6話 硬鱗火竜
六話目です!!
おそらく、今回の感想は"長い"の一言に尽きると思います。
すいません!前回戦闘シーンを入れる予定とか言ったんで無理矢理話に入れたらこうなりました。
途中で気付けば良かったんですがね…
とにかく、最後まで読んで頂けると嬉しいです!!
眩しい太陽の日差しが顔にかかり、目を覚ました。
いつも通りの朝。
変わりない部屋の中。
相変わらず、空中を飛び回っているサテラ。
…だが俺は、いつもとは違う"異変"を感じた。
まあ、金縛りにかかりながら目覚めるのは確かに異常だが、それはまた別の話だ。
言葉では表しづらいのだが、その"異変"は、俺の体の内で起こっているようだった。
それが何なのかは、何故か直感的に理解する事が出来た。
そう!これは、おそらく…"新技"の獲得だ!!
昨日、鉱山で倒したトロール達から魔力を吸いとり、魔法系の技を覚えたのだろう。
俺はテンションが上がり、早く技の名前を見ようと、鞄の中に技録紙が入っている事を確認する。
しかし、取り出そうにも、体が全く動かない。
口も動かないので、声を出す事も出来なかった。
うん!サテラ!早く気付け。
サテラは機嫌が良さそうで、鼻歌なんか歌いながら部屋を飛び回っている。
いや、少しは俺の事も気にしてくれよ…
俺はサテラの進む先に"暗黒形"を展開した。
サテラは驚いたような顔をして止まり、鼻歌を止めた。
「あら、静人。起きてたのね」
俺は金縛りから解放され、ゆっくりと起き上がる。
周りを見ると、何人かは、既に目を覚まして出掛けているみたいだった。
けれど、大半の人がまだ眠っているので、もう昼頃、という事はなさそうだ。
とはいえ、いつもよりも遅い時間に起きてしまった。
まあ、昨日の戦いは、かなり疲れたからな。
これからは、あの技の使用は極力控える事にした。
「おい、サテラ。せめて口だけは動くようにしてくれないか?あのまま放置されていたら、どうしようかと思ったぞ?」
「分かったわ。けれど…そもそも、これって何の意味があるの?」
「意味ならあるぞ?お前のお陰で、まだ1人も死者が出ていないからな」
「つまり…私がこれをしないと、死者が出るって事かしら」
「ああ、そうだ」
「何よ、それ。何の冗談?」
サテラが引き気味にそう言う。
「いや、俺は至って真面目だが?」
「…ふふ、まあいいわ。信じてあげる。あなたって、何だか、色々とおかしいもの」
おかしいって何だよ。
でも、とりあえずこれで明日からは放置される心配は無いな。
というか、金縛りを日常として受け入れ始めている自分が怖い。
この世界に来てから気付いたが、俺は案外、順応性が高いみたいだ。
前の世界で、どこに居ても常に空気と同化していたせいだろうか?
ボッチでいることで、得する事も少しは…いや、無いな。
…そんな事より、今は新技を確認する事が先決だ。
俺は鞄から技録紙を取り出して、書かれている技を見た。
新しく書かれているものは…おそらくこれだろう。
"重力落下"
技名から察するに…重力を操作する魔法だろうか?
しかし、そうだとしたら闇属性と全く関係ないな。
とすると、一体どんな技なのだろうか?
闇属性で重力なんて見当がつかない。
こればかりは、実際に使って確かめるしか無さそうだ。
どのみち、今日も依頼を受ける予定なので、町の外に出てから試す事にしよう。
この紙に効果まで書いてあれば楽なんだがな…
こんな中二病チックな技名だけ知った所で、何の意味も無い。
せめて、こんな安直なものではなく、もっとよく考えて技名を決めて貰いたいものだ。
まあ、技名は自分自身が無意識に決めているらしいので、完全にブーメランが刺さっているわけだが。
そうだ!サテラに聞けば分かるかもしれない。
こいつは、この世界の生まれだからな。
少なくとも、俺よりは魔法に詳しいだろう。
俺は、紙を横から覗いているサテラに話し掛ける。
「なあ、サテラ。この技の効果が分かったりしないか?」
そう言って、俺は"重力落下"を指差した。
サテラは困ったような顔をして考える。
「う~ん、そうね…。重力落下……それにしても、何よ、この技名。子供が考えたのかしら?可哀想なセンスね」
余計なお世話だ。
それに、俺は自覚しているからセーフだ、可哀想だとか言わないで貰いたい。
というか、この紙は大量に配布されているはずだろ?
俺が決めたという事をこいつが知らない訳が無い。
やはり、わざと言っているだろ。
相変わらず揺るがないな。
「どうだ、分かるか?」
「…落ちる…静人の気分の事かしら?いつも暗いもの」
重力はどこにいった?
それは、もはや技ですら無いな。
それとお前、俺が根暗だって言いたかっただけだろ。
サテラの満足そうな顔を見て、そう確信した。
「そんな訳あるか。どういう経緯でその結論に至ったんだ」
俺はそう言って技録紙を鞄にしまい、準備をして部屋を出た。
サテラは上機嫌に微笑みながら着いてくる。
俺は、宿の廊下をのんびり歩きながら、サテラの歌っていた鼻歌を真似てみた。
いつも言われっぱなしだからな。
たまには仕返しをしても良いだろう。俺にはその権利がある。
鼻歌を歌いながらサテラの方を横目に見る。
サテラは驚いた様子を見せ、顔を真っ赤にしていた。
どうやら、この仕返しは想像以上に効果があったようだ。
俺はニヤニヤしながらサテラを煽る。
「ん?どうかしたのかい?サテ…ガッ!」
顎が勝手に動いて舌を噛んだ。
…調子に乗り過ぎた。
それにしても、躊躇が無さすぎる。
舌が噛み千切れるかと思ったぞ。
「ふふ…どうかしたのかしら?静人?」
サテラがマジトーンで言ってくる。
かなりキレているみたいだな。
このまま続行しようものなら、容赦なく窓から放り投げられるだろう。
「な…何でもありません…」
俺はそのまま黙って宿を出た。
サテラはというと、朝食を少し多めにしてやると、さっきまでの事が嘘のように機嫌が良くなった。
全く、分かりやすい奴だ。
もちろん、俺の所持金は底をついた。
次の依頼は絶対に、失敗する訳にはいかないな。
俺は、そう思いながらクエストボードの前に立つ。
さて、何か良いクエストはあるだろうか?
せっかく受けるのなら、報酬が高いクエストが良い。
少し難易度を上げてみるか?
依頼用紙を悩みながら見ていると、サテラが紙を持ってくる。
「静人、良いクエストが…」
「却下」
前にもこんな事があったな。
今までの経験から考えると、どうせまたろくな依頼じゃないのだろう?
「ちょっと、話くらい聞きなさいよ!」
「分かったよ。それで?難易度は?」
「難易度は…"5"ね」
「却下」
「待って!最後まで聞いて。このクエストは、戦闘をしなくて済むのよ」
「と言うと?」
「とある冒険者が、荷物を洞窟に置いてきてしまったみたいなの。このクエストは、その荷物を取ってくるだけで良いらしいわ」
つまり、ただの雑用か。
難易度が高いという事は、おそらく洞窟内では強い魔物が出現するのだろう。
けれど、たとえ強い魔物が居たとしても、俺の"スニーク"を使えば、荷物を持って素通り出来るな…
荷物がかなり大きいという可能性も考えにくい。
魔物に遭遇するような場所にそんな大荷物を持って行く理由が無いからな。
まあ…そんな悪いクエストでも無さそうだ。
「報酬はいくらだ?」
俺は、最も重要な質問をする。
どんなに良いクエストでも、報酬が少ないのなら意味が無い。
サテラは紙を確認して答える。
「…金貨1枚ね」
「よし!そのクエストで決まりだ」
「え?いや、もっと考えてから決めた方が良いんじゃないかしら…?」
「何を言っているんだ?薦めてきたのはお前だろ」
「それはそうだけど…」
「それなら問題無いだろ?」
俺はそう言うと、受注用紙を受付に持っていった。
(本当に、報酬の事になると、周りが見えなくなるのね…まあ、私の食事代が原因なのだと思うけれど)
サテラはそう思いながら、微かに微笑んだ。
前とは違い、受付には冒険者が大勢並んでいた。
混雑時、組合の役員はかなり忙しいみたいだ。
自分の順番になり、受付で紙を渡すと、お姉さんが心配そうに聞いてくる。
「あの…静人君。持ってくる紙を間違えていませんか?」
お姉さんは受注用紙を見ながらそう言った。
だが、もう一度確認しても間違えているという事は無さそうだ。
「いや、このクエストであっていますが」
「難易度が"5"ですよ?達成出来るんですか?」
なるほど、そういう意味か。
おそらく、最弱属性の魔法使いの俺が高難易度のクエストを受けるので心配をしてくれているのだろう。
「まあ、大丈夫だと思います。戦うつもりはありませんし」
「…もしかして、報酬を見て決めたんですか?」
「……」
この人、中々鋭いな。
もちろん、そんな訳は無いのだが。
何よりも、命の方が大事ダカラナー。
「ま、まさか!そんな事はありませんよ。ほ、報酬だけが目当てなんて…」
「そうですか!それなら良いんですが」
(…もの凄く分かりやすいな~。この子)
「でも、気を付けて下さいね。やはり、難易度が高いですから」
「はい!」
「静人君が肉片にならないようにここで祈ってます!それでは、頑張ってきて下さい!」
「はい!分かり…え?」
何気に敬礼しながら凄い事を言われた気がするのだが。
それに左手での敬礼って確か…
今のは見なかった事にしよう。
この人、優しそうに見えて、結構腹の中は真っ黒だよな。
俺は苦笑いしながら敬礼を返す。
そのまま手続きを済ませて町の外に向かう。
「静人…元気が無いみたいだけど、どうかしたの?」
サテラが聞いてくる。
何?俺ってそんなに感情がだだ漏れなの?
「いや、何だか急に不安になってきてな…」
「安心しなさい。私が居れば何とかなるわよ。静人も精々頑張る事ね」
こいつは何でこんなに自信に満ち溢れているんだ?
それに、もし何かあってもお前が狙われる事は無いだろ。
危機に直面したら、あっさり見放されそうだ。信用ならない。
「…その顔、信用してないわね」
良く分かったな。大正解だ。
「大丈夫よ。食べた料理分のお礼くらいはするつもりだから」
なるほど、サテラは食べ物に関しては必死だからな。
俺に奢ってもらう為にかなりの活躍をしてくれそうだ。
この一言で一気に信用度が上がった。
そんな会話をしている内に、町の外まで来ていた。
それで、依頼人の荷物がある洞窟の場所は…
"南西にある丘"だな。
…?どこかで見た事があるような…
何か引っ掛かるのだが、思い出せない。
まあ、あまり気にしなくても良いだろう。
それより、洞窟に向かう前に新技を試してみるか。
俺は町から離れた場所に移動した。
"闇包世"の時みたいに技の威力が大きい可能性も考えられるからな。
周りに誰もいない事を確認すると、技を発動させた。
"重力落下"!!
そう心の中で唱えた。
…が!!何かも起こらない。
周りを見渡しても、特に変化は無かった。
どういう事だ?何故、技が使えない?
少しの間考え込む。
…ひょっとして、技を使う相手がいないと発動出来ないのだろうか?
俺はそう仮定し、また後で敵に技を使ってみる事にした。
新技は使う事が出来なかったが、俺には、他にも確かめたい事があった。
それは、"暗黒形"の大きさだ。
新技を覚えたという事は、俺の魔力が上がっているという事でもある。
"暗黒形"の大きさは魔力が上がっても変わらないと、あの引きこもり闇魔法使いのギールから説明を受けたが、本来、魔力が上がれば威力や効果も強くなる筈なのだ。
俺の場合、ギールとは大きさも桁違いだし、何か、変化が見られるかもしれない。
そう思って俺は"暗黒形"を発動させた。
ズドォオン!!!
突然、空中に出した"暗黒形"が地面に落ちる。
!?
何だ!?何が起きたんだ?
俺は、唐突過ぎる出来事に動揺を隠せなかった。
"暗黒形"は発動した場所から動かす事が出来ない筈…
今までは、重力なんか無視していたのに、何故今さら物理法則に従い出したんだ…?
…ん?重力…?
そうか!分かったぞ!
この現象はおそらく、俺の新技"重力落下"の効果なのだ!
つまり、この技は黒いのの移動を可能にし、重力を受けるように出来るものという事になる。
確かに使い勝手は良さそうだし、使い方によっては、結構強いものになると思う。
…が、ショボい!!
どうせなら、もっと派手で明らかに強そうな技が良かった…
この技は、あれだ。地味に便利なやつだ。
分かりやすく例えると、均一ショップに売っている商品みたいな感じ。
あれば助かるし、良いものなのだが、インパクトに欠けている。
悪くは無いのだが…反応に困るな。
ちなみに、"暗黒形"は前より少しだけ大きくなっているようだった。
この事から、魔力の大きさによって、出す事が出来る大きさの限界がある事が分かる。
はたして、俺の場合はどれだけ大きくする事が出来るのだろうか。
自分の心の闇の深さなんか、想像もつかない。
きっと、これから先"暗黒形"が大きくなる度に俺の心は傷付いていくのだろうな。
俺は少し憂鬱になった。
それでは、早速、新技である"重力落下"の使い道について考える事にしよう。
防御にはあまり役に立ちそうに無いので、やはり攻撃として使うしかない。
とすると、ここは相手の頭に落とすというのが無難だろう。
他には良いものが思い付かないしな。
だが、"暗黒形"は同時に複数の発動は出来ないので、その間は防御に使えない事になる。
それに、敵に当てるのも難しそうだ。
タイミングを上手く合わせなければいけないからな。
止まっている敵には有効だが、あまり使う機会は無さそうだ。
俺は空中に黒いのを出して"重力落下"をもう一度試す。
ドォォオン!!!!
さっきより高い位置で使ったので、威力が増しているみたいだ。
2回使ってみて気付いたのだが、一応、落ちる速度の調整も可能らしい。
速くしようと思えば速く落ちるし、遅くしようと思えばゆっくりと落ちていく。
これなら、少しは当てる事も楽になりそうだ。
「ちょっと静人、やめなさい。煙たいわ」
サテラが俺の新技に文句を付ける。
確かに、使用した後の砂ぼこりは酷いな。
このまま落とし続けるのなら、サテラが俺も一緒に高所から落とすという発想に至るのは時間の問題だろう。
そうなると、使う場所にも気を付けなければいけないのか。厄介だな。
技の効果は確かめる事が出来たし、そろそろ洞窟へ向かう事にしよう。
俺は何だか一気に盛り下がり、南西の方向に進んで行った。
洞窟は少し離れた場所にあったが、それでもまだ町を視認出来る程の距離だった。
俺達は洞窟の入り口の前に立ち、中の様子を伺う。
しかし、覗いてみても、中は暗くて何も見えない。
けれど、俺はこの場所に何か違和感を感じていた。
それが何なのか考えていると、サテラが口を開く。
「ここにドラゴンが居るなんてね。ふふ…戦うのが楽しみだわ」
おい。今何て言った?
反射的に俺はサテラの方を見る。
(しまった!うっかり口を滑らせてしまったわ)
「何でも無いの。聞かなかった事にして貰えるかしら?」
今さら遅い。俺は完全に思い出したぞ。
南西の洞窟…どこかで見たことがあると思ったら、前にサテラが薦めてきたクエストと同じ場所ではないか。
確か、クエストの難易度は"8"で、内容はドラゴンの討伐だ。
つまり、この洞窟の中に居るのはドラゴンという事になる。
報酬に目がくらんで、面倒そうな依頼を受けてしまった。
…サテラ、図ったな。
「当然、お前はドラゴンがいる事を知っていて選んだんだよな?」
俺は怒り混じりに問い詰める。
すると、サテラは分かりやすくとぼけた。
「な、何の事かしら?私は全く、何も知らないわよ?」
怪しさ全開だ。演技の練習をして出直せ!
そう思ったが、俺も人の事を言えない事に気付いた。
「けれど、クエストを受けて、ここまで来たのなら、どちらにしろ中に入るしか無いわよ?」
「いや、選択肢は他にもあるぞ?」
「…?どういう事?」
「お前が1人で行って荷物を持ってくれば良いんだ」
「なっ!!私1人!?静人は何もしないの?」
「どうした?ドラゴンと戦うのが楽しみ何だろ?」
当然だ、こんなクエストを受ける事になったのはサテラのせいだからな。
こいつ1人でも問題無いだろう。
というか、サテラが1人で行った方が上手くいくような気がする。
幽霊だしな、流石のドラゴンも攻撃のしようがない。
俺は悪そうな顔で笑みを浮かべる。
「…仕方ないわね…行くわよ。行けばいいんでしょ?」
サテラは不服そうに洞窟の中に進んで行った。
これ以上何を言ってもどうしようも無いと理解したのだろう。
俺は近くの石に腰掛けてサテラが戻るのを待つ。
おそらく、さほど時間はかからないだろう。
荷物を取ってくるだけだしな。
そう思って待っていると、洞窟の中からサテラの声が聞こえてくる。
何やら焦っているようで、珍しく大きな声を出していた。
中で何かあったのだろうか?
サテラが入ってからまだ数分も立っていないのだが…
「…静人、入り口が!!出られないわ、何とかしなさい!!」
何を言っているんだ?こいつは。
俺は入り口の前に居るが、特に変化は見られない。
特に音が聞こえた訳でもなく、洞窟には問題なく出入り出来るだろう。
何も起きていないのなら、どうにかしようにも、する事が無い。
俺は立ち上がり、歩きながら洞窟の中に入る。
「どうかしたのか?サテラ?」
先は大きな空洞になっていて、特に道が続いているという訳では無かった。
何だか、想像していたのとは少し違ったな。
サテラが入り口から離れた場所で浮いて、高い位置にいるのが見えた。
俺はそのまま、空洞になっている所まで進んで行く。
すると…
ガラガラ ダァァアン!!!
突如入り口が崩れ、大きな岩で塞がれた。
岩の間に隙間はほとんど無い。
これでは、外に出る事は難しいだろう。
…確かにこの突然の出来事には驚いている。
だが、俺はそれよりも他の事に気をとられていた。
俺の注意は中に居るドラゴンにあったのだ。
本来ならば、進むと突然ドラゴンが現れて驚く所なのだろうが、俺には"黒の支配者"があるので、暗くても全体を見渡す事が出来る。
なので、入って直ぐにドラゴンが居る事に気づいたのだが…
…そう!中に居るのはドラゴンだったのだ!!(困惑)
何言ってんだこいつ?と思われているかもしれないので、簡単に説明する。
そこに見えているのは、俺のイメージ通りの普通のドラゴンで、擬人化など全くされていない。
赤い鱗で大きな翼が生えていて、二本足。全体は大型トラック程の大きさがあるのだ。
つまり、俺の固有特性である"別次元を生きる者"が発動していないという事になる。
何故だ?
そう思ったが、そんな事を考えている余裕はない。
早速、ドラゴンが俺に向かって炎のブレスをはいてくる。
今まで戦った敵とは、迫力が段違いだ。
俺は実質、初めて見る魔物に恐れながらも、少しテンションが上がっていた。
俺は、咄嗟に"暗黒形"を出してその炎を防いだ。
炎が当たっている地面の石がドロドロと溶けていく。
こんなの喰らったら、一発でアウトだろうな…
俺はゴクンと唾を飲み込む。
そのまま攻撃を防いでいると、近くまでサテラが来ている事に気付いた。
サテラは俺の隣で呑気に話を始める。
この状況で普通、声掛けてくるか?空気読めよ!
「静人…あなた、どこから入ってきたの?」
「いや、お前の声が聞こえたから、普通に入り口から入ってきたんだが…」
「…?どういう事?」
ドラゴンが上に火の玉を発射し、会話はそこで中断される。
狙っている場所からして、サテラには気付いていないみたいだ。
俺は攻撃を避けながら移動していく。
見た所、鱗はかなり硬そうで、物理攻撃は効きそうに無い。
まあ、防具の素材として使われる位だから当然か。
とにかく、トロールの時みたいに殴ろうものなら、俺の拳が容赦なく砕け散るだろう。
とすると…剣で戦うしか無さそうだ。
新技を使いたいという気持ちはあるが、高さからして、落としても大したダメージにはならない。
しかし、剣を使う事には少し抵抗がある。
剣で攻撃をすれば、やはり血を見る事になるだろう。
出来れば避けたかったのだが、この場合は仕方がない。
それに、難易度8のモンスターだ。斬られても致命傷にはなる事はないだろう。
…?俺は、何故擬人化されている訳でもないモンスターの心配を…?
まあいい。
とりあえず、隙をみて一気に攻撃を仕掛けよう。
俺は"暗黒形"で防御をしつつ、タイミングを見計らう。
…今だ!!!
俺は、ドラゴンが"暗黒形"に気を取られている内に横に回り、剣を構えて突っ込む。
ドラゴンは反応が遅れ、俺は胴体目掛けて剣を振り上げた。
喰らえ!!"一刀両断"!!!
前に剣士が使っていた技だ。
同じ技を使うのは嫌だったが、他に剣士の技を知っている訳でもないので仕方がない。
というか、強くなった的な事を言っていた割に、使っていたのは初期スキルだったんだな…
俺はあの剣士を哀れに思いながら剣を思いっきり降り下ろす。
カァアン!!
…が、剣は弾かれた上に、半分に折れてしまった。
刀身は飛んでいき、地面に突き刺さる。
何て事だ、まさか剣の方が折れるとは…
もし俺の役職が剣士のみだったら、この時点で詰んでいるぞ?
モンスターの方が硬いとは…使えないにも程がある。
組合にはもっとまともな剣は無いのだろうか?
俺はそう思いながら右側を守り、左後方へと飛ぶ。
……?攻撃が来ない…?
てっきり、尻尾での攻撃がくると思って、身構えていたのだが。
ドラゴンは攻撃どころが、動く素振りすら見せなかった。
どういう事だ?戦う気が無いのか?
…いや、違う。あれだけ火をはいておいて、流石にそれは無いだろう。
とすると…動かない?…動けないのか?
確かに、ドラゴンは最初の場所から一歩も動いていない。
それに、変だと感じる所もいくつかあった。
考えろ…サテラのおかしな発言、擬人化されていないドラゴン、不思議な挙動…
…なるほど。そういう事か。
洞窟の前で感じた違和感の原因がようやく分かった。
俺はニヤリと笑う。
ドラゴンから距離を取ると、やはり攻撃をしてきた。
相変わらず炎のブレスだ。
俺はそれを避けながら走っていく。
このままでは長引くと思ったようで、また火の玉を上に飛ばした。
あちこちに火の雨が降り注ぎ、地面が溶けて足場が少しずつ減っている。
横からはブレス、上からは火の玉。まさに地獄絵図だな。
俺はそれをすれすれで避けながらひたすら逃げ回る。
攻撃が一旦止むと、またブレスを出そうとする。
そこで、サテラが石で口に蓋をする。
けれど、石は溶けて変わらずに炎が出る。
サテラも頑張ってはくれているみたいだが、有効な攻撃手段が分からず、戸惑っているみたいだ。
当然だろう。いくら攻撃しても、全く効いている気がしないからな。
まあ、ここは俺に任せてくれ。
俺は華麗に炎を避け続けている。
本当に"黒の支配者"があって良かった。
この技が無ければ間違いなく消し炭になっていただろう。
欠点はあるものの、戦闘においてはかなり使えるな。
ドラゴンは、攻撃が当たらない事に苛立ち始め、炎を分割して出してきた。
威力が減るかわりに狙いが的確になる。敵ながら良い判断だ。
俺は姿勢を低くし、的を出来るだけ小さくする。
何だか、忍者になったような気分だ。
飛んでくる炎に注意し、集中して避けていく。
炎は俺の行動を予測して狙っているようで、かなり厄介だ。
俺がギリギリでよけ、それが壁に当たる度に地響きが起きていた。
どんな威力だよ。当たったら即死じゃないか。
威力が減るとか言っていたさっきの自分を殴りたい。
と言いつつも、まだかわせない攻撃では無い。
これなら、何とか出来…
ドォン!!!
なっ!!地面に炎を!?
飛んできた炎が俺の手前の地面に着弾し、その反動で吹っ飛ばされる。
予想外の攻撃に、俺は何の対処も出来なかった。
空中で身動きが取れない。
ドラゴンは口を大きく開け、炎を発射する。
まずい!どうにかしなければ!!
そう思ったが…気が動転して、反応出来ない。
このままでは確実に…
俺は、飛んでくる炎をただ見つめていた。
そうして、ほとんど諦めかけていた時だった。
俺の体が上の方向に凄い速さで飛ばされたのだ。
「危機一髪だったわね、静人」
そこにはサテラがいた。どうやら、俺を助けてくれたみたいだ。
サテラ…お前…
俺はかつて無い程、この幽霊に感謝をした。
命の恩人、何て使うのは始めてだが、この場合は適切な言葉だろう。
あのままでは、俺は死んでいたからな。
「ふふ、今日の食事は遠慮なく食べさせて貰えるのかしら?ねえ、静人?」
…こいつ、完全に調子にのってるだろ。
他にはこれといった活躍はしてないのにな。
そう思ったが、助かったのは事実なので仕方ない。
というか、今までのあの量でまだ遠慮していたのか?
こいつを毎回満腹になるまで食わせていたら生活が破綻しそうだな…
「…分かったよ、今日は好きなだけ食え」
サテラは一瞬、意外そうな顔をしたが、嬉しそうに微笑んだ。
その後は、ドラゴンの動きに注意をしながらゆっくりと地面に下ろして貰った。
ドラゴンは俺を捉えきれなかったようで、周りを見渡して探している。
…そろそろいいか?
俺はポケットから黒い玉を出す。
ドラゴンはようやく俺に気付いたらしく、俺の方に体を向ける。
これで終わり、俺の勝ちだ。
ドラゴンが俺を見ると同時に黒い玉を顔の前に投げ付ける。
「サテラ!目を閉じろ!!」
俺はそう叫ぶと、自分の目を押さえた。
"暗黒形"解除!!
そう心の中で唱えると黒い玉は消え、辺りは眩い光に包まれる。
…少しするとその光は消え、俺はゆっくりと目を開けた。
目を閉じた上に押さえてまでいたはずだが、目がチカチカしていた。
ちなみに、俺が今使ったのは閃光玉だ。
最も、簡易的に俺が作ったものではあるがな。
説明するような大した事では無いと思うが、一応解説させて貰おと思う。
これに必要な物はたった1つ。"発光玉"だけだ。
俺はギルドクエストの時に先生から貰っていたのだが、持ってきていて本当に良かった。
それで、後は大体想像がつくだろう?
発光玉の光は閃光玉として使える程強くは無いが、俺はそれを"暗黒形"で包んだのだ。
そうする事によって光を中に封じ込め、強い光を放ったという訳だ。俺の闇は光すらも通さないからな。
そして、その玉は"重力落下"で持ち運んでいた。
前を見るとドラゴンの姿は無く、そこには2人の女の子がいた。
見慣れた雰囲気の服装、この2次元感、"別次元を生きる者"の効果だ。
思った通り、これがドラゴンの正体か…
2人とも何も見えていないようで、物凄く慌てている様子だった。
「どうしよう…!!何も見えないよ!!」
「駄目、効果も無くなっているみたい…」
「それじゃあ私達、ここで冒険者に…」
「その通り…でも、これも運命。仕方の無い事」
そんな会話をして、女の子達は涙を流し始めた。
…そう、これがドラゴンの正体。
さっきまでのは全て幻術だったのだ。
俺が洞窟の前で感じた違和感。それは中が暗かった事だ。
例え少しとはいえ、暗い場所に入って覗いたのだから"黒の支配者"が発動する筈なのだ。
入り口を崩したのは、おそらく冒険者を逃がさないようにするためだろう。
サテラは俺よりも先に、入り口が崩れているように見えていたという事だ。
幻術が解けて、他の冒険者が脱出するときに壊したと考えられる穴がいくつか見えるから間違いない。
そして、ドラゴンは2人いるので、幻術を使う為には動く事ができなかった。
これで、"別次元を生きる者"が発動しなかった理由も納得がいく。
ちなみに、俺が剣で攻撃した場所は地面の石が砕けていた。
俺は思いっきり剣を地面に叩きつけていたのか…それは折れる訳だ。
俺は、2人の女の子に目を向ける。
俺達に幻術かけていたのは、紫のローブを着て、水晶玉を持っている方だろう。
いかにも、魔法を使いそうだしな。
もう1人の方は…ドラゴン?いや、それにしては何だか弱そうだ。
後でサテラに聞くと、ベビードラゴンという魔物だと教えてくれた。
どうやら、ドラゴンの幼少期で、強くなる事で一人前のドラゴンになれるらしい。
それより、ずっと泣いているままなので、何だか悪い事をしている気分になる。
早くどうにかしなければ。
「グスン…今まで、成長するの手伝ってくれてありがとうね…」
「…私こそ、お陰で楽しい時間が過ごせた…ありがとう…」
俺はその2人に歩いて近づいていく。
俺に気付いたようで、怯えながらも前に出てきた。
すると、何故か頭を下げられる。
「お願いです!!私は良いので、この子の事は見逃して下さい!!」
「何を言っている?冒険者、殺すのは私だけだ。こいつは逃がしてくれ」
「いや、ここは私が…」
「駄目、私が犠牲になる」
目の前でよく分からん喧嘩を始めた。
人の話くらい聞け。
「いや…俺はただ荷物を取りに来ただけだ。殺す何て事はしない」
『…え?』
2人の動きが止まり、一斉に俺を見る。
「だから、お前らを殺しにきた訳じゃない」
「荷物って…あそこに落ちてる?」
「ああ、多分それだ」
「しかし…人間にとって、私達はいらない。殺すはず」
「何だ?そうして欲しいのか?」
「い、いや、違う。言ってみただけ…」
「そうか、それなら良いが。後、幻術の事は誰にも言わないから安心しろ、そもそも俺には言う相手事態いないからな」
俺はそう言い残して荷物を取りに行く。
置いてあるのはリュックサック2つだ。
この程度だったら諦めろよ。
報酬に金貨1枚も出す所から察するに、おそらく愛着のある物でも入っているのだろう。
というか、そんなもの持ってくるなよ。
俺は荷物を両手に持って洞窟を出ようとすると、2人が声を掛けてくる。
「あの…人間…」
「…何だ?」
「その…いきなり攻撃なんかして、悪かったな。反省する」
「私も!ごめんなさい…」
「いや、あまり気にするな。別に悪い事はしていない。自分を守るためだからな」
そう言うと、申し訳なさそうな顔が明るい笑顔に変わった。
「ありがとう!私達、もっと強くなる!!」
「うん!次に会うときまでに、一人前のドラゴンになります!」
「そうか、それは楽しみだ。またどこかで会えると良いな」
俺は2人に見送られながら洞窟を出ていく。
友情…か。
今まで、大抵の事は1人でこなしてきたが、友情というのも案外大切なのかもしれない。
今回だって、サテラがいなければ俺は死んでいた。
友達の為なら、自分の命すらも犠牲にするという精神は素晴らしいものだったな。
まあ、友達は作ろうと思ってもそう簡単にできるものでも無いよな…
特に俺の場合はな。
俺は帰り道にそう考えながら歩いていた。
それにしても、荷物が重い…
1人で3人分の荷物を町まで運ぶなんて無理がある。
「サテラ、荷物を運ぶの手伝ってくれないか?」
「嫌よ、雑用なんて」
…やっぱり友達なんてクソ食らえだ。
俺には必要無い!!
俺はサテラとの会話でそんな事を思うのだった。
最後まで読んでくださってありがとうございます!
新技と戦闘で2話に分ければ良かったですね…
最近は病気が流行っているみたいなので気を付けて下さい。
ちなみに、そう言う僕も風邪気味です(どうでも良い情報)
それではまた、来週!!