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幕間1

 金にものをいわせて契約を奪い取った家の自室で、ロクサヌは手にしていた空ビンを壁に投げつけた。

 魔物の骨から作られたそれは、乾いた音と共に粉砕される。

 だが、その程度では怒りは収まらない。

『ヘキサフレアスが相手とは、これはついていませんな。この際、貴族になることは諦めた方が良いのかもしれません。彼等は貴族の天敵ですし、冒険者組合にも息がかかっているという噂ですし』

 どうでもよさそうなトーンでそう吐き捨てた、オーウェ・リグシュタインという名の執事の表情を思い出して、今度はテーブルに拳を叩きつける。

 魔力を込めた暴力は、そこらの木材など容易くへし折り派手な音を響かせた。

(……まあいい。所詮は老いぼれの戯言だ)

 ひとしきり感情を発散したところで、ロクサヌは長くゆっくりと息をはく。

 癇癪にしか見えない行為だが、これはこれで彼にとっては大事なクールダウンの方法なのだ。

(主の方はまだ乗り気だった。ララノイア家との繋がりは切れていない)

 生憎とまだ奪われた紹介状は見つかっていないが、寸分たがわぬ偽物は拵える事に成功した。文字に込められた微細な魔力の波――いわゆる指紋のようなものすら再現した傑作だ。

 仮に本物がひょっこりと顔を出してきたとしても、目利きにおいて天才だと自負しているロクサヌですら判別がつかないのだから、こちらの方が本物だと言い張ってしまえば問題はない。或いは、保険として偽物を用意していた。そして、その偽物は盗まれたとでも言ってしまえば、それを掲げたものを正しく盗人として糾弾する事も出来るだろう。

 ……酒をかなり飲んでいる所為か、若干乱暴かつご都合な発想になっているが、一点だけ確かなのは、貴族の後ろ盾というものがロクサヌにとっては何よりも重要だという事だ。

 それが形だけに近いララノイア家のものであろうと、こちらを駒程度にしか見ていない得体の知れないルーゼの上位貴族のものであろうと。

「――ん、なんだ?」

 ドアのノックの音に気付き横柄な声を返すと、

「お客様です」

 という、使用人の声が返って来た。

 自宅に戻ってからすぐにシュノフから呼びよせた古株だ。正直、かなり痛い経費となったが、これから娘と離れる機会も増えるだろうし、娘を一人にする状況は避けたかったので仕方がない。

「誰だ?」

「それが、レコンノルン家からの使いだとか」

 その言葉に、ロクサヌは大きく目を見開いた。

 そして、堪えきれない感情を示すみたいに口角を吊りあげる。

 イル・レコンノルン。このトルフィネにおいて屈指といわれるほどの上位に位置する貴族にして、貴族という存在の選定役の一人。

 そいつがわざわざ使者を寄越してきたということは、こちらの悲願はまだ潰えていないということだ。

「すぐに行く――いや、少しだけ待ってもらえ。判っていると思うが、くれぐれも丁重に頼むぞ」

 慌てて身なりを整え、もう一度感情を整理して、ロクサヌは部屋を後にした。

 その意気込みが功を奏したわけでもないだろうが、待ち受けていたのは期待通りのもので、貴族認定の一次審査を無事通過したという報せだった。

 紹介状の捏造やらなんやら、色々と不自由な中で手を回してきた甲斐があったというものだ。

(これで、あと二つ)

 リリカの能力を検証し、貴族の一人でも後見人になってくれれば、エインスフィート家は晴れて貴族の仲間入りとなる。

 世界の支配者の側に立てるのだ。

(……いや、もう立てたというべきか)

 なにせ、残り二つの条件はとっくにクリアしている。

 まあ、老害がやや懸念材料ではあるので、もう一人くらい後見人が欲しいところではあるが、一次審査が通ったとなれば、それもそう難しいことではないだろう。

(敵は所詮ただの賊。これ以上が出来るものか)

 ましてあの忌々しい花の名を冠したものになど、負けるはずがない。

 そう強く自身に言い聞かせながら、ロクサヌは改めて娘を貴族にする決意を固めた。


次回の投稿は三日後の予定です。よろしければ、また読んでやってください。

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