第76話 別れ道
ザクザクザクッ
クルビスさんが進む間に周りの景色を見ていく。
見ると言っても、私が目印にしようと葉っぱを刺した木の枝とその周りをチェックするだけだけど。
正直なところ、朝の時は歩き始めて1時間もすると、延々と続く同じような景色に飽きていた。
だから、周りなんてあんまり見ていなかったんだよね。
憶えてるのは枝に葉っぱを刺したことくらい。
それも、全部ポムの木だから、どれがどれかなんてわからない。
それでも、朝の時間にこの道を通ったのは私だけ。見ないわけにもいかない。
とりあえず、葉っぱを刺した枝なら何か変わったことがあれば目につくだろうとチェックしているというわけ。
クルビスさんの歩く速度が速いから、大体しかわからないけどね。
クルビスさん、ホントに歩くの早いんだよね。
日暮れ前に私が最初にいた場所に着きたいっていうのもあると思う。
私の遅い足でも5時間歩いた道だもんね。結構な距離だ。時間もそれなりにかかる。
だから、私、今クルビスさんに抱えられてるわけだし。
でも、歩いてるだけでこの速度ってすごいと思う。
まあ、クルビスさんは背が高いから、コンパスは当然違うよね。
だけど、それだけじゃなさそう。
素人見だけど、身体の動かし方が素早くて無駄が無い感じだ。
実際そうなんだろうな。
私がそんなこと考えながら周りを見ている間も、クルビスさんの歩く速度は変わらない。
どんどん進んで、前方左手に別れ道が見えてきた。もうここに着いたんだ。
「あそこが別れ道ですね。」
私が声をかけると、クルビスさんがそちらに顔を向ける。
別れ道のところに来ると、そこで立ち止まって降ろしてくれた。
(助かった~。抱えられたままなのも結構しんどかったんだよね。)
腰を伸ばして、身体をほぐす。
クルビスさんは隣に立って別れ道の方を見て言う。
「この道が深緑の森の一族の里に繋がっている。リードの故郷だな。」
この道がエルフの里に…。最初見た時は薄暗いからってパスしたんだよね。行っても良かったかも。
こっちも見てみたいなぁ。
(でも、ラノベみたいに結界とか張ってたりするのかな。入里制限とかありそうだけど。)
エルフの里といえば、秘境と言っても差し支えないほどたどり着くことが困難な場所だ。少なくとも私の中では。
それにつながる道があるって…夢じゃないよね?
ああ。さっきから興奮が止まらないんだけどっ。
ドラゴンの集落にエルフの里って、言葉の響きが素敵過ぎるっ。
「リードに頼んでみればいい。そのうち連れて行ってくれる。」
クルビスさんに苦笑しながら言われました。
そんなに行きたそうな顔してました?
(しばらくこっちにいることになるなら、お願いしてみようかな?でも、今は無理だよね。気温が下がったせいで、街が混乱してるみたいだし。)
落ち着いたころにお願いしてみよう。
フェラリーデさんなら考えてくれそうだし。
「はいっ。フェラリーデさんにお願いして見ます。」
私が元気よく答えると、クルビスさんが笑う。
それから、すぐに何かに気付いたように話し始めた。
「…そういえば、さっき、ハルカはリードをフェラリーデと呼んでいたな。できれば、外ではリードと呼んでやってくれ。」
リードって、愛称ですよね?
私がいきなり呼んでもいいものでしょうか?
「フェラリーデというのは、シーリード族では女性名なんだ。リードの故郷ではどちらでもいいらしいが、あの容姿だから間違えられることも多くてな。今はリードで通している。」
ああ。名前って地域や文化によって読み方や意味が違ってきますよね。
確かに、フェラリーデさんって麗しいお顔してるもんね。誤解とかされるかも。
私が理由に納得して頷いていると、クルビスさんが不思議そうな顔でこちらを見ていた。
何です?
「…ハルカはリードを男だとわかっていたのか?」
ええ。男性だと思ってました。
すごく綺麗なエルフだなって思いましたけどね。エルフが美形ぞろいなのは定番ですし、ラノベによっては麗し過ぎて性別がわかりにくいパターンもありましたから。
「はい。最初はわかりませんでしたけど、お話ししてるうちになんとなく男性だろうなって。」
私が答えると、クルビスさんが少し驚いたような顔をして、何かに納得したかのように頷いていた。
「ハルカは物事の本質を見るんだな。たいがいのやつはリードを見て女だと思う。」
あ~。そういうのってよくありますよね。
見た目だけで判断されるのって。困ることもありますよね。




