第78話 会社
進み始めていたのにまた止まってしまっている。
何かあったんですか?
「ハルカはやはり技術者じゃないのか?」
えっ。なんでここで技術者が出てくるんでしょう?
理由がわかりません。
「技術者…ですか?」
こっちでの技術者は職人さんって意味も入ってたよね。
私も「染物の技術者か」って聞かれたことあるし。
もの作りの仕事の人はみんな技術者なんじゃないかな。
でもやっぱり理由がわからない。
(今の会話の流れで、どこに私を技術者だって思う要素があったんだろう。…無いよね?)
考えても答えが出ないので、聞いてみることにする。
「あの、どうして私を技術者だと思われたんですか?」
全然わからないんですけど。
すると、クルビスさんは少し考えてから話し始めた。
「…落ち着いているし、謙虚で真面目。自分の持ち物にこだわりがあるし、周りの物に興味が強い。自分の評価に対して冷静で客観的な判断を持っている。
…そういうところがな。技術者の特徴というか気質と一致している。」
こちらの職人気質ってことですか?
何だかすごく良いように言ってもらえたけど、半分は日本人気質というか、生まれ持った性分というか…もともと持ってたものと育った環境で培われたものだからなぁ。
持ち物や周りの物にこだわるのは仕事柄だし、社会人になって結構経つから、さすがに落ち着きは身に着けたと思いたい。
自分の評価というか…実力というものはよく理解していると思うけど…。
仕事をする上で、自分の力量以上のものを引き受けると痛い目に合うのはよくわかってるからなぁ。
(ふーん。私の言動はこっちの職人気質に当てはまるわけだ。でも、違いますって言っ…たけど技術者じゃありませんって言ってないや。)
「染物の技術者か?」って聞かれて「違います」って答えたんだもんね。
それじゃあ、『染物の技術者』っていうのを否定しただけだ。私が技術者じゃないってことにはならない。
「そうなんですか…。でも、私は技術者ではありません。雑貨を扱う会社の社員です。」
「かいしゃ?それはどういうものなんだ?」
クルビスさんに技術者ではないとはっきり言うと、別の質問が返ってきた。
会社が無いんだ。どういう風に説明しようかな。
(街にはお店もあったし、物を売る商売はあるよね?
雑貨については聞かれなかったから、それは言葉としてもそれを売る商売としてもあるんだろうな。)
来るときに通ってきた場所を思い出しながら考える。いろいろなものを扱うお店がたくさんあった。
とりあえず、どういう形態の商売なのか話してみようか。
「えっと、会社というのは、個人…個体でしょうか?…の商売の規模が大きくなったものです。
私の働いていた会社は、幾つか雑貨を扱うお店を持っていました。雑貨と言っても、可愛い柄の入ったお皿やカップなど、どちらかというと女性向けの商品を扱っていました。」
クルビスさんが興味深そうに聞いている。
ここまでで質問はなさそうだ。良しっ。通じてるっ。
「仕事も分かれていて、それぞれに担当者がいたんです。
お店で販売をする人とお店に並べる商品を用意する人、商品の宣伝をする人、新しい商品を探して会社に報告する人、技術者の方と協力して新しい商品を開発する人…。
幾つかかけ持つ場合もありましたが、皆がそれぞれの仕事をこなすことで、商売を成り立たせていました。」
他はどうか知らないけど、うちの会社はそうだった。
小さい会社だったから、営業の人が開発から担当する場合もあったし、私みたいに商品の企画を出して開発と広報を担当する場合もあった。
だけど、基本的にそれぞれの担当分野があってチームを組んで企画から販売までを手掛けていた。
「…成る程。それは、こちらで言う『商会』のことだな。」
しょうかい…ですか?
しょうかい、しょうかい…ああ、『商会』っ。
成る程。『~商会』っていうのが会社にあたるわけですね。
じゃあ、個人のはなんていうんだろう。『商店』かな?
「個体単独で商うのを『小売り』。個体で店を構えるのが『商店』。多くを金で雇って手広く商うのが『商会』だ。」
私が商会の意味を理解して納得していると、クルビスさんが補足説明してくれた。
ありがとうございます。よくわかりました。




