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モンスター討伐なんて残酷なことは俺に出来ない  作者: 両生類
異世界転移生活編
2/19

2話 徐霊依頼

2話目です!

なんとか今週中に書き終える事ができました!

最近は空いた時間はずっと小説書いている気がします。

まあ、そのわりには書くの大分遅いんですが…気にしたら負けですね!

6000字位でまとめるつもりが、また8000字を越えてしまいました…

何とか調節できないものですかね?後、もっと早く書けるようになりたい!!


ガンッ


俺はその日、壁と頭が衝突した衝撃と後頭部に残る激痛によって目を覚ました。

かつて無い程の目覚めの悪さの中で、睡眠欲求に負けそうにながらも辺りを見回すと、今の現在地が俺が昨晩眠りについた場所から、大分離れている事に気が付く。

おかしい、俺はそんなに寝相は悪くなかったはずだ。

そうして俺は、そんな不可解な現状を不思議に思いながらも後頭部を押さえて起き上がり、今度は高い視点から周りを見渡す。

しかし、そんな俺の視界に写ったものは、床には所々穴が開いていて、イスは3つ程壊れ、テーブルの脚も折れている、昨晩とは似ても似つかない崩壊した部屋だった。

そんな部屋を前に、一度夢だと疑って目を擦ってみたが、目の前の事件性のある光景は変わらない。

しかし、それも当然だろう。夢オチなんて最低だ。

そうして現実を何とか受け止め、昨夜魔物でも入ってきて、暴れたのではないか、という考察もしてみるのだが…結論から言おう。

この状況、全部"黒の支配者(ブラックルーラー)"のせいだ。

おそらく、俺が寝ている間に暗闇で身体能力が上がり、この部屋の物を俺が寝返りで徹底的に壊し、この惨劇の部屋が出来上がったという事なのだろう。

俺は、こんな清々しい朝には場違いな程の重いため息をつく。

とりあえず、身体能力の上がり方が尋常じゃない事と、俺の特性は2つとも不便だという事は分かった。

そして、この見るに耐えない部屋の事については後で謝っておく事にしよう…


と、言いつつ俺は、踵を返して部屋(悪夢)から華麗に目を反らす。

そう、謝るのは『後』だ!俺は何時とは具体的に指定していない!!

そんな虚しい言い訳をしながら、俺は誰にも見つからないように、こっそりスニークで外にでる。

それにしても…流石にお腹が空いたな…

俺は決死の逃亡、もとい現実逃避の末、1人で町を歩きながらそう思う。

しかし今の俺の所持金は銀貨2枚、これで何を買えと?

俺は苦渋の選択の中で悩んだ結果、最終的に組合に戻ってクエストを受けるしかない事に気付いた。

できれば戻りたくなかったのだが、食べ物の為だ、仕方がない。

不安と恐れと恐れの感情が巡りながらも、組合の前まで来ると覚悟をきめ、そーっと中に入る。

ボッチスキルを最大限に駆使して音1つ立てずにクエストボードの所まで辿り着き、少し安心感を覚えていると、その僅かな安心を打ち砕くかのように、背後から声が聞こえてきた。


「あの、内灘君?」


ビクッ


疚しい事がある俺は、突然声をかけられると怪しさの模範とも言えそうな反応をみせる。

そして、さながら指名手配犯逮捕の瞬間のような面持ちをした俺は、その落ち着いた声から逃れる術も無く、恐る恐る振り返った。

そこには当然。いつも通りの笑顔でこちらを見るお姉さん。

だが、その声、表情からは確かな怒りが感じられ、言葉では言い表せないもの凄い威圧感だった。


「休憩室で、何があったんですか?」


完全に怒っている。

俺は逃げ出したい気持ちを抑え、とにかく謝った。


「すいませんでした!!わざとやった訳じゃないんです!!」


おそらく俺を勝手に泊め、休憩室を壊したので責任を負わされたのだろう。

本当に申し訳ない。


「そうですか。まあ過ぎてしまったことはしょうがないですね…」


こういう時、恥を捨てて素直に平謝りすれば案外どんな状況でも許して貰えるものだ。

俺はそう思いつつも、胸の内では心から安堵していた。


「それより、何かクエストを受けるんですか?受けるクエストが決まったら受付まで持ってきて下さいね!」


彼女はそう言って、いつも通りの様子で仕事に戻っていった。

本当、優しい人でよかった…


と、許しも貰えた所で、気を取り直して受けるクエストを選ぶとするか。

ボードを見ると、端から端まで紙がびっしりと貼られていて、難易度を表す数字はバラバラに書かれていた。

それらの紙を眺めながら何か良いクエストは無いかと探していると、一枚、他と比べて目立つ紙があった。

そのクエストだけ、書かれている難易度が?(はてな)になっていたのだ。

俺は何だか無性に気になり、その紙を手にとってクエストの内容を見てみる。

…なるほど、調査クエストか。

確かに調査だったら難易度なんて分かる筈も無いだろう。

どうやら、屋敷でポルターガイストが起きたらしく、何とかして欲しいという依頼みたいだ。

屋敷は近くの森を抜けた先の湿地にあるらしく、つく頃にはもう夜になっているだろう。

けれど、泊まり掛けのクエストなので、そのまま屋敷に泊まってもらっていいとの事だ。

俺としては、今夜泊まる場所も確保できて、"黒の支配者(ブラックルーラー)"も試すいい機会なのだが、

難易度が?(はてな)だからな…。

やはりここは無難に難易度の低いクエストにするか?


ちなみに報酬金は……金貨3枚!?

よし!このクエストにしよう!

さすがは屋敷に住めるような金持ちだ。

他の冒険者ならば、いくら報酬が良くてもこんな難易度が不確かなクエストは受けないのだろう。

だが、見込み料が銀貨2枚の俺は違う。

俺は身の安全より金を選ぶ。


受付まで紙を持っていくと、はんこを押してもらえた。


「怪奇現象の調査ですか…。確かに闇属性に合ったクエストですね!それでは、依頼主の所まで案内します!」


そう言って受付を離れ、外に出ていったので、お姉さんについていった。


「あの、受付の方は大丈夫なんですか?」


「大丈夫です!この時間帯に人が来ることなんて滅多にありませんし…暇なんですよ」


確かによく考えてみると、俺以外に人はいなかった。

冒険者に出勤時間なんてあるはずもないので、こんな早くにくる奴はいないみたいだ。

そういえば、休みも自由にとっていいのか。冒険者って素晴らしい!

でも、それならわざわざ受付をする必要も無いんじゃないか?


「もっとも、いつもはこの時間に受付の当番はなく、今日は朝の事があったので罰としてやらされてるだけなんですけどね…」


どうやら俺のせいらしい。

お姉さんは、まだ少し怒っているようだ。

俺は"黒の支配者(ブラックルーラー)"を恨んだ。

もうこれ以上迷惑はかけられない。

俺はあわよくばご飯を奢ってもらおうという考えを捨てた。


町の外れまで歩くと、いかにも金持ちが住んでそうな豪邸に着いた。


「ここみたいですね!」


中に入ると出迎えをされ、そのまま客室に案内された。

部屋には既に依頼主と思われるセレブっぽい人が座っていて、早速話が始まった。


「あなたが冒険者?何だか頼りない人ね」


余計なお世話だ。

お姉さんは苦笑いしている。

フォローはしてくれないみたいだ。


「それでは、説明をお願いします」


「そうだったわね、そうするわ。」


「ー そう、あれは5日程前の事だったわね。私は気分転換に別荘に泊まることにしたの。

川で釣りをしたり、山菜を取ったりして、思ったより楽しかったわね。

本当はもっと長く泊まっていくつもりだったのだけれど、その日の夜、それは突然起こったわ。

私がもう寝ようと思ってベッドに入っていると、何かが割れる音が聞こえてきて、

何事かと思って見に行ってみると、それは夫の書斎から聞こえてくるの。

書斎には壁を埋め尽くす程の量の本があって、貴重な本もいくつかあるのよ。

私は思い切って中に入ってみたのだけれど部屋には誰もいなかったわ。

不思議に思いながら、部屋を出ようとすると、後ろからまた音がしたの。

振り向いてみると、なんと、置いてあった壷が宙に浮いていたの!!

ちなみに、この壷は夫が作った物で、私も作ってみたけれど、これがまた難しいのよね。

それで私は驚いて、そのまま町に帰ってきたのだけど、それ以来怖くて行く気分になれないの。

そこで、あなたにはその別荘に泊まって貰いたいの。

別荘のものは好きに使って良いわよ。

何も起こらなかったらそのまま帰ってきてもらって構わないわ。

それで、もし何かが起きたのだったら何とかしてきて欲しいの。

そうすれば私はまた安心して別荘に行けるわ。それじゃあ頼んだわよ!」


言いたい事は色々あるが、まあいい。

とりあえず状況は分かった。


「はい、分かりました!任せて下さい」


俺は自信満々にそう言った。


「ねえ、やっぱり別の人に変えてもらう訳にはいかないの?」


何でだ。


「申し訳ありませんが、それはできません。残念ながら」


ちょっと待て。最後の『残念ながら』ってどういう意味だ?

俺の心は深く傷つく。

俺みたいな豆腐メンタルはもっといたわって欲しいものだ。

それで用は済んだようで、俺達は豪邸を後にした。


「あの、さっきの発言に悪意を感じたんですが…」


「何の事でしょう?(すっとぼけ)」


駄目だ。この人、一度怒らせると面倒くさいタイプの人だ。


「本当に申し訳ありませんでした…」


「ふふ、冗談ですよ!もう怒ってません!」


本当なのだろうか?

あまり信用ならない。


「それでは、俺はここで」


「はい!クエスト頑張って下さいね!では、また明日!」


俺はそのまま町を出て、森へ向かった。

森なんて、何年ぶりだろうか。

前に学校行事で行ったことはあったが、それ以外は一度も無かった。

というか、もう二度と行くことなんか無いと思っていたし、別に行きたいとも思わなかった。

それに、ただ歩くだけなんて退屈だ。

景色が見たいのなら画面越しに見た方が楽に決まっている。

そんな事を考えていながらも、俺は森を満喫していた。

木に囲まれていると、心が安らぎ、落ち着いてた。

俺にとって森は、とても心地が良い場所だった…のだが

今はそれどころではなかった。


……お腹が空いた。


もう昼すぎ頃になるというのに、俺は昨日から何も食べていなかった。

今頃クラスの連中は、冒険者に奢ってもらってタダ飯中だろう。

屋敷に着いたら食べ物もあるだろうが、まだ時間がかかりそうだ。

空腹を我慢しながら歩いていくと、小さな川原に出た。


川……魚!!魚がいるぞ!!


俺は走って川に入った。

川の流れはさほど急ではなく、深さは足首くらいまでだった。

俺は、"暗黒形ダークキューブ"で川をせき止め、ぶつかった魚をスニークでとっていった。

スニーク超便利!

おそらく俺の技の中で一番実用性があるだろう。

俺は今までのボッチ生活に初めて感謝した。

しかし、魚を3匹とって早速食べようと思ったのだが、俺は重大な問題に気づく。


俺、"調理出来ない"


俺に魚を焼くすべはないのだ。

初期魔法以外の魔法は覚えてないし、自力で火を起こせる訳でもない。

なんて事だ!こんな事になるなら火属性魔法を覚えておくべきだった!!

俺は今さら後悔しながら、魚を川に返した。

無駄にテンションが上がり、さらに体力が削られる。

それから俺は無心でひたすら屋敷に向かって歩いていった。


しばらく歩くと、湿地に出た。

そこからは目的地である、屋敷が見えていた。

俺は急に元気がでてきて、急いで屋敷へと向かった。

屋敷の外観は、ホラー映画によくあるような洋風の家で、いかにも幽霊でもでそうな雰囲気だった。

中に入ると、早速食料庫を探した。クエストなんて後回しでいい!

明かりはついていなかったのだが、"黒の支配者(ブラックルーラー)"が発動しているようで、暗くても問題なく見えていた。

というか、昼間よりも明るく見え、視力も良くなっているみたいだ。

屋敷内を探し回っていると、扉にプレートが貼ってあるそれらしい部屋を見つけた。

俺は勢いよく扉を開け、中に入る。


ようやく食べ物にありつける!


そう思っていたのだが…

どこにも食べ物は見当たらなかった。

けれど、部屋を間違えている訳でもなさそうだった。

何故なら、中は美味しそうな匂いに包まれているし、かごの中にはパンのかすが入っていたからだ。

おかしい、依頼人は何日か泊まる予定だったのだから、食べ物の用意くらいしていたはずだ。

これもポルターガイストと何か関係があるのだろうか?

俺は犯人が食べ物を持っている可能性にかけ、さっさと取っ捕まえる事にした。


とりあえず、事件が起きた、問題の書斎へと向かう。

話によると、書斎から壺が割れる音がしたらしいのだが…

本当にそんな事が起こるのか?

魔法は自分が見えている範囲でしか使えないので、人間の仕業とは考えられない。

というか、そもそもポルターガイストなんてただの現象なのだ。

何か原因があると考えるのが普通だろう。

書斎が近くなってきて、俺は耳をすました。


ガチャン


聞き間違えだろうか?

いや、確かに何かが割れる音が聞こえた。


ガチャン


また聞こえてきた。

だが、きっと何か原因が…


ガチャン


ここまでくると、もう現象の域を越えている。

おそらく何者かが、意図的に行って…


ガチャン

ガチャン

ガッシャン

ガチャン

バリーン

ガシャン

ガチャン


落ち着け。

こいつは一体何個割るつもりなんだ?

何が目的で壺なんか割っているのだろうか。

それより、一番気になるのは壺の数だ。

作りすぎだろ!!何に使うんだよ!!

というかそんな量の壺、よく部屋に入ったな。

書斎に置いているということは、本は読んでいないのだろう。

金持ちにとっては貴重な本を"持っている"ということが重要らしい。

要はただの見栄だ。せっかくの貴重な本がもったいない。


絶えずに壺が割られる中、

俺はスニークを使い、音を立てずに部屋の中に入った。

思っていた通り、床には割れた壺の破片が落ちていて悲惨な事になっていた。

俺は破片を踏まないように気を付けて前に進む。

上を見ると、寝転がりながら、パンを片手に本を浮かして読んでいる女の子がいた。

確信犯だ。

暗い緑色のドレスを着ていて、"貴族のお嬢様"という感じがした。

けれど、二次元キャラという感じではなく、"別次元を生きる者(ディメンションナード)"は発動していないみたいだった。


「おい」


俺はその子に声をかけてみた。


「キャッ!!」


かなり驚いたようで、本が地面に落ちた。

それから俺の方を向き、すぐに冷静になって話を始める。


「何の用かしら?勝手に人の家に上がり込んだりして」


いつからお前の家になったんだ?

とても、人を追い出して住み着いた奴が言うべきセリフとは思えない。


「俺は、この家の持ち主からポルターガイストを何とかするように依頼されて来たんだ」


「それじゃあ、私を徐霊しに来たってわけかしら?」


(…徐霊?)


「いや、そういう事じゃない。お前には出てって貰うだけだ」


「あら、そうなの?でも出ていくつもりは無いの。しばらくここは私の拠点にさせて貰うわ」


もちろん、そんな訳にはいかない。

金貨三枚がかかっているのだ。


「それより、あなた私の事が見えているの?」


「当たり前だ。見えてないで声なんてかけれる訳ないだろ?」


突然、意味の分からない質問をしてきた。

そんな事より…


「あの…その手に持っているパンを俺に譲ってくれないか?」


そう言うと、女の子は微かに笑った。

何か嫌な予感がする。


「良いわよ。だけど、このパンを私から"奪えたら"ね。そしたら私も大人しく家を出ていくわ」


どこかの塔の猫の仙人みたいな事を言う。

つまり奪えなければこの家に住み続けると言う事だな?

そんな条件を出すということは、よほどの自信があるみたいだ。

だが、俺からしたらそんな事はどうでも良かった。

パンを食べるには、それしか方法が無いのだ、受ける以外の選択肢はない。


「いいだろう。その勝負、受けて立つ!!」


「ふふふ♪まあせいぜい頑張りなさい」


そう言ってパンを持ったまま、天井近くまで上がっていった。

悪趣味な奴だ。

普通の人間があんな所まで届くわけない。

しかし、やるしかない!!


「それじゃ、いくわよ!」


本棚から本が出てきて、空中に浮かぶ。

すると、その本が一斉に俺目掛けて飛んできた。

けれど、"黒の支配者(ブラックルーラー)"で、身体能力だけではなく頭の回転や反射神経も上がっている俺には、簡単にそれを避ける事ができた。

力は2倍どころではなく、何倍にも上がっているみたいだ。

女の子は少し驚いたような顔をして、俺を見下ろしていた。

まだまだ攻撃は続く。

俺はまた避けていくのだが、このままではキリがない。

あのパンを奪わない限り、勝つ事はできないのだ。


俺は攻撃が止まった瞬間、全力で走り出した。

そのまま"暗黒形(ダークキューブ)"を踏み台にして跳び上がり、パンを奪い取って着地した。

それはほとんど、一瞬の出来事だった。

食べ物の事で必死だった俺だからこそできたが、通常ではあんな速さにはならないのだろう。

女の子はまさか負けるとは思っていなかったらしく、少しの間黙りこんでいた。


「中々やるじゃない。私の負けね」


明らかに元気がなくなっている。

俺は何も言わずにパンをあっという間に食べ終わらせた。

うまい!!

味は何もついていなかったのだが、間違いなく今まで食べたパンの中で一番美味しかった。

量ももちろん足りないが、食べれただけで満足だった。


女の子を無視していたら、不満気に俺を見ている事に気付く。


「それで、お前はなんで壺なんか割ってたんだ?」


「"お前"なんて呼ばないでもらえる?私の名前はサテラよ」


「そうか、俺の名前は内灘 静人だ。気軽に"しずっち"と呼んでくれて構わない」


「分かったわ、しずっち」


冗談だったのだが…


「それでしずっち、さっきの質問だけれど…」


「すまない…やっぱり"しずっち"はやめてくれ…」


「あら、そう?良い呼び方だと思ったのに」


こいつ、分かっててわざとやったな。


「それで、壺を割っていた理由だけど、私はある魔法道具(マジックアイテム)を探しているの」


魔法道具(マジックアイテム)?」


「そう。"合成の壺"といって、2つの物を一つにまとめるアイテムなの」


「それを何に使うんだ?」


「私と私の体を合成して、生き返るの」


「…?どういう事だ?」


「だから、私が幽霊じゃなくなる為に使うのよ」


は!?


「サテラ…お前幽霊…だったのか?」


「そうよ?気付かなかったの?」


待て、俺に霊感なんか微塵もないぞ?

しかし、確かに依頼人も部屋に誰もいなかったって言っていたし…

サテラがした意味の分からない質問も理解できる…

これは"黒の支配者(ブラックルーラー)"の能力の一つなのだろうか?

もしそうだとしたら、もっと幽霊がうじゃうじゃいてもおかしくないのだが、サテラだけしか見えないのは、やはり魔力の有無が関係していそうだ。


なるほど…幽霊か…

サテラの肩に手をあてる。


「何してるのよ」


俺の手が肩に置かれた。

貫通すると思ったのだが、普通にさわれた。

物理攻撃が効く幽霊ってどうなんだ?


「いや、何か幽霊って感じしないなって…」


「それより、自分の体と合成するといっても、もう腐食しているんじゃないか?」


「そこの所は大丈夫よ。お父様が死んだ私をまだ意識不明なだけだと思っていて、魔法使い達に結界をはってもらってるから、死んだ状態から変わることは無いの」


お父様は気付かないのか…

まあ、知識が不十分なこの世界では仕方がないか。

というか、幽霊はもう魔物に部類されていいと思うのだが、

"別次元を生きる者(ディメンションナード)"は元が人型だと発動しないらしい。


「でも、生き返るためとはいえ、わざわざ壺を割ることはないだろ?この家の持ち主も驚いてたぞ」


「壺に魔力があるか確認するためには、一つ一つ掴まないといけないの。確認した壺が分からなくなるから割ったのよ。別に良いでしょ?どうせ不細工な壺なんだし」


そう言ってやるな…

この部屋の床を埋め尽くす程には練習してるみたいだし。

そのわりには、確かに下手ではあるが。


「人に迷惑をかけるのは駄目だろ。他の方法は無いのか?」


「いいのよ。私はもうこの生活に飽きたの!だって今までまる一年誰にも気付いてもらえず、会話すらできなかったのよ」


「そうか…気持ちはよく分かるぞ!俺も昔、四年ほど家族と先生以外とは一言も会話しなかった時期があったからな…」


ちなみにその四年目、最初にかけられた言葉は『消しゴム落ちてるよ?』だった。

もちろん消しゴムは拾って貰えなかった。


「それはお気の毒に…あまり気を落とさないでね…」


あれ?俺、慰められてる?立場変わってないか?


「まあ、とにかく壺探しは迷惑のかからない範囲でやれ。話は以上だ、俺はもう寝る!」


時間的には、おそらくもう一時を回っているだろう。

俺は依頼人の夫の寝室を借りて眠る事にした。

だが、"黒の支配者(ブラックルーラー)"の問題はどうすればいいんだ?

このまま眠れば、明日の朝には部屋は大惨事になるだろう。


…いい事を思い付いた。


「サテラ、お前って睡眠はとるのか?」


「いや、寝ないけれど…それがどうかしたの?」


「俺が眠っている間、動けないように止めて欲しいんだ」


「静人…あなたそういう体質だったの?」


「断じて違う!!そうじゃない!」


「それなら良いけれど、そんなに難しい事ではないし」


「ありがとう、頼んだぞ!」


俺は高そうなベッドに入って目を閉じる。

昨日の床とは違い、とても寝心地が良かったのだが…

体が全く動かない。

まるで、というより、完全に金縛りだった。

結構辛かったのだが、部屋を破壊するよりかはまだマシだろう。

俺はもう安眠をする事はできないのだろうか…

そんなことを考えると少し悲しくなった。



目覚めの悪い朝だった。


「あら、やっと目が覚めたの?」


金縛りに遭いながら目を覚ますと、サテラが声をかけてきた。

幽霊って朝もいるのか。


「おはよう、サテラ」


「おはよう。早速だけど静人、お腹が空いたわ。朝食にしましょう?」


幽霊なのに食事が必要なのか…

やはり何か幽霊っぽくない。

おそらく、食べた物は魔力の補充に使われるのだろう。

やはり食料庫の物を全部食べたのはサテラみたいだ。


「食べ物は持ってないぞ?」


「え?一つも?それじゃあ、パンを欲しがってたのは…」


「ああ、前の日から何も食べて無かったんだ」


「あなた、今までよく生きてこれたわね」


「金が無いんだ、仕方ないだろ?」


「俺はもう行くぞ?お前もちゃんと屋敷から出ていくんだぞ。それじゃあな!」


俺は早く報酬を受け取って食事にしたかったので、そのまますぐに屋敷を出て町に向かった。

急がなければ町に着く前に飢え死にしてしまう。


「ねえ、町に戻るのでしょう?どのくらい時間がかかるのかしら?」


サテラが左上から話しかけてくる。


「何でついてきてるんだよ」


「良いじゃない。私、帰る場所ないし、静人もどうせ一人でしょ?ようやく私と会話できる人を見つけたの。暇だから話し相手になってちょうだい。」


それなら、町にあるボロい木の家を訪ねると良い。

引きこもりの優しいおじさんが相手をしてくれると思うぞ!

後、どうせとか言うな!ちょっと傷ついただろ!


受付のお姉さんといい、どうやら俺は暇潰しに使われる運命らしい。

しかし、このまま放っておく訳にもいかないので、仕方なく連れていく事にした。


「分かったよ…話し相手くらいならなってやる」


「ふふ、じゃあこれから宜しくね、静人」


こうして俺は初めてのクエストを達成し、ついでに幽霊に取り憑かれる事になったのだった。




最後の終わり方って難しいですよね。

続きが気になるような終わり方をしたいんですが、何故かまとまって終わらせてしまうんですよ…

そういうものって、これから書いている内に自然と出来るようになるものなのでしょうか?

それでは、次回の投稿ですが、来週中には書き上げる予定です(大雑把)。

一週間で2話程のペースでできるといいですね。

とりあえず頑張ってみます!

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