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奇妙な転校生

「久しぶりね、レガール」

「そうだね、元気にしてた?」


 リツさんとレガールが会って早々にものすごくギスギスしたオーラを放っている。

 と言ってもレガールは少しニコニコしているぐらいなので、このオーラの発生源はリツさんか。


「おい、なんだあいつら。怖すぎだろ」


 部屋の隅で、俺とゲンゾーさんはビクビクしている。


「なんで、あんな敵対心むき出しなんですか? 特にリツさんのオーラがヤバイんですけど......」

「まぁ昔色々あったからなぁ。というかお前、相当やばかったっぽいな。すまん、俺が行くべきだったな」


 ゲンゾーさんは、俺のザックリと切れた上着の脇腹部分を見て言った。


「あぁ......大丈夫ですよ。このぐらい平気です」


 魔法使いは絶対に人前で能力を使ってはいけない。それはわかっているけど、能力を誰かの役に立てたい気持ちもある。

 この仕事は危険ではあるが、俺の能力を存分に発揮できる場を、ここ以外に俺は知らない。


 すると、リツさんが不意にグルリとこっちを向いた。

 俺とゲンゾーさんは、同時にビクッと体を揺らした。


「二人とも、そんな隅にいないで、早くデータの中身を見ましょう」

「お、おう、そうだな。確認してみよう」


 リツさんは、机の上のパソコンを起動した。


「これには、キルケの活動記録が入ってるんだったか?」


 ゲンゾーさんが、レガールに聞いた。


「うん、ビルに入って周りの音を探知してた時に、ちょうど活動記録のことを話してるやつらがいたんだ。団体に入りたての新人に色々教えてるって感じだったね。だから、わかりやすく丁寧に説明してるのを聞けたってわけなんだ」

「なるほどな、それで正確な位置まで把握できたのか」


 ゲンゾーさんは、アゴに手を当てて頷いた。


「データを読み込みました。見てください」


 リツさんがみんなに呼びかける。

 四人でパソコンの画面を覗き込むようにして集まった。


「これは......明らかに宗教団体の活動じゃあねぇな」

「ええ、政治家への献金や暴力団との関係なんかもあるみたいです」

「なーんか、お手本みたいな犯罪組織だね」


 記録されていたのは、誰が見ても一目でヤバイとわかるような活動ばかりだった。


「なるほど、やっぱり噂通りキルケは犯罪組織だったってわけですね」


 俺は画面を見ながらそう呟いた。


「うーむ、それほど規模は大きくないが、魔法使いが関わってるっぽい活動もあるな。数人魔法使いが所属しているとみて間違いなさそうだ」


 やはりそうか、そうでなければあいつらの俺の魔法を見た時の反応の早さは説明がつかない。


「これ、充分キルケが犯罪組織であるという証明になるのでは? 警察に連絡したほうがいいんじゃないですか?」


 リツさんが提案した。


「その必要はないと思うよ」


 なんとも気の抜けた声でレガールが言った。


「リュート、あいつらと戦ってる時、なにか外に投げたでしょ?」

「え、外に?」


 思い返せば、敵の一人が持ってた金属バットをはじき返した時に、そのまま窓を突き破っていった気もする。


「それを見た通行人が、警察に連絡したみたいだよ。ボクらと入れ違いぐらいで、警察の機動隊がビルの中に入っていったよ」

「機動隊が? ビルからものが飛んできたってだけで機動隊が出てきたのか?」


 ゲンゾーさんが眉間にシワを寄せながら言った。


「そう、つまり最初からこれが狙いだったんじゃないかな〜」


 レガールは相変わらず危機感のない喋り方で答えた。


「依頼してきたその坂本って人が、警察の関係者でさ、キルケが犯罪組織だってことはなんとなく掴んではいたけど、ビルの中を捜査するための口実がなかった」

「なるほど、私たちとキルケをぶつけてなにかしら騒ぎを起こさせれば、中に踏むこむための口実が作れるってわけね」


 いち早くリツさんが理解した。


「なるほどな、そう考えるとあいつの態度も納得がいく」


 ゲンゾーさんも頷いている。


「じゃあ......どうするんです? 坂本さんとは報酬の話でもう一度会うことになりますよね?」


 俺がゲンゾーさんに尋ねた。


「いや、おそらくなんらかの理由をつけて依頼を取り消してくるんじゃないか? 向こうとしてはもう用は済んだわけだし、警察が民間の組織利用して捜査の口実作ったなんてバレたらヤバイしな。そのリスクを下げるためにも、もう接触は避けたいところだろう」

「そうか......ってことは、俺たちタダ働きってわけですか!?」


 こっちは命がけでデータを取ってきたというのにそれでは割に合わない。


「そうだな......まぁ金を取るのは難しそうだな」


 俺はがっくり肩を落とした。


「まあまあ、ボクは楽しかったよ?」


 そう言ってレガールはペロリと舌を出した。彼女はこういうスリルを楽しんでいるように見える。


「あら、もうこんな時間」


 気づけば、事務所の外はもう夕日で赤く染まっている。


「あ、俺そろそろ帰りますね。明日の宿題が残ってるので」

「おう、気をつけて帰れよ。その破れた服は着替えてけ、結構目立つぞ」

「わかりました。じゃあ奥の部屋借りますね」


 着替えを済ませた後、少し急ぎ足で事務所を出た。

 その日は宿題を日付が変わる前になんとか仕上げ、そのまま眠りについた。






「どうしたの? リュート君。なんだか眠そうだね」


 翌日、登校途中に青島先輩に会った。


「えぇ、ちょっと昨日は疲れました」


 あの探偵事務所には、たまにちょっとガラの悪い集団の相手をしなきゃいけないような仕事が来ることがある。

 そういう場合、大抵は話し合いで解決できない。要はケンカだ。

 だから対人格闘はある程度心得ているし、実戦経験もある。

 だからこそ、刀を使う男と対峙しても比較的冷静でいられたし、特に武術の心得のないような人なら武器を持っていても苦もなく倒せたわけだが、さすがに昨日の刀使いは今までで一番危なかった。

 あれだけの戦いの翌日ともなれば、俺はさぞ疲れた表情を浮かべていることだろう。


「ふぅん、よくわかんないけど、朝は集会があるから、寝ないようにね」

「集会ですか? そんな時期でしたっけ?」


 俺の高校では、特になにかイベントがない限り、集会は行われない。


「なんか、新任の先生が来るって噂よ。あと転校生も何人か。その挨拶のための集会らしいわよ」

「新任の先生に、転校生ですか? この時期に珍しいですね」


 今は、少しずつ寒さも厳しくなりつつある秋の終盤だ。この時期に異動や転校とは、割と珍しいんじゃないだろうか。


 そんなことを考えていると、黒い卵のような変なオブジェが見えてきた。

 校門横にある謎のオブジェだ。その横を通って学校に入る。こういうよくわからない芸術品はっぽいやつは大体どこの学校にもあるものなんだろうか。

 それから青島先輩と別れ、自分のクラスに入ってすぐ、先輩の言った通り集会のため全校生徒が体育館に集められた。


「おい、新任の先生が来るってホントか?」

「転校生、さっき俺ちょっと見たけどメッチャかわいかったぜ!」

「うお、マジかよ! どんな感じだった?」


 あちらこちらでそんな噂話が聞こえてくる。


「こんな中登場させられるやつも気の毒だな......」


 これだけ変にハードルを上げられた状態で登場することになる方々に同情しつつ、集会が始まるのをまった。


「おい、お前ら! 静かにしろ! 集会始めるぞ!」


 生徒指導の先生のどデカイ声で体育館は静まり返る。


「それじゃあ、今日からうちに異動してきた先生と、転校生に挨拶をしてもらう」


 そう言うと、舞台の奥に向かって目線を送った。

 すると、まずは新任の先生と思われる人が、舞台袖からあらわれた。

 俺は、その顔を見て驚きを隠せなかった。

 一度会っただけだが、あの顔は間違いない。

 先週、ゲンゾーさんの探偵事務所に依頼に来ていた、坂本という男だった。


「どうもみなさん、今日から3-Bの副担任となります。坂本です。気軽に話しかけてください」


 どういうことだ。あいつは警察関係者だっていう俺たちの推測は検討外れだったのか......?

 しかしあの依頼の直後に再び俺の前の現れるのは偶然とは思えない。


「それでは、みなさんこれからよろしくお願いします」


 坂本の挨拶が終わったようだ。軽く礼をして、頭を上げた瞬間、明らかに俺と目があった。

 やっぱり、目的は俺か......? でも一体何のために......?


「はい、じゃあ次は転校生の紹介するぞ。三人は前に出なさい」


 舞台袖から三人の男女が出てきた。

 そうだ、坂本にばかり気を取られてたが、転校生もいたんだった。

 このタイミングで三人も転校してくるということは、こいつらもただの転校生じゃないのかもしれない。

 舞台上で、少し間を空けて一列に並んだ三人の内、一番左に立つ女子が一歩前に出た。

 髪を団子状に丸め、白い布を被せたものを頭の両側に付けている。俺たちのイメージする、中華風な髪型だ。あの団子の正式名称とかは、よく知らない。


「今日からお世話になるメイファンいうアル。一期一会、この出会いを大切にするネ。」


 そういうとペコリと頭を下げた。

 比較的小柄で、とても何か企んでいるとは思えない幼気の残る顔だ。

 もちろん、油断は禁物だが。

 メイファンが一歩後ろに下がるのを確認し、その隣の女子が前に出た。


「エマです。よろしくお願いします」


 それだけ言うと、すぐに一歩後ろに下がった。

 さっきのメイファンとは対照的に、無愛想な態度だ。

 こちらは金髪で、睨まれたら体の芯まで凍ってしまいそうな冷たい青い目をしている。

 メイファンよりは、エマの方が何か企んでそうな雰囲気だ。警戒せねば。

 それから少し間をおいて、一番端に立つ男子が前へ出た。


「俺はアランだ。よろしく頼む」


 こちらも簡潔に挨拶をしてすぐ後ろに下がった。

 大柄で、力の強そうな男だ。こいつも警戒しといたほうが良さそうだな。


「はい、それじゃあ、みんな仲良くしてやてくれ。集会は以上だ。整列してクラスに戻れ」


 先生の指示で、生徒はノソノソと立ち上がり、列を作って体育館を出始めた。


「おい、あの金髪のエマって子、結構かわいくねーか?」

「いや、俺はメイファン派だぜ。あの童顔がタイプだ」

「ねぇ、あの先生、どう思う?」

「そんなことよりアラン君よ。結構男前じゃない?」


 なんて、周りからはのんきな噂が聞こえてくるが、俺はそれどころではない。

 少なくとも、坂本は、俺が魔法使いだと知って、その上でここに赴任してきているだろう。その真意はわからないが、他の三人の転校生にも関わりがあるとすれば、場合によっては、俺が危機的状況に立たされることになる。

 絶対に俺の正体だけはバレないようにしなくてはならない。そのためには、まず坂本の真意を探る必要がある。






 放課後、俺は職員室へ向かった。


「すいません、坂本先生はいらっしゃいますか?」

「え? さっきまでいたと思ったんだけど......」


 俺が質問した先生とは別の先生が近づいてきた。


「坂本先生なら、社会科教室に行ったよ。社会の担当でもないのに、何しに行ったんだろうね」

「そうですか、ありがとうございます」


 社会科教室、校舎の一番端にあり、普段あまり使わないので、人気も少ない。

 俺が接触してくることは、当然予想内、移動したのは、お互い人には聞かれたくない話だからだろう。

 わざわざ、他の先生にも行き先を伝えていったみたいだしな。

 階段を上がり、廊下をまっすぐ進んで社会科教室の前にたどり着いた。

 深く息を吸い、慎重にドアを開ける。

 中には、窓際の机にもたれかかって立つ坂本の姿があった。

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