第80話 空の色
「ああ。いきなり知らない世界にいたんだ。そのことを把握するだけでも、かなり時間がかかるだろうと思っていた。」
ああ。まあ、普通はそうですよね。
私の場合は空の色とラノべのおかげで、事態を把握するのは早かったからなぁ。主にラノベのおかげで。
「普通はそうでしょうね。私の場合は、好きだった本のおかげなんです。」
納得して頷くとクルビスさんが不思議そうにする。
「本?どんな本なんだ?」
「物語なんですけど、ある日違う世界に行って、そこから冒険が始まるという話です。空の色が違うとわかった時にその本を思い出したんですよ。」
かなり端折ったけど、大体そんな感じだ。
まあ、冒険する場合って召喚や転生のパターンが多かったから、私の場合にはあてはまらないんだけど。
「そういう物語があるのか。どうりで…。ハルカの故郷の空はどんな色なんだ?」
クルビスさんを見上げながら空を見る。
木々の隙間から見えるミントグリーンが目に鮮やかだ。
「青です。青といっても明るい青色なんですけど。時間帯によって赤や紫に色が変わります。」
紫色は日の出前の少しの時間帯だけみたいですけどね。
クルビスさんの方に顔を戻すと、驚いているようだった。
「そんなに色が変わるのか。ここでは日が暮れるまでは空色のままだ。」
空色?…ああ。ミントグリーンは空色ですもんね。
空の色が変わらないのかあ。じゃあ、時間の経過もわかんないんじゃないの?
「そうなんですか。それじゃあ、朝方とか夕方とかってはっきりわからないんですか?」
私が聞くとクルビスさんはゆっくりと歩き始めながら答えてくれた。
そういえば、止まったままでしたね。
「日の出と日の入りの前後には空の色が薄くなる。それから段々と暗くなっていったり、明るくなっていったりするな。」
色の濃淡だけですか。それはわかりにくいですねぇ。
夕焼けとかないってことですもんね。
「それじゃあ、気が付いたら夜になってたっていうこともあるんですか?」
「そうだな。だから、暗くなり始めると一気に夜になる。」
えええ。それはやだ。特にこんな森の中でとか。
急ぎましょう。ええ。ホントに。
「フッ。大丈夫だ。俺の足なら日暮れまでには森の入口に戻れる。」
私が焦っていると、クルビスさんが噴き出した。
声をあげて笑う時は首を上に向けるんだっけ。さっきは噴き出した時に軽く上を向いただけだったけど、まだおかしいのか喉が震えている。
もう。ビックリしたじゃないですか。
日暮れまでには戻れるんですね。一安心です。
でも、考えてみれば、初めてクルビスさんと出会った場所にだってあっという間に着いたし、そこからここまでだって、おしゃべりしながらなのにかなり短い時間でたどり着いた。
そのスピードで移動するなら、クルビスさんの言う通り日暮れまでには戻れるだろう。
本当はクルビスさん1人ならすぐに行って帰ってこれるんだろうなぁ。
初めて会った時もものすごい速さで走ってきてたし。
今は私がいるから手加減してくれてるんだよね。
一緒に連れて行ってくれてるのは、私が道案内役と検分役を兼ねてるからだ。
よし。お仕事がんばらないと。
これまでと同じように、枝に刺した葉っぱを見つけては、枝の周囲から根元までを大まかに観察する。
これまでもそうだったけど、特におかしいところも目につくところもないようだ。
クルビスさんの言ってた落ち葉が多いってことくらいかなぁ。
首を傾げていると、クルビスさんが声をかけてきた。
あ。笑いおさまりました?




