シャッター式だ)


 次にしゃがんで下を観察した。石床は凹んでおり、そこに鉄扉の下部ががっちりと噛まれていた。指や道具の入る余地は全くない。精々、爪の先が少し入るくらいだろう。流石ドワーフ作りだ、と内心舌を巻く。

 シャイードは肩越しに背後を振り返った。セティアスはこちらの様子を伺っているが、遠すぎて細かい部分までは見えていないはずだ。


(よし)


 唇を舐めた。目を瞑り、注意しつつ竜の力を少しだけ解放する。少しだけ。解放しすぎては駄目だ。ターバンの下で角が伸び、布地を押すのを感じた。

 その状態で鉄扉に両掌を添え、摩擦と腕の力だけで持ち上げようと試みた。


 ……無理だった。びくともしない。


 シャイードは指を離して力を抜いた。角の長さが元に戻る。

 立ち上がってもう一度、シャッターの上辺を注視した。


(重さだけではないな。内部で何らかのロックがかかっている。それを解除するすべが、どこかに……)


 シャイードはランタンを手にして、歩き回りながら左右の壁面を観察した。

 あった。

 鉄扉に向かって、右手の壁だ。目線よりやや低い場所に、小さな隠し扉がある。

 巧妙に壁に擬態しているが、僅かに切れ込みがある場所があり、そこに指をかけると小扉が開いた。


(なんだこれは……!)


 中は長方形にくぼんでいて、円形のハンドルが四つ、菱形に並んでいた。それらは四色に塗り分けられている。

 ハンドルには持ち手となる丸い突起が付いており、全て一番上に来ていた。


   黒


 黄   白


   赤


 そして扉の内側には、文字が記されている。

 読めない。だがその特徴から、何という文字かは分かった。


「グリフ、来てくれ!」


 シャイードは背後に声をかけた。



 グリフはハンドルを隠していた蓋の裏に書いてある文字を読んだ。それは、岩を刻んで印すのに適した、直線的な文字――ドワーフ文字だ。


「どうしろって書いてあるんだ?」

「どうしろとも書いておらんぞ。ただの変な文じゃい」

「共通語に訳せるか?」

「うむ。


 ”正午に太陽を拝し

  きんは英雄の証

  左より右を減ぜよ

  無の地平を超えねば

  陽は東へと沈む”


 ……とまあ、こんなところじゃな」


 シャイードは爪を噛んだ。


謎かけ(リドル)か」

「らしいの」


 二人は黙り込んだ。グリフは文字を睨み、シャイードはグリフの訳を反芻しながら、虚空を睨んでいる。

 しばらく考えた後、シャイードが視線を戻した。


「このハンドルを回せば扉が開くと思うんだが……」

「じゃが四つもあるわい。色も付いておるし、ご丁寧に謎かけまでついておる」

「この謎かけは誰に宛てたものなんだ?」

「おそらく、備忘メモじゃよ。わかる者には備忘で、わからぬ者にはまるでわからぬように書いてある」

「チッ、めんどくせえな。……まあ、順に解釈してみるしかねぇか」


 ドワーフは片眉を上げてシャイードを見上げた。面白がるような表情だったが、シャイードは気づかない。眉根を寄せて腕を組み、独りごちている。


「正午ってことは、回す時間も関係するのか? 左より右を減ずる……。黄色から白を? そもそも何を減ずる? 最後にも陽――つまり太陽が登場しているのが気になるが……」


 しばらく考えた末に、シャイードは首を振った。


「何のことやらさっぱりだ。何か、手がかりが足りないような気がする」


 それからハンドルに目を向けた。


「この色分けにも、何か意味があるんだろうが……。セティアスの知恵も借りられねぇかな?」

「呼んでみるか?」


 グリフが言うなり、様子を伺っていたセティアスを手招いた。

 セティアスは背後のスティグマータを気にする。自分まで離れてしまって大丈夫だろうかと危惧したのだが、結局は小走りにやってきた。


「どうしたんだい?」

「謎かけに詰まっていてな。アンタ、何か気づくことはあるか?」


 グリフが、小扉の裏に書かれたドワーフ語を再び共通語に翻訳して聞かせる。

 セティアスは目を輝かせた。


「いいね! 英雄の試練にふさわしい謎だ」

「おい! 人ごとじゃねーんだぞ」

「ハンドルを適当に回してみたらどうかな? 案外あっさり開いたりしないかい?」


 セティアスが白いハンドルに手を伸ばすのを、慌ててシャイードが止めた。


「おいやめろ! こういう”試行錯誤したらいつかは開く系”のものはな、大抵、間違うとトラップが発動するんだよ! うかつに試せないようにな。仮にトラップがなかったとしても、間違えすぎると二度と扉は開けなくなる」

「そうなのかい? それは困ったねぇ」


 セティアスはそれほど困った風でもなく口にして、手を下ろした。シャイードはため息をつく。


「尤も、複雑な手順であるとすれば、作った側もうっかり間違う可能性があるから、即座に致死性のトラップが発動するとは考えにくいが。だがまあ、ペナルティを食らわないに越したことはないだろう。謎かけを考えた上で、間違う可能性だってあるわけだし」

「そうだねぇ」

「で、アンタなんか知らないか? こういう謎かけの文言を、詩で聞いたことがあるとかなんとか……。些細なことでもいいんだが」

「謎かけの文言については分からないけれど、僕はこの、ハンドルの色が気になっているよ。どうしてこの四色なのかな? 他の色では駄目だったのだろうか。緑とか、青とか」


 シャイードは顎に手を当てた。自分も気になっていたことだ。


「それは何とも言えんが……。単に作った奴の好みだって場合もあるし」

「ドワーフのかい?」

「そこら辺はどうなんだ、グリフ」


 グリフは扉の文言を睨んでいたが、不意に問われて顔を上げた。髭をしごきつつ、一歩離れてハンドルを見る。

 そこで気づいたが、このハンドルはドワーフの目線の高さにある。彼らにとって、丁度回しやすい作りだ。


(ドワーフの目線、つまりドワーフの思考でないと、答えが分からない謎かけかも知れねえ)


 シャイードはそう直感した。

 思考の言語を、何か別のものに置き換える必要がありそうだ。

完全オリジナルのリドルと仕掛けです。

良かったら考えてみて下さい。次回、解答編。


ヒント:中学・高校で習うアレを使うと……?

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