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モンスター討伐なんて残酷なことは俺に出来ない  作者: 両生類
異世界転移生活編
9/19

9話 猫型人獣

9話目です!

いつもより、投稿が1日遅れてしまいました!すいません!

まあ、一応"来週中"としか書いて無いんですが…

とにかく、投稿が遅くなった分、文字数が多くなってますので、(余計)

是非最後まで見ていって下さい!!

俺は、今日もまたクエストを受けに組合まできていた。

毎日欠かさずに朝早くから仕事を受けている俺は、もう立派な社畜と言えるだろう。

そんな、勤労な俺は、もっと余裕のある生活をするべきなのだ。

毎日、それなりに報酬が高いクエストを選び、達成もしているのだが…

相変わらず俺の財布はピンチなのだった。

大体、お金の減り方が尋常ではない。

食事代に加え、持っていかれる宿代、さらに魔法道具(マジックアイテム)なんかを買ったりすれば、もう俺の財布は空になる。

それに、おかしいのは食事代に使う金額が一番大きいという事だ。

俺が何を言いたいのかは分かるだろ?金欠は、基本的にサテラのせいなのだ。

そのせいで、俺が毎日働かなくてはならなくなる。

本当は俺だって他の冒険者のように自由に休みをとりたいのだ。

まあ、仮に休みがあったとしても、確かに何もする事は無いのだが…

とにかく、休むという事自体が重要なのだ。気分だけで良い。

そんな事を考えつつも、やはり依頼を受けるしかないので、俺はいつも通りクエストボードの前に立つ。


何か良いクエストは無いだろうか?

俺は、貼られている紙を眺めた。

無意識に、報酬にしか目がいかなくなっている事に気付く。

俺からしたら、依頼の内容より報酬の方が重要らしい。

そうして、紙を見ていると、1枚だけ目立った紙に気が付いた。

その紙だけ、周りとは色が違ったのだ。

俺は、その紙を手に取り、内容を確認する。

…別に、周りから浮いているという事に親近感を持った訳では無いぞ?


その紙を見て、俺は驚いた。

なんと、難易度が3なのに、報酬が金貨"5"枚だったのだ!!

なんという事だ!それだけあれば2、3日は働かなくても生活が出来るぞ?

こういうクエストは、すぐに誰かが受けてしまうし、珍しいという事もあり、あまり見掛けないのだが、今日は朝早くから来ているので、俺の他にクエストを見つけた冒険者はいないみたいだ。

どうやら、早起きは三文の得というのは本当だったらしい。

俺は、その紙を直ぐに受付まで持って行った。

お姉さんは、俺の様子を見ていたようで、紙を受けとると、話を始めた。


「静人君、このクエストの内容を言ってみて下さい!」


思いもよらない質問に、俺は動揺する。

もちろん、内容なんか見ている訳が無い。見ていたのは報酬だけだ。

それとなく紙を見ようとすると、"さっ"と紙を隠された。

俺の考えそうな事は、既に読まれているらしい。


「…分からないです」


「やっぱりそうでしたか!駄目ですよ?報酬だけを見て依頼を決めたら」


「まあ…当然そうですよね…」


俺は苦笑いしながら返事をする。


「…仕方ないですね、私が依頼内容を説明するので、よく聞いておいて下さい!」


そう言うと、お姉さんは張り切って説明を始めた。

暗い感じの話し方をしていて、何だか怪談でも始まったかのような雰囲気だ。


「依頼の場所は、北の森の付近です…そこへは、静人君も何度か行った事があるでしょう?けれど、最近、そこで奇妙な事件が起きているんです。そう。その場所を道として通った多くの冒険者が…」


冒険者が…?

俺はゴクリと唾を飲んだ。


「冒険者が消えたんです!!何人も行方不明になっているので、これはその人達の捜索の依頼です!」


何故、そこだけ明るく言ったんだ?

どうせやるのなら、最後まで続けろよ!

俺は、下手な怪談より、お姉さんから感じる狂気の方が余程怖いと思うのだった。


「依頼の内容はこんな所です!何か質問はありますか?」


「あの…何でこの依頼用紙だけ色が違うんですか?」


結局、依頼の内容を聞いても分からなかったしな。

クエストには関係無さそうだが、気になるので聞いておく事にした。


「ああ、この色ですか?これは、組合からの直接の依頼だからです!組合からの依頼だと、このように青色の紙に書かれるんですよ」


なるほど、そういう事か。

冒険者の捜索なんて、誰が依頼したのか不思議に思っていたが、これで納得がいった。

組合ならば、このまま冒険者が行方不明になるのは放っておけないだろうからな。

それにしても、捜索クエストなら、もっと報酬が低くても良い筈だ。

金貨5枚も出すなんて、組合は中々気前が良いらしい。


「組合って、案外儲けていたりするんですか…?」


「はい!多分、静人君が思っている数十倍は持っていますね!」


お姉さんは、元気良くそう言い切った。

そんなに持っているのか…

けれど、どこからそんな金が…?

あまり稼いでいるイメージは無かったのだが…


「私も金額を聞いて驚きましたよ!組合に依頼をするときに手数料として、報酬から引いているので、そのお金が組合に入っているみたいです!」


そんな仕組みになっていたのか…初めて知ったぞ?

でも、案外よく考えて経営をしているみたいだな。

そして、その金が新米冒険者の支給品に使われているという訳か…

だが、それにしてはどれも安っぽかったな。

どうやら、かなり経費が削減されているらしい。

まあ、組合としては、出来るだけ出費は減らしたいのだろうし、それもよく考えている証拠だろう。

俺は、ちゃんと経営をしている組合に少し感心した。

そんな事を考えていると、お姉さんが周りを確認し、声を潜めて話し出した。


「後、ここだけの話、その手数料は冒険者に支払われる報酬より多いとか…」


許すまじ組合。

これは抗議の必要がありそうだ。

そこは、たとえ少しでも、報酬の方を多くするべきだろ?

当然、それなら儲かる訳だ。

というか、そんな凄い情報をよくさらっと言えたな…

…お姉さんが楽しんでいるように見えるのは、俺の心が汚れているせいだろうか?

もしかして、俺が抗議したら面白いとか思っていたり…

ま…まあ、こんな話が広まったら暴動でも起きかねないしな!

平穏な生活の為に、今のは聞かなかった事にしておこう。

俺は、紙にはんこを押して貰うと、そのまま北の森へと向かった。


森に着くと、俺は"暗黒形(ダークキューブ)"の上に乗り、上空から望遠鏡で森を見下ろしていた。

この高さに到達するには、"暗黒形(ダークキューブ)"を出して足場にし、消してその先に進むという方法を駆使した。

それを階段と同じ要領で行えば、少しずつだが、上に上がる事が出来るのだ。

俺は、この魔法は使い方によっては結構便利だと改めて思った。

まあ、この方法では集中しないと誤って落ちてしまうため、戦闘中には使えなさそうだがな。

当然、サテラに運んで貰えばわざわざそんな面倒な事をする必要は無いが、こいつに頼むのは俺のプライドが許さない。


さて、では何故俺がこんな事をしているかという事について説明をしよう。

今回の依頼、冒険者が行方不明になったいうのは、やはり魔物の仕業だろう。

とすると、やはり催眠や洗脳系の魔法を使うと考えられる。

そして、もし、その冒険者達がまだ生きているとすれば、どこか一ヶ所に集まっている筈だ。

複数の人間がいるという事は、どこかの建物で生活をしているだろう。

まあ、洞窟や地下で暮らしているという可能性もあるが…

今は、その建物がある可能性に賭けて探しているという訳だ。

とはいっても、他に手掛かりも無いのだし、建物が無かったら早速詰んでしまうがな。

俺は、直ぐに見つかる事を祈りながら、森を探し続けた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

……

……「ラニエ様!!ラニエ様!!」


1人の冒険者が、少し慌て気味に走ってくる。

その先には、椅子に寝転がりながら暇そうにしている、人型、猫種の魔物がいた。

その魔物は、眠そうにしながら目を擦り、返事を返した。


「…どうかしたかニャ?」


「はい!南西方向の上空に、冒険者を1人、確認しました」


「上空とは、どういう事ニャ…?」


「何らかの魔法のようです。そいつは、その魔法に乗っています!」


「なるほど…ご苦労だったニャ。では、いつも通りのをやるから、全員配置に着くニャ!」


その魔物がそう声を掛けると、中にいた大勢の冒険者の内の数名が装備を整え、慌ただしく外に出ていった。

その魔物も、体を伸ばしながら、ゆっくりと外へ歩いていく。


「頑張ってきて下さい!!」


「早く帰ってこられるよう、私達一同、ここで祈って待ってます!!」


周りにいる冒険者は、その魔物に注目しながら、次々にねぎらいの言葉をかけていった。


…ふふふ

愉快、愉快ニャ!!

全員私の言う通りに動き、私の為に行動しているニャ!

所詮、人間共など単純。私のこの見た目に魅了され、男は皆、私の下部になっていくのニャ!

何もしなくても食にありつけ、眠っているだけで必要とされる…

完璧ニャ!このまま数を増やし、さらにだらけた毎日を送るのニャ!

そして、いずれは人間共に攻め込み、全てを支配してやるニャ!

でも、そうなるには、まだまだ気の遠くなるような時間がかかりそうなのニャ…

今回の獲物もたった1人…私の計画が一向に進まないニャ!!


…けれど、よく考えたら、いつも冒険者は複数でいたニャ…?

1人という事は、それなりの戦力にはなるかもしれないニャ。

まさか、一緒に行く仲間もいない寂しい奴とも考えにくいニャし。

上空から偵察しているという事はおそらく、組合とやらが送ってきたのニャ…

そうだとしたら、組合が送る人間。強力な刺客に違いないニャ!!

…ふふふ、ならば、今回は慎重にいくべき。作戦Aでいくニャ…


魔物は、顔に笑みを浮かべ、森の中を颯爽と走っていくのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

…そんな事を知るすべもない静人は、相変わらず望遠鏡を覗いていた。


…全然、全く、完全に何も無いな。

かれこれ、十数分程探しているが、何度探しても建物どころが、魔物1匹すら見つからない。

だが、俺にしてはかなり粘った方だ。

報酬が金貨5枚で無ければ、3分で諦めて帰宅していた事だろう。

しかし…困ったな。

さっきも言った通り、他に手掛かりなど何も無いのだ。

他に思い付くのは、この前の研究所にあった黒い液体を作って貰い、森ごと全部消し去るという事位しか無いしな…

だが、そんな事をしたら、報酬より賠償金の方が多くなりそうだ。

仕方ない…場所を変えて、もう一度探して見るか…

視点を変えれば見えてくる物だってあるだろうしな。

というか、そもそも範囲がアバウト過ぎるのだ。

一口に北の森と言っても、どれだけ広いと思っている?

木のせいで視界も悪く、地面に降りて探すのはほぼ不可能と言える。

だから、望遠鏡まで買ってきて上から探しているというのに…

このペースでいったら、達成するのはいつになるのだろうか…?


俺はため息をつき、クエストを断念する事も考え始めていた。

…すると、突然誰かの叫ぶ声が聞こえてきた。


「だ…誰か!!助けてくれニャ!!!」


…"ニャ"?

俺は、声が聞こえた方向に望遠鏡を向ける。

その場所に目を向けると、なんと!!女の子が2人の冒険者に襲われていたのだ!!

うん。前にもあったな、こんな事。

猫の尻尾に猫耳だし、例の如く"別次元を生きる者(ディメンションナード)"の効果だろう。

どちらにしろ、とりあえずピンチらしい。助けに行かなければ!

俺は"暗黒形(ダークキューブ)"に"重力落下(グラビティフォール)"をかけて地面に降りる。

落とす速度はかなり遅くしているので、エレベーターのような感覚だった。

下では、サテラが暇潰しなのだろうか?枝を組んで大きな城を作っていた。

いや、造っていたという方が正しい。これはもう暇潰しの域を軽く凌駕している。

俺がそれを見て唖然としていると、サテラが俺に気付いた。


「あら、どうだった?何か見つかったの?」


俺は我に返り、猫耳の女の子が襲われていた事を思い出す。

確かにこれは凄いが、今は緊急事態なのだ。

早く行かなければ!"猫耳"の女の子が助けを求めている!


「サテラ!魔物が襲われている。急ぐぞ!」


「魔物が襲われるのは普通の事じゃ…」


「うるさい。とにかく急げ」


そう言うと、走ってその場所に向かう俺に、仕方なく着いてきた。

枝でできた城は、サテラが離れるとすぐに崩れた。

どうやら、魔法で浮かせて補強していたらしい。何だか騙されたような気分だ。

俺はそのまま走り続け、さっき見た場所まで着いた。

思いの外時間がかかり、大丈夫か心配だったのだが、どうやら無事みたいだ。


「おい、お前ら!その魔物を倒すのを止めて貰えないだろうか?」


この魔物は、一応こいつらの"獲物"であるため、当然俺が下手に出るべきだろう。

2人は俺の方を向き、剣を下ろして話し出す。


「だ、誰だ!?お前は!!」


猫耳の魔物は、じっと俺の事を見ている。

心無しか、期待外れとでも言いたげな顔をしているように見えるのだが…

…悪かったな!助けに来たのが頼りない冒険者で!


(こいつ、来るのが遅いニャ!!本当に襲われていたら、死んでたニャ!!)


(それにしても…思っていたより全然弱そうニャ…本当に組合からの刺客かニャ?何だか、急にやる気が無くなったニャ…)


「助けてくれニャー。あのトーゾク達に襲われているニャー」


猫耳の魔物は面倒くさそうに助けを求め、競歩で俺の後ろに隠れた。

こいつのテンションだけ、完全に場違いだな。もっと元気出せよ…

というか、こいつら盗賊だったのか…?冒険者だと思っていた。

盗賊なら、別に何しても問題は無いだろう。

それなら、2人とものしてしまうのが手っ取り早くて良さそうだ。

俺は盗賊達を分かりやすく挑発する。


「おい、盗賊共。アホみたいに黙ってないで、さっさと掛かってこい。それとも、言語を聞き取るだけの知能も無いのか?」


当然、こう言うだけで盗賊達は面白いようにキレた。

ちょっとした一言で自分を抑えられなくなる所は、流石と言える。


「何だと!!こいつ、ぶち殺してやる!!!」


そう叫ぶと2人同時に俺に斬りかかってきた。


(ま…まずいニャ!!ここはわざと負けて逃げ帰る演技の筈…)


(でも、どう見ても本気ニャ!あいつらは、それなりに強いし、こいつ、殺されるニャ…。全く、人数は1人でも多い方が良いのに…あの2人には、帰ったら説教ニャ!!)


カァアン!!!


俺は"暗黒形(ダークキューブ)"でその2つの剣を止める。


「"強化魔法(エンチャント)"」


そう呟くと同時に、前に一歩踏み込んだ。

そして、そのまま2人の顔面に力強いブローを喰らわせる。

盗賊達はその勢いのまま、後ろに倒れていく。

そして、それぞれの頭の着地点に合うように"暗黒形(ダークキューブ)"を出した。


ガンッ!!


頭を強く打った2人はそのまま気絶し、その場に倒れ込む。

猫耳の女の子は驚いた顔のまま、固まっている。


(…何が起きたのニャ?こいつに、あの2人が倒されたのかニャ!?あの2人は確か、何十人もの冒険者達を倒したという腕利きの盗賊だった筈ニャのに…)


(で…でも、こちらとしては好都合ニャ!ニャんとしても味方にしてやるニャ!)


…どうやら、ただ気絶しているだけみたいだな。

まあ、"黒の支配者(ブラックルーラー)"が発動している訳ではないので、放っておいても大丈夫だろう。

盗賊達が無事だと分かると、俺はその2人に近づいていった。


(…何をしているニャ?)


「…こいつら盗賊だし…金品とか、全部奪っても…良いよな?」


「だ、駄目に決まってるニャ!!」


(何かと思えばこいつ、とんでもない事を言い出したニャ!!)


「そうよ!それじゃあ、どちらが盗賊なのだか分からないわ」


初対面の猫耳に加え、サテラにまで止められるとは…

だが、確かに良く考えてみると、完全に問題発言をしていたみたいだ。

金欠過ぎて、危うく犯罪に手を染める所だったな…気を付けなければ。

さて、では気まずい空気になった所で、猫耳も助けられた事だし、早速依頼に戻る事にしようか。


「冗談だ、あまり気にしないでくれ。後、俺はもう行くぞ?お前も、人間に会わないように気を付けろよ」


猫耳は、落ち着いたようで、笑顔を作って俺の方を見て、返事をする。


「ありがとうニャ!それじゃあ、さよならニャ!」


……

……

「…って、違うニャ!!!」


(帰してどうするニャ!!というか、何で普通に帰ろうとしてるニャ?もしかして、私に魅了されていないのかニャ…?いや、そんな事はあり得ないのニャ…!!)


(…でも、万が一という事もあるし、一応確かめてみるかニャ…?)


「ちょ…ちょっと待つニャ!!」


俺は、その言葉で足を止め、後ろに振り返った。

何か、俺に用でもあるのだろうか…?


「…何だ?」


そう聞くと、猫耳は困ったような顔をして、申し訳なさそうに口を開いた。


「お腹が空いたのニャ…私に何か恵んで欲しいのニャ…」


何かと思えば、そんな事か。

改まって言うので、もっと何か面倒な事だと思ったぞ?

だが、助けてやった上に飯まで奢る義理なんか無いしな…


…いや、待て!良く考えたら、こいつ結構怪しくないか?

このあつかましい態度もそうだが、まず人間に慣れすぎている気がする。

俺の経験から言えば、たとえ助けられたとしても相手が人間なら怯えたり、動揺したりする筈なのだ。

それに、盗賊が魔物を襲うなんて事をする理由が無い。

というか、そもそも魔物が誰かに助けなんか呼ぶ訳が無いしな。

つまり、この魔物と盗賊達は繋がっていて、俺を誘き出す為の罠という可能性があるのだ。

まあ、もしそうで無かったとしても、この森に住む魔物なら何かを知っているかもしれない。

幸い、昼食は3人分持ってきているので、この猫耳と昼食をとり、何か情報を引き出す事にしよう。

今の所、唯一の手掛かりだ。頼む!情報…いや、もうこいつが元凶である事を願おう。

さて、そして当然、余分な1人分の昼食は元々サテラの物である。

あいつが素直に渡してくれれば良いのだが…

サテラの方に目を向けると、俺が見ているのに気が付いたようで、話し始めた。


「ねえ、この魔物、何だか怪しくないかしら?」


どうやら、サテラも俺と同じ考えらしい。

だが、それなら話は早い。サテラはきっと、快く昼食を譲ってくれるだろう。

俺は魔物に声が聞こえないように、小声でサテラと会話をする。


「ああ、俺もそう思う。だが、証拠でも無い限り、断定は出来ない。そこで、頼みがあるのだが…」


「…何かしら?」


「…お前の昼食を、1人分減らして貰いたいのだ。食事中に情報を聞き出したい」


俺がそう切り出すと、サテラは眉間にシワを寄せて悩んでいた。

そこは悩む所ではないだろ…元々1人分多いのだから、それくらいは許可して頂きたい。

しばらく悩んだ末に、サテラはようやく口を開いた。


「この魔物を拷問にかけて、情報を聞き出すだけでは駄目なの?」


何を言うのかと思えば、突然そんなぶっ飛んだ事を言い出した。

駄目に決まっているだろ?

それでは、さっきの俺の問題発言と変わらないではないか…

俺はその提案を速攻で拒否した。


「依頼の報酬が入ったら食事を少し豪華にしてやるから、ここは潔く譲ってくれ」


「…でも、それでは…けれど…うーん…」


「…仕方ないわね、今回だけよ…?」


珍しく、サテラの方が妥協してくれたみたいだ。

まあ、俺より量が多いのだから、当然と言えば当然なのだが、とにかく有難い。

とりあえず、これで昼食に関しては問題無さそうだ。

話が解決すると、猫耳の魔物は不思議そうな顔で聞いてくる。


「どうかしましたかニャ?」


「…いや、何でもない。食料なら、3人分あるから問題ないぞ」


「そうかニャ!ありがとうニャ!」


(何で3人分もあるのニャ…?でも、親切にするという事は、既に私の虜になっているという事ニャ!…多分)


そうして、俺達は昼食を食べる為に、近くにあった河原まで移動する。

俺が1人だけだと思われた方が都合が良いので、サテラの存在には気付かれないように、別々の場所で食べる事にした。


俺は前と同じように枝を集めてきて、魔法を使って火を着ける。

そして、鉄の筒状の容器に水を入れ、沸騰するのを待った。

…少しして、水が沸騰し始めると、その容器に麺を揚げたものを入れる。

さらに、そこにビンに入れて持ってきていた調味料を加えていく。

そう!俺が今作っているのはカップ麺!!

最速かつ簡単な、俺のソウルフードだ。

カップ麺を作るなど、もう手慣れたものだ。失敗などしようがない。


ちなみに、麺を揚げるのは、酒場の厨房を貸して貰って行った。

当然、道具も調味料もタダという訳にもいかないので、新メニューを考案するという条件付きだったがな。

…とは言っても、一般的に知られている料理はほとんど、似たようなものが既にこの世界にはあった。

そこで、俺は"オクローシカ"という名前のロシアの冷静スープを提案した。

…何故、そんな知名度の低い料理を知っているかと言えば、家庭の事情としか言いようがない。

とにかく、そうして俺は、一度は失敗しつつも、このフライ麺を完成させたのだった。

熱湯で3分程待っている間、俺は猫耳との会話の中で色々聞いてみる事にした。


「そう言えば、自己紹介がまだだったニャ。私はラニエ、よろしくニャ!」


猫耳は元気良くそう言った。


「俺は内灘静人だ。よろしく」


俺は元気無さそうにそう言う。


「…それで、早速だがラニエ。少し聞きたい事がある」


「何ニャ?」


ラニエは首を傾げて俺の話を聞く。


「最近、この辺りで行方不明になる奴が多いらしいんだ。お前は何か知らないか?」


俺は、ラニエの様子を注意深く伺っていたが、動揺した素振りは無かった。

本当に元凶だったとしたら、余程演技が上手いのだろうな。


(行方不明…やっぱりこいつは組合からの刺客で間違い無さそうニャ。とりあえず、ここは知らないふりで通すニャ!)


「悪いけど、聞いた事は無いニャ。力になれなくて申し訳ないニャ…」


「いや、知らないのなら別に良い。気にするな」


まあ、当然そう言うだろうな。

だが、そうくるのは分かっていた。

それなら、別の方向から探っていく事にしよう。


「そう言えばお前、他に仲間とかはいないのか?」


「仲間…かニャ?残念ながら1人もいないニャ。そう言う静人はどうなのニャ?」


「俺は見ての通り1人だ。あいにく、俺の仲間になってくれる奴はいなくてな」


「それなら、私と同じなのニャね」


「1人か…ちなみに、お前はどこで暮らしているんだ?」


「ああ、家は近くにあるニャよ。…そうニャ!!良かったら私の家に来るかニャ?助けてくれた礼を兼ねて、もてなすニャ!」


俺は、まるで言う好機を伺っていたようなその話し方が白々しいと思った。

もし盗賊のが罠だったとしたら、最初から家まで連れてくる事が目的だったのだろう。

なるほど、段々と手口が見えてきた…

俺は、行方不明の原因がこいつだと、半分確信していた。

たとえこれが罠だったとしても、行く以外に選択肢は無いな。

俺は覚悟を決める。


「別に行っても良いぞ?どうせ暇だしな」


「それは良かったニャ!昼食を食べ終わったら、すぐに案内するニャ!」


(よし!今の所は計画通りニャ。このままいけば上手くいきそうニャ)


「それより、早く食べよう。麺が伸びるぞ」


そう言ったものの、既に遅かったようで、麺は完全に伸びきっていた。

俺は、どちらかと言えば、伸びている方が好きだったりするのだが、何だか損をしたような気分になるのであまりやりたくない。

俺は使い捨ての箸を使い、麺をすすっていく。

俺が作ったにしては、中々上出来だ。普通に美味しい。

ラニエを見ると、スープに息を吹き掛けて冷まそうとしていた。

どうやら、ラニエは猫舌だったらしい。

…そういう所はちゃんと猫なのな。


食べ始めてから少しすると、サテラが容器を持って飛んできた。

おそらく、もう食べ終えたのだろう。

俺はまだ数口しか食べていないというのに…

こいつは、一体どんな速さで食べているんだ?

そんな疑問を抱きながら、俺は麺をすする。

ラニエは、俺は食べ終えたというのに、未だに冷まし続けていた。

冷麺にでもするつもりなのか?

そして、ようやく食べ始めたと思ったら、麺がすすれないらしい。

麺を箸で掴み、少しずつ口に運んでいく。

これは時間が掛かりそうだな…

ラニエは、俺の冷たい視線など気にもせずにゆっくり食べていく。

そうして、その微妙な空気はラニエが食べ終わるまで続いたのだった。


「ごちそうさまだニャ!」


ようやく食べ終わったか…

思いの外、時間がかかってしまったな。

最後の、スープを飲み干そうとしている時なんか、ずっとイラつきながら見守っていたぞ。

結局、途中で断念しているしな。


「それじゃあ、家まで案内するから着いてくるのニャ!」


ラニエが、満足そうな顔をしてそう言う。

俺は、黙って言われた通りラニエに着いて行った。


(こいつの強さは知らニャいが、家まで来ればこっちのものニャ!まあ、私に逆らう事なんか無いと思うがニャ。)


そのまま着いていくと、それらしい大きな屋敷に着いた。

近いと言っていたので、もっと早く到着すると思っていたのだが、思っていたより離れた場所にあった。

というか、こいつ、こんな大きな家に住んでいるのか…

俺の部屋なんか大勢で均等に分けた分しかないし、全体を合わせても圧倒的にこの屋敷の方がでかかった。

まさか、住まいで魔物に負けるとは…

俺がどれだけ働いたとしても、こんな豪華な屋敷を買う事など不可能だろうな。

周りは、高低差の激しい地形で、屋敷はその低い位地に建っていた。

上空のあの角度からでは、隠れていて見えなかったのだろう。

俺は、ラニエに案内されるまま、警戒しながら屋敷の中へと入っていった。

電気が点いていないようで暗く、中に入ると"黒の支配者(ブラックルーラー)"が発動する。


「取り押さえるニャ!!」


ラニエがそう言うと電気が点けられ、後ろの方からガタイの良い男が2人飛び出てくる。

そして、左右それぞれの腕を掴み、俺を仰向けに倒した。

…案の定、罠だったな。

本来なら状況的には悪い筈なのだが、俺は依頼の相手だと確定した喜びの方が大きかった。

当然、不安も焦りも恐怖も無い。

俺はもう、こういう突然の出来事に慣れ、普通に順応出来るようになったみたいだ。

そう、慣れただけだ。別に報酬の事しか考えていないとか、そういう事ではないぞ?


ラニエが、地面に押さえ付けられている俺の前まで歩いてくる。

そして、目の前で立ち止まり、俺を見下して話し出す。


「悪いが、今までのは全部演技ニャよ。お前はまんまと罠にはまったという訳ニャ」


こいつ、急に態度が変わったな。

態度も大きく、何故かは知らんが、偉そうにしている。

つまり、今までは猫なのに猫を被っていた。という訳か。

まあ、罠という事は想定した上で、あえて掛かったので、分かってはいたのだがな。


「わざわざここまで誘き寄せた理由は一つニャ。お前、私の手下になるニャ」


「なる訳無いだろ。バカなのか?」


「…ニャに!?」


俺はその意味不明な質問を即座に断った。

驚いているという事は、俺が言う通りにすると思っていたのだろう。

手下になれと言われて、素直になる奴などいるわけないだろ?

一体、こいつは何を考えているのだろうか…


(い、今、断られたニャ!?まさか…そんな事があるのかニャ?今までの奴等は、喜んで手下になっていったし、中には自分から頼んでくる奴もいたのニャ…こいつ、何なのニャ?)


「それより、こいつらは?仲間は居ないんじゃなかったのか?」


「…ここにいるのは全員、仲間じゃなくて私の忠実な下部…なのニャ…」


手下になってる奴、既にいたのかよ!

全く…理解に苦しむぞ。

何が悲しくてこんな猫舌の下に就かなければならない?

やはり、催眠や、その類いのものを掛けられているのだろうか…

だが、それなら何故、俺には使わない?

何か条件でもあるのだろうか。

とにかく、何にせよ、こいつを何とかする必要がありそうだ。


(何故、こいつは私の手下にならないのニャ…でも、ここで諦める訳にはいかないニャ!こうなったらもう、力ずくで手下にしてやるのニャ!!)


「全員、作戦は失敗ニャ!お前らの力で、無理矢理言う事を聞かせるニャ!!」


「…ほう。俺と戦うのか」


俺はニヤリと笑う。

こんな奴等に、この俺が負ける訳が無い。

こいつらは、俺を相手にどれだけ時間を稼げるのだろうか?

ふふ…少しは楽しめると良いのだが…あまり期待はしないでおこう。

さあ、かかってこい。返り討ちにしてくれよう。

…では、頼んだぞ!サテラ!!


「しかし…ラニエ様、何故そこまでしてこいつを…?」


「うるさいニャ!!これは命令ニャ!!」


「は、はい!!承知致しました!」


「お前ら!ラニエ様の為に、全力で戦うぞ!!」


周りの奴等が掛け声をかけていき、盛り上がる。

全く、騒がしいな…


「さあ、さっさとやっちまおうぜ!」


その言葉と同時に全員が一斉に俺の方に走って向かってくる。


「…サテラ」


「はいはい…分かってるわよ」


俺が呟くと、面倒そうに返事をした。

サテラは空中で手を前に出し、目をつむって魔力を溜める。

そして、次の瞬間、周りいた男達が全員、空中に浮かんだ。

その現象に、最初の覇気は失われ、多くの人がどよめいていた。

…と、その時間は長くは続かず、全員の頭が壁と衝突し、屋敷の中は一気に静まり返った。

どうやら、全員気を失っているみたいだな。

それにしても、凄い光景だな。何十人もの男共が泡を吹いて地面に倒れ込んでいる。

酷いものでは地面に頭から突き刺さっている奴もいて、ピクピクと痙攣していた。

そんな中、俺は複雑な心境でゆっくりと立ち上がった。

俺が何もしていない?

別に良いじゃないか。俺のモットーは他力本願なのだから。

ラニエを見ると、冷や汗をかきながら、後ろに後ずさりをしている。


(な、何なのニャ!?こんなの反則ニャ!絶対おかしいニャ!!)


「ぐっ…B班!!作戦通りやるのニャ!」


ラニエが上に向かって叫んだ。

その方向を見ると、上には複数の射手(アーチャー)が居て、弓で俺を狙っていた。

囲むように並んでいるので、全方向から狙われているという事だろう。

まあ、矢を防ぐなど、俺にとっては容易い事だ。

よし!!サテ…


パチッ


突然、屋敷の中の電気が消された。

部屋の中は真っ暗になったようで、"黒の支配者(ブラックルーラー)"が発動する。

サテラが困ったような顔で俺に話しかけてきた。


「この暗さでは、私の魔法を使うのは無理ね。魔力で大体の場所は分かるのだけれど、正確な位置が分からないから、捉えられないわ。まあ、後は自分で何とかするのね」


そんな、投げやりな…

まあ、魔法は見えていない所には使えないから、当然そうなるのだろうが…

仕方ない。面倒くさいが、"黒の支配者(ブラックルーラー)"があれば何とかなるだろう。

数十本の矢を避けて、数十人の冒険者を1人で相手にする位、な…

…というか、こいつらも見えて無いだろ?

どうやって狙うんだ?

そう思った瞬間、誰かが大声で光の魔法を唱えた。


「"明光球(ライトニング)"!!」


その魔法が発動すると、部屋の中が明るくなったようだが、その魔法はすぐに消えた。

なるほど、そうして俺の位置を確認すると。

魔法が消えると同時に、一斉に矢が射ちはなたれる。

俺は、とりあえずサテラを"暗黒形(ダークキューブ)"で矢から守る。

魔力を感じて、射手(アーチャー)の位置は分かるだろうが、おそらく矢は見えていないのだろう。

俺は、飛んでくる矢を、最小限の動きで華麗に避けていった。

最後に飛んできた矢は流石にかわしきれなかったので、片手で掴み、そのまま投げ捨てる。

…これで全部みたいだな。

では、次の攻撃がくる前に反撃をしておくとしよう。


俺は"暗黒形(ダークキューブ)"を出し、それを矢の形に変えていく。

まあ、流石に尖っているものは危険なので、先端は平らにしているがな。

俺はその黒い矢に"重力落下(グラビティフォール)"をかけ、右手に握りしめる。

そして、構えて狙いを定め、勢い良く投げつけた。


「…がハッ!!!」


俺が投げたその矢は見事命中し、当たった奴は後ろに倒れ、気を失った。

先を平らにしているとはいえ、あの速さならば当然と言えるだろう。

矢は、命中した所で"重力落下(グラビティフォール)"を解き、空中で止めた。

そして、左右に一気に拡張して、両側にいた2人の頭に激突し、そいつらはそのまま気絶する。

3人の声に周りは動揺し、騒がしくなってきた。


「ラ、"明光球(ライトニング)"!!」


暗闇では不安だったのだろう。俺の位置の確認の意味を含め、さっき同様光の魔法を唱えた。


「なっ…いない!?」


…が、そこには俺の姿はなかった。

射手(アーチャー)達は慌ててキョロキョロと周りを見て、俺の事を探す。


「…後ろだ」


「ヒッ…!?」


ドンッ


俺は魔法使いと思われる奴の背中を後ろから押し、そいつは叫びながら下に落ちていった。

思った通り、光魔法の詠唱者だったようで、部屋の明かりは消える。

そして、俺はその流れで、次々に射手(アーチャー)を落としていく。

驚くことに、全員落とすのには10秒もかからなかった。


「ガッ!!」


「…ガフッ!!」


「ドヘッ!!」


変な声を出しながら地面に落ち、全員そのまま動かなくなった。

まあ、皆、結構良い装備を身に付けていたし、多分大丈夫だ。そういう事にしておこう。

…真面目な話、血を出している奴もいないし、目立った外傷も見られないので、おそらく無事だ。


とりあえず、これでラニエ以外の敵は全員行動不能になった。

それで、こいつはどうするんだ?

ラニエを見ると、目を大きく開き、驚きながら俺の事を見ていた。

目が合うと、急に顔が険しくなる。

どうやら、俺と戦うつもりらしい。


「知っているかニャ?猫は暗闇でも、普通に目が見えるのニャ!つまり、この状況ではお前に勝ち目は無いニャ!!」


そう意気込むと、俺の周りで円を描いて走る。

そして、タイミングを見計らい、爪をたてて俺に飛び掛かってきた。


ダン!!


「…うニャ!!」


…が、俺は飛び掛かってきたラニエに蹴りを入れ、ラニエは壁にぶつかってその場に座り込む。


「悪い。俺も暗い所は良く見えてな」


「…お前…猫だったのかニャ…?」


「違う」


「…それより、お前の負けだ。早くこいつらの催眠を解け」


「催眠…?何の事ニャ?」


「だから、お前が自由に言う事を聞かせているその催眠だ」


「いや、こいつらは私に魅了され、自分から私に尽くしているだけニャよ…?」


何を言っているんだ?こいつは。

魅了なんて…だって、魔物だぞ?

普通、魔法も何も使わずに手下なんかになる訳がない。


「そんな訳あるか」


(こいつ、疑り深いニャ…まさか、本当に私の魅力が分からないとでも言うのかニャ…?)


「嘘だと思うのなら、勝手に思っていろニャ!どうせ、私を殺したらはっきりするのニャ…」


「…いや、別に…殺しはしないぞ…?」


(…ニャ!?殺さない?ここまで追い詰めておいて、私を殺さないのかニャ!?)


「…やっぱり、お前も私が好きになったのかニャ?」


「バカ言え。俺は元々、魔物は殺さない主義なんだ」


(そんな事を言って、本当は好きになっただけニャ!でも、とりあえず助かったみたいで良かったニャ…)


ラニエとそんな会話をしていると、突然大きな音が聞こえてくる。

それは扉が開いた音らしく、誰かが入ってきたようで、部屋の明かりが点いた。

扉の方を見ると、そこには呼吸を荒くしている男が立っていた。


「ラニエ様!すいません、ちょっと遅れてしまいました!!」


男は、大きな声でラニエにそう言う。

俺がその光景を見ていると、ふとその男と目が合った。


「ああっ!?お前は!!」


どこかで知り合った事があるのだろうか?

驚いたような顔で、俺の方を向く。

その男は大袈裟に俺の事を指さしているが…

全く記憶に無いな、思い出せる気がしない。


「ええと…どちら様で?」


俺がそう言うと、男は激怒した。

ギリギリと歯軋りをした後、勢い良く話し…怒鳴り始める。


「てめぇ!!忘れたとは言わせねぇぞ!!あの時、俺の獲物だった"スライムの味方"をして、俺達に攻撃をしてきやがっただろ!!酒場の時は止められたが、今度こそぶちのめしてやる!!」


…そういえば、そんな事もあったような…

まあ、言うまでもなく、完全に忘れていたがな。

だが、言われて思い出したのだから、まだセーフと言えるだろう。

そういえば、もう1人の魔法使いの方はどうしたんだ?

…あ!というか、さっき俺が突き落とした光魔法使いが多分、そうだ!

思い切り顔を合わせていたが、互いに気が付かなかったみたいだな。

まあ、あまり良い出来事では無いし、向こうも早く忘れたかったのだろう。


(今、何て言ったニャ…?"スライムの味方"をした?さっきこいつが言っていた事は本当だったのニャ?)


「さあ、喰らいやがれ!!」


男は剣を抜き、俺に斬りかかってくる。

俺が身構えて、その攻撃を防ごうとすると…


ガンッ!!バタッ…


なんと!?ラニエが男の後頭部を殴り、男がそのまま気絶したのだった!

…?こいつは、一体何がしたいんだ?

立ち尽くしていると、俺の前まで歩いてきて、地面に膝を着いてひれ伏した。


(魔物にすら慈悲をかけ、不器用ながら周りを気遣う優しさを持ち、孤独でも敵に果敢に攻める強さ…カッコいいニャ!カッコいいのニャ!!)


「…私達、猫族は、代々人間に仕える種族なのですニャ。そこで私は今、ここであなた様に生涯仕える事を誓いますニャ!この私を、一生側において頂きたいのですニャ!!ご主人様!!」


…!?

い、いや、待て、待ってくれ。

展開が急過ぎてついていけない。

俺がご主人様…だと?

何がどうなって、俺を選ぶという謎の結果に?

完全に迷走しているぞ、こいつ。

というか、そもそも、そんな事は俺の柄ではないのだ。

是非とも、他を当たって貰いたい。


「仕えるのはともかく、俺は止めておいた方が良い。後悔する事になるぞ?」


「そんな事は無いですニャ!ご主人様のそんな謙虚な所も素敵ですニャ!!」


…こいつ、かなりの重症みたいだな。

さっきの戦いの時、頭でも打ったのか?

というか、もう既にご主人様呼ばわりされているのだが…

やはり、ここははっきり断るべきでは…?

…待てよ…?こいつを仲間にすれば、ここに倒れている奴らも着いてくる。

そうしたら、何の問題も無く、楽に依頼を達成出来るじゃないか!

それなら、こいつが俺の仲間になる以外は全て完璧だ。

そして、この事に関しては、町に着いてから再び断っておけば良いだろう。

俺は、一時的にこいつを俺の仲間にする事にした。


「…仕方ないな…もう好きにしろ」


「ありがとうございますニャ!嬉しいですニャ!!私、役にたてる様、精一杯頑張りますニャ!!」


ラニエは、その場で跳びはねながら、嬉しそうに喜んでいた。

まあ、これで良かった…のか?

すると、サテラがそれを冷めた目で見ながら、俺に話し掛けてくる。


「静人…何だか、変な子に気に入られたみたいね…同情するわ」


止めてくれ、同情なんかされたくない。

というか、そんな事より今、変な"子"って言わなかったか?

聞き間違えでなければ、確かにそう言った筈だ…

"子"という所から、サテラはこの魔物を人間と同じような扱いで見ているという事が分かる。

それならば、ラニエは人間と同じ姿をした人型…

つまり、"別次元を生きる者(ディメンションナード)"は最初から発動していなかったのか?

そんな…俺はてっきり見た目は普通の魔物だと…

というか、"別次元を生きる者(ディメンションナード)"無しでこれか…

まあ、これなら確かに周りから指示される事だろう。

これで、さっき言っていた魅了とか何とかも納得できない事もない。

そんな事で手下になり、自分からこきつかわれるにいくのは理解出来ないがな。

俺からしたら、大体の魔物がこんな見た目だし、別に珍しくもない。

だが、他の人からしたら違うのだろう。

俺がこいつを連れて町なんか歩いたのならば、通行人は振り返り、全方向から嫉妬の目線を浴びせられるだろう。

分かりやすく言うと、悪い意味で注目の的になるという事だ。

これは、色々と厄介な事になりそうだな…

俺はラニエの方に目を向ける。


「さあ、早く出発しますかニャ!これから、宜しくお願いしますニャ、ご主人様!!」


「…ああ」


俺は気の抜けた返事を返し、深くため息をついた。

もっと早く気付いていれば…

そんな事を考えていたが、もう遅い。

こうして、俺はラニエという猫の魔物になつかれる事になった。

そして俺は、後で断れば良いという軽い気持ちで承諾した事を、近い内に後悔する事になるのだった。




はい!今回は仲間が増えたんですが、どうでしたか?

文字数はいつもに増して多いですが、この小説は基本的に1話完結の話が多いので、このままでも良い気がしてきました。

まあ、あんまり長くし過ぎると読む気が失せると思うので、そこは気を付けつつ書いていく事にします!

では、次回の投稿も、また"来週中"の予定なので、また読んで頂けると嬉しいです!!



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