第81話 彼女の様子 (クルビス視点)
単語解説
時…時間。1時は1時間のこと。
刻…時計の時刻。昼の3刻は3時のこと。
「何か気になる所でもあるのか?」
俺が聞くと、ハルカはゆるく首を振って違うと伝えてくる。
先程の空の話をした時と違って、表情を見ても特に驚いた様子もないし、緊張した感じも伝わってこない。
「いいえ。周りを見てみましたが、私の記憶とこの辺りの様子で変わった所はなさそうです。」
声もいつもの調子だ。大丈夫なようだな。
周りの様子を観察していただけか。
ホッとして、少し止めていた足をまた動かす。
少し話しては、また周りに注意を戻す。そんなことを繰り返しながらハルカの話を聞くのは、思ったより楽しいものだった。
出来れば、俺の方を向いて俺だけに意識を向けて欲しいのだが、今の状況ではそうも言っていられない。
ハルカが熱心に周囲を見回すのを眺めながら、俺も彼女を見習って周囲の魔素を探ることを再開する。
先程から、いや、この森に入った時から、ハルカは常に周りに注意を向けていた。
何のためについて来たのか、ということをよく理解しているんだろう。
会った時の彼女の状態を考えれば、本来は頼むべきではない。
だが、彼女自身の提案もあってついて来てもらうことにした。
魔素の回復の速さと俺との安定した共鳴、また、しばらくは部屋からもろくに出してやれないこともあって、リードも許可を出した。
任務のついでという形だが、彼女を外に出せたのは良かったと思う。
「そうか。何かあれば言ってくれ。それまでは今の速さで移動する。」
ハルカは俺の返事に頷きを返し、また周囲をきょろきょろと忙しなく見回している。
少し焦ったような感じを受ける。
…もしかして、さっきの話を気にしているのか?
確かに暗くなる時は一気だと言ったが、日暮れまで4時はある。先程も昼の3刻を告げる鐘の音が…。
そこまで考えて、リードの話を思い出す。
「ヒト族は単体ではそれほど力はありません。目も耳もあまり利かず、夜になると身動きもとれないそうです。
身体の作りも弱く、屋根から落ちただけで死んでしまうこともあるのだとか。」
そうか。暗くなると動けなくなるんだな。だから焦っているのか。
しかも、ハルカの様子をみる限り、ハルカには『時の鐘』が聞こえなかったようだ。
成る程。
それで日没の様子を聞いてきたのか。
納得すると同時に、ハルカのことが心配になる。
これほど感覚が弱いとなると、身元が保証されても生活するのが難しいかもしれない。
マズいな。中央で生活させることになるだろうか。
…リードに相談してみよう。




