第75話 小さな異変
「寒い…ですか。あの時は早朝よりは気温が高くなってましたけど…。」
えーと。ポムの実のある場所でだから、歩いて2・3時間くらい経ってたよね。
日が昇ってだいぶ経ってたから、寒いって感じじゃなかった。
その時には上着は脱いでたし。シャツの袖はまくってなかったな。
コートはこっちに来てすぐに脱いだから、来た時も気温は結構高かったと思う。
銀のドラゴンが通り過ぎた後はまた上着を着たから、ここに来てすぐくらいの気温になったってことかな。
そこまで頭に浮かんで考え込む。
(でも、その早朝の気温がこっちでは考えられないくらい低い気温だったんだよね?
私の感覚で答えても正確に伝わらないだろうなぁ。どうしよっか。)
言葉の壁ならぬ、感覚の壁だ。
この壁はかなり厚いと思う。これからもぶち当たるんだろうなぁ。
そういや、こっちの服装はノースリーブだっけ。それだと寒かったかもなぁ。
今の服装で考えたら伝わりやすいかもしれない。
(この格好で朝いたら…。寒かった。絶対。風邪ひいただろうな。)
春先から初夏の気温でノースリーブなんて着る人いないもんね。
そうか、袖のあるなしで比較しながら話せばまだわかりやすいかも。
何とか解決策を思いついて、クルビスさんに向けて話し始める。
どうか伝わりますように。
「そうですね。ポムの実のなっている場所での出来事ですから、その時には薄手の長袖でちょうどいいくらいでした。
クルビスさんに会った時にしていた服装では袖をこれくらいに折っていましたが、あの時は手首まで伸ばしていてちょうどよかったです。
今の服装では少し寒いかもしれません。」
自分のひじや手首の辺りを手で示しながら説明する。
クルビスさんはそれを見ながら軽く頷いていた。良かった。伝わってるみたい。
「銀のドラゴンが通り過ぎて行った時は急に冷えて、その薄手の長袖では寒かったので、上着を1枚羽織りました。それは結構厚手の生地で…そうですね、クルビスさんが浴室に持ってきて下さったうちの1つなんですけど…。」
「黒か?薄茶か?」
「黒い方です。あれくらい厚手の生地を羽織ってちょうど良かったんですよね。強い風で冷たく感じたにしては気温が下がったような気がして、どうしてなのか不思議なんですけど…。」
考えてみると不思議な話だ。
強い風が吹くと体感気温が下がるのは知ってるけど、風がやんだらすぐに収まるはずだ。なのに別れ道のところに行くまで冷え込んだままだった。そこまで1・2時間は歩いたと思う。
(ってことは、気温自体が下がったってこと?そんなことあるかなぁ。)
「…成程な。ありがとう。これで大体わかった。」
あ、クルビスさんに伝わったならいいです。
今の説明で特に驚いた感じはなかったから、ここには急に気温が下がる現象があるのかもしれない。
私はここについて知らないことばっかりだし、考えても答えは出ないよね。
さて、周りの観察に専念しますか。




