第8話 話せることは大事なこと
足を地面につけると、少しフラついた。
頭に血が上ってたらしく、鼻のあたりがジンジン する。
鼻血は嫌だな。出ませんように。
「☆¥%♪$$%¥!」
彼が腕をつかんで支えてくれる。
「だ、大丈夫です。ありがとうございます。」
咄嗟にお礼を言うと、彼の顔が凍りつく。
…いやね?別にリザードマンの表情なんてわかんないけどさ。
ほら、空気とかさ、微動だにしない身体に剣呑な感じの目がね?普通じゃないよ〜って教えてくれる訳ですよ。
何にしろ心当たりが無いので、キョトンと彼を見つめ返していると、しばらくしてからふっと空気が軽くなった。
彼の目にも先程までの剣呑さは無い。
(何だったんだろう…?)
疑問は残るけど、言葉が通じないので確認のしようがない。
わかっていたけど、言葉の壁は厚いみたい。
「%$☆€♪。」
声を掛けてから、彼は私の左手をとって歩きだす。
相変わらず何を言っているかわからないけど、手を引かれるまま私もついていく。
(まぁ、この状況なら『ついて来い』に決まってるよね。)
彼に手を引かれながらも、周りの景色を見る。
広場は小さな公園くらいあって、石畳が敷き詰められている。綺麗なピンク色の石で、ちょっとオレンジが入ってて桜貝みたいだ。
広場の真ん中には噴水があって、白い水が勢いよく噴き出していた。
(…ん?白い水?
いやいやスルーだ。スルーしよう。)
ここは異世界。ここは異世界。
ミントグリーンの空があるなら、白い水もある。
むしろ違和感少なくてマシじゃないか。紫の水とかだったらどうするの?
(…ぶどうジュースみたいで有りかもしんない。)
じゅるっ。あらいけない。ヨダレが…。
アホなことを考えつつ、気分が上昇してきたところで、気を取り直す。
今すべきなのは、精神的ダメージを極力減らすこと。私の取り柄はこの前向きな思考だ。ポジティブシンキングでいこう。
空や水の色なんて、気にしてもどうにもならないものは置いておこう。何より今は移動中で、1番気になるのは目的地だ。
(…何処に連れていかれるんだろう?)
ラノベなら、偶然知り合った人に助けてもらうか、トリップ先の権力者に保護されるかが多いパターンだ。
他には、警察みたいな組織に不審者として捕まるとか、最悪なのは奴隷商に売り払われる、何てのもあった。
ちなみに、私の手を引いているリザードマンは一般市民ではないみたい。
服装を見ててそう思った。
黒いノースリーブの詰め襟に黒いズボンをきちんと着込み、その上に黒の皮のアーマーを装備し、腕には黒い籠手をしている。さらには、足元には膝まである黒いブーツを履いていた。
とにかく黒尽くしだ。
彼の体色と馴染みすぎて、最初はアーマーを着てるくらいしかわからなかった。
(これだけ黒で揃えていると制服っぽいなぁ。防具も黒だし…軍人さんかな?)
…目的地にはあまり期待しないでおこう。