序章Ⅰ
その島は、外界から隔絶されていた。
絶海の孤島であるだけでなく、魔法的な霧が、島を世界から隠していたのだ。
そこには秘密があり、守らねばならないモノがあった。
中央の塔が、隠匿の魔法を維持していた。
塔には魔術師が一人。弟子とともに住んでいた。
弟子――とは言っても魔術師は、彼に魔法を教えていない。
彼に魔法の才能がないのは分かっていたし、また、教える必要も感じなかったからだ。
その代わり、他のことを教えた。
それは世界についてであり、物作りや畑作りであり、身を守るための方法である。
弟子は俊敏で、器用だった。彼は絡繰りに興味を持ち、やがて水車を作った。
畑に水を引き、散水機を設置した。
クロスボウを小型軽量化して、森の中で狩りをした。
そのうちに、塔の天辺から空を見上げて、ぼんやりとすることが多くなった。
島には他の住民もいた。
人間ではない。――妖精たちだ。
島はパワースポットであり、魔力が豊富で、大地にも力があった。
弟子の話し相手は、師匠でなければ妖精たちだ。
妖精たちは彼に言葉を教え、からかい、ともに遊んだ。
平和な時間が流れた。
それが破られる日まで――