第72話 ドラゴン
聞き間違いじゃなければ、今、確かに、「ドラゴン」って聞こえた。
こ、ここってドラゴンがいるんですかっ?ホントにっ?
「あ、あの、こちらには、ドラゴンがいるんですか?」
声が震えてる。でも、確認しないわけにはいかない。だってドラゴンだ。
クルビスさんに掴みかからんばかりの勢いで話を聞く。まあ、今の抱えられてる状況じゃ、すがりつくというのが近いかもしれないけど、それは考えない方向で。
「っ。ああ。この向こうにドラゴンの一族の集落がある。ハルカが見たのはそこに向かっていたドラゴンだろう。」
クルビスさんが私の剣幕に驚いたように目を見開いて答えてくれる。
やったっ。ドラゴンいるんだっ。
(…うわ~。どうしよう。ワクワクが止まらないっ。)
ファンタジー界の王道中の王道種族、ドラゴン。
ラノベや設定にもよるけれど、ドラゴンと言えば、遥かに長い寿命、深淵なる英知、どんな魔法も武器も跳ね返す強靭な鱗を持つ天空の覇者だ。
エルフと並んで、その知名度と人気はトップクラス。
私の中では『叶うなら1度はお目にかかりたいランキング』ダントツの1位だ。
まさか、本物を見れるなんてっ。…ちょびっとだけど。
「…ずいぶん嬉しそうだな?」
ひうっ。だから、耳元でささやかないで下さいってばっ。
もうっ。何ですかっ。人がせっかくいい気分で…いる…のに…。
ムッとしてクルビスさんを見上げると、何故だか妙に迫力のある微笑みにぶつかりました。
あの、えと、何か?
「そんなに、ドラゴンの一族が気になるか?」
ええ。そりゃもうっ。…とか言いたいんですけど、「今は言うな」って私の危機察知アラームが頭の中で響きまくっている。
どうしよう。何て答えたらいい?
(いいえって言っても、さっきの顔を見られてるから信じてもらえないだろうし…あ、そうだっ。初めて見たのはホントなんだから、想像上の生き物に会えて驚いたって言おうっ。ウソじゃないしっ。)
頭の中で最速に答えをはじき出すと、早速クルビスさんに言うことにする。もちろん不自然に思われないようにテンションはそのままで。
「ええっ。空想上の生き物だと言われていましたから。まさかこの目で見られるなんてっ。」
「…空想上?」
内心ビクビクしながらにこやかに答えると、クルビスさんが反応してくれた。良しっ。
「はい。私のいた世界ではドラゴンは存在せず、架空の存在として物語に出てくるんです。」
「…なら、ハルカのいた世界にはどんな種族がいるんだ?」
どんな種族?この場合の種族って、交流出来る文化と知能を持ってる種族ってことよね?
そういえば、ヒト族メインの世界だって言ってなかったかも。
「鳥や獣はいますけど、話が出来るのはヒト族だけです。」
私が答えると、クルビスさんは目を見開いてとても驚いていた。
こっちは他種族が混じって生活してるみたいだもんね。来る時に通ったにぎやかな通りもそうだったし。
「…そうか。なら、俺を見て驚いただろう?」
クルビスさんが聞いてくる。さっきまでの迫力は消えていた。ホッ。
クルビスさんにあった時かぁ。確か悲鳴あげそうになったんだよね。でも、やっと話が出来そうな種族に会えたのがうれしくって。
「はい。でも、その時には違う世界にいることは知ってましたから、ヒトに会えるかどうかわからないって覚悟してました。」
少し苦笑して答える。ウソを言ってもしかたない。苦手だからすぐバレるし。
私の答えを聞いてから、クルビスさんがまたギュってしてくれた。魔素の影響かな?すごく暖かくて落ち着いてくる。
「…そうか。ドラゴンの一族に会ってみるか?」
えっ。会えるんですかっ?
驚いてクルビスさんを見上げると、目を細めて笑っていた。
わっ。この距離でその顔は反則ですっ。…冗談抜きに心臓が持たない。
そ、それより、さっきのこと聞かなきゃっ。
「会えるんですかっ。」
声が弾んでしまったのはご愛嬌。
だってウキウキしてしまう。
(ドラゴンの「一族」って言ってたから、種族として認識されてるんだよね。話が出来るのかな。)
私がわくわくして待っていると、クルビスさんが苦笑して答えてくれる。
「ああ。集落に行っても会えるし、俺の親父と祖父さんがドラゴンの一族だ。ドラゴンに会うだけならいつでも出来るぞ。」
へえ。お祖父様とお父様が…。ん?
今何か不思議なことを聞いたような…。




