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4月10日の日常
春は嫌いだ。
理由なんてない。ただなんとなく嫌い。
だけど学校までの通学路、歩道の脇に咲く桜は少しだけ好きだ。
春を告げるピンクの花弁を見つめる。
「ぼさっとしてると遅刻すんぞ。」
「わっ?!」
突然叩かれた肩に振り向けば、そこには爽やかに笑う唯我祈が立っていた。
「ほら、さっさと歩けって。」
祈に背中をバシッと叩かれて、止めてた足を動かす。
祈は俺の数歩先を歩く。
この間、桜を眺めてたら10分も経ってました。みたいなことがあったからか、祈は俺に合わせるように登校の時間を変えた。
俺は構わない、って言ってるのに。
「おーい!伊澄?遅刻するって言ってるだろ!」
「ごめんごめん!今行くから。」
足を止めた俺に、また祈が叫ぶ。
祈の後を追うように、歩道を走った。
「早くしろよっ!お前走るのもおせーんだから。」
「っ、悪かったな、遅くて!」
4月は嫌いだ。
毎年来るはずなのに、心にぽっかり穴があいたみたいな気持ちになる。
大切な何かを忘れてる気がする。
何か分からないけど、大切な何かを。
忘れてるんだ。
……大切だった、はずなのに。