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帰還①

苦難と不思議に満ちた旅路も大詰めを迎えました。オデュッセウスは自分の屋敷を取り戻せるのか? (分かっちゃいるけど)

 こうしてオデュッセウスが語る不思議に満ちた物語を聞いていた人々はしばらくの間は物も言わず、壮麗な広間の中は水を打ったように静まり返っていました。そのしじまを破ったのは国王アルキノオス。


「この物語への礼にもっと贈り物をしようやないか!」


 と申し出ると人々は賛成一色に染まるのでした。この物語にはやたらと「贈り物」が出てくるのですが、まぁ昔の事ですからそれが一番のもてなしというか、好意や敬意の表れだったんじゃないでしょうか。調べてもこのあたりは詳しく出てこないんですが、流れからするとそんな感じですね。


 翌朝人々は浜辺に集まると、オデュッセウスに与えた船にめいめい贈り物を積み込みます。そして王宮の広間に戻るとゼウスに生贄を捧げ、別れの酒宴を開きました。飲んで食ってばっかりですね。まぁ昔の話ですから……。


 夕方になってようやく宴が終わり、オデュッセウスは人々と杯を交わして感謝の意を伝え、国王夫妻に感謝と別れを告げて船に乗り込み出帆しました。


 飲酒操船はどうかと思いましたが、漕ぎ手も飲んでいたとは書かれていませんのでセーフです。宴の間じっと待っていたと考えるのも可哀想ですが……。


 オデュッセウスがいい気持ちで寝ている間にも船は快調に進み、なんと一晩で故郷・イタケーの島に到着するのです。なんという速さでしょうか。これまでの苦労が一体何だったのか……考えない方がよさそうです。


 船はイタケーの中でも静かなポルキュースの入り江に停泊します。ここにはニンフ達に捧げられた洞窟があるのです。そこを船掛りとすると、まだ寝ているオデュッセウスを砂浜に運び、数々の贈り物を人目につかない場所に隠すと船はその場を立ち去りました。


 つまり漕ぎ手たちのリーダーが超有能で、全員が気高い立派な精神の持ち主だったわけですね。オデュッセウスは何と幸いだった事でしょう。これまでの不運が嘘のようです。もしかしたらポセイドンが寝ていただけなのかもしれませんね。


 目を覚ましたオデュッセウスは状況が分からず途方に暮れていました。爆睡していましたし、トロイアへの出征から二十年程も経っていたので土地勘も失われていた事でしょう。飲み過ぎもあるかもしれませんが。


 そこにアテナ様が羊飼いに姿を変えて現れ、全てを説明してやるのです。警戒を解かないオデュッセウスに自分の正体を明かし、さらに数々の助言を与え、ついでに今もなお忠実な使用人である豚飼いの元に行くよう指示し、自分はその間にスパルタのメネラーオス王の元に行っている息子のテーレマコスを呼びに行ってくれるのです。


 さすがはアテナ様、痒い所に手が届くとはこの事ですね。


 そしてアテナ様が杖をオデュッセウスに当てると、あっという間に逞しい体はヨボヨボの老人に、豪華な服は汚らしい襤褸に変わり不快な臭気を放ちました。オデュッセウスだとばれない様にしたわけですね。オデュッセウスの館は今、不埒者達に占拠されている真っ最中です。頼りないテーレマコスさえも不在。入念な作戦とアテナ様の加護がなければどうにもなりません。


 アテナ様の指図に従って豚飼いのいる牧場(本来は自分のもの)に行くと若い豚飼い達は皆出払っていて、年老いたエウマイオスだけでした。傍には四頭の番犬が眠っていて、エウマイオスは牛の革を切って履物を作っていました。


 見慣れぬ人が近付くのを察知した犬達が一斉に吠えます。どちらかと言えば臭いで気付いたんでしょうね。オデュッセウス(老人)は杖を捨て地面にへたり込みます。ここは「犬に噛みつかれないよう」となっています。きっと動物達への降参の意思表示なのでしょう。くれぐれも実験しないようにしてくださいね。日本の犬達には全く通じないかも知れませんので。


 さて、エウマイオスが石を投げて犬を追い払い見慣れぬ老人オデュッセウスを小屋に案内して山羊の毛皮に座らせ、二匹の子豚を屠って肉を炙り甘い葡萄酒を勧めました。


「こらワシらが食べるような不味い肉やけど食べるとええ。肥えた豚は全部主人の留守をええことに横暴を働く求婚者どもが盗ってもうた。主人の財産は莫大なものやったが、彼らは神々の怒りもないがしろにして気まま勝手ぇ働くんや」


 エウマイオスは主人の不在を嘆くのです。と言うか神々の怒りって不埒者に無視されてしまう程度の物なんでしょうかね……。嵐とか軽く起こせるはずなんですが。


 身の上を聞かれたオデュッセウス(老人)は巧みに架空の設定を作り上げ、長々と偽りの身の上話を聞かせます。それが終わる頃には若い豚飼い達が群れを連れて帰って来たのでエウマイオスは良く肥えた豚を連れて来させ、自ら斧を振るって薪を断ち割り夕餉の支度を始めました。老人オデュッセウスの人柄に好意を感じたようです。肉を切り分ける際には特に大きい背肉を与え、そうとは知らぬまま自分の主人を喜ばせたのでした。


 さてアテナ様はスパルタに赴き、ネストールの息子ペイシストラトスと共に寝ていたテーレマコスの夢枕に立ちすぐに帰郷するよう、敵の待ち伏せがあるのでサモスの島は避けるよう、イタケーに着いたら館には帰らず豚飼いの小屋で一夜を過ごし、明くる朝豚飼いに命じて母に帰郷した事を知らせるがよいと、これまた事細かに指示するのです。


 さすがはアテナ様、万事抜かりはありません。

 すぐさま目を覚ましたテーレマコスはペイシストラトスを起こします。


「おい、起きんかい! 神様のお告げや、すぐに出発するで!」


 ペイシストラトスも吃驚した事でしょうね。現代だったらヤバい奴扱いしたところでしょうが、この時代なら確かに一大事です。


 夜が明けると、早速メネラーオス王に暇乞いをしました。さすがに夜中にするわけにもいかなかったんでしょうね。


 メネラーオス王は彼らに銀の酒瓶を、ヘレネーは見事な衣装箱に数々の衣装を、他の人々もそれぞれに様々な宝物を贐に送りました。景気のいい話ですね。


 お礼と別れの言葉を送り、出立しようとした時です。空高く一話の鷲が現れ、鵞鳥(がちよう)を掠めて飛び去りました。これを見たヘレネーは「これは間違いない、オデュッセウスがめでたく復讐を遂げる吉兆やで!」と予言をし、テーレマコスはすっかり上機嫌になるのでした。単純ですね。しかし苦しい時こそ希望に縋りたがるのも人情です。


 旅は順調に進み、ピュロスに着くやテーレマコスはネストールに会う時間も惜しんで船に乗り、慌ただしくペイシストラトスに別れを告げるのでした。


 アテナ様が送る順風に乗って船は進み、一路イタケーを目指すのです。


 その日の夕方、エウマイオスと牧場の小屋で夕餉をしたためていたオデュッセウス(老人)が「いつまでも世話になっとるわけにもいかへんやろ。明日の朝には街に出て物乞いして歩くわ」と言うのを豚飼いは押しとどめ、主人の息子テーレマコスに会うまでここにいるよう勧めるのです。


 エウマイオスはアテナ様のお告げを受けていない筈。なのにこれは……運命を感じますね。

 その夜、オデュッセウス(老人)は父ラーエルテースの痛ましい有様や老母の哀れな臨終を聞いて胸を痛め、更に豚飼いが語る自分の身の上を聞き涙を流すのです。


 彼はシュリアからフェニキア人にさらわれ、ラーエルテースに売られたのでした。その次第を細々と聞き、夜が更けるのも忘れてお互いの身の上話を語り合って、明け方近くになってようやく眠るのでした。老人らしい展開ですね。


 翌朝、テーレマコスを乗せた船はイタケーの街に程近い入り江に到着しました。とりあえず渚に上がって食事を済ませると、乗員に船を街の方へ回すよう指示し、自分はその間に偵察をするのです。念のために翌朝謝礼を支払う約束も忘れません。金品を持ち逃げされない為には妥当な処置です。頼りないお坊っちゃんも成長したようですね。


 この時アポロン様の使いとされる鷹が飛んできて野鳩を引き裂いて飛び去りました。ピュロスから共に船に乗せて来てやったアルゴスの占い師テオクリュメノスはこれを吉兆であるとしてテーレマコスの前途を祝福するのです。神様がついていると吉兆の連続ですね。羨ましい事です。


 テーレマコスが青銅の槍を携えて牧場に着いた時、若い豚飼い達はもう豚を追って牧場に出かけており残った老人コンビが火を熾しているいるところでした。


 喜んで尾を振る番犬達に歓迎され小屋に姿を現すと、その身の安全を気遣っていた忠実な豚飼いは嬉し涙を流しながら彼を迎えるのでした。いい場面ですね。



父と子の再会も目前。大団円も目前。後少しお付き合いください。

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