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モンスター討伐なんて残酷なことは俺に出来ない  作者: 両生類
異世界転移生活編
7/19

7話 死霊術師

7話目です!

明けましておめでとうございます!

何か、前回の投稿がまる12時間、間違えてました…

あんな時間から見る人はいませんね。気を付けます!

それでは、今回も長いですが是非最後まで見ていって下さい!!

…突然ですが皆さん、僕は今、墓地のど真ん中に立っています。

周りを見渡せば辺り一面ゾンビで埋めつくされているという異様なこの光景。

何故こうなったかと言えば、それは昨日まで遡る事になる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


昨日、俺は南西の洞窟でドラゴンと戦い、依頼された鞄を取ってきた。

俺は退屈そうに浮きながら俺を急かすサテラに怒りを覚えながら、重たい鞄を両手に組合へと向かう。

本当に、中には何が入っているんだ?

興味はあるが、それはプライバシーに関わる事なのでやめておく事にした。

組合に入ると、千鳥足になりながら受付の前まで歩く。


ドンッ!!


受付のテーブルに荷物を置いた。というより、投げたと言った方が的確な表現だ。

両手から荷物が無くなり、腕がいつもより軽く感じた。

お姉さんは驚いた顔をして、俺に話し掛けてくる。


「あの…これは?」


「…?クエストで依頼されていた荷物ですが?」


「と言うと…あの難易度"5"のクエストですか!?でも…あの洞窟にはドラゴンが居たはず…」


何もそんな驚かなくても…

俺の事、どれだけ弱いと思っていたんだ?

まあ、見込み量が銀貨2枚だし、大体想像がつくが。

俺は根に持つタイプの人間だからな。

あの事は多分これからずっと引きずっていくぞ。

というか、ドラゴンが居る事を知っていたなら、最初から教えてくれよ!!

俺は心の底からそう思った。


「まさか、達成するなんて…信じられません…」


そう言うと、鞄を開けて中を確認し始めた。

躊躇無く中身を取り出していくお姉さんを見て、プライバシーとか言ってた自分が馬鹿らしくなってくる。

鞄の中の物が、次々にテーブルの上に置かれていく。

順番に、赤い模様の付いた服、黒い手袋、顔を隠す仮面、バールのようなもの、大量の金貨…

よし!警察へ急ごう。

何なんだこれ?明らかに事件の匂いがするぞ?

いや、ただの芝居の道具という可能性も…

…そうだ、そういう事にしておこう。

決して、逃亡中の犯人が洞窟に隠れようとして置いてきたという訳では無い。

きっとそうだ。それに、まだこれが依頼人の物と決まった訳では…


「中の物も、依頼された通りですね…本物みたいです」


合ってるのかよ。

それより、お姉さんが荷物に対して無反応なのが怖いのだが…

俺がクエスト達成した事には動揺していたのにな。

というか、前もって中身を聞いていたのか。依頼する奴は何を考えているんだ?

いや、違う。これは芝居の道具だ。

依頼しても何もおかしい所は無い。


「本当に達成しているなんて…あ!もしかして、もう1人の仲間の方が強かったりするんですか?」


普通に俺が勝ったとは、どうしても信じたく無いらしい。


「もう1人ですか…あいつは、はっきり言って食費を圧迫するだけの無能…」


ガタン


バールのようなものが地面に落ちて、俺の足の真横に突き刺さる。

俺の顔は真っ青だ。

震えている手でそっとバールのようなものをテーブルに戻す。


「そうなんですか?それなら、一体どんな姑息な手を…」


「使って無いです」


「すいません!てっきり、直ぐに負けて帰って来ると思っていたもので…」


「まあ、別に良いですけど…」


「そういえば!静人君がクエストに行った後、静人君に合った依頼がきたので、こちらでキープしていたんですよ!」


「そのまま帰らぬ人になるか、負けて落ち込んで戻ってくるかのどちらかだと思って、万が一戻って来た時の為に持っていたんですが、役に立ちそうで良かったです!」


何その2択?俺に勝たせる気が無いな。

それにしても、俺に合った依頼か…

暗くて陰気臭い場所しか思い浮かば無い。

お姉さんが後ろにある引き出しから依頼用紙を取り出してテーブルの上に置く。


「このクエストです!内容を読んでみて下さい!」


どれどれ…

難易度:3

達成条件:墓地にいるゾンビの討伐

場所:東の森の墓地

依頼人:果物屋の娘

目的:ゾンビの討伐によってお墓参りに行けるようにする

報酬:銀貨50枚


…この依頼は、止めておこう。

あまり受けたい依頼ではないしな。

それに、ゾンビと何て戦いたくない。

確か、ゾンビに噛まれると自分もゾンビ化するんだろ?

この世界ではどうなのか知らないが、腐った死体に何かにはなりたくない。

後、墓地は怖いしな!あんな所には行きたくない。


「いや~墓地とか怖いし、止めておきます」


(何か、凄い目が泳いでるな…)


「静人君?もしかして、報酬を見て決めました?」


「……」


何で分かった?

悟られないように、細心の注意をしていたのに…

ああ、そうだよ!報酬を見て決めましたよ?

当然だ。何せ金欠だからな。主にサテラのせいで。

それに、墓地何か怖い訳無いだろ?隣に幽霊がいるのに。

ゾンビだって"別次元を生きる者(ディメンションナード)"でデフォルトされるしな。


「静人君がそんな人だとは思いませんでした…依頼人の子は、お婆ちゃんのお墓参りをするために、なけなしのお金でこのクエストを依頼したのに…!」


そう言って、お姉さんは悲しそうな顔をした。

何かどことなく嘘っぽいな…

そう思ったが、面倒くさそうだったので、仕方なく依頼を受ける事にした。


「…分かりました。受けますよ」


俺がため息混じりに返事をすると、お姉さんは満面の笑みで話し出す。

本当、何なんだ?この人。


「そうですか!流石、静人君!目撃されているのは2、3匹なので、さほど難しくは無いでしょう。後の手続きはこちらで済ませておきますね!それでは、ゾンビ退治、頑張って下さいね!」


「…はい」


俺は元気の無い返事をして、そのまま受付を離れた。

今日はもう無理だ。報酬も受け取った事だし、この依頼は明日にしよう。

そう思いながら、俺は酒場へと向かった。


こうして俺は、半ば強制的にクエストを受ける事になった。

次の日、町を出発したのは真夜中だった。

何故、わざわざ夜中に墓地に向かうかと言うと、ゾンビが出現するのは夜中だからだ。

別に誰かから聞いた訳では無いのだが、そうに決まっている。

まあ、幽霊は朝も元気に活動しているみたいだが、朝にうろついているゾンビは見たくない。

それに、"黒の支配者(ブラックルーラー)"が発動しているしな。

これでゾンビより有利に立ち回れるだろう。

そんな事を考えていると、サテラが話し掛けてくる。


「静人なら、ゾンビと仲良くなれると思うわよ?似た者同士だし」


もうお前は黙ってろ。

確かに多少は似ているかもしれないが、お前は絶対馬鹿にしているだろ?

発言から悪意しか感じられない。


「うるさい。お前もゾンビと大して変わらないだろ」


「失礼ね。私をあんなのと一緒にしないで貰える?」


こいつ、俺には言ったくせに自分は言われたく無いのか。都合が良いな。

自分がされて嫌な事は人にやらないって習わなかったのか?

後、全く関係ないのに拒絶されているゾンビが可哀想だ。


「お前、いつか生き返る予定なんだろ?死体が動き出したら完全にゾンビだが?」


「なっ…!確かに、それも…そうかもしれないわね…」


サテラは反論が思い付かなかったらしく、嫌々納得したみたいだ。

珍しく人の意見に賛成したサテラを見て、俺は優越感に浸る。


「まあ、まだ幽霊だからゾンビの下位互換って所だろうな」


「…ちょっと。どういう意味よ」


「そもそも、物理的に触れる幽霊なんて幽霊としての存在意義が無いしな」


「ねえ、静人?」


「大体、幽霊なのに全然幽霊っぽく無いし、直ぐに人を馬鹿に…」


「一度、土の中に埋まってみる?そのままゾンビにしてあげるわ!」


「すいませんでした」


そんな、いつも通りの喧嘩に近いような会話をしている内に、墓地の前まで来ていた。

墓地はかなり大きいようで、周りは高い鉄の柵で覆われている。

俺は、極力音を立てないように気を付けながら格子扉を開け、中に入った。

この時間の墓地は本来、怖い筈なのだが、昼間よりも明るく見えるので余裕があった。


「静人。あそこに居るの、ゾンビじゃないかしら?」


そう言ってサテラが指を指す。

その方向を見ると、そこにはゾンビと思われる生物が居たのだが…

破れた皮膚、周りを飛ぶ虫、歪んだ顔に目も片方無い。

…グロいな。

というか、また"別次元を生きる者(ディメンションナード)"が発動してないのかよ!!

だが、今回は幻術などがかかっている訳ではなさそうだ。

確かに、人型の魔物には"別次元を生きる者(ディメンションナード)"の効果は現れないが…

あれはもう人としての原型を留めてないだろ?

本当、いつも使えないくせに肝心な時に役に立たないな、この特性。

そんな事を考えながら、俺は墓の影に隠れて、ゾンビの観察を始めた。

確か、ゾンビは2、3匹居ると言っていたのでこのまま追跡して合流するのを待とう。

他のゾンビの居場所も分かるし、戦闘中にゾンビが増えたら厄介だからな。

目撃された数だけではなく、正確な数を把握しておきたい。

俺はそのゾンビを追い掛けて、先へ進んで行った。

墓の影に隠れながら移動しているので、こちらには気付いていないみたいだ。

俺は音を立てないように注意して、そのゾンビを追う。

すると、突然サテラが声を掛けてくる。


「ねえ、静人」


「何だ?話なら後にしてくれ。ゾンビを見失うだろ」


「そうじゃなくて…後ろ…」


「何だよ」


そう言って、俺は仕方なく後ろに振り向いた。

すると、そこには俺に向かって歩いてくる大量のゾンビの姿があった…


!?


いつの間に背後を取られていた?

そうか、歩くのが遅いから音がしなかったのか!!

数は…1、2、3…4…全部で30匹は居そうだ。

何なんだ?この数は。

目撃されたのは2、3匹だった筈なのだが?

もう色々とめちゃくちゃだな…

俺は急いで墓を飛び越え、走って距離を取る。

いくら数が居ても、足が遅いので追い付かれる事は無いだろう。

そのまま走っていき、少しすると十字路に出た。

後ろのゾンビとは、かなり距離が離れている。

このまま一旦安全な所まで…

そう思って右に曲がると、そこにはおびただしい数のゾンビが見えた。

何だと!?

俺は向きを変え、直進する。

…が、同じように大量のゾンビが先に居る。

残った最後の道もゾンビで塞がれていた。

一体、何匹居るんだ?多すぎてもうコミケみたいになっているぞ?

とにかく、俺はゾンビに完全に囲まれてしまったという訳だ。

ジリジリと詰め寄ってきて、少しずつ追い込まれていく。

気付いた時には、もう目の前までゾンビが来ていた。

足が遅いと侮っていたな。

まさか、こんなに数が多いとは…


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

……という訳でこの状況に至るのだが。

これから、どうしたものか…

俺は迫ってくるゾンビを見ながら考える。

俺には、まともな近接攻撃の手段が無いからな。

殴りかかる事も、腕を捕まれて食いちぎられそうで怖いからしたくない。

ゾンビにも、何度か声を掛けてコミュニケーションを取ろうと試みたが、反応は無かったしな。

そもそも、問題は俺の攻撃の威力が高い事にあるのだ。

いくらゾンビとはいえ、消したり潰したりするのは気が引ける。

余計にグロくなりそうだからな。

とはいえ…剣はこの前折れてしまったし…


そうだ!それなら作れば良いじゃないか!


俺は素晴らしい案を思い付き、"暗黒形(ダークキューブ)"を空中で発動させた。

そして、その黒いのの形を上手く変えていく。

すると、あっという間に黒いのは立派な剣に姿を変えた。

俺は、それに"重力落下(グラビティフォール)"をかけて右手に握りしめる。

これで新しい剣の完成だ。重さもそこそこあるし、普通の剣と変わりなく使えるだろう。

ちなみに、この剣は技として認識されたようで、技録紙(アビリティレコード)に書き加えられていた。


技名は…"魔黒漆剣(ダーインスレイブ)"…

この名前は、一度鞘から抜いたら血を吸うまで鞘に戻らないで有名なあの北欧神話の魔剣と同じじゃあないですか。

何故そんな剣の名前を知っているかという事には、頼むから触れないでくれ。

本当、いい加減にしてくれ。この技録紙(アビリティレコード)とかいう魔法道具(マジックアイテム)

俺の方に問題があるとはいえ、わざわざ晒す事は無いだろ。

もう、いっそ破り捨てるか?

本気で検討しておく必要がありそうだな。

とりあえず、俺はその真っ黒な剣を構えて迫ってくるゾンビを迎え撃つ。

この剣は刃の部分の形を変えているので、ゾンビが斬れるという事は無いだろう。

形を変えられる剣!かっこ…便利だな。


俺はゾンビを引き付け、すぐ近くに来るまで待った。

そして剣が届く範囲まで来ると、一回転しながら剣を振り、ゾンビ達を薙ぎ払った。

ゾンビは思っていたより遠くまで飛んでいき、地面に叩きつけられていた。

少し心配はしたが、ゾンビなので大丈夫だろう。

今まで剣を使う事はあまり無かったが、"黒の支配者(ブラックルーラー)"とは相性が良いみたいだ。

本来は闇魔法使いの特性なので使う事は出来ないのだが、これが魔法剣士の利点だ。

腕力も強化されているので、凄い速さで剣を振ることが出来る。

俺はそのままゾンビを剣で攻撃して押し出していった。

…が、その後もゾンビと戦い続けたけれど、いくら倒しても勝てる気がしない。

何度攻撃しても、何事も無かったかのように立ち上がってくるのだ。

その光景はまさにゾンビ。さっき飛ばしたゾンビも、もう動き出している。

…こんな数、流石に俺1人じゃ無理がある。

体力もそろそろ限界がきているし、ゾンビの数も心無しか増えてきている気がする。

仕方ない、最終手段だ。


「サテラ!一旦退くぞ。俺を飛ばしてくれ!」


「分かったわ」


サテラはそう返事をすると、俺を空中に浮かせた。

飛ばされる事には前にちょっとしたトラウマのようなものがあるのであまり使いたくは無かったが、この状況でそんな事は言っていられない。

下を見ると、ゾンビ達は俺を見上げていたが、しばらくするとバラバラにこの場を離れて行った。

俺が安心していると、サテラが話し出す。


「静人、ゾンビにすら無視される何て…可哀想ね」


「余計なお世話だ」


「それで、今日の夕飯の事だけれど…」


なるほど。嫌にあっさり言う事を聞いたと思ったが、そういう事だったか。

昨日、こいつに遠慮なく食わせてやったら金貨が1枚無くなった。

今回の報酬はその半分だぞ?俺の食べる分が無くなる。


「お前、食事代は俺が出しているんだから働くのは当然だろ」


「まあ、貧乏冒険者なのだし仕方ないわよね…チッ」


舌打ち止めろ。

とりあえず、こいつの事は置いとくとして、気になる点がある。

ゾンビの事だ。声を掛けても反応が無かった。

魔物には基本的に知性があるみたいだが、俺を無視したというより聞こえていないように見えた。

それに行動も不可解だ。見た所、無差別に人を襲っているみたいだが、それに何の意味がある?

つまり、それぞれ意志が無いという事だ。それなのに連繋が取れていて俺を追い詰めた…

という事はもちろん、あのゾンビの群れを仕切るリーダー的存在がいるはず!

そいつを何とかすれば、この状況を打破する事が出来そうだな。

…全く、銀貨50枚じゃあ割りに合わないな…

俺は深くため息をつく。


「サテラ、墓地の中を回って普通のゾンビと違う奴を探してきてくれないか?」


「嫌よ。そんな面倒くさそうなの」


「…分かった。俺の夕飯3分の1分けてやるから」


「本当?それなら、行ってくるわ!」


サテラは喜んで雑用を引き受けていった。

あいつ、案外扱いやすいのな。

俺は空中でサテラが戻って来るのを待った。

俺の読みが間違っていなければ良いのだが…

そのまま、俺は空中で放置されたまま、しばらく時間が経過した。


そろそろ戻ってくる頃だと思っていると、突然俺の体が動き出す。

そのままスピードを上げていき、俺の体は地面に向かって飛ばされる。

何だ!?何やってんだ?あいつ!!

俺が落ちる先には木の箱や瓶など、不要物が積み重なっていた。

まずい…このままでは確実にぶつかる!!

"暗黒形(ダークキューブ)"を出して掴まるか?

いや、それでは俺の腕が千切れるな。

そんな事を考えている内に、もう地面がすぐ近くに見える場所まで落ちていた。

くっ…仕方ない!

俺は"暗黒形(ダークキューブ)"をレンズ状にして"重力落下(グラビティフォール)"をかけて盾にした。


ドォオオン!!!


俺は背中から地面に突っ込む。

不要物から身を守ったとはいえ、もちろん俺の体には激痛が走る。

だが、トロールの時に一度攻撃を喰らって少しだけ慣れたみたいで、前よりはまだ耐える事が出来た。


「ゲホッ…おい!サテラ、後で覚えてろよ…」


そう言って俺はよろよろと立ち上がる。

すると、前にはサテラが居たのだが…

なんと!ゾンビに両腕を掴まれて、地面に引っ張られていたのだ!

サテラは必死にゾンビを飛ばして払おうとしているが、相当な数がいるので、次々に襲っていく。

腕はもちろん、足も掴まれていて、ゾンビを飛ばすと自分も一緒に飛ばされるみたいだ。

簡潔に言えば、絶体絶命という状況。


「静人…!早く…助け…なさい!!」


サテラはどうにか逃げようと頑張っている。

すると、ゾンビの1匹がサテラ目掛けて大きく手を振り上げる。


「なっ…!」


俺は慌てて動き出す。


"強化魔法(エンチャント)"!!


俺は心の中でそう唱えると、サテラの方へ走る。

サテラの前までは、一瞬でたどり着いた。

それと同時にサテラの周りに居るゾンビを全員殴った。

次の瞬間、その十数匹のゾンビは体をしならせて飛んでいく。

あの速さなら、墓地の端までは飛ぶだろうな…

まあ、ゾンビだし大丈夫…なのか?


俺はすぐに強化魔法を解除する。

この技は体への負担が大きいからな。

出来るだけ使う時間は短くしたい。

サテラは驚いたような、安心したようなよく分からない顔をしていた。


「ありがとう、静人。相変わらず凄い攻撃ね」


「お前はお礼をするより先に謝罪をするべきだろ?流石にあれは無い」


「まあ、良いじゃない。私を助けられたのだし」


「変わりに俺がダメージを喰らっているがな」


「それより、お前幽霊なのに何でゾンビに襲われていたんだ?」


「それは、多分あの女が…」


サテラが目を向けた方向を俺も見る。

そこには、墓に腰掛けてこちらを不適な笑みで見ている女の子が居た。

服は継ぎ接ぎだらけのカラフルな物を着ていて、顔には縫い目が見える。

見たところ、年は俺よりも少し下みたいだ。

サテラも"女"と言っていたし、おそらく"別次元を生きる者(ディメンションナード)"は発動していない。

つまり、元々人型という事だろう。

俺と目が合うと、その子は口を開いた。


「くく…君、かなり強いね。そこの幽霊の仲間?」


…!?こいつ、サテラの事が見えているのか?

それで、ゾンビがサテラに攻撃出来たという訳か…

ゾンビのリーダーはこいつで間違い無さそうだな。


「それで、一体お前は何者なんだ?」


「私かい?私はヒイラちゃん。"死霊術師(ネクロマンサー)"さ」


てっきり、人に名前を尋ねるときは自分から(以下略)がくると思って身構えていたのだが…

あれはこの世界ではやらないらしい。

それにしても死霊術師(ネクロマンサー)

確か、死霊魔術や降霊術を使う職業だったはずだ。

という事は、こいつは人間なのか?

人型の魔物だと思っていたが、違ったみたいだ。

俺達が最初に配布された神与石(かみよせき)の中には無かったが、他にも色々な職業が存在するらしいので、この死霊術師(ネクロマンサー)もおそらくその1つなのだろう。

とりあえず、無視する訳にもいかないので、俺も普通に自己紹介する事にしよう。


「俺は内灘静人、闇魔法剣士の冒険者だ。ちなみに、こっちの幽霊はサテラだ」


「それで、ヒイラ。ここで…」


「チッチッ、ヒイラ"ちゃん"だ」


「…ヒイラちゃん。ここで何をしているんだ?」


「ここで?う~ん強いて言えば、人探し…かもね」


「人探し?こんな墓地で誰を探しているんだ?」


「さあ?それは私には分からないよ」


…?こいつは何を言っているんだ?

自分が探している人が分からない?


「でも、君がそうかもしれないね。私が探しているのは、私を殺してくれる人なんだ…だから、少し試させて貰うよ!」


ヒイラがそう言うと、周りに大量のゾンビが現れた。

自分を殺してくれる人を探している?

この子に、一体何があったのだろうか。


最初の時と同じように俺に目掛けてゆっくりと近寄ってくる。

このままではまた同じように負けてしまうだろう。

そこで、俺はヒイラに質問をした。


「ヒイラちゃん!!1つ聞きたいんだが、このゾンビは生きているのか?」


「いや、こいつらは死体に私の魔力を入れただけの人形みたいなもので、意識なんか無いぜ。静人ちゃん」


静人"ちゃん"?

まあいい。とりあえず、このゾンビはただ動くだけの死体って事だな?

ただの死体だったら当然"別次元を生きる者(ディメンションナード)"も発動しない。

つまり、ゾンビは魔物でも何でもなく、とりあえず死んでいるという事だ。

サテラも俺がモンスターを殺したく無いのを気にして、まともな攻撃が出来ていなかったみたいだが、今の質問で気兼ねなく攻撃出来るようになった。

さて、ではこのゾンビ共を駆除して、死者達を墓で落ち着いて眠らせてやる事にしよう。


俺は幽霊の前に立ちはだかる。

それにしても、どう戦おうか…

ゾンビって何が効くんだ?

思いつくのは…塩か火だな。

残念な事に俺は常に塩を持ち歩いているような人間ではないからな。

料理なんか授業以外でした事無いし。

とすると、もう火しかないな。

威力は頼り無いが、それでも一応は火だ。試す価値はあるだろう。

俺は手をゾンビの方向に向ける。


"火炎砲(ファイヤーボール)"


弱々しい火の玉はゾンビに向かって飛んでいく。

そして、そのまま1匹のゾンビに命中した。

体に火が付いたそのゾンビは、火が大きくなって燃え上がった。

…が、燃えたまま俺に向かってきて微動だにしない。

余計に厄介になったな…


「無駄だよ。ゾンビ達は傷ついても、私の魔力で元に戻るんだ。頭を跳ばしても、腕を切り落としてもすぐに治るさ」


「それなら、お前の魔力が尽きるのを待てば良いのか?」


「やってみな?今まで戦ったのでは最長で1週間程持たせた奴もいたけど、私の魔力は一向に無くならなかったよ」


「後、私に攻撃をするのも無駄さ。私もすぐに再生する」


つまり、止まる事の無いゾンビに尽きない魔力という訳か。

なるほど。分かりやすくチートしてるな。

難易度3のゾンビがこんな数居て、しかも不死身だと?

それをたった銀貨50枚で…

もう嫌だ!面倒くさい。


「サテラ。このゾンビ達を出来るだけ多く浮かせて…」


「引きちぎれば良いのね?」


止めて差し上げろ。

ここ一帯を真っ赤に染めるつもりか?

そんな衝撃的な光景は見たくない。


「違う!!一ヶ所に集めてくれ!」


「そう…残念ね…」


何が残念なんだ?

サテラは俺が言った通りに空中でゾンビの塊を作った。

俺はそこに慎重に手を向ける。


「"闇包世(ブラックドレイン)"!!」


そう唱えると、空中に黒い玉が出現する。

そして、一気に膨張し、大量のゾンビ達を飲み込んでゾンビと共に消えた。

この技は危険だから使わない?何の事だ?

チートにはチートで対抗するしかないのだ。

これも俺の魔法の1つだし、卑怯だなんて言わせないぞ?

サテラとヒイラは、空を見上げて唖然としている。

まあ、当然か。


「サテラ、次」


サテラは我に返って、またゾンビを集め始める。


「静人…あなた、大丈夫?」


何の心配だ。俺をおかしい人みたいに言うな。

俺は、そのままゾンビを次々に消し続ける。

こうなると、もうただの作業だな。

あれだけ居たゾンビが、数分でほとんど消えてしまった。

最終的には全てのゾンビを飲み込み、ゾンビの姿は1匹も見えなくなった。

俺はヒイラの前まで歩いて行く。


「おい。終わったぞ」


「なっ…ゾンビの反応が無くなった…何だよそれ、チートじゃん」


お前が言うな。


「でも、これでようやく私も死ねるよ。さあ、早くその魔法で私を消すんだ!」


「……」


「どうしたんだ?静人ちゃん?」


「…無理だ」


「ど、どうしてだよ?君は私を殺しに来たんだろ?」


「いや、最初から殺す気なんか無かった。というか、お前は何でそんなに死にたがるんだ?」


「私が死にたい理由…?それは…私がもう死んでいるからだよ…」


「死んでる…?」


「そう!!死んでるんだ。私は確かにあの日、命を失った!でも、あろうことか私は死霊術師(ネクロマンサー)の力で生き返ったんだ。そして、このゾンビの再生力を手に入れた。人間が生き返るなんて事をしたら駄目なんだ。だから、私は死ぬべきなんだよ!」


ヒイラの声からは、本気だという事が伝わってきた。

だが…


「俺は、お前はまだ死んで無いと思うぞ」


「…どういう事?」


「知ってるか?死人は口を聞けないらしいんだ」


俺がそう言うと、ヒイラは少しフリーズした後、顔が緩んで笑い出した。


「くっ…くくく…静人ちゃん、中々面白い事を言うんだな。」


「先人の知恵ってやつだ」


「…気持ちは嬉しいが、私が死んだという事は紛れもない事実なんだ。変える事は出来ないよ」


「それはどうかな?」


「…?」


「ヒイラちゃん。君が死んだのはいつだ?」


「私が死んだのは…4年位前だったと思うよ」


「時間帯は?」


「何でそんな事聞くのさ?あの時は確か、12時前だったかな。クエストの帰りに崖から落ちたんだよ」


思った通りだ。

これで俺の予想が正しければ…

俺は鞄から技録紙(アビリティレコード)を出してヒイラに渡す。

技録紙(アビリティレコード)は、紙を持った人の技を書き出すものだ。

なので、これをヒイラに渡せば書かれている俺の技はリセットされ、ヒイラの技が分かるだろう。

もちろん、また俺が持てば元通りだ。


「これを持ってみてくれ」


「この紙は…何?」


「持つと技を自動的に書いてくれる魔法道具(マジックアイテム)だ」


「へぇ~そんな魔法道具(マジックアイテム)、初めて見たよ」


やはり、技録紙(アビリティレコード)の事は知らないか。

この紙が普及したのは、割りと最近らしい。

俺がそれを渡し、ヒイラが紙を手にすると、紙に技が書かれていく。

その中で、俺が確認したかった技。それは特性だ。

俺は特性に書かれた技に目をやる。

…あった。多分これだ。

どうやら、俺の予想は当たっていたみたいだ。


「ヒイラちゃん、この技を見てくれ」


そう言って、俺はその技を指さした。


「え~っと…"ヒイラちゃんの無限魔力再生術"…?これって、もしかして…!!」


「その通りだ。おそらく、君が死んだ筈だと言った日に覚えた新技だろう。新しく技を覚えるのは12時だからな。崖から落ちた後、瀕死の時に再生が始まったんだ」


「じゃあ、私が縫ったこの傷は?」


「技を覚える前に負った傷だろ」


「じゃあ、それじゃあ!私はまだ生きてるの?静人ちゃん!!」


「ああ、そういう事だ」


俺がそう言うと、ヒイラは嬉しそうにはしゃいでいた。

死霊術師(ネクロマンサー)だったら蘇生の技や、その類いの技を覚えていても不思議では無いと思って、一か八か賭けてみたんだが、間違っていなくて良かった。

RPGとかではよくあったしな。案外ゲームも役に立つものだ。

まあ、これはほとんど奇跡みたいなものだがな。

ちなみに、この"ヒイラちゃんの無限魔力再生術"とやらは固有特性だったらしい。

固有特性を後から覚える人は珍しいが、中にはそういう人もいるみたいだ。

最も、元々覚えていて気付かなかっただけという可能性も考えられるがな。


「それで、お前は、これからどうするんだ?冒険者に戻るのか?」


「そうだなあ~まあ、とりあえずゾンビ消えちゃったし、しばらくはここでゾンビ作成かな?」


「そうか、でもゾンビに人を襲わせるのは止めろよ?ここは一応墓場だからな」


「分かったよ!そうだ、静人ちゃん。ここに住んでみない?」


「…遠慮しとく」


「そう、じゃあ周1…いや、毎日ここに来てよ!」


「無茶言うな。まあ、2、3日に1度位だったら…来てやるよ」


「う~ん…仕方ないか。それでいいよ」


「ああ、それじゃ、俺はそろそろ帰るぞ?」


「…え?もう帰るの?」


「もうって…いまの時間分かってるか?明け方だぞ?」


「そっか~…じゃあ、またね!静人ちゃん!!」


「ああ、またな」


俺はそのままヒイラに見送られながら墓地を出ていった。

もう日が上り始めていて日差しが顔にかかり、眩しかった。

入り口付近には、俺が殴り飛ばしたゾンビが数十匹いたが、襲っては来なかったので警戒しながら素通りした。

町へ戻る途中で、サテラが俺に話し掛けてくる。


「ねえ、静人。死人は口を聞けないって、それなら私はどうなるの?」


「お前は実体が無いから口も無いだろ?」


「なら、私が生き返った後は?」


「生き返るというか…合成だ。簡単に言えばものに憑依しているような状態だな」


「生きてるか死んでるかの区別って、思ったより難しいのね…」


「まあ、お前は生きてても死んでても同じようなものだろ」


「ふふ、それもそうね。静人もほとんど死んでいるのと変わらないものね」


「…まあ、否定は出来ないが」


そんな会話をすると、サテラは何だか嬉しそうに微笑んだ。

町に着くと、俺は宿に戻ってすぐに眠りについた。

昼間はずっと寝ていたとはいえ、流石に疲れた。

ゾンビなんかと戦った上に強化魔法まで使ったからな。

けれど次の日、目が覚めたのは思っていたより早い時間だった。

俺は目が覚めると、準備をしてとりあえず組合まで報酬を貰いにいった。

組合はいつも通り空いていて、俺は受付まで行く。

確か、この時間はまだ受付は開いていなかったと思うが、受付ではお姉さんが準備を始めていた。

お姉さんは俺に気付いたようで、受付のテーブルまで戻る。


「来ると思って待ってましたよ、ゾンビ君!クエスト達成したんですね!」


誰がゾンビ君だ。

というか、俺の事を待ってこんな時間から受付に居てくれたのか。

何だか申し訳ない…

酒場で朝食を食べて受付が開くのを待つ予定だったが、その必要は無さそうだ。


「はい、達成しましたけど…」


「どうでした?静人君に合ったクエストを選んだんですが…」


「いや、思ったより数が多くて結構手間取りました」


「そうでしたか!でも、目撃されていたのは2、3匹で、静人君を入れて4匹の筈なんですが…」


俺を入れるな。

というか、その目撃した人って誰なんだ?

きっと、目がどうかしているんだろうな。


「でも、とりあえずこれで依頼人もお婆ちゃんの墓参りに行けますね」


「お婆ちゃん…?何の事です?」


やっぱ嘘なのかよ。

まあ、分かってはいたがな…

それにしても、嘘つくの自然体過ぎるだろ。

俺もあれくらい出来るようになりたいものだ。

俺は報酬を受け取って受付を離れた。


墓地では今頃、次々にゾンビが作成されているのだろうな…

よく考えたら、誰かが墓参りに行っても墓の中には誰も居ないな。

俺も死体をかなり消滅させたし…

…仕方ない。これから何度も謝りに行くとしよう。

こうして、この日から俺は頻繁に墓地に通う羽目になったのだった。


はい、調子にのって書きすぎましたね。すいません。

2話続けて1万文字越えるとは…

やはり、練習が必要みたいです。

次回は長くならないように気を付けますね!

それで、次回の投稿日程はまだ未定ですが、来週末までには投稿するので、また見ていただければ嬉しいです!

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