第82話 彼女が持つ問題 (クルビス視点)
ザクザクザクッ
ポムの落ち葉を踏み締めながら、感触で落ち葉の量に変化は無さそうだと確認する。
そのまま進みながら、周りを透視して魔素の乱れが無いか確認していく。
…これまでも、落葉が目立つくらいでポムの木の魔素に乱れたとろこは無かった。
ハルカが最初にいた場所とドラゴンを見たという場所に行くまではわからないが、今の所は大丈夫そうだ。
周りに注意を払いながら、ハルカのことを考える。
リードから以前聞いてはいたものの、こうして目の前で彼女の反応を見ると、耳が利かないというのがかなりのものだとわかる。
シーリード族なら、先程の距離くらいなら個立ち前の若者でも難なく『時の鐘』を聞くことが出来る。
もちろん種族・一族によって音を聞ける範囲は違ってくるため、ハルカの耳の利く範囲が狭くともそれ自体が問題にされることはないだろう。
街中でのハルカは周囲の店に興味を持っていたし、出会った住民たちにも嫌悪はなく、物珍しそうにしていた。
ヒト族しかいない世界にいたと言っていたが、身元を保証され、生活に必要な知識さえ得られれば、ルシェモモに住むことは問題なさそうだ。
だが、『時の鐘』が聞こえないとなると、住める場所が限られてくる。
『時の鐘』とは、1時ごとに鐘を鳴らし、住民に時刻を知らせる鐘のことだ。
時計もあるが、あれは室内にしか置けない。そのため、外で仕事をする者たちや作業に没頭しやすい技術者たちのためにこの鐘が鳴らされるようになった。
街の真ん中には通称『大貝』と呼ばれる大きな建物があり、その前に時計塔が設置されている。その時計塔の最上部に『時の鐘』は設置されている。
鐘は昼用と夜用の2種類あって、時刻の数だけ鐘は鳴らされる。先程の場合だと、昼の鐘で3回鳴らされていたから時刻は「昼の3刻」になる。
もともと、深緑の森の一族が時計を持ち込むまで「時刻」という概念は無かったと聞いている。
しかし、街が大きくなるにつれ、どの種族・一族でも過不足なく仕事と生活が出来るようにとルシェリードの祖父さんが時刻を使うことを提案したそうだ。
当初は反対もあったが、今では仕事の始めと終わりだけでなく、待ち合わせや治療所の予約など生活のいたるところで時刻は活用されている。
そのため、住民は各自、鐘の音が聞こえる場所に住むのが基本となっている。
おそらく、ハルカは中央地区に住めば音は聞こえるだろう。
耳の弱い住民は大体中央で暮らしているからな。
だが、中央で生活するとなると、読み書き計算がかなり出来なくてはならない。
しかも、時計塔に近づけば近づくほど、求められる能力は高い。
ハルカは聡明だとリードは言っていたが、こちらの文字までは知らないだろう。
最低でも2種類の文字をこれから覚えてもらわないといけないだろうな。




