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モンスター討伐なんて残酷なことは俺に出来ない  作者: 両生類
異世界転移生活編
8/19

8話 狂科学者

8話目です!

サブタイトル、いくつか候補があったので悩みましたが、最終的にこれになりました。

サブタイトルを決めるのも、案外大変ですね…

投稿遅くてすいません!是非、最後まで見ていって下さい!!

その日、俺は相変わらず金欠のため、いつもの通りクエストを受けていた。

とは言っても、難易度は"3"の安全圏だがな。

まあ、難易度が3だとしても、ゾンビの時のような場合もあるので、実際難易度なんてあてにならないが。

だが、今回の依頼は難易度が正しかったようで、あっという間に決着は着いた。

そして、今はその簡単なクエストの帰りと言う訳だ。


ちなみに、目的地は町からかなり離れていて、結構距離がある。

なので、本当は町に着くのは夜中の予定だったのだが、思っていたより早く達成する事が出来たので、このまま行けば夕方には町に着く事が出来そうだ。

俺は町に向かいながら、森の中を無心でひたすら歩いていた。

すると、サテラが突然、何かを思い出したかのように話し始める。


「静人…お腹が空いたわ」


またか。こいつは食べ物の事しか考えていないのか?

それにお前、朝食の時も"遠出だから"とか言って大量に食べていっただろ。

食事は魔力の補給の為に欠かせないと言っていたが、今回に至ってはサテラは何もしていない。

だが、確かにサテラ同様、俺もお腹が空いてきているのだった。

太陽の位置からして、おそらく今は昼過ぎ頃だろうか?

近くに魔物は居なさそうだし、そろそろ昼食にしても良いかもしれないな。


「それじゃあ、この辺りで昼食を取ることにしよう」


「そうね!それが良いと思うわ」


サテラが俺の言葉を食い気味に肯定する。


「だが、昼食にするなら、どこか安全な場所を探さ…」


ビュッ


「こっちの先が安全そうよ。一方が崖になっているから、後ろから襲われる心配は無いし、木の生えていない場所になっているから見通しも良いわ」


俺はまだ言い終わっていないんだがな…

サテラはほとんど一瞬で森を回り、安全な場所を一瞬で見つけて戻ってきた。

その行動の速さは称賛に値する。もはや神業だ。


「…そ、そうか。それなら、そこで昼食にしよう」


俺は少し引きながら気の抜けた返事をして、サテラに付いていく。

その場所は思ったより近くにあったので、あまり時間はかからなかった。

周りは木に囲まれているものの、確かに他の場所と比べて見通しは良かった。

崖は壁のようになっていて、上から魔物が飛び降りてくる可能性も考えたが、高さはかなりあるのでその心配は無さそうだ。

俺は崖の真下にある石に腰を掛け、鞄から食材を取り出す。


「サテラ、火を起こすから森から薪になりそうな枝を拾って…」


「この位で良いかしら?」


森から大量の小枝が飛んできて、俺の前に積み重ねられた。

こいつ、こういう時だけは異常な程速いよな…

俺は、その小枝に"火炎砲(ファイアーボール)"で火を着ける。

戦闘では全く役に立たないこの魔法は、完全にライター要員となった。

俺は枝を定期的に足していき、少しずつ火を大きくしていく。

火が強くなると、その両側に大きめの石を置き、そこに鉄の棒に刺した肉を2人分乗せ、肉に火があたるようにした。

いくら料理が出来ないと言っても、肉を焼く位なら流石に俺でも出来る……多分。

焦がさないように注意しながら、鉄の棒を回し、肉の全面を均等に焼いていく。


…そろそろか?

俺は火を消して、肉を焼くのを止めた。

…肉が少し黒く見えるのは、気のせいだろうか?

いや、どう見ても焦げてるな。これ。

まあ、焼けていない部分があるよりかはまだ安全だろう。

焦げていると言っても一部のみだし…食べられない事はない。

そうして、自分が焼いた肉を必死にフォローしていると、サテラが空気を読まずに文句を言ってくる。


「ねえ、この肉焦げてないかしら?」


「いや、気にするな。ちょっと炭化しただけだ」


「つまり、焦がしたのね?」


それとなく誤魔化そうとしたが、普通にスルーされた。


「まあ、そう捉える事も出来るな」


「料理が出来ないにしても、最低限このくらいは出来ると思うのだけれど…」


「…あいにく、どこかの幽霊が大量に食べるから予備の肉を買う金は無くてな。嫌だったら食わなくても構わないぞ?俺が2つ食う」


「仕方ないわね…良いわ。食べるわよ…」


「分かれば宜しい」


そう言って、無理矢理サテラを説得した。

俺は鞄からパンズを取り出し、焼いた肉をそれに挟む。

これで、ハンバーガーの完成だ。

とはいっても、ただ肉を焼いただけで、具は肉のみというあからさまな手抜きだがな。

俺はサテラにそれを渡し、ハンバーガーを食べ始めた。

…苦い。それに、肉も固いな…

まあ、昼食すら持って行けなかった頃に比べれば大きな進歩だ。

そう思いながら俺は、肉を噛み千切る。

そのまま何度も噛み続け、少しずつ顎が疲れたので、後ろの崖に寄りかかった。


カチッ


…すると、突然何かの音が聞こえ、背中には何かを押したような感触が残っていた。

何だ?後ろに何かあったのだろうか…?

それに、この音と感触…まるで、スイッチ…


ガ、ガ、ガガガガ!!!!


…!?

後ろに振り向くと、大きな音と共に崖の一部が扉のように横方向に開いている。

何なんだ!?これは…?

状況が全く見えない中、俺は冷静に考える。

何故、この科学とは無縁そうな西洋風の剣と魔法の世界に、近代的な扉が…?

いや、誰かが魔法で動かしたのか?

サテラの方を見ると、変わらずにハンバーガーを食べ続けていた。

こいつの耳はどうなっているんだ?少しは気にしろよ…

サテラは食べるのに夢中で、周りの音は全く聞こえていないみたいだ。

というか、この場所に来る前に、サテラがここの周辺を見回ったので、何者かが居れば気付くはずだ。

内側からなら、魔法を使えるが、見たところ、中に誰かが居る様子はない。

見える範囲でしか、魔法は発動出来ないので、魔物や人が魔法を使った訳ではないだろう。

とすると、やはり俺が押したのは、扉を開けるスイッチだったのだろうか…

…ま、まあ、開けてしまった事は仕方がない。閉め方も分からないし、とりあえず中に入った方が…良いよな?

俺は、仕方なく、この怪しげな建物に入る決意をした。


ハンバーガーを鉄の棒に突き刺し、一旦置いておく。


「おい、サテラ。行くぞ」


俺はまだ食べ続けているサテラに声を掛けた。

…が!!全く気付かないので、何度も呼び続ける。

サテラはようやく気付いたようで、俺の方を向き、話始める。


「何よ…食事の邪魔をしないで貰えるかしら?」


そんなふざけた事を言っているサテラに怒りを覚えながら、崖の方を指差した。


「これは…!?静人…あなた、また何かしたのね…」


「"また"とか言われる程何かをした記憶はないのだが」


「じゃあ、これは?」


「俺がやりました」


「やっぱり静人のせいなのね」


サテラがニヤつきながら煽ってくる。

相変わらず腹立たしい奴だ。


「…黙れ。とにかく、中に入るぞ」


俺はそう言って中に進んで行った。

先に進むと、勝手に電気が点き、奥には部屋のような空間があった。

部屋の中には、用途の分からない道具がいくつか並べてあり、真ん中にある筒状の大きなガラスの中は、黒い液体で満たされている。

その近くには、細型、高身長で白衣を着ている眼鏡の男性が、机で何かの作業をしていた。

頭から生えている赤い2本の角と、硬そうな尻尾を見る限り、魔物で間違い無さそうだ。

足音が聞こえて俺に気が付いたようで、こちらに顔を向けた。


「おや、来客か」


そう呟くと作業を止め、俺の前まで来た。

コホン、と咳き込んで改まり、大袈裟に手を広げて話し出す。


「私の偉大なる研究所(ラボ)にようこそ!!歓迎するぞ、人間!」


この魔物、一応敵意は無いみたいだ。

それどころが、どうやら歓迎されているらしい。

ここが研究所(ラボ)という事は、やはりあの入り口はこいつの仕業だろうな。

眼鏡の男性の言葉の後に、昼食を食べ終えたサテラが話し出した。


「この魔物は火炎竜(サラマンダー)ね。まあまあ強いらしいから気を付けなさい」


俺は"別次元を生きる者(ディメンションナード)"で痩せた弱そうな人に見えるのだが、本当に強いのか?

そう思ったが、一応警戒しておく事にした。

まあ、強いスライムだっている訳だしな。


「では!!早速だが、これを見てくれ」


男性はそう言うと、手で黒い液体で満ちた筒状の大きなガラスを差した。


「…これは何だ?」


「よくぞ聞いてくれた…これこそ私の最高傑作!!推考を重ね、何年にも渡って行った、研究の成果だ!!」


「それで、結局何のための物なんだ?この液体は」


「ふふ…まあ焦るな。今その液体の絶大な"力"を見せてやろう」


そう言うと、壁に付いているスイッチを押した。

すると、天井が動き出し、少しすると完全に開いて空が見えた。

男性はガラスに入った液体と同じものを試験管に少量入れ、銃に似た道具にはめ、空に向ける。


「…よく見ておけ、瞬きをするのは愚考だぞ!」


男性は、そう言い終えると同時に引き金を引いた。

試験管は凄い速さで発射され、一瞬で見えない高さまで上がった。

俺は言われた通り、ただ空を見上げていた。

男性が引き金を引いてから数秒後…


ドカァァアアン!!!!


空中で大きな爆発が起きた。

なっ…これを、あの少量の液体で!?まさか…だが、そうとしか考えられない…

かなり高くまで飛んでいたはずだが、爆発は天井すれすれまで届いていた。

爆風で大量の紙は飛ばされ、ビーカーや試験管は地面に落ちて割れる。

風が目に入るので前が見えず、立っているのもやっとだった。

爆発が終わり、辺りが静まり返ると、眼鏡の男性がいかにも悪役らしい高笑いをする。


「く…ふははは!!私の研究のテーマは"滅亡"!!どうだ、この威力は?あのガラスに入っている液体は、このスイッチを押せば世界中の地面に定間隔で染み込み、同時に爆発する!!そうなれば、この世界は終わり。…完璧だ…素晴らしい、美しい!ファンタスティック!!」


男性はそう叫ぶと眼鏡をクイッと上げ、急に冷静さを取り戻した。


「君は幸運だったよ。世界の滅亡を事前に知る事が出来て。君みたいな冒険者とやらが来るのをずっと待っていたんだ…さあ、絶望しろ!!共に終焉までの時間を楽しもうではないか!!」


せっかく一度落ち着いたのに、また叫んだな。こいつ。

さて、とりあえず状況は見えてきた。

あいつが持っているボタンが押されると、さっきの液体がばらまかれて世界は終わり…と。

いやいやいや!!おかしいだろ、絶対!!

昼食を食べていた場所が偶然研究所で、偶然、俺は世界の滅亡を唯一事前に知る者になったとか…

こういうのは、もっとちゃんとした奴が任されるべきだろ?俺には荷が重いぞ?

俺は凄まじく動揺し、心拍数は上がりまくりだが、それは相手に悟られないようにした。

冒険者の絶望の顔を望んでいる奴に、素直に見せてやるのは癪だからな。

だが、この状況で動揺しているのはサテラも同じみたいだ。

いつになく、真剣な顔をしている。

…が、顔にパンかすが付いているので台無しだ。


「静人…あのスイッチを奪えば良いのかしら?」


いつもなら、そんな事は独断で勝手にやるのに、余程心配なのか俺に同意を求めてきた。

だが、その問いに対して俺は小さく首を横に振る。

予想外の返答に、サテラは意外そうな顔をしていた。

サテラの魔法では、誤って押してしまう可能性もあるし、予備のスイッチが用意されていた場合、すぐに押されるだろう。

男性の動きの方を止めたとしても、別の起動方法もあるかもしれない。

俺達の選択には、世界の存亡がかかっているのだ。慎重にならねば…

俺は覚悟を決め、男性に歩いて近づいていく。


「ちょっと!?何してるのよ、静人!!」


サテラが俺を呼び止める。

だが、幸い体の動きを止める事はしなかった。

俺にも、少しは信頼というものがあるみたいだ。


「と、止まれ!!分かっているのか!?世界が滅びるのだぞ?何故そんな冷静な顔を…絶望、絶望しろ!!この私が出来ないとでも…?押せる、止まらないのならば、押すぞ…!!」


「…押せよ」


「なっ…!!今、何て…」


「押せと言ったんだ。別に構わない」


「お前は…世界が滅びても構わないというのか…!?」


「いや、確かにそれは困る。だが、それを押しても世界は滅びないぞ」


「そ、そんな事、あるはずがない!!何度も計算したんだ、私の計画に失敗はない!!」


「…残念だったな、俺の特性は"変換"なんだ。そこの液体を起動させる為のスイッチは、お前1人だけが死ぬものに変えさせて貰った。最も、この能力を使うには条件があるがな」


「…"変換"…だと!ふざけるな…そんなもの、あるはずが…あってはならない。私の計画が…あり得ない!!」


何故、俺がこんな事を言い出したかと言うと、別に気が狂った訳ではない。

もちろん俺に"変換"なんて能力があるはず無いだろ?ただのハッタリだ。

この世界を滅ぼすということは、もちろんこの男性も命を落とすだろう。

だが、自殺が目的ならば周りを巻き込む必要は無い筈だ。

つまり、1人で死ぬのが怖いか、自分の命を犠牲にする程この世界を憎んでいるという事になる。

どちらにしろ、世界が滅びないのであれば、こいつの目的は達成できない。


一応、"闇包世(ブラックドレイン)"であの液体を消すという手も考えたが、ガラスが先に消えるか、液体が少しでも残ったら、世界は救えても俺が犠牲になるから駄目だ。

ちなみに、この方法は受付のお姉さんから思い付いた。

嘘は自然体で言えばバレないのだ。

…俺は何だか、嘘をつくコツを掴んだ気がした。


「そうだ、ハッタリだ!!いくら何でも、そんな強力な特性はあり得ない。見せてみろ…条件が揃っていない、なんて言い訳は通用しないぞ!!」


まあ、そうくるだろうな。

眼鏡の男性は、元気を取り戻し、また悪役っぽい笑みを浮かべた。

大丈夫だ。ちゃんと後の事も考えてある。


「良いだろう見せてやるよ」


俺は少し移動して、後ろの壁の方を向いた。

男性は、黙って俺の一挙一動を見逃さないようにしている。


「まず、俺の職業は"魔法使い"だ。この通り、魔法を使う事が出来る」


そう言って、俺は各属性の魔法を使って見せた。


「では、次だ」


俺は、さっきの爆発でここに落ちてきた丸太の前に立つ。

そして、"魔黒漆剣(ダーインスレイブ)"を出して構える。

刃は、通常の剣と同様、斬れるようにした。


"一刀両断"!!


そう唱えて、丸太を真っ二つに割る。

俺は剣を消し、男性の方を向いた。


「このように、俺は魔法使いでありながら、剣士のスキルも使う事が出来る。"変換"の能力のお陰でな」


男性の表情が、少しずつ曇っていくのが分かる。

続けて、俺は空中に"暗黒形(ダークキューブ)"を出した。


「この魔法を見ろ。本来ならば、常に空中にあるはずだが、俺の能力を使えば…」


俺は、"暗黒形(ダークキューブ)"に"重力落下(グラビティフォール)"を掛ける。


ドォオオン!!!


"暗黒形(ダークキューブ)"は、当然地面に落ちた。


「…というふうに地面に落とす事も出来るという訳だ」


男性の方を見ると、眉間にシワを寄せて"あり得ない"を連呼している。

いける!!いけるぞ、このままなら。

それでは、仕上げといこう。


「後、物を浮かす事も出来るぞ?これは、魔法のどの属性にも入らない。つまり、特性の追加という訳だ」


俺は散らばっている紙に手を向ける。

頼んだぞ、サテラ!


…シーン


いや、動かせよ!!

俺は勢い良くサテラの方向に首を向ける。

サテラは、何故か首を傾げた。

…こいつ、まさか俺の特性が本当に"変換"だと思っているのか?

しまった…!こいつの察しの悪さを計算に入れていなかった…

でも、流石に理解しろよ!!さっき見せたのだって、こいつの前で何度も使っているだろ?

だが、この状況では続けるしか無いだろう。

男性も俺を不審に思い始めているみたいだ。

サテラに話し掛けると、怪しまれるだろうし、それとなく気付かせるしかない…!


「ま…まあ、普通だったらそんな事、出来るはずがない。"幽霊"!!や"ポルターガイスト"!!であれば、可能かもしれないがな」


チラッ


俺は横目でサテラに視線を送る。

ここまですれば、流石にサテラも気付くだろう。

…そう思っていた俺の考えは甘かった。

サテラが気付いた様子はなく、無表情で俺の行動をただ傍観していたのだ。

なんて事だ…

俺は安っぽい演技を続ける。


「もし、俺が"変換"の特性を持っていなかったのなら、物を浮かす能力を持った奴がこの場に居て、手助けをしてくれると助かるのだろうな~」


チラッ


駄目だ。こいつ、一向に気付く気配がない。

男性は、早く見せろと言わんばかりに苛立ちを見せた。

このままでは、世界が終わる。

…仕方ない。自分の身が心配だが、少々強引な手を使おう。

サテラが普通に気付けば良かったのだがな…


「おい、お前。幽霊と言えば、お前は幽霊に会ってみたいと思うか?」


男性は突然話を振られ、驚いた様子をしている。

無視をするか迷いつつも、結局返事をする事にしたらしい。


「幽霊か?死に至っても後があるなど、信じてはいないが…存在するのなら当然会いたいに決まっている」


予想通りの返答だ。

俺は、安心すると同時に憂鬱になり、小さくため息をつく。

そして、そのまま大きく息を吸った。


「…お前、その考えは改めた方が良いぞ…幽霊何かと出会うとろくなことにならない。怒りっぽくて暴力的、すぐに手を出してくる。基本的に自己中心的で、周りの迷惑なんか全く気にしていないだろうな。そのくせ、いつも大して役に立たないし、何より、1日の活動とエネルギーの補充量が比例していない。何かをするたびに食べ物を要求するので、食事代もばかにならないぞ?いつも何かと偉そうで、上からものを言ってくる割には所々子供っぽいし、人には厳しく自分には甘いという典型的なダメ人間の模範と言える。嘘すらまともにつけず、頭は悪いとは言えないのに、どこか抜けているのだ。それに、お前は幽霊に会ってみたいと言ったが、実際の幽霊は全然幽霊らしさが無い。物理攻撃が効くし、腹も減るし、普通に話せるぞ?というか、幽霊である事はデメリットの方が多い。夜は眠らないから暇だし、周りに気付かれないため、基本ボッチだし、言わば、何の利益も得る事が出来ない。つまり、自分で働く事も出来ない、無能な、ただの透明人間だ!!」


俺は荒くなった呼吸を必死に整える。

一度に早口で話し過ぎて、軽い酸欠状態に陥り、目眩がする。

さて、この幽霊をひたすら罵倒作戦は上手くいったのだろうか?

俺は、恐る恐るサテラの方に目を向ける。


手が小刻みに震えている。これは…怒っているのか?

顔は、少しうつむいていて、さらに目眩もするので、良く見えない。

そのまま見ていると、サテラがふっと顔を上げた。

相変わらず目眩のせいで顔は良く見えないが、凄く怖い顔をしている事は伝わった。

俺と目が合うと、サテラが口を動かし始めた。


えーっと……こ・ろ・し・て・あ・げ・る…

その瞬間、俺は死を覚悟した。


俺が真っ二つに切った丸太が宙に浮いて、俺の方向に向きを変える。

いや、待て待て!待ってくれ!?

紙を浮かす所から、どうしてこうなった?

声も出ないし…なんとか防がねば…

俺は朦朧とした意識の中で、"暗黒形(ダークキューブ)"を展開する。

いくら怒っているとはいえ、流石に手加減くらいは…


ズダァァアアン!!!


うん、躊躇なし!そうか、まあそうだろうとは思っていた。

とはいえ、サテラの攻撃を防いで、俺は安心していた。

意識も戻ってきたし、そろそろ声も出せるだろう。

そう思ってサテラに説明をしようとした…のだが。

なんとビックリ。俺の体が空中に浮き出した。

…やっぱりこうなるのか…

俺の体は縦に一回転し、逆さになる。

この後はもう分かるよな?

俺は潔く諦める事にした。


「がフッ!!!」


頭が地面に叩きつけられ、そのまま地面に倒れる。

…と同時に今が世界の存亡をかけた危機的状況で、男性を完全に放置していた事を思い出した。

俺は地面に倒れながら声をだす。


「どうだ?これで俺の特性が"変換"だと信じて貰えたか?」


「アホか!!信じる訳が無いだろ!最初の方のはどうやったのか分からないが、私は嘘だと確信した!!そこに、幽霊が居るのだろう!!」


なっ…!?俺の演技は完璧だったはず…

一体、どこでバレたのだろうか…?

ぐっ…頭が痛いな…まあ、気のせいか。

俺は、無かった事にするという、この世界の理を越えた力を使った。


「もういい…私がこの手で今、世界を終わらせる…!」


「…ま、待て!!」


こうなったら、もう説得しかないな…

結局、やる事はいつもと変わらないという事か。


「お前は、この世界に何か恨みでもあるのか?」


男性はスイッチから目を離し、俺の方を向いた。

やはり、どんな人でも愚痴は誰かに聞いて貰いたいらしい。

男性は、話を始めた。


「…私は、魔王軍に見放されたのだ。研究に没頭し過ぎてな…いつも通り研究所に籠っていると、魔王直属の魔物が入ってきて、お前は不要だ、とはっきり退軍宣告をされ、路頭に迷う日々。元々、落ちこぼれの火炎竜(サラマンダー)だった私は戦闘もまともに出来ず、食べ物もろくに調達出来ないで、餓える毎日。…こんな世界があるから、私がこんな目に合うのだ!!それなら、いっそ滅ぼしてしまおうと考えたのだ!!」


男性はそう、熱く語った。

だが、簡単に言えば、リストラされて絶望してるという事だろ?

世界滅亡はいくら何でも行き過ぎだ。

それに、悪いのはお前自信だ。八つ当たりにも程がある。

男性の話を黙って聞いていた俺は、思った事を簡潔に言葉にする。


「それなら、人間側に付けばいいじゃないか」


「……は?」


「だから、魔王軍から見放されたのなら、人間の方で暮らせばいいと言ったんだ」


「なっ…でもっ、それは…」


男性は思考が停止しているみたいだ。


「…私…が、人間側に…?そんな事、出来る筈がない!!」


「何故だ?」


「私が魔物である限り、受け入れられる訳が無いだろ…」


「だが、魔物でも人間と同じ程度の知能がある。今みたいに普通に会話が出来るのだぞ?」


「人間は魔物と敵対している。私が魔物である限り不可能だ!!」


ニヤッ


俺は、顔に笑みを浮かべる。


「じゃあ…お前が人間にとって有益な存在で、民衆から支持を得ていたとしたらどうだ?」


「…どういう事だ」


「この、散らばっている道具。これは、何の道具だ?」


俺は、地面に落ちている道具を手に取る。

こいつが作った発明品とやらなら、何とか出来るかもしれない。


「それは、魔法が使えない者でも、属性を切り替えるだけで魔法を打ち出す事が出来るという、エキサイティング!!な道具だ」


それ、意外と…いや、かなり便利じゃないか…?

俺には必要無いが、どの職業でも魔法が使えるという事だろう?


「…だが、少々欠点があり、威力を強くした分、一度使うと次使えるのは数十分後になる上に、魔力が体から吸い付くされ、生力まで減るのでしばらく行動不能になるのだ」


「じゃあ、これの威力はどれくらい大きいんだ?」


「…魔法使いの初期魔法と同じくらいだ」


それで行動不能になるのか…

なるほど、使えない。

見たところ、他の物も全部武器みたいだし、これと変わらないようなものばかりだろう。

確かに、これならリストラされるのも納得だ。


「それで?これはどういう原理なんだ?」


「よくぞ聞いてくれた!!これらの物は、術式を駆使して作っている。術式というのは、魔力を感知する事で、様々な魔法を同時に発動出来るものだ。普通なら、1つ書くのに何週間、何ヵ月もかかるのだが、私程の者になると、基本的なものであれば数分で完成させられるのだ!この黒い液体も、術式の研究中に、偶然発見した魔法だ。これだけの量にするのに、何年かかった事か…!!ビューティフ…」


「分かったから、熱くなるな」


だが、魔法を発動させる術式か…

こいつは、たった数分でそれを完成させる事が出来る。

とすると…その特技は有効活用すべきだな。


「それより、いい加減お前の答えを聞かせて貰おう…無理ならすぐにスイッチを押すぞ」


「まあ、焦るな。やる事は簡単、お前の術式を使った道具を人間に売りに行くだけだ」


「なっ…ふざけるな!強力な魔法の術式を書くには、私でも時間がかかるのだ。売る為には、量産する必要がある。それに、行動が不能になる道具が必要とされるとは思えん!!」


今、自分で自分の道具を全否定したぞ?

エキサイティング!!とか言っていたのにな。

まあ、そこには触れないでおいてやろう。


「誰が強力な魔法が必要だと言ったんだ?」


「…?強力でなければ、売れないだろう?」


「そうでもない。何故なら、お前がこれから作る道具は日常で使う"家電"だからな」


「…"家電"だと?」


「とりあえず町に向かうぞ。準備しろ」


「…言う通りにはするが、出来なかった場合は…分かっているな?」


「…ああ」


そうして、何とか説得をし、町の近くまで連れて行った。

ハンバーガーは冷めきっていて、余計に不味くなっていた。

だが、捨てるのも勿体ないので、無理矢理、口に詰め込んだ。

俺は町で鉄屑などの材料を揃え、付近にあった小さな洞穴で道具を作らせた。

さっき言った通り、作るのは家電だ。


氷系統の魔法の術式を使った冷蔵庫。

風属性の魔法の掃除機、ドライヤー。

火属性の魔法のライター、電子レンジ。


とりあえず、このくらいあれば十分だろう。

それぞれ、複数作らせて、貸し出しされていた台車に乗せて町まで運んで行った。

ちなみに、眼鏡の男性には洞穴に残って貰った。

魔物なので、入ったら騒ぎになるからな。


さて、重い台車をひいて俺が向かうのは"自由商街"という、町の外れにあるフリーマーケットだ。

そこでは、誰でも自由に店を出せて、いつも賑わっている。

そこの場所でこの大量の家電達を売ろうという訳だ。

まあ、この俺が客との対話を上手く出来る訳もないので、おそらく、こんなよく分からない道具は売れないだろう。


そこで、俺は酒場で休憩に入ったアイノさんに声をかけた。

売り上げの5割を払うと言ったら、手伝いを喜んで引き受けてくれた。

今は、売り上げよりも、売れる事が重要なので、別にいくら払っても構わない。


「みんな!買っていって!!…あ!そこの人、これ買っていかない?」


流石はアイノさん。その知名度と、社交性のお陰で飛ぶように売れていく。

何の商品か分かっていないのは気になるが、それで売れるのだから本当に凄い。

次々に売れていき、アイノさんは休憩が終わる前に、全て完売させるという偉業を成し遂げたのだった。

商品が無くなり、俺が店をたたんでいると、髭を生やしたおじさんが話し掛けてきた。


「君、ちょっと良いかな」


話を聞くと、この人はどうやら多くの店を持つ、いわゆる大商人だと分かった。

狙い通りだ。

まあ、思っていたより大分早かったがな。

その点に関しては、完全にアイノさんのお陰だろう。

そう、俺の目的は、ここで商人に目をつけて貰う事だ。

簡単に説明すると、俺がこの自由商街で商品を大量に売る事で、その商品を販売したいと考える経営者が居ると思ったのだ。

そうすれば、その店が、多くの消費者があの魔物を必要としてくれる事だろう。

あの家電を量産できるのはあいつだけだからな。


俺は、その大商人に生産者が魔物だと伝えると、驚きはしたものの、流石は商人。資本主義なので、そんな事は気にしないらしい。

そうして、男性は町からそう遠くない場所に家を貰い、良い待遇を受ける事になった。

魔物という事への配慮として、食べ物も町から買ってきてくれるらしい。

これで金も入ってくるだろうし、一件落着だな。

俺は、その事を洞穴にいる男性に伝えに行った。


「ふっ…ふはははは!!素晴らしい!!本当にそんな事が出来るとは…アメージング!!この功績を称え、今から君を私の助手に任命しよう!!」


勝手に人を助手にするな。

何故か俺は、突如もの凄くどうでもいい役職に任命された。


「それより…」


「ああ!分かっている。あの液体は術式を消しておくよ」


「そうか、それならいい」


「それでは助手よ!!早速研究に取り掛かるぞ!」


「いや、やらないぞ?俺はもう町に帰る」


「…そうか、それは残念だ!今日は本当に助かった。礼を言う!それでは、元気でな。助手!!」


俺が行くと、もう研究に取り掛かり始めたみたいだ。

全く…研究ばかりして、またリストラにならなければ良いのだが…

俺は心の中でそんな心配をした。

帰り道、サテラが俺に話し掛けてきた。


「それで、静人。私に何か言う事があるんじゃないかしら?」


…忘れてた。

俺は、サテラが気付かなかったからだと必死に説明したが、最終的にはやはり飯で落ち着いた。

今日は、色々と心臓に悪い日だったな…寿命が縮んだ気がするぞ…

本当に何とかなって良かった。まだ皆の命があるのは俺のお陰だな。

こうして、誰も知らない中、俺達はこの世界の危機を救ったのだった。



投稿を今日する予定だったんですが、結構ギリギリだったので、急いで書き終わらせました!

なので、後半、少し雑になっているかもしれないです!すいません!

それでは、投稿はまた来週になると思うので、宜しくお願いします!!

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