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オデュッセウス始動

無能な息子が(無能なりに)頑張っているとは知らぬ有能な父・オデュッセウスは神々の計らいもあってようやく動き出す。しかし、当然の如く苦難が……。

 翌日の神々の会議の場でアテナ様はオデュッセウスとテーレマコスの哀れな様子を訴え、ゼウスは彼らを無事に帰らせるよう命じました。


 特にオデュッセウスに関しては伝令神・ヘルメスを直接カリュプソーの許に派遣するほどでした。やはり扱いが違いますね。有能な方が神に愛されるようです。


 いやしかし、これって二回目の派遣なんじゃ……? まぁ神々のする事ですから、時空がどうにかなってたんでしょうね。きっと。


 とにかくヘルメスは早速オーギュギュエー島に到着し、問題のニンフの住む洞窟に向かいます。ニンフ・カリュプソーがヘルメスに神々の食事でネクタルとアンブロシアを振舞いますが、伝令神の伝える「オデュッセウスを帰らせたれや」の命を聞いて嘆き悲しみます。


「ああ、またや! いっっっつもそうや! 神々はホンマに頑なで嫉妬深いわ! あのお方達は女神が人間と愛を交わすといつも嫉んで邪魔をして来まんねん。暁の女神エーオースが巨人オリオーンを愛した時も、豊穣の女神デーメーテールがイーアシオーンを愛した時もそうやった! せやけど、強いモンには逆らえまへん。従いますわ……」


 一方的な愛でも言い分はあるものですね。むしろ一方的な愛だからこそ被害者意識が強いのかも知れません。


 こうしてヘルメスを見送ると、砂浜に赴き悲しみに暮れているオデュッセウスを見つけます。彼にしてみれば「ああ、またこいつか……」というところでしょう。今受けている災難の元凶ですし。ところが驚きの言葉がその口から飛び出したのです。


「可哀想に。もう悲しまへんでもええんや。無事に帰らせたるさかいにな……」


 どの口が言っているんでしょうか。自分が彼の悲しみの元凶のクセに。この辺りが神様の強さなんでしょうか。


 文句を言っている暇はありません。オデュッセウスは言われたとおりにフルパワーで筏を作り上げます。


 全ての準備が整ったのは四日後。五日目にカリュプソーは彼を風呂に入らせ、新しい服を与えて船出させました。女神が送る順風のおかげで航海は順調に進みます。女神から教えてもらったように夜も眠らず大熊座を左手に見て進むのでした。しかし、大熊座は北東から上がって南東に沈みます。そうすると大雑把に東に進むにせよ、かなり進路がブレるはずなんですが……。小熊座ならもっと正確に進めるのに……。もしかするとオデュッセウスは小熊座が分からなかったのかもしれませんね。


 十八日目でやっと、遥か彼方にバイエーケスの島が見えてきました。それは霞の立ち込めた海上から楯のように見えたと言います。


 ところがここで、エチオピア人の国から帰るポセイドーンが海上のオデュッセウスを見つけてしまうのです。ああ、なんという事でしょう。あと少しで丸く収まるというところで復讐の元締めに出くわすとは。ツイていないにも程がありますね。


「こらワシが留守中に神々が心変わりしたんやな。バイエーケス人の国につけばアイツの苦しみに満ちた運命は終わってまう。そうはさせんぞ!」


 怒り心頭に発した大洋の主神は雲を呼び集め、手にした三叉戟を海中に突き込みました。たちまち黒雲は海と陸を覆い隠し、東風と南風はぶつかり合い、荒々しい西風と吹き付ける北風は大波を巻き起こしたのです。要するに四方八方から強烈な風が吹きつけたわけですね。こんなの手作りの筏ではひとたまりもありません。木の葉のように海に放り出されます。


 ようやくの思いで海面に浮かび上がると、見る影もなくなった筏の残骸にしがみつき荒れる海を漂うのです。


 すると海の女神となってレウコテアー(元テーバイの王女で死後ゼウスにより女神とされた)が現れてオデュッセウスを救うのです。と言ってもスカーフを与えただけですが。


「可哀想に。なんでポセイドーンはアンタをここまで苦しめるやろうか。せやけどアンタを死なせはせえへんで!。さぁ衣服を全部脱ぎ捨てて、このウチのスカーフを付けて海に飛び込みなはれ。怖い事はあらへん。バイエーケス人の国に辿り着ける。岸辺に着いたらこのスカーフは海へと投げ返すように」


 レウコテアーが海中へと帰った後、オデュッセウスはしばらく躊躇っていました。当然ですね、全裸にスカーフなど変態以外の何物でもありません。二の足を踏んで当たり前です。


 それでも「死ぬよりはマシ」と判断したのか、女神の言いつけ通りに海中へと躍り込むのです。

 これを見たポセイドーンは海底の宮殿へ帰っていきました。変態丸出しな格好になったのを見て少しは溜飲が下がったのかも知れませんね。そしてアテナ様が現れて風を鎮め、北風に命じてオデュッセウスをバイエーケス人の国に運んでいかせました。


 って……北から吹く風に押させたら南に行ってしまうんじゃ……? 大体ですが東に進んでいた筈が……。


 よく読むと、この大嵐は二日二晩続いたとされていました。それでかなり流されたと考えれば話が合いますね。。


 こうして三日目の朝、ようやくバイエーケス人の国に辿り着いたのです。

 力尽きそうになりながらも河口まで辿り着き、女神との約束に従いスカーフを河に流し、女神へと返したのでした。そして森の中で落ち葉を集めて寝床をこしらえ一眠りしたのでした。

 その間にアテナ様はバイエーケスの都に忍び込み、頭脳派の王アルキノオスの館を訪れ、その娘で女神クラスの美女ナウシカアーの夢枕に立ち、彼女と仲良しの船乗りデュマースの娘の姿を借りて語り掛けます。


「ナウシカアーはん、もうあんたの婚礼も間近やのに、花嫁衣装は手入れもされずほったらかしにされてます。夜が明けたら川へ洗濯に行きまひょ。ウチもお手伝いするさかい」


 アテナはこう告げるやオリュンポスへと立ち去ります。別に変装する必要もなさそうに思えますが、女神さまの奥ゆかしさなんでしょうか。


 翌朝、ナウシカアーは侍女たちを引き連れて川へと洗濯に行きます。まるで何処かの昔話みたいですね。


 洗濯は無事に終わり、乾かす間に食事を済ませると彼女達は毬投げ遊びに興じます。ここでアテナ様の計らいが発動。ナウシカアーが投げた毬が逸れ、川に落ちているしまったのです。


 沸き上がる悲鳴。それがオデュッセウスの目を覚ましたのです。彼は一本の枝を折り、それで体を隠しながら森から出て行きました。隠したのは勿論堂々とは書けない箇所でしょうね。


 当然の如く侍女達は逃げ出します。ただナウシカアー一人だけは怯えもせずに対峙しました。アテナ様が勇気を与えたからです。オデュッセウスは全裸ながら礼儀正しく自分の船が難破した次第を語り、身にまとう衣服一枚を恵み、この国の都へと案内してくれるよう頼みました。


 ここで衣服を盗むような事をしてはアウトでしょうね。いかにも拙いやり方です。ここは智将オデュッセウスのやり方が正解でしょう。全裸ですが。


 王女ナウシカアーは快く引き受け、侍女を呼んで彼に衣服とオリーブ油を与え水浴びさせました。ギリシャ物でオリーブ油がよく出るのは、これがスキンケアや整髪料としても使われていたからです。


 オデュッセウスは乙女たちの目の届かぬところで水を浴び、オリーブ油を塗り服を身につけました。するとアテナ様が彼の姿に威厳と優雅さを与えたのです。要するにカッコ良くなったわけですね。


 とは言え、婚礼間近の女性が見知らぬ男と連れ立って帰るわけにもいきません。一先ず彼を都近くの白楊はこやなぎの森に潜ませ、頃合いを見計らって都に入らせる作戦をとります。その為、オデュッセウスに館の様子を細々と教えました。


 危険ですね。何処の誰とも知らない男にそこまで教えるとは。この王女様は危機管理意識の欠片も無いようです。いや、これもアテナ様の加護なんでしょうか。オデュッセウスはアテナ様に上手くいくよう、森の中でひたすらに祈るのでした。


 やがて王女が帰宅し、夕餉の食卓につく頃。オデュッセウスは都を目指して出立しました。アテナ様がすかさずフォローし、彼の姿を深い靄で隠し人目に触れぬようにしたのです。作戦が無用の長物ですね……。まぁ神様のすることですから。


 更に彼が都に入るとアテナ様は水瓶を運ぶ少女に化け、国王アルキノオスの館に案内しました。至れり尽くせりです。


 都に入ってから宮殿内部までの豪華さはオデュッセウスの目を驚かせました。町はずれの船着き場にもやってある大きな船、立派な集会場、宮殿は青銅の壁、黄金の扉、廊下に並ぶ金銀の像。数限りない宝物に満ちたこの宮殿に住む人々は皆不老不死なのだそうです。ありでしょうかこんなの。もはや神様の生活とえらく変わりません。


 また宮殿には五十人の女達が働いていて、皆それぞれ忙しく働いていました。

 オデュッセウスはそれらを眺めながら饗宴の広間に入ります。勿論アテナ様の靄に包まれているので誰にも気付かれません。ゲームで言うところのチートプレイ状態です。


 彼はアルキノオス王とその妃アーレーテーに近付き、彼女の前に跪いてその膝にとりすがりました。するとアテナ様の靄が掻き消えオデュッセウスの姿が現れたのです。驚き静まり返る人々。そしてオデュッセウスは炉端の灰に坐り、妃に向かって懇願するのでした。


「アーレーテーよ、ワシは散々な苦労をして、ようやく此処までこれました。神々よ、ここにおいでの方々に幸福な生涯を与えとくんなはれ。それから一人ぼっちで苦労を重ねてきたワシを、どうぞなるべく早う故郷に帰してくれまへんやろか……」


 沈黙が訪れます。当然ですね、いきなり靄の中から現れた男がこんな事を言い出したんですから。ですがアルキノオス王はオデュッセウスを玉座に近い席に座らせます。侍女は黄金の水差しで彼の手をすすぎ、王妃は食事を用意させます。王は一同に追加の美酒を振舞いました。破格の待遇ですね。何処の誰かも分からないというのに。


 考えてみれば謎な登場の仕方をした訳ですから、「ただ者ではない」事だけは確かなのかも知れません。


「この客人の事は明日話し合おか。彼がちゃんと帰れるように。それで、もし彼が神様ならお告げの一つでも貰おうやんけ」


 とアルキノオス王が語ったのですが、既に酒宴に飽きた人達はそれぞれの館に帰り、残ったのはオデュッセウスとアルキノオス王と王妃だけとなりました。片付けをする侍女を除いては。つまりこの王様は盛大に滑った訳ですね。気の利いたジョークのつもりだったのでしょうけど……切ないものですね。


 この気まずい空気の中、王妃はオデュッセウスが着ている服が以前にナウシカアーに与えた物だと気付きました。チャンスです。この重い空気を打破するのは今です。


「あんたは何処の誰や? この衣は誰から? あんたは大海を渡ってこの国に来た言うたけど?」


 オデュッセウスもここは便乗して雄弁になります。


「お妃様、ワシの此処までの苦労を全部お話しするのはメチャクチャ大変でメッチャ長ごうなるけど……ええですか?」


 こうしてオデュッセウスはオーギュギュエーの島に流れ着いたところから筏で難破し、この島に辿り着き王女から衣を貰った事までを話しました。


 王様は納得したのか、オデュッセウスに同情的になります。


「娘が侍女達とあんたを案内してこーへんかったのはイマイチやったなぁ」

「いえ、王女はそうするように言うたんですけど、やっぱ人目が……誤解されそうやし」

「いや、ワシは理由も無しに怒ったりはせえへんで。あんたみたいに善良で思慮深い人が婿になってくれたらええんやけど……せやけどあんたを無理に引き止める訳にもいかへん。どない遠い国やろうと、あんたを送り届けたるぞ!」


 こうして「オデュッセウス帰還計画」が立ち上がり、彼は王の客人として世話になるのでした。



有能な上に人望と神々の加護を持つチートキャラ・オデュッセウス。しかし苦労はまだまだ続きます。よろしければお付き合いください。

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