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モンスター討伐なんて残酷なことは俺に出来ない  作者: 両生類
異世界転移生活編
1/19

1話 日常からの脱却

初投稿です!

初めて小説を書きましたが、書いている内に楽しくなって、

少し量が多くなってしまいました…

最後まで読んで貰えると嬉しいです!



退屈だ。


俺は窓の外の校庭を生気の無い目付きで眺めながら、別に誰に言う訳でもなく1人でそう呟いた。

教室の中はHR前で、生徒達はそれぞれ仲良い人同士で固まり、益の無いくだらない事を延々と話している。

そうして周囲がそのような状況にあるというのに、何故俺は誰かと話す訳でもなく、一人で窓の外の校庭なんか眺めているのか。言わなくても察してくれている事だとは思うが、敢えて言おう。


俺、内灘 静人(うちなぎしずと)はボッチである。


改めて自らの口で言うと(言ってない)色々と悲しくなってくる上に余計に残念な感じになったような気もするのだが、一体それがどうしたと言うのだろうか?

生まれてから高校2年生に至る今まで、友達と呼べる人が一人もできた事のないどころが他人と会話する機会すらほとんど皆無と言えるこの俺が、今さらこの程度の事で寂がるとでも思うのか?

俺がどれだけの年月をボッチとして過ごして来たと思っているんだ、俺はもう既にこのボッチ生活に慣れ、今ではそれを極めるレベルの領域に達している。

そもそも、所詮学校のクラスメートなどというものは同じ年齢の人間で集められて偶然一緒になっただけの存在であり、別に集められたからと言って他人と関わる事が義務とされている訳でもない。

卒業したら会うことも無くなるのに意味も無く仲を深めるなど、サービス終了間近のゲームを必死にやり込んでいるようなもの。俺からすれば保身に走るその様子は滑稽であり、当然それは時間の無駄だとしか言い様がないのだ。

まあ、とは言っても、根本的に最初からこの世界に意味なんて求めるだけ無駄なのだろう。

そんな事を言えば、この世界には不可解な事がいくらでも存在しているのだし、その事象一つ一つに対して言っていたらキリがないからな。

俺はそんなことを考えながら無心で外の光景を眺めていたが、しばらくして、外を元気に走り回る生徒達の集団の中で数名輪の中から弾かれた生徒が視界に入り、その生徒を表情の読めない瞳で見下ろしながら俺は、"ジャッ"と大きな音を立ててカーテンを閉めた。

…そうして外から教室内に意識を戻したものの、外を見る事を止めた所でする事がある訳でも無い俺は仕方なく最終手段とも言える寝たふりをしていたのだが、その行動に移って間も無く、扉の音とともに、このクラスの担任である金沢先生が入ってきた。


ガラッ


「おーい、お前ら、早く席につけ!」


先生は、カツカツと靴の音を鳴らして教室に入ると教壇へ向かいながらそう言い、その声を聞いた生徒達はそれぞれ会話を中断して自分の席に戻っていく。

そうして、先程までの騒がしさが嘘だったと思える程の静けさが教室を包み込むと、少しの間を開けてHRがはじまった。


「起立!」


沈黙を破るように日直がそう号令をかけると、ガタガタ椅子をひく音と共に、教室内に居る生徒達が不揃いに立ち上がっていく。

そして、普段は集団行動を苦手とする俺も次々に立ち上がる周りに合わせて、憂鬱を胸にけだるげな様子で立ち上がる。

今日もまた、いつも通りの退屈でつまらない一日が始まっていく。

俺は心のどこかで、そうなる事が当たり前であり、変える事の出来ない必然のように思っていた。

しかし、俺はこの後、その考えは間違っていたと知る事になるのだった。


「礼!」


いつも通り。日直が、いつもと何も変わらない、そんな号令をかけた瞬間、俺の視界に写るものの全ては変化した。


周りは見渡す限り草原。

横から強く吹く風。

ギラギラと照りつける太陽。

…遠くに見える洋風な城とその城下町。

……そこら中に生えている見たこともない植物。


「!?」


俺は唖然として、開いた口が塞がらない。

頭の中では状況理解を優先させようとはしたが、突然の出来事に俺の思考回路はニートと化し、何がおきたのか理解するまでしばらく時間がかかった。

そして、時間を掛けて考え、現在俺が置かれている状況を何度も整理した結果、当然、俺は一つの結論に辿り着く。


…ここは異世界。おそらく、俺は異世界に転移したのだ…!

現実味の無い今の状況を飲み込めずにいながらも、俺は言葉では表せないような喜びを感じていた。

アニメやラノベでよくみるようなファンタジーな世界。

全て、俺の望んでいた、理想の世界だった。


"ただ一つを除いて"


……何とビックリ。俺の右側には、未だに状況を把握できないまま、ただ立ち尽くす金沢先生を含む"クラスメート全員"がいたのだ。


何でだよ!!

普通、こういうのは1人で転移されるものだろ?

たとえクラスメートが居たとしても、どのみち俺は1人でいるのと変わらないとでも言いたいのだろうか?

まあ、そうだとしても反論の余地も無い完璧な正論としか思えないのだが…いくら何でも、これは無いだろ!!

これでは、せっかく異世界に来たというのにボッチを継続するはめになってしまう。


そうして俺は転移されて早々に気を落としていたのだが、それからしばらくすると、俺が嘆いている間に皆落ち着いてきたようで徐々にザワザワと騒がしくなってくる。


「おい!!ここどこだよ!!何が起きたんだ!?」


一切周りを気にする様子も無くそう叫ぶのは、顔を見る度に早く消えて欲しいと思うクラスメート、花井 董麻(はないとうま)である。

きっと、"うざい"という言葉は彼の為に作られたものなのだろう。

何と無く分かるとは思うが、こいつはどのクラスにも一人はいるお調子者であり、存在空気の俺から最も遠くにいる奴でもある。

まあ、それ故、当然関わった事がある訳もないのだが、こいつの言動は毎回イラッとくるものがあるのだ。

ちなみに、この通り、こいつの頭は未だに状況を理解できないようなつくりとなっていて、それどころが考える事すら放棄している。

だが、一応クラスの中心と言うだけの事はあり、花井の問いにはクラス代表のオタク(俺の方が上だが)の山坂 里司(やまさかさとし)君が自然な流れで答えた。


「い、異世界だよ!異世界!!今、僕達が居るのは、地球とは違う別の場所なんだよ!」


「何言ってんだお前?バカか?」


バカはお前だ。周りを見て状況を把握しろ。

クラスメイト全員、教室から見知らぬこの場所まで一瞬で移動したんだぞ?

既に説明の付かない事が起こっている以上、ここが異世界であってたとしても別に不思議ではない。

という訳で、状況的に言うと山坂君が間違っているとは一概に言い切れないのだ。

…というか、自分から聞いておいて即刻否定するなよ。

まあ、とは言っても特に俺に実害があるという訳でも無いので、そんな事は俺からすればどうでもいい事ではあるのだがな。

一応こいつの頭は心配ではあるが、それより今は金沢先生の方を心配した方が良さそうだ。

そうして先生の方を横目で見ると、そこには起きた出来事を受けとめきれず、うつむいて頭を抱え、ブツブツと何か言っている教師の姿があった。

正直、かなり怖いどころの騒ぎではない。


「先生、大丈夫?」


だが、流石は教師と言った所か、1人の生徒によるその声で何とか正気を取り戻したらしく、軽く微笑んで返事を返していた。

そうして時間は掛かったものの、少しすると普段通りの先生としての姿で平常に戻り、正しい判断力も取り戻したようで、声を掛けて並ばせた後に生徒の数を一人ずつ数えて人数確認を始めた。

何だか修学旅行感が否めないが、まあ、気にしたら負けというやつなので考えない事にしよう。

そのまま順番に数えられていき、最終的に全員そろっている事を確認されると先生が全員の前に立って状況整理を含めた話を始める。

当然、俺は省かれているその後の相談によってとりあえず一旦ここから見える城下町へ向かう事が決定し、周囲を警戒しつつも列を保ったまま目的地へと早足で進んでいった。

…とは言うものの、現在地から城下町への距離事態はそれ程遠い訳ではなかったので、時間も掛からず、特に何かが起こる訳でも無くクラスメイトの一向は町に到着。町に入る前には持ち物の検査なんかもあったが、突然転移させられた集団が何か持っている訳も無いので、これも余裕でクリアした。


そんな感じで身元不明の集団だというのに案外普通に町に入ることができ、誰一人として例外無く日本とは明らかに文化の違った、その賑わう町をただ呆然と眺めていた。

そして、現在俺を含む列が歩く通りには様々な店が出ていたのだが、見てみるとその中には同い年くらいの人や、小、中学生くらいの年齢の人まで当たり前のように混じっているようで、それぞれ忙しそうに汗水垂らして働いている。

どうやら、この世界ではそれが普通の事として認識されていて特に珍しい事でもないらしく、道行く人からは気にする様子も見受けられない。

察するに、おそらく生きる上で学んでおくべき知識はほとんど無く、特に時間に見合うだけのメリットがある訳でもないので、そもそも学校など必要無いのだろう。実際勉強など、この通りにあるような仕事では役に立たないだろうしな。

俺はそんな事を思いながら勉強の意義について説いていたのだが、そうしている間にも町での聞き込みは進んでいき、多くの情報を得る中で"冒険者統括組合"というものの存在を知った。

何でもその施設では年中誰でも無条件で冒険者という職業に就けるらしく、登録を済ませるだけで簡単に仕事を得る事が出来るらしい。

…と、何だか新手の詐欺っぽい職業の説明を受けた所で先生は広場の端に再び皆を集め、先程と同様にこれからの予定についての話し合いが始まる。

そして当然と言うべきか、その話し合いに俺は参加していない…というか、そもそも参加する気すら微塵も無い。

だが、その俺を省いた話し合いは直ぐに終わり、金沢先生の強い希望によってみんなで冒険者になることに決まった。

やはり、冒険者といえば異世界の定番と言える職業ではあるが、それと同時にみんなの憧れの職業でもあるのだろう。

まあ、あたかも他人事のようにそんな事を言ってはいるが、無論、俺もその内一人である。

そうして話し合いによって次の目的が決まると、先生の呼び掛けによって再び列が作られ、冒険者となるべく組合を探して町を回っていく。

そんな状況の中で俺がいつも通り列の最後尾で他のクラスメイトから距離をとって歩いていると、不意に意識の外から突然誰かが声を掛けてきた。


「ねえ、そこの君?」


その落ち着いた声に振り向いてみると、そこに居たのは20代くらいの女性だった。

その視線の先を見る限り前の列の事は気にしていない様子なので、どうやら俺を一人だと勘違いして話し掛けてきたらしい。

そうして状況を何と無く理解した俺は、前のクラスメイト達の列を見失わないように気を付けながら話を続けた。


「俺に何か?」


「君、冒険者にならない?」


組合の関係者なのだろうか?何の前置きも無しに、突然そんな事を聞いてきた。


「今は、何の仕事に就いてるの?」


「無職です。」


俺は簡潔に答える。


「あ…そ…そうなんだ!でも丁度良かった"無職"で!!それで、冒険者になる気はある?」


どの世界もニートには冷たいらしい。俺を可哀想な人を見る目で見てきた。

というか、無気力感漂うこの俺を冒険者に勧誘するとは…

冒険者統括組合というものは、よほど深刻な人員不足にでも陥っているのだろうか?


「あります。と言うか、元々そのつもりでした。ちなみに前に見える列の俺の仲間(疑問形)も同じです。」


「そうだったんですか!ありがとうございます。」


俺がそうして無駄の無い的確な返事を返すと、彼女は俺に軽く一礼をしてニート集団のもとへと走っていった。

そのまま金沢先生の所へと向かったその女性は俺の時と同じようにして引き続き勧誘を続け、少しして話が終わると先頭に回って俺達を組合まで連れて行く。


そのような極めて円滑な流れでクラスメイト一同は無事組合に到着する事が出来たのだが、入ってみると中は案の定広々としていて、その格好や出で立ちから冒険者と思われるような人が大勢居た。

そんな少々騒がしい空気の中で、先程の女性が装飾の施された通路を通った先の部屋の中に全員を案内すると、列の後ろまで入りきった所で早速説明が始まった。


「では、まず役職を選びましょう!」


女性は全員の前に立ってそう言うと、同じ制服を着た人が後ろの扉から出てきて、そのまま役職名が書かれた様々な箱が並べられた。

そうして机に置かれた箱の中には、箱ごとに色や模様の違う、キラキラと綺麗な輝きを放つ石が入っているようで、その輝きはここからでも伝わってくる。


「この中から好きな役職を選んで、箱の中の石を飲み込んでください!」


…飲み込むの?

いやいや、おかしいだろ!石は食べ物じゃないよ?分かってるのか?

第一、石なんか飲み込んだら体に悪いだろ!


「ちなみに、この石は"神与石かみよせき"といって、飲み込むと体と一体化し、選んだ役職の力に目覚めますが、体に害は無いので安心してください。」


俺はこの安心安全な石を飲み込む決意をした。


「あのさ、例えば"剣士"を選んだ場合ってさ、やっぱり魔法は使えなくなんのか?」


そうして俺の中で決意が固まった所で、花井が手を挙げてそんな質問をする。

結果的に指されてもいないのに質問してるから手を挙げる意味は明らかに無いが、そんな事はどうでも良く、何より年上にタメ口とは良い度胸だ。


「はい、使えなくなります。人の中には元々、魔力というものが存在するけれど、魔力は常に放出されていて、使う事ができません。しかし、魔法系の役職では、神与石がその魔力をためていく、"器"となり、魔力を使い、魔法を出せるようになります。」


「しかし、剣士等の近接戦闘系は、その逆で、神与石が体の中の魔力を消しさり、使えなくすることで、肉体が強化され、"スキル"と呼ばれる技を使えるようになります。この"スキル"は魔法とは違い、使っていくごとに少しずつ強くなっていき、弱いものからF.E.D.C.B.A.Sの順番で七段階に割り振られます。」


「ついでに言っておきますが、魔力の器は、実際に戦うことで大きくなっていきます。相手が弱っていくと、魔力の制御が不安定になるので、魔法はその不安定になった器の力を取り込み、自分の器が大きくなることで、新しい魔法が使えるようになって、魔法の威力も上がっていきます。取り込むと言っても相手の器が小さくなる訳ではありませんが。そして、魔法には"属性"というものがあり、その"属性"はその人の性格や行い等から決められているそうです。それぞれ、自分の属性の魔法には特化していて、幅広く、多くの魔法を使えます。他の魔法が使えない訳ではないけれど、自分の属性の魔法と比べ、威力は弱くなります。……まあ知っておくべきことはこの位でしょうか?」


…話、思ったより長かったな。文章だったら読みとばす量だ。

ちなみに、花井の方はと言うと話の序盤から既に眠りについていて、話事態はほとんど聞いていない様子だった。

いや、質問したのお前だよな?


「それでは、皆さん好きな役職をお選び下さい!」


…と、説明が終了した事を女性が告げると、その言葉を待っていました!と言わんばかりに皆動きだした。

一方で、先程まで熟睡体制に入っていた花井はいつの間にか目を覚ましている。二度と目覚めなければ良かったのに。


俺は混雑を避けるように後ろの方から石の入った箱を眺めていたが、見た所役職は、剣士、魔法使い、射手、盗賊、僧侶、戦士、武道家、その他色々なものがあるようだった。

その中でも男子の中での剣士人気は凄まじいものがあり、みんな迷いなく選んで、その安心安全な石を飲み込んでいく。

かくいう俺も例外ではなく、数ある箱の中から剣士の神与石を手に取り、それを飲み込んだ。



……【魔法使いの神与石と一緒に】



そう、俺が選んだ役職は"魔法剣士(メイジフェンサー)"である!

結構知名度はあると思うが、一応説明しておくと、この役職は、剣と共に魔法も扱うことができるという、素晴らしい万能職だ。

ちなみに、この場合で言うと、俺は石を2つ飲み込んだので原理的には魔法とスキルの両方を使えるという事になっていると思われる。

まあ、最も、"剣士"の神与石で魔力は半分消え、"魔法使い"の神与石で器も半分残っているので、どちらも強さは半減しているとは思うが。

というか、2つ石を飲み込む事で身体に何か異常を来す事はないか結構不安ではあったのだが、とくに問題は無さそうだし、感覚的に今の所は意外と大丈夫そうだ。

…と、一応最大の不安要素が消え去った訳なのだが、それどころが、むしろ特に変化したという感じは全くと言って良い程無かった。

だが、実感は無いものの、石を飲み込んだという事実はあるので、その上で変化を感じられないのであれば、一応成功していると受け取っても良さそうだ。


そうして若干の疑念は残りながらも、俺は役職を選び終えると周りに流されるかのようにして受付に並んだ。

受付の方はと言うと、既に大半の人は役職を選び終わっているようでちょっとした行列ができていたが、別に急ぐような事でもないと思われるので、俺は歩いて列の最後尾へと向かった。

そして、俺がこれから行うであろう登録の手続きはと言うと…


・冒険者登録

・組合の説明

・冒険用物資の提供

・同職の上級冒険者による短期指導の手配、案内


…見た感じ、大体こんな所だろう。

ちなみに、魔法系の役職の人は戦士職とは若干異なる部分があり、途中に魔法属性の検査が入るみたいだ。

そうして俺は引き続き前の方の奴等の受付の様子を見ていたのだが、どうやら提供されている冒険用物資では、服、簡易的な武器、資金、それと他にも何か配られているみたいだった。

説明してなかったので一応言っておくと、資金に関しては聞き込み時に得た町の人からの情報によると、この世界の通貨には、金貨、銀貨、銅貨の三つのものがあり…


金貨1枚→銀貨100枚

銀貨1枚→銅貨100枚


という風になっているらしく、基本的に使う事の多いものは銀貨で金貨というのは前の世界で言う1万円札的なポジションみたいだ。

まあ、とは言っても、この世界の物価をまだ正確に把握しているという訳では無いので、今の所は何とも言えないのだがな。

俺はそんな事を考え、物価の安い良心的な世界である事を心の底から願っていたのだが、そんな事をしている間にいつの間にか自分の順番がきていた。

俺が並んでいるのは大分後ろの方だった筈なのだが、その迅速とも言えそうな速さから察するに、どうやらこの冒険者登録とやらは思いの外早く終わるらしい。


「それでは、あなたの役職を教えて下さい」


「魔法剣士です。」


「はい?」


何故だろう、俺は至って普通の返答を返しただけだというのに不思議そうな顔で聞き返された。

だが、俺は怯まず再び同じトーンで言い直す。


「魔法剣士です。」


「えっ…あ…は、はい。分かりました…」


(…そんな役職ないはずなんだけどな?)


「それでは、冒険者登録が済むまで、この組合の説明をしましょう!」


「まず、この施設では、あそこに見える掲示板から、クエストを受けることができます。クエストの内容は様々で、難易度が高いものもあり、紙には難易度を表す数字が書いてあるので参考にしてください」


「そして、少数では目的達成が困難と判断された"ギルドクエスト"というものもあります。ギルドとは大勢が集まる一つのチームみたいなもので、普段はそれぞれ個人でクエストを受けるけれど、ギルド内では互いに助け合い、ギルド内でクエストに合ったパーティーを組むこともできます。君たちはすでにギルド登録が済んでいますね!ギルド長になった金沢さんが申請したみたいです。」


待ってくれ。

何か何気無くギルドに所属されているとか重要っぽい事を言われた気がするのだが、承諾してないどころが俺は何も聞かされていないぞ?俺の人権を自然な流れで侵害しないで頂きたい。


「ちなみに、ギルド名は?」


「"2-A"だそうです。」


そのまんまじゃないか。

もう少しひねった名前は思いつかなかったのだろうか?敢えて例を挙げたりはしないが、もっと他にも色々選択の余地があっただろう、例えば"漆黒の…いや、何でもない。

まあ、少々…というか、そこそこ名前には不満があるが、それで登録してしまったというのならば、もう仕方がないとしか言い様がないだろう。


「あ、冒険者登録が済んだみたいですよ!」


「それでは、まず魔法の属性検査を行います!」


受付の女性はそう言うと、先程から机の隅に置かれていた、一見するとガラスのように見える何かがはめ込んである指輪を俺に渡した。

どうやらそれは、指にはめている間、その人の体から出ている魔力を一時的に溜めることが可能な代物らしく、それを利用して属性の検査を行っているらしい。

ちなみに、魔力はその属性ごとに魔力そのものの色が異なっているようで、それをこの指輪によって可視化させて色を見る事で属性を判断しているみたいだ。

そうして俺は受付の女性が軽く説明しているのを半ば聞き流しながら自分の魔法属性に期待を募らせ、ドキドキワクワクと高鳴る鼓動を押さえて、そのまま指輪をはめた。


すると、指輪は俺の指を通るのとほぼ同時に、周囲を包み込むような眩い光を放つ。

そして、肝心の色はというと……黒色だった。


という事は…闇属性!!良いんじゃないか?

これは中々、かっこ…強そうな属性だな。


…だがしかし、俺が自分の属性が判明した事による喜びに浸っているのに対して、受付のお姉さんの方は俺とはまた違った感情を抱いている様子だった。

先程から見せていたその笑顔は何時からかひきつっていて、何だか明らかに微妙そうな顔をしている。


「あの…言いにくいんですけど……闇属性は…全属性の中でも……その…」


受付のお姉さんは俺の様子を伺いながら何かを伝えようとしていたのだが、最後まで聞かなくとも、その話し方とこの気まずい空気で言いたいことは大体分かった。

おそらく、俺が今の今まで当たりだと思っていたこの属性は、全属性の中で"最弱"の"ハズレ属性"なのだろう。

…いや、何で闇属性が弱いんだよ!!

本来ならば上位の強力な属性であるべき(多大なる偏見)闇属性がハズレとか最早この世界そのものに異論を申し立てたいとすら思う気分ではあるのだが、所詮野生のボッチである俺がそんな事をしたら通報されるのが落ちなので止めておく事にした。

そして、そうして自分の思いを必死に抑制している最中、不意に、先程説明にあった"属性はその人の性格や行い等から決められる"という事を思い出してしまう。

そこで俺は今さらながら、遂に自分が神公認の陰キャラとなってしまった事に気付く。

当然、そんな2つの絶望的事実を突き付けられた俺のテンションは、面白いように…とか冗談でも言えなさそうなレベルで一気にどん底まで落ちた。


「ま、まあ、あまりお気ににさらずに、冒険者以外にも職業は沢山ありますよ!」


つまり、冒険者は諦めろと?

彼女は励ましたつもりらしいが、全くフォローになっていないどころが死体蹴りされた気分だ。

しかし、俺は折れた心に自分は魔法"剣士"だから、と何とか言い聞かせ、無理矢理気持ちを切り替えようとする。


「では、あなたの冒険用物資を配布しますね…」


そう言って、棚から色々な服を取り出し、何か考えているようだった。

結果的に、俺に渡されたのは、


昔のRPGゲームの勇者が着てそうな緑色の服、

足元までの長さがある、黒いマント、

いかにも弱そうな、装飾もすらない普通の剣


この3つだった。

全部合わせると安っぽいコスプレ衣装みたいで、これを着ることになるのがすでに憂鬱だった。

というか、ただ剣士と魔法使いの衣装を適当に組み合わせただけの衣装みたいだ。

俺は仕方なく、嫌々その服を受け取る。


「続いて、これをどうぞ」


一枚の紙を受け取る。


「この紙は、"技録紙(アビリティレコード)"という魔法道具(マジックアイテム)で、所持者のスキル、魔法名を記録していきます。この紙に記録された技は、イメージするだけで、いつでも瞬時に発動させることができるんです!」


俺が持つと、紙に何かが書かれていった。初期スキルだろうか?

紙に書かれた技は、次の通りだ



«魔法»

暗黒形(ダークキューブ)

闇包世(ブラックドレイン)


«スキル»

・スニーク A段階


«特性»

別次元を生きる者(ディメンションナード)

黒の支配者(ブラックルーラー)



何か技名が中二っぽい。


「ちなみに、技名は所持者の心理を読み取って、決められます」


受付のお姉さんは苦笑いしながらそう言う。

俺は中二病でもあったらしい。

闇の初期魔法がどれなのかは、何となく分かった。

しかし、気になるのが一つある。

"別次元を生きる者(ディメンションナード)"

これただ二次元好きってだけだろ?

何の能力か気になったが、これはそれぞれが持つ、"固有特性"というもので、世界に一つしかないので、

使ってみないと能力が分からないという。

この中で、唯一まともそうな技は、スニークだけだ。


「スニーク…A段階?すごいですよ!!初期でこんなにランクが高いなんて!スニークのA段階なんて実際に見たのは初めてです!聞いた話によると、存在が道端に落ちている小石のようになり、視界に入っていてもしばらく気付かれないレベルみたいですよ!一体、どれだけ鍛練を積んだんですか?」


興奮気味にそう言ってくる。

俺の存在=道端に落ちている小石らしい。

使えるスキルみたいだが、何だか複雑な気持ちだった。

それに、俺の心の傷をえぐるのはやめてほしいのだが、悪気は無いのだから仕方がない。


「それでは、最後に資金を渡しますね」


資金は、みんな袋にいっぱいに積めた銀貨を渡されていて、中には金貨を貰っている人までいた。

俺はいくら貰えるのだろうか。

あまり期待せずに資金を受け取る。


チャリン


……銀貨2枚。

いや、いくら何でも少なくないか?


「あの…これは…?」


「見込み料です」


前言撤回。悪意しか感じられない。


「それでは、冒険者による指導の手配をしますね」


「では、魔法剣士の冒険者は他にいないし、普通の剣士のスキルも覚えるのもに力が足りないみたいなので、闇属性の魔法使いに説明をうけに行きましょう。最も、冒険者の中での強さは最底辺ですが。」


最底辺とか言うな。


「少し問題のある方なので、私も付き添うことにしますね」


そう言うと、受付を他の人に任せ、俺をその人のところへ案内した。

少し歩くと、ボロい木の家の前で止まった。

ここにいるみたいだ。


「ギールさん!頼みたいことがあるんですが、出てきてくれませんか?」


ドアをノックしながらそう言う。

少しすると、大きな声で怒鳴るような返事が聞こえてきた。


「うるせえ!!俺は鍛練中なんだよ!!帰れ!!!」


さすがは闇属性、色々とひどい。


「頼みますよ!報酬、報酬出しますから!!」


その言葉で、ようやく家の外に出てきた。

なんて奴だ。


「あの、この子に闇魔法のことを教えてあげて欲しいんですけど…」


「仕方ねぇな…おい!そこのガキ!説明してやるからよく聞いとけ!!」


報酬がでると知り、急にやる気になったみたいだ。


「まず、初期の状態から、闇の技が2つあるだろ?」


3つあるんだが…

そう思ったが、口を挟むとめんどくさそうだったので言わなかった。


「よく見てろ、これがこれが闇属性の魔法だ」


目の前に、ビー玉くらいの大きさの黒い立方体が出現した。

これが闇属性の魔法?


「すごいです!前より大きくなったんじゃないですか?」


「ふふふ、鍛練の成果だな」


「あの、鍛練とは?」


「闇属性の魔法は、敵を倒し、器を大きくしても、強くはならないんだ。けれど、俺みたいに一人でずっと休んでいるとだんだん強くなる。俺も最初は砂の粒程大きさしか出せなかったが、4ヶ月間の鍛練で、ここまで大きくする事ができた。」


4ヶ月間も引きこもっていたのか。


「この魔法は、この黒いのの形や大きさを自在に自在に変えることができる、というものだ。」


…え?それだけ?

さすが最弱なだけはある。


「もう一つ、特性の方は、暗いところでも目が見える暗視の効果と、夜の間だけ、身体能力が倍になる効果がある。」


普通の魔法使いだったら、攻撃回避くらいにしか使えないだろうが、

魔法剣士の俺にとってはかなり嬉しい能力だった。


「説明は以上だ。早く報酬を出せ!!」


受付のお姉さんは不満気に袋から銀貨を出す。

ポケットマネーだったみたいだ。

銀貨を受け取ると、ギールはそのまま家に戻っていった。

俺は組合に帰る途中、お姉さんと少し話をした。


「確かに、色々と問題がある人でしたね」


「ええ。でも前に会ったときは、もっとまともな人だったんですけどね」


俺はああならないように気を付けよう。


「他のみんなは、後どのくらいで終わりますか?」


「二日後です」


二日後?

俺は周りより二日も早く冒険者デビューをしていたのか。

というか、闇属性説明する事少なすぎだろ!5分で終わったぞ?


「俺はこれからどうしたらいいですかね?」


「そうですね、とりあえず外に出て、モンスターと戦ってみてはどうです?この辺りは弱いモンスターしかいませんし。スライムあたりが丁度良いと思いますよ!」


スライム。雑魚とはいえ、あの有名なモンスターがこの世界に居ることを知り、

少しテンションがあがった。

まずは戦闘に慣れることが大切だろうし、言われた通りにする事にした。


「ありがとうございます、そうしてみます。」


「では私は仕事がありますので、冒険、頑張ってください!」


組合の前でお姉さんと別れると、俺はあのダサい服に着替え、

町の外に出た。


いきなりの戦闘は避けたいので、スニークを使って少し離れた場所に移動した。

幸い、周りにモンスターの姿はなく、無事に移動する事ができた。

俺は早速、魔法を使ってみる事にした。

"l暗黒形ダークキューブ"!!

心の中でそう唱えると、目の前に黒い立方体が出現した。

しかし、ギールのとは少し違った。

俺が出したものは、段ボールより一回り大きいくらいの大きさはあったのだ。

何故だ?

俺は少し考える。

………

…………

何となく分かった気がした。

おそらく、この黒い物体の大きさは、"心の闇"に比例している。

そう思う理由を説明しよう。

まず、"休むと力が強くなる"これは間違いだろう。

多分、長い期間引きこもることで心が病んでいき、結果的にそうなっただけだ。

そして、ギールの魔法が強くなる前と後での違い。

つまり


強くなる前→まとも

強くなった後→問題あり


という状況からも、そう考えられるのだ。

まあ、これはあくまでも仮説であり、実際に正しいかどうかは別だ。

しかし、もしそうだったとしたら俺はギールより心の闇が深いことになる。

まあ、人生再スタートして初日で職に就けるようなぬるい世界の住人には負けるわけがないが。

いや、この世界がぬるいのではなく、前の世界が鬼畜過ぎたのだろう。


とりあえず、この"暗黒形(ダークキューブ)"は結構使えそうだ。

説明通り、この物体は自分で自在に形を変えることができた。

薄く広げると、壁のようになり、俺の体を隠すことが出来るほどの大きさになった。

強度は分からないが、盾として防御に使えそうだ。


そして攻撃、位置を移動させることはできず、その場で変形するだけなので、

飛ばして攻撃!などはできないのだが、

小さくして、一方向に一気に拡張してぶつければ攻撃になるだろう。

試して見ると、思ったより威力が強く、速度をあげれば岩を砕くこともできた。


そして最後に"闇包世(ブラックドレイン)"。

これは説明になかったが、一体どんな魔法なのだろ…


「キャー!!」


突然、女の子の叫び声が聞こえてきた。

声の方向を見ると女の子が転んでいた。

その子の前に冒険者と思われる剣士と魔法使いの二人組がいて、剣士の方がその女の子に剣で斬りかかっている。

危ない!!

俺はとっさに"暗黒形(ダークキューブ)"を発動させ、剣を止める。


「なにするんだ!!」


剣士が怒り混じりの声で叫ぶ。


「お前らなにしてんだ!女の子に剣を向けるなんて!!」


俺はそいつらの前に立ち、剣を抜いて攻撃態勢にはいる。


二人は不思議そうな顔をした。


「おい、女の子なんてどこにいるんだ?」


「さあ?見当たらないが」


「それより、あいつ俺らと戦うつもりらしいぞ」


「なら、倒した後で話を聞こう。いくぞ!」


相手も攻撃態勢にはいった。

先に相手から攻撃してくる。

魔法や剣は、簡単に防ぐことができた。

この黒いの、強度はかなりあるみたいだ。

剣を振り上げた隙に、腹に蹴りをいれる。

深く入ったようで、何歩か後ろに下がる。


「ぐっ!こいつ、思ったより強いぞ…」


蹴り一発でそんなことを言う。


「だが、まだ負けと決まった訳じゃない!くらえ!俺のスキル!!」


そう言って剣を鞘に戻して掴み、姿勢を低くした。

この距離からは、振っても剣はとどかない。

とすると、おそらく使うのは一気に間合いをつめて斬りかかる技だろう。

剣を持つ手に力が入った瞬間、俺と剣士の間に暗黒形(ダークキューブ)を展開する。

予想通りの技だった。剣士は顔面を思いっきりぶつけて鼻血を出して倒れ、そのまま気絶した。

次は魔法使い。仲間の剣士を倒され、戸惑っている。

俺は"闇包世(ブラックドレイン)"を試す事にした。


「"闇包世(ブラックドレイン)"」


そう唱えると、遠くに小さな黒い球体が出現した。

発射するようなイメージで使ったので遠くで発動してしまったみたいだ。

球体は、あっという間に大きくなり、家と変わらないくらいの大きさになった。

その後は、だんだん小さくなっていき、最終的に消えた。

球体に触れた所は跡形もなく消え、地面が綺麗にえぐれていた。

魔法使いはその光景を眺め、呆然と立ち尽くしていた。

俺が心配になって近づくと、剣士を担いで慌てて逃げていく。


「ひぃぃい!すいませんでしたー!!」


そう聞こえた時には、もう姿が見えなくなっていた。

完全にやり過ぎたな…

そう思ったが今さらどうしようもできない。

女の子に目を向けるとあの二人と同じように、不思議そうな顔で聞いてくる。


「あの…君、もしかして私を助けてくれた…の?」


「…?そのつもりだったけど?」


「それよりお前、なんであいつらに襲われてたんだ?」


「何で?と言われても…私がスライムだから?」


「?」


聞き間違えたのだろうか。

この子がスライム?そんなわけないだろ。


「つまり、どういうこと?」


「だから、スライム、魔物のスライムだよ!」


「……もしかして信じてない?本当だよ?ほら!スライムジェルとか出るし!!」


女の子の手からボタボタと何かが落ちる。

これがスライムジェルらしい。

本当にスライムなのか?

この子が嘘をついているようには見えなかった。

だが、スライムだとしても、なぜこんな姿に?

この世界の魔物は全部こういうものなのだろうか?

いや、そうじゃない。さっきの二人組に女の子は見えていないようだった。

しかし、どう見てもただの可愛い女の子にしか見えないので、とてもスライムとは思えない。

ただ、水色のワンピース、水色の手袋、水色の靴に水色のベレー帽という異様な服装だったため、普通の女の子というより、二次元のキャラという感じが……


俺は気付く。


この現象は、

"別次元を生きる者(ディメンションナード)"

俺が持つこの"固有特性"が原因ではないだろうか?


ということは、この特性の能力は、モンスターを擬人化し、二次元キャラっぽくすること……だけ?

なんというクソ能力!使えないにも程がある。

全てが繋がり、状況はだいたい把握できた。つまり、俺がさっき戦ったのはスライムを狩りにきただけの善良な冒険者だったらしい。完全にやってしまった。


だが、そんなことより、もっと重大な問題がある。

擬人化しているモンスターを倒すという行動は、俺にとっては人殺しと変わらないのだ。

もちろん、この俺にそんな事はできるはずがない。

つまり、全てのモンスターが擬人化しているとすると、俺はこれから一生"モンスターの討伐"なんて事はできず、何とかして力ずくで言うことを聞かせるか、説得をするしかないのだ。

他の冒険者に比べて俺だけ難易度高くないか?

ゲームでは大抵、狩猟より捕獲の方が難しい。


「あの…大丈夫?」


考え込んでいて、この子を完全に放置していた。


「ああ、何でもない。」


「それならいいけど。それよりさっきのあの魔法は?」


"別次元を生きる者(ディメンションナード)"の衝撃(インパクト)が強すぎて忘れていたが、あの"闇包世(ブラックドレイン)"もかなり異常だった。

もし、近くで発動させていたら、自分もろとも全員飲み込まれていただろう。

人はもちろん、モンスターすら殺す気のない俺にはこの魔法の使い道がなかった。

脅しに使えるか、とも思ったが、危険過ぎるのでこの能力はもう使わない事にした。


「さっきの事は忘れてくれ」


「君がそう言うならそうするけど…。それより、自己紹介がまだだったね!私はスライムのマリムだよ!よろしく!」


「俺は内灘 静人(うちなぎしずと)だ。よろしく」


「まさか人間に助けてもらえるなんて…静人君!君は私の命の恩人だよ!」


まあ、確かに命は救ったのだが、

このままでは、また他の冒険者に狙われるだろう。

というわけで、このスライムに少し稽古をつけてやる事にした。


「マリム、お前今まで冒険者に何回勝った事がある?」


「一度も無いけど?」


一度も?…まあいい。


「何で勝てないと思う?」


「何でって…私が弱いから?」


「それもあるが、そうじゃない。お前が負ける理由…それは技だ!!」


「技?」


「そう!技!スライムの攻撃手段って、体当たりぐらいしか無いだろ?」


「それはかなりの偏見だけど…確かにそうかも!…でも技って言ってもどうすればいいの?」


「自分で作り出すんだ!格ゲーみたいにコンボ攻撃とかでもいいぞ?」


(…『カクゲー』って何だろう??)


「いきなり言われても…うん、思い付かないや!」


はっきりそう言う。本当に考えてるのか?


「じゃあ俺が教えてやるよ。まず、そのスライムジェル。遠くに飛ばせるか?」


「出来るよ!ほら。」


手からジェルを出して投げ飛ばした。

飛距離はそこそこあるみたいだ。


「それを相手の顔にぶつければ視界を奪えるし、周りにばらまけば動きを制限できる。今度はジェルを体と繋げたまま投げてみろ。」


マリムは頷いて、言われた通りにする。


「そのまま体を変形させて全身を向こうに移動させ、背後に回り込む。そして後ろからジェルで頭を包めば相手は窒息するだろ?」


「俺が思い付くのはこのくらいだ。後は自分で考えろ」


「なるほど…!ちょっと試してくる!!」


そう言って、近くにいた冒険者の所へ走っていった。

マリムは冒険者と会話をしている。俺だけが魔物と話せるという訳では無いようだ。

まあ、中には人間と取引をする魔物もいるだろうし、人の言葉を話せるのはあまり不思議ではなかった。

早速、戦闘が始まる。

俺は、何かあったら助けに入ろうと思っていたのだが…

決着はあっという間についた。マリムの勝ちだ。

冒険者は窒息して気絶している。

まさか、スライムがあんな攻撃をしてくるとは思わなかったのだろう。

駆け出し冒険者君、御愁傷様。


マリムが嬉しそうな顔をしてこちらに走ってくる。


「すごいよ!静人君!!私、人間に勝つなんて一生できないと思ってた!!」


「そうか、そりゃ良かったな」


正直、あそこまで上手くいくとは思っていなかったが、おそらくスライムが最弱だったからこそ倒せたのだろう。

油断は禁物だと改めて思う。


「それじゃ、俺はそろそろ帰るよ」


辺りはすっかり暗くなっていた。

特性、"黒の支配者(ブラックルーラー)"も試すつもりだったが、さすがに疲れたので、それはまた今度やることにした。


「そっか!じゃあ私もそろそろ帰ることにするよ!」


「今日は本当に色々ありがとう!!それじゃあ、またね!」


「ああ、またな!」


これが友達というものなのだろうか。

友達ができたことのない俺には分からない。


町に戻ると、今夜、泊まる場所がないことに気付いた。

組合で話を聞いてもらうと、特別に休憩室を使わせてくれることになった。

俺は床に寝転がり、目を閉じる。

長い一日だった…。

今日一日で色んなことが起こりすぎて、まるで夢でも見ているような気分だった。

今頃、あっちの世界はどうなっているだろうか。

そんなことを考えている内に、いつの間にか眠ってしまった。


こうして始まった俺の異世界生活。

少し異常な所もあるが、それでも俺の心は明日への希望に満ちていた。



執筆中に知ったことなんですが、なろう小説読んだ事無くて『クラスごと転移!!』って良いアイデアだと思って書いていたら、もう既になろうでは結構メジャーだったみたいですね…

ありきたり設定になってますが、意図的にやった訳ではないですよ?←(重要)

気付いた時には、時既に遅しってやつですね!分かります!

ちなみに次の投稿は今週末か来週あたりになると思います。

次回も頑張って書くので、是非見に来て下さい!


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