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第一話 お金と女神と異世界と

 酷く寒い冬のある日、此処日本で一人の青年が町を歩いていた。


 周りを見渡すと街のいたる所にカップルの姿が見受けられる。しかし、その青年の姿はそのような街には不釣り合いだった。ボサボサの黒い髪にくたびれたジャージ── そんな彼の手には、1枚の宝くじ券があった。それは彼の唯一の趣味と言っていいもの。


 彼は一般的に『ニート』と呼ばれる職についていたが、勿論そんな彼に社会からの風当たりは強い。どうしてその宝くじを買うだけの金を身の回りの生活に充てなかったのかと言いたくなるが、それを聞いたとしても彼は間違いなく「男のロマンだから」と一般人にはおおよそ理解できない答えを返すだろう。


 そんな青年は現在心を昂らせて宝くじ販売所に向かっている。もともと注意力散漫なのか今日が宝くじの結果発表の日で浮かれていたのかは、今となっては分からないうえにどっちでもいいようなことだが、そんな彼は、足下のマンホールの蓋が外れていることに欠片も気付かず、そのまま穴に落ちて──────死んだ。






「此処は⋯⋯?」

 目を開けると、そこは真っ白な空間。その中に1人、超絶美しい女の人がこちらを見て微笑みながら佇んでいた。周りの風景の異常さに驚きながらも、なんとか声を出して話し掛けてみる。

「あの⋯⋯ここは何処ですか⋯⋯?」

「ようこそカネコ ケンジさん。私は女神フランと申します。」

 女神⋯⋯?自分の想像を遥かに越える自己紹介をして来た謎の生命体にさらに驚愕する。いくら美形だからといってついていい嘘と悪い嘘があるんだが。

「嘘ではありませんよ。貴方は街中で⋯⋯足下のマンホールに⋯⋯ぷぷっ」

 自称女神はこっちを見て肩を震わせている。

「あっはっはっはっ!もう我慢できない!あんな死に方する人間初めて見たわ!あっはっはゲホッゲホッ」

 あーなんか思い出してきた。確かに落ちたところまでは覚えてるけど俺ってあれで死んだのか情けない。それにしてもこいつ初対面の人間に失礼すぎるだろ⋯⋯


「⋯⋯それで此処は死後の世界か?」

 彼女はひーひー言いながらその問いに答える。

「ええ⋯⋯そうよ。私はお金の神様フランって言うの。本当は死んだ人間に興味なんてないんだけど、実は貴方が握ってた宝くじが3億円当たってたからこっちに呼んだのよ⋯⋯あーまだお腹いたい」

 マジかあれ当たってたのか。本当に死んでも死にきれねえなこれ。

 そんな思いを知ってか知らずか、彼女はこんな提案をして来た。

「あなたはずいぶんお金に執着してるみたいだから後悔してると思って。もしあなたさえよければ、別の世界─まあわたしの管理する世界なんだけど─でやり直してみない?」


 ──今何て言った?異世界でやり直せるって本当か?

「おいそれって本当か?」

「ええ本当よ。でもただって訳にはいかないわ。私もついていくから、定期的にお金を納めて欲しいの。貴方は人生をやり直せるし、わたしは大好きなお金を貰える。どう?一石二鳥じゃない?」

 それはあまりに魅力的な提案だな。日本に家族はもういないし未練も殆ど無い。この提案に乗ってやろうじゃないか。


「──よしわかった。そっちの世界に行ってやろう。それで?俺はどんなスキルや特技を貰えるんだ?」

 こういう異世界転生モノにありがちなアレである。出来れば空間転移ーとかアイテムボックスーとか便利なのが欲しいが。

「え?そんなんないわよ?あ、でも、流石に向こうで生きていけなくなると思うから言語スキルだけはあげるわよ」

「え、マジ?」本当に何もないの?

「マジマジの大マジよ。もう聞きたいことはないわね?それじゃあとで合流しましょ、さようならー」

 その瞬間俺の足下が軽くなる。

「ちょっとまってくれだあああぁぁ──」

 そう言いながら穴に落ちて行き、俺は意識を失った。


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