第二話 郷に入っても従いたくない郷もある
刺すような冷たい空気を感じ目を開けると、そこは夜の草原だった。どうやら俺は地面の上で気絶していたようだ。
「あの女神適当な所に送り出しやがったな⋯」
そう言いながらゆっくりと体を起こし当たりを見渡すと、遠くにうっすらと明かりが見える。誰かが火を焚いているらしい。
「もしかして第一村人発見ってやつか?とりあえず行ってみるか」
そう言って近付いていくと、人らしきシルエットが徐々にはっきりとしてくる。その数全部で6。が、どうやら普通ではないらしい。
「おいおい、なんでこんな草原で盛ってるんだ」
本当に最悪である。なんとそこではウサギもビックリな青姦パーティーが行われていた。この世界ではこんなのが当たり前なのか。
この中に突っ込んで話しかける勇気は童貞歴23年の俺には無いので早々に退散しよう。
そう思い回れ右をしたのだが、草が湿っていたためか思いっきりこけてしまう。
「⋯⋯誰だ!」
──ヤバい見つかった。
こんなところで性欲をたぎらせてるやつの精神はどう考えてもまともじゃないので、ここは逃げるコマンド一択。ある程度離れればこの暗さなら撒けるだろう。50メートル9秒をなめるなよ。
「申し開きはあるか?」
「──私は何も見ていません」
後ろから炎の玉が飛んできて前に着弾し、逃げ場を失った俺はあっさり捕まった。というか一般人に向けて魔法とかズルじゃない?お母さんはそんな教え方してませんよ!ぷんぷん!
いらん考えをしていると首筋に冷たいものが当たった。目を開けるとそれは太い♂剣らしきもの。
捕まった俺は現在手を後ろで拘束され正座させられその回りを7人に囲まれている。くっさいからそれ以上近づかないでもらえますかねえ。
「普通の人間はこんな時間に草原の真ん中でうろついたりしないんだよ!まさか盗賊か?」
そう言って目の前の金髪サラッサラの男──適当にモブ男Aとする──の持つ剣に力が込められる。
まずい。この現状をなんとかしないと折角もらった2度目の人生が何もせず幕を下ろすことになる。
どう誤魔化すべきか迷っていると、パーティーメンバーの赤い髪の女──モブ美B──が口を開いた。
「もしかして貴方、別の世界から来た人?」
──はて?俺はこいつらと出会ってから自己紹介でもしただろうか。それともあのクソ女神の根回しか?
「この世界で黒い髪と黒い目を持ってる人って希少なのよ。で、前に会った黒髪の人が『俺は異世界から来たんだー』って叫んでた気がするから」
「ええそうなんです!気付いたら草原に倒れててですね⋯⋯明かりのついてる方に来たら皆様と遭遇した次第です」
「っ⋯⋯!てめえ!やっぱり見てんじゃねえか!」
「ひぃっ!」
首元に更に剣が強く当たる。⋯⋯やべ、ちょっと漏れた。何とは言わんが。
「まあ待ちなさいって。異世界から来た人なら盗賊じゃないんだし離してあげたら?」
おお、サンキューモブ美B。お礼にもれなく今俺が履いてるパンツをやろう。漏れてるけど。
「っちッ!それもそうか。おい!さっき見たことは絶対誰にも言うなよ!」
「はいィ!」
モブ男Aは俺の首筋にあてがった剣を離し、一発蹴ってきた。その蹴り今必要だった?
「ここから向こうの方にまっすぐ行ったら大きな街があるわ。それじゃあね。」
モブ美Bは最初から最後まで優しかった。こんな美女でいいやつがあのぱーちーに参加してたとは、世の中何があるか分からんね。
そして7人は焚き火の方に戻っていった。こうして俺の第一異世界人との邂逅は最悪な形となったのである。
「⋯⋯手首の縄ほどいて貰ってねえじゃんか!忘れてた!」