3話 精密射撃
3話目です!
投稿が遅くなってしまってすいません!
この量だったら、2話に分けて書いても良かったかもしれませんね…
今回はあまり進展はありませんが、是非見ていって下さい!
「ねえ、町にはまだ着かないの?」
歩き始めて2時間程たつ頃、サテラがそんなことを聞いてきた。
「まだ半分もきてないぞ」
「半分も!?到着するのに後どのくらいかかるのかしら?」
「まあ、町に着くのは間違いなく夜になるだろうな」
「そんな距離無理よ?私もう疲れたし、お腹も空いてるの」
お前、宙に浮いてるのに何で疲れるんだよ…と指摘したいのを堪え、俺は歩を進める。
だが、この幽霊の言う事も一理あるというか、確かにいくら何でも遠すぎる。
こんな奥地の極みにある秘境のような場所、どう考えても徒歩で行くべき場所ではないという事は間違い無いだろう。
大体、あのいかにも金持ちらしい依頼人は何故、わざわざあんな遠い場所に別荘を建てたんだ?
自らを酷使してまで別荘に行くとか、本当に金持ちの考える事は分からない。
「そうだ!私に良い考えがあるのだけれど」
どうやら、先程まで不機嫌そうに文句を言っていたサテラさんは何か思い付いたようだ。
「良い考えって何だよ?」
「いいから、私に任せなさい」
何だか、もう既に嫌な予感がするのだが…
サテラに任せろ!と言われても不安要素しかないという事は、出会ってから僅か1日も立っていない俺ですら完全に理解出来ている。
というか、こいつが思い付いて直ぐさま実行に移しそうな方法は一つ思い当たるものがあるのだが、まさか…やらないよな?
普通に考えてそんな事、思い付いても実行する奴はいないだろう。普通に考えて。
「それじゃあいくわよ?舌を噛まないように気を付けてね」
「ちょっ…待っ…」
俺の意思は尊重する余地も無いらしい。
残念ながら、只今を持って普通ではないと認定されたサテラの普通ではない考えは実行に移されるのだった。
そして、生憎な事に、サテラの思い付きの被験者となる俺の嫌な予感は的中してしまう。
これは完全に、最悪の展開としか言い様が無い。
予想通りサテラは俺を掴むと、そのまま空中に浮かせて町の方向に凄い速さで投げ飛ばした。
俺はこの日、この時、十数年間の人生の中で初めて空を飛んだのだった。
もっとも、俺に自由はないので言うなれば野球ボールにでもなったような気分だが。
果たして、この有り得ない速度に俺の体はいつまでもつのだろうか。
しかし、早く終わるように願う俺の思いとは裏腹に、この無料野球ボール体験は20分程続いた。
俺は圧倒的速さで飛ばされ、確かに、確かにサテラの言う通り時間はものすごく短縮されはしたのだが…
ようやく町に着いて地面に降ろされると、俺の体は既にボロボロで、内臓らしき何かが何だかおかしいのに加え、酷いめまいがして立っていられない。
当然、それはぐるぐるバットの比とかそういう次元のレベルでは無かった。控えめに言って地獄車だ。
「どう?楽しかった?」
サテラが殴りたくなるような微笑みを浮かべながら訳の分からない事を言う。
お前には俺が楽しんでいるように見えたのか?今すぐ眼科へ行け。
そうして洒落にならないこの状況に一言言ってやろうと思ったのだが、話すと色々吐きそうだったのでやめた。
まあ、過程はともかく一応町には着いた。
もう、過程は無かった事にして記憶から消し、ここで少し休んだら行くことにしよう…
「どうしたの?座り込んだりして。まだ運んでて欲しいのかしら?」
冗談じゃない。
また飛ばされなんてしたら、確実に意識も内臓も一緒に飛んでいく事だろう。
「頼む、もう二度とやらないでくれ」
「あらそう。それは残念ね」
サテラは俺の悲願にそう返事をすると、軽く微笑んだ。
やっぱりこいつ、意図的にやってるとしか思え無いぞ?
おそらく、絶賛死地をさまよって苦しんでいる俺を見て楽しんでいたのだろう。
相変わらず分かりやすいサイコパスだ。
…と、これ以上休んでいると本当にまた飛ばされてもおかしく無いので、休憩を終えて早く町に向かう事にした。
そうして俺は空腹とめまいでいつ倒れてもおかしくない状況を何とか耐え抜き、遂に町に到着する事ができた。
とりあえず、報酬を貰いに行って直ぐに飯にしよう。
俺は朦朧とする意識の中でそう考え、早歩きで組合へと向かった。
ガチャ
バン!!
ほとんど死人と化している俺は大きな音を立てながら倒れ込むように組合の中に入る。
冒険者の何人かが音に反応し、死にそうな顔をしている俺に注目していた。
しかし、俺はそんな事は気にも止めず、ふらつきながらも何とか受付まで辿り着く。
「あの…報酬…を…受け取りに…来ました」
受付に辿り着いた俺は精一杯力を振り絞って、全く生気の感じられない声を出した。
「ど、どうしたんですか!?静人君!」
どうやら、お姉さんは心配してくれているようだ。
誰かに心配される経験などほとんど皆無であった俺は、そう思うと何処からか多少の元気が出てきた。
「いや…まあ色々とありまして…」
(本当に何があったらこうなるんだろう…?)
「それで、報酬ということはクエスト達成したんですね!どうでした?ポルターガイスト、起こりましたか?」
起こるも何も、俺の隣にその原因がいるんだが…
しかし、話すとややこしくなりそうだったのでサテラの事は黙っておく事にした。
「一応起こったんですが、何だか呆気なく終わってしまい、さらに面倒事に巻き込まれて…」
ガン!!
後頭部を思いっきり蹴られた。
サテラの沸点は意外と低いらしい。
お姉さんが不思議そうにこちらを見ている。
「まあ、とにかく!幽霊退治なんて凄いですよ!それと、クエスト初クリアおめでとうございます!!はい、これが今回の報酬です!」
俺は報酬の金貨3枚を受け取った。
よし!飯だ!早く飯にしよう!
「ありがとうございます!!」
俺は駆け足で組合内にある酒場へと向かった。
酒場の中には、パーティーで集まっていると思われる冒険者が大勢いて、昼間から飲んだくれていた。
もちろん、俺は未成年なので酒は飲まない。
料理を悩みながらも決め、注文して出来上がるのを待った。
結局絞りきれず、肉や魚介類など手当たり次第に注文し、量が多くなってしまったが、サテラもいるので大丈夫だろう。
俺達が料理ができるのを心待ちにしていると、大柄で強面の冒険者が近づいてきた。
俺は身構える。
今までカツアゲされた事は、2、3回位しかないのだが、料理代を確保しつつお金を全部渡すふりをする程度の技術はあった。
いける!!
俺は金貨を1枚、靴下の中に隠す。
さあ、かかってこい!
俺は金貨2枚を右手に握りしめ、覚悟を決める。
俺の行動に気付いたらしく、サテラが呆れたような表情で見てくる。
知るか!俺は痛いのは嫌なんだ!
強面冒険者が口を開く。
「よお、兄ちゃん!見ない顔だがまだ駆け出しか?」
そんな、どこかで聞いた事があるような質問をされた。
というか、思っていたよりくだけた雰囲気だったので驚いた。
「は、はい!そうですが…」
「そうか!命を懸けた戦いに慣れるのは時間がかかるだろうが、お互いに頑張ろうぜ!」
あれ?何か思ってたのと違う。
この冒険者はただの優しい良い人だった。
人を見かけて判断してはいけないな…
そう思いながら俺は安心していた…のだが、
冒険者の中に、突然大声を出して俺に話し掛ける奴がいた。
「あ!?お前、この前の!!」
俺を指差しそう言ったのは、スライムを助けた時に気絶させた冒険者だった。
俺が安心するといつもろくな事にならない。
一つのフラグになっているのだろうか?
「みんな!聞いてくれ!こいつ、この前俺達の獲物を横取りした上に剣を向けてきやがったんだ!!」
店内の全員に聞こえる大きさでそう言う。
気付いてないだろうが、それは"俺、こいつに負けました"って言っているようなものだぞ?
「お、おいやめとけって!!へへ、すいません!今黙らせるんで!…早く行くぞ!」
魔法使いの方が止めに入る。
剣士の方は気絶していて知らないのだろうが、"闇包世"を見ていた魔法使いは俺を恐れているようだった。
「何で邪魔すんだよ!復讐のチャンスだろ!」
魔法使いが必死に抑える。
俺は黙ってそれを見ていたが、強面の冒険者がこちらを見ているのに気付いた。
俺と目が合うと、一気に顔が強張った。
「悪いな、俺はお前とは仲良くなれそうにない。あばよ」
そう言って店を出ていった。
何かされるのかと思ったが、ただ仲間思いなだけだった。
やはり良い人だ。
少しよそ見をしている内に、剣士が魔法使いを振り切り、俺の目の前まできていた。
魔法使いは慌てて離れ、物陰に隠れる。
「へっ!あの時は油断していたが、今回はそうはいかないぞ!俺はさらに強くなったんだ!」
「喰らえ!"一刀両断"!!」
技名を叫び、剣を上に大きく振りかぶった。
"一刀"と言うからには、剣は1回しか振らないのだろう。
全く、学習しない奴だ。
俺は"暗黒形"をいつでも発動できるように構えていた。
サテラも警戒し、攻撃体制に入っている。
剣士が剣を降り下ろそうとする。
俺も、その攻撃を防ごうと手を前に出したのだが…
その瞬間、
ドン!!!
強くテーブルが叩かれる音がした。
俺を含め、全員が動きを止めてその方向を一斉に見る。
そこには、10代後半位の店員らしい女の子がいた。
「いい加減にしなさい!!店内ではお静かに!!」
店の中が一気にシーンと静かになった。
「チッ!お前、今日のところはアイノさんに免じて許してやる!次に会った時は覚えてろよ!」
一応、この場は収まったのだが、
このアイノという人、あの面倒くさそうな奴を止めるなんて…
あいつの弱みでも握っているのだろうか?
剣士が出ていくと、また元のように騒がしくなった。
少しすると、注文した料理が運ばれてきた。
俺は冷たい視線を浴びながら料理を食べ始める。
俺の周りの席には誰も座ろうとしない。
近くにいるのは幽霊のみ。
さすが俺、酒場でも相変わらずボッチだ。
だが、お腹が空いている俺らは食べる事に夢中で、そんなことは全く気にならなかった。
まともにご飯を食べたのは3日ぶりだ。
うまい!!
俺はかつて無い程、食が進んでいた。
「さっきの人、知り合いなの?」
サテラが聞いてくる。
俺は食事に集中したいんだがな…
無視していると、俺のフォークとナイフが空中で止まって動かなくなった。
仕方なく、嫌々相手をしてやる事にした。
「ああ、色々あってな、だが俺は悪くない」
もう一度言う。
俺は悪くない。
"別次元を生きる者"のせいだ。
「そう、それならやはり叩き潰しておくべきだったわね」
止めとけ。何をするつもりだ?
サテラさんはあの剣士にお怒りのご様子。
ここで、剣士も悪くない何て言ったらフォークが飛んできそうだ。
「いや、放っておけ。ああいう奴には関わらない方が良い」
俺はサテラにそう返事をしたのだが…
不覚にも、アイノさんが近くの席に座っていた事に気が付かなかった。
「どうしたの?ぶつぶつ一人言なんか言って」
!?
いつの間に!?
誰も近寄らないと思って安心していたが、普通に近くにきていた。
しまった。俺とサテラの会話は、傍から見たらただの一人言にしか聞こえないんだった。
つまり、今の状況はこうだ。
一人言を言っている痛い冒険者を心配するアイノさん。
何て事だ!もっと周りに気を付けておくべきだった!
「いえ、何でもないです!」
俺は苦笑いで誤魔化す。
もちろん誤魔化せるはずもなく、気まずい空気になる。
「そういえば君、他の冒険者に斬りかかったんだって?何でそんな事したのさ?」
俺は斬りかかった覚えはないんだが。
どうやら、話が大きくなっているらしい。
まあ、そんなのどっちでもいいが。
「スライムを助けるため…ですかね?」
嘘をつこうとも思ったけれど、何も思い付かないので仕方なく本当の事を言った。
これじゃあ、完全にただの狂人だ。
『バカなの?』
アイノさんとサテラが声を合わせて言う。
何も、2人同時言わなくても…
「あははは…ス、スライム、スライムって。ははは…」
アイノさんはツボに入ったみたいで、爆笑していた。
真面目に答えたのに笑われる人の気持ちにもなって欲しいものだ。
サテラはというと、ため息をついて呆れていた。
サテラが俺に呆れるのは、本日2度目だ。
あと何回呆れさせてやろうか。
「はは…いや…失礼。面白かったからつい…。そういえば、自己紹介がまだだったね」
そう言って改まる。
「私の名前はアイノ。ここで働いている可愛い女の子よ!この店の経営に一番貢献している店員で、店が経営していられるのは私のおかげと言っても過言じゃないわ!本当は店員なんてやらなくても看板娘としているだけで十分なんだけど、私は優しいからちゃんと働くの」
「うわっ…」
つい声に出てしまった。
自分の事を可愛いとか優しいとか言うから引いていたのだが、これはまずい。
「ねえ、"うわ"ってどういう意味?」
完全に激おこだ。
右腕に力が入っている。
このままでは間違いなく殴られるだろう。
「う、うわ~…き、綺麗な人だな~、って…(棒読み)」
下手くそな演技にも程がある。
駄目だ、諦めて素直に殴られよう。
俺は覚悟を決めた…のだが
「やっぱりそう?でも、改めて言われると照れるな~」
チョロい人だった。
大丈夫か?この人。
まさか、あの演技で誤魔化せるとは…
いつか詐欺とかにあいそうで心配だ。
そんな話をしていると、料理をしているおっさんが怒鳴る。
「こら!アイノ!サボってないでさっさと働け!!このままじゃ給料出せないぞ!!」
あれ?経営に一番貢献している店員じゃなかったっけ?
というか仕事中だったのか…働け。
「そんな!勘弁してよ~。借金返せないじゃない」
「借金?」
「いや~"金貨がなる木"っていうのを買うために色んな人からお金を借りたんだけどね、すぐに返せると思ってたけど…全然、金貨ができないの。私の育て方が悪かったのかな…」
既に詐欺にあっていた。
いや、流石に気付けよ。
そんな木があったら、売らないで育ててるだろ…
「はは…返済頑張って下さいね」
「うん!ありがと。それと君、また店に来なよ。私、冒険者の話を聞くのが好きなの。君のは特に面白そうだし。そういえば君、名前は?」
「内灘 静人です」
「そう。静人君、それじゃまたね!」
「はい。また来ます」
それで会話は終わり、アイノさんは仕事に戻った。
色々と凄い人だったな。
騒ぎを起こした時は出禁を覚悟したが、また来ていいらしい。
本当に良かった。ここの料理は美味いからな。
さて、俺は食事に戻るとするか。
そう思ってテーブルを見ると、もう何も残っていなかった。
「ごちそうさま♪」
サテラが全部食べたみたいだ。
妙に静かだと思ったら、ずっと食べていたのか…
俺としたことが、なんたる失態。
とはいえ、最初にたくさん食べていたのでお腹は満腹だった。
俺は仕方なく、会計を済ませて店を出た。
「ねえ、この後はどうする予定なの?」
町を歩いているとサテラにそう聞かれる。
「ああ、ちょっと買いたい物があってな」
お金はまだ、金貨2枚と銀貨が数十枚程残っている。
俺が買いたい物。
それはもちろん、なんと言っても新しい武器!!
…ではなく、服である。
今日の夜にはクラスの連中が戻ってくるのだ。
こんな個性的な格好では問答無用でいじめられるだろう。
それだけは回避しなければならない。
こんな世界だったら魔法の実験台にでもされかねないからな。
そんな事を考えている内に、それらしい看板の店を見つけた。
俺はその服屋だと思われる店に入った。
ガチャ
「いらっしゃいませ!魔装店クローズへようこそ!」
魔装店?魔法使い専用の装備を売っている場所か?
服屋ではなかったようだが、まあいい。
俺は店内を回り、良さそうな服を探す。
しかし、いくら探してもファンタジーっぽいものしか見当たらず、俺の望んでいるような服は無かった。
「こんなのはどうかしら?」
サテラが全部ピンクに染まったローブを持ってきた。
そんなのよくあったな。
というかこいつ、完全にふざけてるだろ。
それを俺が着ると思うのか?
「却下だ」
そう言うと服を戻し、他のを探しに行こうとしていたが、当然それを阻止した。
そろそろ別の店に行こうと思い、店を出ようとすると店員さんが声をかけてきた。
「お気に召す装備は見つかりませんでしたか?では、"オーダーメイド"なんてどうでしょう?他の店にはあまり無いサービスで、お客様の望み通りの装備が手に入りますよ!」
そう食い気味に話すので、俺は気圧される。
俺は店員さんと話すのは昔から苦手だ。
買うつもりのないものでも、勧められると流されてつい買ってしまう。
だが、オーダーメイドか…
中々良いんじゃないか?
俺の欲しいような服はこの世界では見つかりそうにないし。
「そうですね…じゃあそうします」
「はい!分かりました。では、あちらで紙に服のデザインを書き、生地の種類を選んで持ってきて下さい」
俺は机に案内され、そこで紙とペンを渡された。
「今から頼むと、どのくらいかかりますかね?」
「今は注文が入っていないので、夕方くらいには出来上がると思いますよ」
早っ!?
そんなすぐにできるのか…
きっと、服作りにも何かの魔法を使っているのだろう。
というか、オーダーメイド、人気ないのな。
俺は紙にささっとデザインを書いて、生地もそれっぽいのを選んだ。
手抜きと言われても、着るのは俺だ、文句は言わせない。
ちなみに俺が書いたのは、
真っ黒なプルオーバーパーカー(フード付きトレーナー)と青いジーンズだ。
少しシンプル過ぎる気もするが、下手に手を加えた方が余計にひどくなるだろう。
靴はこの店では扱っていないみたいだが、他の店から取り寄せてくれるとの事だ。
これでようやく上履きから解放される…!
俺は黒のスニーカーを店員さんに頼んだ。
スニーカーは分かっていないみたいだったが、紙に絵を描いたので近いものを買ってきてくれるだろう。
服の生地は、装備店というだけはあり、着るだけで魔法の強さが上がるものらしい。
書き終えた紙を、店員さんが物珍しそうに見ていた。
やはり、こっちの世界にあんな服は無いらしい。
「見たことの無い服ね。悪くは無さそうだけれど…どこの地域の服なの?」
サテラが紙を見て聞いてくる。
「俺の故郷の服だ。結構良いだろ?」
「そうなの?あなた、よっぽど辺鄙な所で育ったのね」
余計なお世話だ。
それに、この世界よりずっと栄えている。
そう思ったが、黙っておく事にした。
それより、早く会計にしよう。
オーダーメイドっていくらかかるのだろう?
そういえば、聞いていなかったな。
店員さんは俺のサイズを測り、布の量を計算して金額を出した。
「全部で…金貨2枚ですね。」
金貨2枚!?
いや、高くないか?
他の売り物を見ても、そんなに高い物は無かった。
もしかしてオーダーメイドだからか…?
オーダーメイドの人気が無い理由がよく分かった。
しかし、今さら取り消す勇気は俺に無い。
俺は金貨2枚を渡し、そのまま店を出ていった。
「ありがとうございましたー!!」
店員さんの元気の良い声が聞こえてきた。
今晩の夕飯分位は残っているが、一気に所持金が減ってしまい、正直かなり落ち込んでいた。
なんだか、ぼったくられたような気分だ。
用が思っていたより早く済み、かなり時間が余ってしまった。
そうだな…金もぼったくられた事だし、クエストでも受けにいくか。
そう思うと俺は組合に向かった。
組合に着くと、掲示板の前に行き、クエストを選んだ。
どれを受けようか…
「これなんかどうかしら?」
サテラが指を指す。
その紙には、こう書いてあった。
難易度"8"
達成条件¦ドラゴンの討伐、鱗の入手
場所¦南西の丘にある洞窟の中
目的¦強い防具の作成
依頼人¦防具屋の主人
バカなのか?
難易度8なんて駆け出しの俺にはまだ早すぎる。
ドラゴンになんて勝てる訳ないし、ましてや討伐なんて俺にはできない。
「無理だろ、難易度8なんて」
「そうかしら?あなたなら出来ると思うのだけれど」
「仮に出来るとしても、クエストの難易度は徐々に上げていくべきだろ?それに、時間もかかりそうだし、こういう依頼はもっと早い時間から行くべきだ」
「まあ、言われてみれば、確かにそうかもね」
よし!何とか断る事ができた。
では、受けるクエストは…これにしよう。
ゴブリンアーチャーの討伐クエスト。
どうやら近くの村の子供達が襲われたようだ。
ゴブリンは戦い方がそれぞれ違うらしく、それによって対処の仕方も変わるので別種として分けられているみたいだ。
つまり、この場合は"弓を使うゴブリン"という事だろう。
難易度も1だし、簡単そうで丁度良いんじゃないか?
悪さをしないようにすれば討伐する必要もないだろうし。
…まあ、報酬は少ないが。
「このクエストにするぞ」
まだ依頼を探しているサテラにそう言う。
「あら、決まったの?少し見せてもらえるかしら?」
俺は紙を渡した。
紙を見ると、サテラは不満気な顔になった。
次に何を聞かれるかは、大体想像がついた。
「難易度1…いくら何でも低すぎないかしら?」
「良いんだ。俺はまだ冒険者なりたての駆け出しだぞ?」
「あんな動きが出来るのに、まだ駆け出し…?それじゃあ、あの屋敷のクエストの難易度は何だったの?」
「?だ」
「え?」
「?だ」
「それ…場合によってはドラゴンより危険じゃない。それでよく無理とか言えたわね…」
「うるさい。あの時は空腹でどうかしてたんだ」
俺はサテラから紙を奪い取り、そのまま受付に持っていった。
受付にはいつも通りお姉さんがいて、紙にはんこを押してもらった。
「あの、やっぱり今回も依頼人に話を聞きに行かないといけないんですか?」
俺はそう質問する。
「いえ、今回は村からの依頼なのでその必要はありません!それに前回は調査クエストだったので聞きに行きましたが、基本的にはやらなくて大丈夫ですよ!」
「そうですか。ありがとうございます」
知らない人と1人で話せるか不安だったので、必要なくて本当に良かった。
そのまま、今度はお姉さんが質問をしてきた。
「それでは!クエストを受ける人数を教えてください!」
どうやら、記録をつける為に必要な質問みたいだ。
そんな事、書く意味はあるのか?
そう思ったが、とりあえず答える。
「1人…」
ガチャン
隣に置いてあった花瓶が割れた。
「2人です」
「は、はい!分かりました…手続きは以上です!それではクエスト、頑張ってきて下さい!」
(2人?…それより何で花瓶が…?)
俺は即座にその場を離れ、そのまま町を出た。
花瓶はお姉さんが片付けてくれていた。
お姉さん、本当すいません!うちの幽霊が迷惑かけて!
村は森の中の開けた場所にあるらしい。
「それにしても、やっぱり移動は時間がかかるわね…」
サテラはそう言ってこちらをチラッと見てくる。
言いたい事はわかる。止めろ。
それに、今回はそんなに遠くないだろ?
20分くらいで着くらしいから我慢してろ。
それから、少し歩くと何か音が聞こえてきた。
ヒュッ
トン
木の影から隠れて見てみると、幼稚園児くらいの小さな女の子が3人いた。
3人とも緑色の帽子を被っていて、背中に矢筒を背負っていた。
その内、1人は丸太を的にして弓を射ていて、他はそれを見ている。
「凄いよ!お姉ちゃん!全部ど真ん中!」
「ふふふ!練習の成果ね!」
この2次元っぽい服装からして、間違いなくモンスターだな。
弓持ってるし、今回の目的のゴブリンアーチャーだろう。
ガサッ
近づこうとして、音を立ててしまった。
それに、スニークを使うのを忘れていた…
「誰だ!!」
まあ、当然気付かれるだろうな。
俺は木の影から出てきてゴブリン達の前に立つ。
「あの、少し話を聞いて欲し…」
「に、人間!!みんな、弓を構えて!」
話を聞くつもりは無いみたいだ。
3人は俺目掛けて矢を放つ。
俺は"暗黒形"を使おうとしたが、その前に矢が空中で止まった。
「ふふ、そんなものが通用すると思っているのかしら?」
矢はくるりと向きを変えて女の子達に向かって飛んでいく。
あれ?もしかしてサテラって結構強かったりするのか?
それより!このままでは矢が刺さって無残な姿に!
しかし、3人とも動けないままその場で立ち尽くしていた。
"暗黒形"!!
俺はとっさに発動させる。
背が小さかったので、ギリギリ3人入る大きさに出来た。
矢はぶつかってそのまま地面に落ちる。
「ちょっと!何してるのよ!」
サテラがキレ気味に大声を出す。
ちょっと怖い。
「いや、何も殺す事は無い。説得すれば良いだろ?」
「静人、前にもスライムを助けたとか言っていたけれど、何でそんな事をするの?」
俺は少し考える。
何故と言われても…
「そうだな…可愛いから?」
うん、正直に言うべきではなかったな!
今さらそんな後悔をする。
「ぷっ。あはは…何よそれ。やっぱり、あなたって面白いわ」
サテラが珍しく声を出して笑っている。
そんなに面白かったのか?
俺はてっきりドン引きされるかと思って覚悟していたのに…
だが、これはこれで屈辱的だ。
「…分かったわ。言う通りにしましょう」
やっと落ち着いたみたいで、どうやら言うことを聞いてくれるらしい。
女の子達は何が起きたか理解できず、"お姉ちゃん"と呼ばれていた子の後ろに2人が隠れていたがその子も怯えているようだった。
やはりここは俺から声をかけるべきなのだろう。
俺は怖がらせないように気を付けながら慎重に話す。
「今のはちょっと驚かしただけだ。お前らに危害を加える気は無い」
3人が顔を見合わせる。
少しすると、前にいる子が口を開く。
「な、何でそんな事するんだ?」
「何でって…そっちが攻撃してきたからだろ?俺はただ、話をしに来たんだ。お前ら、村の子供を襲ったんだろ?」
そう言うと、ようやく信じてくれたみたいで、後ろにいた2人もゆっくり前に出てきた。
「村の子供?」
「そんな事したっけ?」
「あれじゃない?ほら!一昨日の」
「ああ、あれか。確かにそうかも!」
何か、思い出したようだ。
「違うんだよ、人間。あれはただ、子供が私達に石を投げてきたんだけど、あまりにも下手くそだったから手本を見せてあげようと思って…」
なるほど、そういうことだったのか。
まあ、悪い事をするような子達には見えないし、本当なのだろう。
「そうか。で?石はどこに当たったんだ?」
「ここんとこだよ」
そう言って眉間を指さす。
「それじゃあ完全にアウトだ。反省しろ」
「何で?お姉ちゃん、凄かったんだよ!あんな速く石を投げれるなんて!」
「なおさら駄目だ。良いか?どんな理由でも相手に怪我させたらいけないんだ」
今、冒険者の仕事を全否定した気がする。
まあいい、子供には嘘でもそう言っておくべきなのだ。
「まあ…確かによく考えてみると、悪い事してた…かも」
さすが子供、素直だ。
「分かれば良いよ。後、村の近くだと人間が多くて危ないから、もっと離れた所の方が暮らしやすいと思うぞ?そうだな…この先の湿地の辺りとか誰もいなくて良いんじゃないか?」
「うん。そろそろ移動しようと思ってた所だったし、そうするよ!」
「それじゃあ俺はこれで。弓の練習、頑張れよ」
「それじゃあね!色々とありがとう!」
そう言って、手を振ってきたので振り返してあげた。
これでクエスト達成か。案外、簡単だったな。
まあ、難易度1だし、こんなものだろう。
帰り道、サテラがいつもの調子で話しかけてくる。
「まさか、説得してクエスト達成するなんてね…あなた、案外冒険者に向いてるのかしら?」
案外は余計だろ。
そんな話をしている内に、あっという間に町に着いた。
俺はまず、魔装店に服を取りに行った。
組合には既にクラスメートが戻っているかもしれないから報酬は後だ。
店に入ると服が出来上がっていたので、試着室を貸してもらって着替えた。
着心地は良く、本物とほとんど差は無かった。
けれど、黒いマントはそのまま継続だ。
着ける義務は無いらしいのだが、この方が魔法使いだと分かりやすくて良いらしい。
それに、ずっと着けていたので、無いと何だか背中が寂しく感じるようになっていた。
まあ、服装は大分マシになったので、これでも良いだろう。
俺は店を出て、組合に向かった。
組合に着くと、誰にも気付かれないように静かに中に入った。
俺は受付まで行き、報酬を受け取る。
報酬は銀貨20枚だ。
…少ない。
そう思ったが、簡単なクエストだったし、仕方ないだろう。
「あれ?装備変えたんですか?似合ってますね!それと、あちらでギルドの皆さんが集まっていますよ」
右側を見ると、クラスの大半が既に集まっていて騒がしかった。
俺は久しぶりにクラスメートを見て、憂鬱になりながらもそこへ向かう。
みんな自分の特性や技の話題で盛り上がっている。
もちろん俺に関わろうとする奴はいない。
俺は普通の格好だったが、みんなはファンタジー感溢れる痛々しい格好をしていたので、逆に浮いている感じになってしまった。
「後、来てないのは花井だけか…」
しばらく待っていると、金沢先生がそう言う。
やはりあいつが最後か。
というか、先生、僧侶が様になりすぎだろ。
完全に型にはまっていて、もう既に上級者という感じがしていた。
「おー、お前ら集まってるな」
そんな軽い口調で花井がやってきた。
どう考えても遅れてきた奴の態度ではない。
「まだ来てない奴とかいるのか?いるんだったら俺のスキルをおみまいしてやるよ」
こんな遅くに来たのはお前だけだ。
俺の"闇包世"をおみまいしてやろうか?
「みんな揃ったみたいだな。じゃあ宿に出発するぞ」
みんなから集めたお金で宿をとっているらしい。
俺もさっき銀貨10枚程持っていかれた。
何も金欠の人から集めなくても…
どうやら、これからも定期的に集めていくみたいだ。
宿につくと、食堂で夕食を済ませ、その後に泊まる部屋に案内された。
部屋は大部屋で、男子と女子でそれぞれ一部屋ずつ借りたらしい。
俺は早めに中に入り、部屋の隅を陣取った。
周りから適度に離れ、片側は壁というベストポジションだ。
もう夜も遅く、中には既に眠りについている人もいた。
花井を中心とした数人はまだ騒いでいるが、俺もさっさと寝る事にした。
布団を敷き、横になると上からサテラが話しかけてきた。
ここは男子部屋だぞ?
「一緒にいても誰にも話かけてもらえないなんて…あの話、本当だったのね、可哀想に…」
幽霊に同情されたくはない。
というか、信じてなかったのか。
俺は正真正銘ボッチだぞ?
この世界にきてからは会話する事が多かったが、クラスメートと合流して改めてボッチだと実感した。
「それより、ちゃんと体が動かないよう止めておいてくれよ?」
「分かったわ。それじゃ、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
俺は誰にも聞こえないように小声でサテラと会話した。
サテラがいてくれて本当に良かった。
もし、いなかったのなら、明日の朝には部屋が血で染まっていただろう。
俺はサテラに感謝し、珍しく騒がしい中で眠りについた。
どうです?この取って付けたようなクエストの戦闘シーン?
長くならないようにしようと書いていたら、戦闘が圧倒的少なさで終わってしまいました…
後、突然ですが、実はモンスターにもちゃんと性別はあるんですよ。
後々男のモンスターも出すつもりですが、今の所まだ未定です。
それで、次の投稿ですが、また来週末位になると思います。
気長に投稿を待って貰えると嬉しいです!