蝶になりたかったわたし
いつか絵本にできたらいいなと思って書いた作品です。少し寂しい気持ちになるかもしれませんが、最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。
ああ
なんて美しいのだろう。
春の風にひらひらと舞う、薄く透き通るような羽。
きらびやかなアゲハ、あたたかなお日さまのようなモンシロ蝶、はたはたと飛び回る可愛げなシジミ蝶。
毎日見ているだけで、飽きることがない。あんな風に飛ぶことができたらなぁ・・・どんなに気持ちいいだろう。
なのに私は。
昨日も、とうとう我慢できなくなって、あの美しい羽を捕まえてしまった。
そして、むしゃむしゃと。
貪り喰ってしまった。
それはそれは、美味しかった。見た目以上に、それは私を満足させるものだった。
綺麗な羽を目の前にしながら味わう餌は、私を複雑な気持ちにさせた。
私は、こんなに醜い姿で、綺麗な蝶を貪り喰うことしかできないのだ。
全身はトゲトゲしていて、緑色の体で、綺麗な羽もない。こんなに大きな鎌があって、怖くて誰も近づいてもくれない。
私は・・・私は蝶に生まれたかったんだ。
私だって飛べなくはないんだよ。
でもね、蝶みたいに、ふわりふわりと、優雅に舞うことはできないんだ。春の風に乗って遊んでるみたいには・・・。
草のかげに隠れている毎日はもうたくさんだ。
でも、きっと、生まれ変わっても、私は蝶にはなれない。もう、何匹蝶を食べたかな。私は蝶の敵だから、魂になっても、やっぱり蝶とは仲良しにはなれないね。
一度でいいから、春の香りに包まれて、春の風に乗ってダンスを踊ってみたい。
私のたったひとつの夢。
蝶になれない、醜い私の夢。
神様お願いします。
私はもう死んでも構いません。
だから、最後に一度だけ、私に蝶の羽をください。
春のダンスを教えてください。
できたら、ちょうちょさんたちと一緒に踊らせてください。
春の風を感じさせてください。
神様お願いします。
そうお願いすると、私の体はふわりと宙に浮いた。
でも、それは蝶の羽が生えたのではなくて、恐ろしいことだった。
大きな大きな動物の手が私を捕まえていた。
人間だ。
「カマキリ捕まえた。」
「これって、お腹踏んだら何か出てくるんだぜ。」
私は地面に叩きつけられ、お腹を踏んづけられた。
何度も、何度も。
怖い。痛い。
痛いというよりも、重たい感じ。
私の意識はどんどん遠くなっていった。でも仕方ないよね。私が食べてきた蝶たちはきっと、こんな思いをしてきたんだ。ごめんなさい、ちょうちょさんたち。
知らないあいだに私は眠っていたみたい。目が覚めた時には体が軽くなっていた。
ふわっと、風に飛ばされそうになる。
私、飛んでる。
もしかして、蝶になって・・・ないか。
これから天国にいくんだね。さみしいな。
でも、はじめて、春の風を感じる事ができた。
羽はないけれど、蝶みたいに、ちょっとダンスの真似をしてみる。
ふわりふわり。ターン。
ちょこんちょこんってステップ。ターン。
こんな感じ・・・かな?
誰も見ていないけど、ちょっと照れるね。
ふわふわあたたかで気持ちいい。
体はどんどんお空に上っていく。
さよなら、蝶になりたかった私。
こんにちは。読んでくださりありがとうございます。いかがでしたでしょうか?蝶を夢見る蟷螂のお話でした。私の自己投影でもあります。平和に生きたいなぁ。