第73話 クルビスさんはトカゲさん
「じゃあ、クルビスさんもドラゴンなんですか?」
私が聞くと、クルビスさんはハッとしたように目を軽く見開いて答えてくれる。
「いや。俺はトカゲの一族だ。…そうだな。説明していなかった。最初から説明しよう。
ここでは異種族同士で子を成せる。そのための術式があるんだ。」
異種族同士で。それじゃあ、種族が混ざるんじゃ?
疑問が顔に出てたのか、クルビスさんはちょっと首を横に振った。
「種族が混じると、生まれても育たないらしい。それを防ぐために、術式で両親のどちらか片方の種族で生まれるようにしたそうだ。」
ああ。だから、お父様がドラゴンだけどクルビスさんはトカゲなんだ。
納得して頷くと、クルビスさんはさらに説明を続ける。
「俺の両親は父がドラゴンの一族で母が深緑の森の一族なんだ。父方の祖父さんとひい祖父さんがトカゲの一族でな。俺は隔世遺伝ってやつらしい。」
隔世遺伝なんですか。それで、お父様はドラゴンの一族でお母様は深緑の森の一族…つまり、フェラリーデさんと同じ一族だから、エルフなんですね?
種族がいろいろ混ざってるんだなぁ。
でも、便利な術式のおかげで、子供は両親か祖父母の種族でちゃんと生まれるんだ。
ラノベだと、種族が混じると純血がどうのこうのって問題が出てきたりするけど、この世界じゃそういうのは無さそうだな。
クルビスさんも普通のことのように話してたから、異種族婚が当たり前の世界なのかもしれない。
1人で納得していると、クルビスさんが空の方を見て話始めた。
空って言っても、ほとんどポムの木のアーチだけど。
「今進んでる道の遥か先にルシェ山がある。そこにドラゴンたちの集落があって、ドラゴンの一族の女性はそこで出産するんだ。
…おそらく、ハルカの見たドラゴンはそこに向かっていたんだろう。」
この先がドラゴンの…見たいっ。でも、すごく遠いんだよね?
クルビスさんが見ている先をたどりながら、まだ見ぬドラゴンの集落に思いをはせる。
(やっぱり谷になってるのかな?でも、クルビスさんのお父様がドラゴンなんだよね?だったら、ヒト型に近い大きさなのかな?)
どんどん想像が膨らんでいく。
最初に思い描いたのは、険しい谷の間を飛び交うドラゴンたちの姿。次に思い描いたのは、クルビスさんと同じくらいの大きさでヒト型に近いタイプ。
クルビスさんがエルフとドラゴンの間に生まれたなら、ヒト型に近い大きさなんじゃないかと思う。
でも、それだと朝に見た大きな影がドラゴンだっていうクルビスさんの説明と食い違ってしまうし…。
「ハルカ?どうした?」
クルビスさんに声をかけられて、また考え込んでいたことに気付く。しまった。
あ、そうだ。クルビスさんに聞いてみよう。
「クルビスさん。あの、ドラゴンってどれくらいの大きさなんですか?」
クルビスさんは私の唐突な質問に面食らったみたいだった。
進みながら少し考えるそぶりをした後、あらためて私を見て答えてくれた。
「基本的に俺と同じ大きさで暮らしている。術式を使ってな。だが、本体はとても大きい。ハルカが朝見たのは、本体のほうだ。」
大きさを変えられるんですか。さすがドラゴン。
前読んだラノベでは、ドラゴンは人間そっくりのヒト型になれて、人間に混ざって旅をしているドラゴンが登場してた。本物もそんな感じに大きさを変えれるんだ。
(でも、あの大きなのが本体ってことは、やっぱりドラゴンの集落って谷なのかな?)
バササッ
また妄想が膨らみそうになった時、何かが羽ばたく音が聞こえた。
上を見上げると、木々の間から黒っぽいドラゴンと黄金色のドラゴンが私たちと同じ方向に向かって飛んでいくところだった。
結構高い所を飛んでいるらしく、木々の間からでも全体のシルエットははっきりとわかる。
これなら見間違うことは無い。ドラゴンだ。西洋風の体型をしていて、ファンタジー好きとしては胸が躍る。
(朝もこれくらいの距離ならドラゴンだってわかったのになあ。)
あっという間に過ぎ去った2匹を惜しみながら空を見ていると、クルビスさんのつぶやきが耳に入った。
「…やはり、何かあったか。」
何かあった?って何のことだろう。
クルビスさんはさっきのドラゴンたちが飛んで行った方向を見てる。つまり私たちが向かっている方向だ。
(この先にあるのは…ドラゴンの集落。そこで何かあったってこと?じゃあ、さっきのドラゴンたちはそのために…。)
朝に私が見たドラゴンも、何か異変があって集落に向かって飛んでたのかな。
だから、クルビスさんが私の話を聞いて驚いた?
頭に浮かんだ疑問を口にしようか迷っていると、クルビスさんが先に話始めた。
「ハルカ。朝見たドラゴンについてもう少し詳しく聞いてもいいか?」




